長く使える時計は、いくらくらいが妥当か

 入学や就職、結婚などの節目に、モノが良くて、長く使える時計を求める機会がある。時計には、ブランド、デザイン、作りなど様々な魅力があるが、それらはひとまず横に置いて「長く使える」ことだけに注目すると、そのコストはいくらくらいが妥当だろうか。

 

高い時計を買っておけば安心か

「安い時計を使い捨てしていくのは勿体ない、高い時計を買っておけば、長く使えて結果的に得だ」
「高い時計は作りがいいだろうから、安い時計よりもずっと丈夫で長持ちするだろう」

などの考えを持つ人は多い。

 長く使える時計を国産で求めると、セイコーのグランドセイコー(GS)、シチズンのTHE CITIZEN(THE C )が候補に挙がる。GSは修理対応30年、THE C は生涯修理対応できることを謳い文句にしている。これらの時計は10万円を超えるので、若いうちは簡単に買えないだろう。そこでたとえば30歳の時に買ったとすると、残りの人生を、50年程度と見積もることが出来る。これに対し、THE Cは生涯使えるが、GSは年数が足りない。

 クオーツ時計でも、動く機械部品がある以上、必ず劣化するし、防水に使われているパッキンも劣化してくる。時計としての性能を維持するためには、定期的に点検整備が必要であり、そこにお金がかかる。

 

THE CITIZENのランニングコスト

 たとえば、THE C の値段は、定価ベースで15万円。しかし、10年間の無保証期間を越えたあとの修理、点検は自己負担となるし、電池交換も必要になる。

 THE Cは3~4年ごとの点検を奨励している。点検、修理、電池交換等の費用を平均1万円とすると、年間平均コストは次のようになる。

 総使用年数:50年
 点検回数:(50年-10年)/4年=10回
 総維持費用:1万円×10回=10万円
 総費用:15万円+10万円=25万円
 年間平均コスト:25万円/50年=5千円

 

グランドセイコー(GS)のランニングコスト

 生涯使えないGSの場合のコストを計算してみよう。GSの30年修理対応モデルは、最も安いもので50万円。これだとお話にならないので、GSで最も安い15万円のモデルを考えてみよう。部品保有期間が30年、THE Cと同様、4年ごとの点検を想定し、有償修理期間外の使用年数を10年と仮定すると次のようになる

 総使用年数:30年+10年=40年
 点検回数:40年/4年=10回
 総維持費用:1万円×10回=10万円
 総費用:15万円+10万円=25万円
 年間平均コスト:25万円/40年=6,250円

 

安いクオーツ時計のランニングコスト

 次に、安いクオーツ時計を電池交換もせず使い捨てにした場合を考えてみよう。
 たとえば2万円クラスのクオーツ時計の寿命は、最短で4年程度と考えられる。これを同じように計算すると、

 生涯の買換回数:50年/4年=12.5回
 生涯の総費用:2万円×12.5回=25万円
 年間平均コスト:25万円/50年=5千円

となる。「なんだ、THE Cと同じじゃないか」と思うかもしれないが、THE Cの維持費用として「40年で10万円の見積もりは安すぎる」「クオーツ時計はもっと持ちがいい」と思う人もいるかと思う。そうなると安いクオーツ時計を使い捨てていった方が経済的という結論を得る。

 点検修理に出すと1~2週間は帰ってこないが、ショップにいけばつねに最新のものを新品で入手できる。一つのものを使い続けるよりは、そっちのほうがよいと考える人もいるかもしれない。

 

長く使う時計の上限価格はいくらくらいか

 以上の結果から、GSのモノがいくら良くても、長く使うことを第一に考えると2万円の安いクオーツ時計を使い捨てていったほうがお得ということになる。GSがこのようになってしまっている原因は、GSの修理対応期間が販売価格に対して短いためだ。

