アルミホイールの真実 補足

 以前、アルミホイールの軽量化に関して理論的考察をした。しかし難しすぎてよくわからない、という意見が多い。そこで、ポイントをわかりやすくまとめてみた。

 

1.前提条件

 この記事は、タイヤ、サスペンションを変えずに、ホイールだけを軽量化した場合の特性変動について考察したものである。

 

2.乗り心地は悪くなる

 アルミホイールを軽量化すると、突き上げとロードノイズが増える。揺れに関しては変わらない。揺れはサスのバネによって支配され、ホイールはほとんど関係しないからである。 突き上げとロードノイズ増加に関する具体的な量は、ホイール単体ではなく、ブレーキロータ、キャリパ、ハブ、リンク機構などを含めた、ばね下質量全体の質量をベースとした軽量分の比率で決まる。例えば、ばね下全体の質量が100kgのとき、ホイールを10kg軽量化したら、乗り心地はおおよそ10%悪化する。

 

3.ハンドルの重さは変わらない。高速域では直進安定性悪化の要因に

 ハンドルの軽さには慣性モーメント(方向軸まわり)とジャイロモーメントの2つが関係する。慣性モーメントの減少によりハンドルは軽くなるが、変化が小さすぎて体感できない(1Nm以下のきわめて小さいレベル)。ジャイロモーメントによる影響は低速域ではほとんど体感できず、高速域では直進安定性の悪化要因となる可能性がある。

 

4.走りの性能は良くなるが、公道ではメリットが出ない

 路面追従性は良くなる。加速性は良くなるが、きわめてわずかである。燃費も良くなるが、数字に出ないごくわずかなレベルである。加速性向上に関する具体的な量は、車両全体の質量をベースとした軽量化分の比率で決まる。ホイールを10kg軽量化した効果は、トランクの荷物を10kg減らした効果に等しい。ホイールの回転慣性を軽減した効果は、エンジントルクに対し2桁以上小さいので、全く影響しないとみてよい。路面追従性に関する具体的な量は、2項同様、ばね下質量全体の質量をベースとした軽量分の比率で改善効果が決まる。
 この結論は、「公道レベル」すなわち0-100km/hを10sec程度で加速した場合では、という限定が付く。レースのような加減速の激しい用途では、路面追従性や加速性のメリットが出てくる。

 

5.ばね下1キロは、ばね上15キロに匹敵するというのは嘘

 ばね下の1キロは、ばね上でも1キロである。慣性モーメントの1キロなら、ばね上換算で15キロに匹敵するケースがある(慣性モーメントの単位 kgm2 からm2を省略して読む)。従って、この話は次のように言い換えると正しい。

「ばね下の回転慣性質量1キロの軽量化は、バネ上の15キロに匹敵する」

しかしこれは現実的でない。なぜなら、17インチホイールの慣性モーメントは0.3キロ程度で、これを軽量化してもせいぜい0.2キロにしかならず、1キロ低減すること自体が最初から不可能な話だからだ。

 

6.ホイールを軽くして路面追従性をよくすると、乗り心地が悪くなる

 サスペンションからみると、路面追従性がいい、つまりホイールを軽くして動きが良くなればなるほど、ばねの変位が増えて、車体に伝わる力が増える(力=ばね定数×変位)、すわなち、乗り心地が悪化する結果になる。 但し、摩擦による影響でダンパーの動きが悪い場合、つまり、性能の悪いダンパーが使われている場合は、多少動かした方が、等価的なばね定数を下げることができ、乗り心地が向上する可能性がある。サスペンションやタイヤのバネを柔らかくすることで路面追従性を良くした場合は、乗り心地が良くなる。

 

7.上記に反する結果を経験した場合は、別の部分に原因がある

 ホイールを変えると同時にいろんなものが変わる。最も大きく影響するのが空気圧であり、これが1割変わっただけで、ホイールの影響など吹き飛んでしまう。ショップでタイヤを脱着すると、ほとんどの場合、空気圧が元より高めになる※から、ハンドルの重さや加速性、燃費などが体感できるレベルで変化する。多くの人がこのことを知らないから、軽量ホイールを買った人が、加速が良くなったり、ハンドルが軽くなったのを体感すると、

「これこそが、ホイール軽量化の効果である」

と勘違いしてしまう。ホイールの影響だけを正確に知るには、タイヤを外す前に空気圧を測っておいて、後で正確に合わせなければならない。ホイールと同時にタイヤを交換してしまった場合は、何の変化を体感しているのか、まったく不明である。ネット上には数多くのレポートがあるが、こういったことを押さえていない記事は参考にならない。
※空気は次第に抜けていくので、いままで補充をしなかったものを、脱着を機会に規定値まで入れ直せば、空気圧が高くなるのは必然である。

 

良くある疑問について。

1.計算式は正しいのですか? あなたが勝手に作り上げた理屈ではないですか?

