アンプの音などというものは存在しない~オーディオアンプの選び方

 大出力アンプに能率の高いスピーカを組み合わせて小音量で鳴らす。これは最も音を悪くする方法だ。

 このような失敗をしないために、何に注意して選べばよいのか。アンプに固有の音色というものが存在するのだろうか。これらについて明確な答えを示した資料がほとんど見当たらない。

 そこで、これらについてまとめてみた。アンプ選びの参考にしていだけると幸いだ。

 

出力はどの程度あればよいのか

 これを判断するには、何らかの基準がいる。その一つに、「コンサートホールの客席におけるピーク音圧レベルが109dB」というものがある(文献1)。

 この資料によると、オーケストラでは低音のエネルギーが最も大きく、109dBは100~200Hz付近。それ以外の帯域は103dBとなっている。

 ステレオアンプでは2ch同時出力で109dB達成できればいいので、片chの場合は3dBマイナスして106dBが目標になる。

 距離 L(m)における出力音圧レベル(dB)は次式で計算できる。これが106dBになるアンプの出力Wを求めればよい。

出力音圧レベル=能率(dB)+10log10(W)ー20log10(L)

補足:能率は〇〇dB/W/mや、〇〇dB/2.83V/m と書いてある場合がある。後者の表記でスピーカーのインピーダンスが8Ωならどちらも同じことを表している。

 

 2m離れた点で片ch 106dBの音圧が得られるアンプの出力Wを計算したグラフを次に示す。

オーケストラの音圧再現に必要なスピーカーの能率とアンプ出力の関係

 スピーカーの能率が100dBの場合、アンプは20Wあれば良い。能率が92dBを下回ると100W以上必要。

 この線上ならどれも同じ音質、とはならない。能率が高いスピーカーは、大音量の音を高品質で出せるが、能率が低いスピーカーでは、たとえそのパワーがスピーカーに入っても良質の再生音は望めない。

 

 

アンプの出力は大きいほど歪みが多い

 半導体素子は出力の大きいものほど歪が大きいので、アンプの出力は大きいほど良いというわけではなく、スピーカの能率に合ったものを選ぶ必要がある。

 それでも「アンプは余裕があったほうが良い」などと考え、必要以上に大出力のアンプを選ぶと、アンプの最も音の悪い部分を使うことになってしまうので注意したい。

(2007/5/14追補)
 出力段にICモジュールを使ったアンプは小出力でも音が悪い。ミニコンやラジカセが小出力でありながら音が悪かったのは、ローコストなICモジュールが使われている為。

 

歪率(THD)特性の例:LM3886データシート

 アンプの歪率は、グラフのように「レ」の字を左右反転したような形になっている。つまり出力を小さくして使うほど歪が大きい。

 このカーブはアンプの出力が大きいと上にシフトする。つまり、同じ1Wを出すための歪は、出力の大きいアンプほど多い。

 カタログスペックの歪率は、レの字の一番低いポイントに近い値のため参考にならない。

 

 

 一般的な傾向として、

同じ音量なら、出力が大きいアンプほど歪が大きい(音が悪い)

ことを知っておいて欲しい。

 

大出力と低歪の両立は可能か

 大出力アンプでも特性のいい製品をつくる方法がある。それは、特性に優れた小出力の素子を多数並列(パラレル)にすることだ。このような設計はアキュフェーズのアンプで見られる。

 アキュフェーズは特性のために物量を投入する数少ないメーカーだ。

 

アンプは出力が大きいほど音に余裕がある?

 オーディオ雑誌でよく見るこの論評は本当だろうか。トランジスタアンプで音の歪みが聞き取れるほど大音量を出すことは滅多にない。それに、大音量時はスピーカの歪みの方がずっと大きいのが普通だ。

 「音の余裕」は大出力アンプの貫禄ある見た目と、数字上のスペックからくる主観にすぎず、理論的な根拠はない。

 余裕が必要なのはスピーカーの耐入力であって、アンプではない。過剰な出力はコストや小音量再生の面で不利になるだけ。音質面で得することは無いと考えておきたい。

 

 

 NEC A-10 TypeIV(写真は1987年当時のカタログ)。強力な電源部を備え2オームの低負荷駆動に対応。2オームまで駆動できるといっても、2オームの負荷を繋がなければ関係ないこと。

 しかし評論家がオームの法則どおり電流を流せる点を「アンプの理想」などと褒め称えるものだから良く売れた。

 

 私はこのTypeIVを所有していたが、肝心の音がソニー製の小形軽量アンプ(当時ヒートパイプ放熱だった)と聞き比べて差がなかった点と、ボリウムのギャングエラーが大きい点が気になって手放した。

 

ダンピングファクター(DF)は大きいほど良いのか

 ダンピングファクターとは負荷のインピーダンスとアンプの出力インピーダンスの比。この値が大きいほど、スピーカーが信号に対し忠実に動く。

 半導体アンプのDFは一般に40以上、中には300を超える商品もある。高いDFのメリットは、ケーブルを長く伸ばせること。10m程度の屋内配線では、アンプのDFは40もあれば十分である[4]

 