 上記の計算は15万円のモデルでも30年修理対応できるという前提があり、もし7年しか部品を保管してないということになると、きわめて高価な買い物になってしまう。

 以上の結果からすると、「長く使える」ことに対する支出は、15万円(あるいは年間5千円)が上限という目安が得られる。

 THE Cの価格設定は、その上限に位置しておりなかなかうまい。一つの時計を大切に長く使っていきたい人にとって、価格的にも納得いくものになっている。ただし、15万円という単価は生涯修理対応可能という条件付き。

 

普通の時計の上限価格はいくらくらいか

 では、部品の保管期間7年の一般的な時計を、修理不能になるまでメンテナンスしながら使い続けていくとした場合、いくらくらいまでの支出が適当だろうか。この場合の総使用年数を16年と仮定すると、

 点検回数:16年/4年=4回
 総維持費用:0.8万円×4回=3.2万円
 年間平均コストの上限を5千円として本体価格を逆算すると、
 本体価格:16年×5千円-3.2万円=4.8万円

という結果になる。誤差を考慮して総使用年数を10年として同じように計算すると、3万円の結果を得る。つまり、7年しか部品保管しない普通の時計の場合は、3~5万円が購入価格の上限という目安が得られる。

 

きわめて高価な時計について

ロレックスの時計 何十万円もするグランドセイコーや舶来時計には年間平均コストが5千円をはるかに越えるものがある。これは、ブランド、デザイン、作りなどに対して、支出していると考えることが出来る。

 宝石などの宝飾品には普遍的な価値がある。そこには、モノ自体が丈夫で、壊れたり劣化しないことが含まれる。

 

 時計の場合、どんなに高価な物でも故障して修理できなくなれば、そこで価値はゼロになる。高価な時計ほど、長く使えるというのは重要な要素になることがわかる。

 しかし残念ながら、永久的に部品交換の対応をうたうメーカはごく少数であり、多くの高級時計が使い捨てになっていて、普遍的な価値を求めることが出来ない。何十万円もする時計が使い捨ての消耗品というのは、なんとも高い買い物だ。

 

結論

 いろんな例を挙げたが、私の考えで行くと3~5万円クラスの国産時計を1本買って修理不能になるまで使い続けるのがもっともいいように思う。2万円の時計では安っぽいが、4万円も出せばデザインが良くて、作りのいいモデルが手に入る。
 一つの時計を生涯使いたい向きにはシチズンのTHE C(ザ・シチズン)がいい。グランドセイコーは経済的にかなり余裕のある人が選ぶ時計だ。

 

<参考購入先>
実売3~5万円クラスの国産時計
グランドセイコー
ザ・シチズン
ロレックス 唯一、リセールバリューのいい時計です

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参考:腕時計選びのコツ

 時計はファッションの一部であり、ライフスタイルを表現する道具でもある。いい商品と巡り合えば素晴らしいパートナーになるが、選択を誤れば、無駄な出費になる。そこで時計選びの勘所をまとめてみた。

 

形状

クロノグラフ機能の付いた時計 時計は長く使う物。流行物に手を出さない、これは最初に注意すべき基本になる。

 針やボタンの少ない出来るだけシンプルな物がいい。小さな針のたくさん付いたクロノグラフは機構が複雑な分、故障も多く、修理代もOH(オーバーホール)も高い。

 

  リューズのツマミが大きく突き出ている物は避ける。引っかけたり、ぶつけたりしやすく、故障の原因になる。リューズの周囲にガードが付く形の物がいい。

  ボディの表面はなめらかで、突起の少ない物がいい。突起があると、うっかり他人のクルマや自分の愛車にキズをつけてしまうことがある。

  舶来有名ブランドのニセモノや、コピー商品は避けたほうがいい。こういう時計は、裏蓋の形状がダミーになっていて、蓋をあける際にトラブルが起きやすい。

 