 この検討は、自分で作った独自理論ではありません。使っている運動方程式や数式は教科書に載っているもので、検討の手順も振動の評価として一般的なものです。誰が検討しても同じ結果になります。
2006/2/16補足:  「自動車技術ハンドブック① P265 社団法人 自動車技術会」に当記事とほぼ同じ内容を発見しました。こちらのグラフは模式図で、縦軸は2階微分して加速度になっています。興味のある人はご参照ください。

 

2.サスペンションのモデル化は正しいのですか

 クルマのサスペンションは2質点系モデルで評価するのが一般的です。簡単に書くと次のようになります。

路面の変位->ばね1(タイヤ)->質量1(ホイール)->ばね2->質量2(車体)->車体の変位   (1)
振動伝達率=車体の変位/路面の変位   (2)

 ばね1&質量1と、ばね2&質量2で決まる2つの固有値を持ち、それぞれ1桁以上離れているので独立した系と見なす事が可能です。従って(1)式は2分割でき次のようになります。

路面の変位->ばね1(タイヤ)->質量1(ホイール)->ホイールの変位   (3)
ホイールの変位->ばね2->質量2(車体)->車体の変位   (4)

 (3)式は高周波、(4)式は低周波の乗り心地に関係するというように、両者の役割分担が異なります。路面の変位は最初にタイヤ&ホイール系で減衰され、残りがサスのばね&車体の系に伝達されて減衰される形になります。(4)式の「ばね2」への入力は「ホイールの変位」だけが問題であって、「力」や「ホイールの質量」とは無関係な所が注目点です。
車体の変位を乗り心地に近づけて評価するためには、変位を2階微分して加速度に変換する必用がありますが、傾向を知るには車体の変位までを求めて振動伝達率で評価すれば十分です。
実際のものはダンパ、ブッシュ、リンク機構などがありより複雑ですが、モデルを詳細化しても計算精度が上がるだけで基本特性がひっくり返ることはありません※。通常は(3)式のモデルでホイールの変位までを検討すれば十分といえます。
 ※摩擦の影響が大きい領域で逆の結果になることがありますが限定された条件にすぎません。

 

3.自転車やバイクの場合、リムの軽量化は明らかに効果があるのですが

 バイクの場合、車体の質量がクルマと大きく異なるので、上記の結論は当て嵌まりません。運動方程式は同じ物が使えますので、バイクの結果を知りたい場合は、その定数を入れて検討してみるといいでしょう。

 

4.重たいホイールの方がよりボディを強く押し上げるから乗り心地は悪化するのでは?

 最もよく見られる間違いで、タイヤやサスペンションの「ばね」の働きが考慮されていません。地面とホイール、ボディを直結して考えています。無論、これでは正しい検討が出来ません。

 

5.路面にバネ下が追従しないと車体ごと揺れる事が多くなり乗り心地は悪化するのでは?

 2質点系モデルでは、タイヤ&ホイールと、サスバネ&車重で決まる2つの系を持ち、それぞれ役割分担が異なる点を理解していません。車体の揺れ(低周波の路面追従性)はサスバネ&車重で決まる話であって、タイヤ&ホイール決まる路面追従性とは関係ありません。

 

6.重たい物と軽い物、ぶつかってきたら重たい方が衝撃が大きいはずでは?(2007/3/12追加)

 重量の違う物が同じ速度でぶつかるという誤った仮定をしています。ホイールに加わる力は、ばねのたわみ(変位)に比例しますから、同じおうとつを乗り越えたのなら、ホイールの「速度」ではなくて「加振力」が同じでないといけません。つまりこのケースは、重たい物と軽い物を「同じ力で加振した」という前提があって、物体もぶつかってくるのではなく「ばね」で受け止める形(変位入力)にしないと間違いです。重たい物と軽い物、「同じ力で」動かそうとすれば、重たい方が動きが鈍いことは、直感的にも理解できます。

 

 

7.タイヤの質量はどのように関係するのですか(2007/3/15追加)

 バネ下質量というとタイヤの重さが気になる人も多いようです。通常、ばね要素が質量を持つ場合、1/2ずつをバネの両端に割り振って単純化します。タイヤの場合、質量の半分以上が路面側に分布すると考えられますので、振動伝達率を評価する場合はタイヤ質量の1/3程度をホイールの質量にプラスすればよいでしょう。タイヤ質量が数キロ違ってもその1/3しか影響してこないので、これを考慮に入れても大差ないといえます。

 

8.重たい靴と軽い靴、軽い方が軽快だし有利なのは当たり前では?(2007/4/9追加)

 クルマの「減速機」が考慮されていません。ファイナルを含めた総合減速比は通常3~15倍程度ですから、みかけの慣性質量は1/9~1/225となってしまい慣性質量の影響はほぼなくなります。 人間には減速機がありませんので、靴の重さの例えをクルマに当てはめること自体適当ではありません。類似の例えに、「同じ重りを背負った場合と、足の先に付けた場合とでは、足の方が重く感じるだろ」というものがあり、これも同様に減速機を無視した不適当な例えです。

 

<関連商品>
鋳造ホイール 乗り心地向上に有利な重い鋳造ホイールです
鍛造ホイール レースに好適な軽量ホイールです
振動工学の本
自動車技術ハンドブック一覧 この(1)を合わせてご覧ください
Transcendのドライブレコーダー 品質に優れたレコーダーです

<関連記事>
アルミホイールの真実~軽量ホイールは乗り心地を悪くする