電池

 太陽光発電など電池交換が不要なもの、または5年以上電池が持つ物がいい。電池交換の際、いろんなトラブルが起こる。できるだけ蓋を開ける機会を減らすことが重要だ。

 電池交換の費用は1000円程度。最初の電池交換で高い防水機能も失なわれ、キズ、ゴミ混入などのトラブルが発生するリスクが高まる。メーカに出せばこのリスクを回避できるが、5000円程度の費用と1~2週間の時間がかかる。

  時計のOH(オーバーホール)が必要なのは4年~5年といわれているから、電池の寿命が5年あれば、電池の寿命が切れたときにOHもかねてメーカに出すことができる。OHにはお金がかかる。国産で実売2万円を切るような安い時計は、OHに出す価値がない(新品を買った方がいい)ため、使い捨てと考える。

 

バンド

 チタンかステンレスがいい。これら金属製バンドの耐久性は、皮やプラスチックとは比べ物にならないくらい高い。アレルギーが起こりにくいSUS316L(サージカルステンレス)か、チタン製をお勧めする。チタンは軽くて化学的に安定しており、アレルギーの心配もない。

  皮バンドには寿命があり、必ず交換になるる。ところが、交換が必要になる頃に同じものが入手できない。安い汎用品と交換すれば、時計の魅力が半減してしまう。

  プラスチックバンドは紫外線や水分等により劣化し、数年で切れる。G-SHOCKにこの問題をがあるが、金属製のG-SHOCKを選べば問題ない。

  繊維のバンドは切れないが、汗が染みこんで雑菌の温床となり、悪臭を放つようになる。衛生面からお勧めできない。

 

ブランド

 特にこだわりが無い限り、セイコー、シチズンなどの国産メーカーの商品を選ぶのが無難だ。高価なものほど長持ちすると考えるのも間違っている。時計にモノとしての価値を求めることはできない。時計は所詮、使い捨ての消耗品。時計の購入価格はいくらくらいが妥当か、気になる人は後述のリンクを参照してほしい。

 

機械式とクオーツ

  実用を求めるならクオーツ、モノとしての魅力、価値を求めるのなら、機械式に軍配が上がる。最近、オリエントからリーズナブルな価格で機械式時計が販売されており、アンティークなデザインと相まってそれなりの人気を得ているようだ。
  機械式時計の精度は当然クオーツ式とは比べものにならない。また、時計の機能を維持するために定期的なOHが不可欠であり、お金もかかる。こういう性質を面倒に思う人は、機械式に手を出してはならない。

 

デザイン

   一見、時計のデザインは自由に見えるが、それらの多くは低価格帯のモデル。高級時計は飾り気のないシンプルなものが多い。このようなデザインの時計は、長く使っていて飽きない。残念なことは、グランドセイコーエクスプローラーのコピーに見える点。

 シチズンの時計は腕に当ててみると、ペランとした軽薄な印象を与える商品が多い。こういったことは通販サイトの写真を眺めていてもわからない。現物を腕に当ててみて、いろんな角度から見ることが重要だ。

 

舶来時計は避ける

 舶来時計は、デザインやブランドに魅力がある。しかし、トラブルについて考える人は少ない。

 機械式の舶来時計はひたすらお金がかかるが、クオーツでも安心は得られない。

 

電池交換するためにレビュートーメンの裏蓋を開けた様子 舶来時計の最大の鬼門が電池交換。私の経験では、舶来時計で無事に電池交換を通過した物はまだない。ふたを開ける際、傷つけられてしまうことが多く、リューズを壊されてしまったこともある。

 

 舶来時計はいったん壊れると修理は国内で出来ない場合が多く、 時間がかかり、修理代も高価になる。先に書いたように、時計はセイコー、シチズンなどの国産メーカーから選ぶのが無難だ。

 

付いていると便利な機能

 パーペチュアルカレンダー。100年間、カレンダー調整が不要になるというもの。月初めに一々日付調整が必要なカレンダーは面倒。最初合わせていても、使わなくなる人が多いのではないだろうか。

 

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