アンプの音は何で決まるのか

 アンプの出力音圧特性どの商品も可聴域(20Hz-20kHz)で真っ直ぐなのが普通。そこに音のキャラクターを決める要素は何もない。

 アンプの音はスピーカーケーブルとのセットで決まる。つまりアンプのDFはスピーカーケーブルの抵抗によって落ちるので、それがいくつになったか知る[4]ことが重要になる。

dfctorgh

ダンピングファクターと周波数特性の変化
出典: 「強くなる!スピーカ&エンクロージャー百科」誠文堂(1980) P38

 グラフはDFによって出力音圧特性が変わる様子を示した図。

 当館では、DFの基準値を20~40とした。

 DFが1桁台になると過渡応答が劣化して低音が良く響く「真空管アンプの音」に近づき、100を超えると過渡応答に優れた音が得られるが低音が出にくくなる。

 

店頭でアンプを試聴すると何がわかるのか

 お店でアンプをとっかえひっかえ試聴する人がいるが、これは単にDFの変化を聞いているだけ。お店で気に入った商品を買ってきても、自宅で同じ音が出る可能性はまずない。

 従い、アンプを店頭で比較試聴する意味はほとんどない。店頭では後述するようにオーディオチェックCDとテスターが役に立つ。

 

 

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アンプの価値は何で決まるのか

 アンプは正確な増幅器であるべきだ。ステレオパワーアンプでは、左右の増幅率(ゲイン)が揃っている点も重要になる。すると、

 「左右のゲインがボリウムの位置によらず正確に揃い、その正確さがいつまでも変わらない」

ことが価値になる。

 市販のアンプに見られるいくつかの課題について以下にご説明する。

 

1.ゲインの経時変化

 当初はこれが目立たないくらいに小さいが、年月が経つと次第にズレてきてボーカルのセンター定位がおかしいことで気づく。私の経験では、原因がCDプレーヤーのアナログ出力だったこともある。

 いつまでも調子よく使うためには定期的な校正が欠かせないが、ほとんどの商品が売りっぱなしで、そのような手段もメンテの仕組みも用意されていない。左右で5%もズレていると、どんなに高額な機器もゴミに見えてくる。

 一応アンプにはバランスコントロールがあるが、変化が大きすぎて使い物にならないし、そもそもゲイン誤差は普段触れてしまうツマミで調整するものではない。

 

2.ボリウムの品質

 プリアンプの価値はこの部分で決まるといってもいい。よく問題になる品質に、左右のゲインがボリウムの位置によって違うギャングエラーがある。

 

 ボリウムは、絞りきった状態から中音量までの回転域において、音量の変化がなめらかで、左右の抵抗値(音量)が同一になっている(ギャングエラーが小さい)ことが大切。

 実測してみると、アキュフェーズのアンプ(C-275)はこの点比較的優秀だった[5]。 

 

 

 単なる抵抗体のボリウムは信号伝送の品質を落とす要因として知られている。この改善に取り組んだ事例がある。私の記憶ではビクターのGmボリューム(1983)が最初。2000年代になってアキュフェーズがAAVA方式を生み出している。ソニーはTA-A1ESにオプティマム・ゲイン・コントロールを搭載しこの問題に対処している。

  デジタルアンプでは数値演算の桁落ちによって情報量が落ちる。これに対しては演算をやめて出力の波高値を変えたり、小音量用の電源を別に用意し切り替えるなどで対処している[6]

 

3.スピーカーターミナルの品質

 ナット式のねじ込みターミナルが一般的。これに線を剥いたケーブルを挿すのは、最も良くない接続法。次第に接触抵抗が増大しDFが低下する。ここはきちんと端末処理し適切な締め付けトルクで固定したい[7]

 

アンプの価値を維持しやすいデジタルアンプ

 デジタルアンプには一切のアナログ処理を介さない「フルデジタル」と、パワー部だけD級アンプにした「デジタル」の2種類がある。

 フルデジタルはボリウムコントロールがきわめて正確で、原理的に特性の経時変化が無い。定期的に校正に出さなくてもアンプの価値を維持しやすいメリットがある。

 フルデジタルは少ないが、現在DENONのPMAシリーズがある。

 

次のようなアンプは買ってはいけない

 

1.トランスからうなりが聞こえるもの

 アンプは騒音、震動源。うなり音や振動問題はローコスト製品に多い。トランスの音や振動をゼロにする事はできないが、リスニングポジションまで離れても聞こえるものは問題。

 アンプが発する騒音振動が小さいことは重要なスペックだが、これを測ったり比較した記事をあまり見ない。

 

2.無意味に重いもの

 電源部で最も重い部品に「トランス」がある。なので「重量が重い=電源部がしっかり作られている」という関係がある程度成り立っていた。

 しかし1970年頃からとある評論家がアンプを重さを測って雑誌に公表し出してから、メーカーが重量の「水増し」をやりだした。ボリウムノブやシャーシなどが意味もなく重くなり、単純に重さで電源部の作りを判断できなくなった。

  重い製品は、自分でメンテするにも修理や調整でメーカーに送るにも苦労する。

 

3.音に関係ない「素材」にコストをかけているもの

 アルミ削り出し、鏡面仕上げ、鋳鉄製インシュレーター・・これら筐体の作りや素材は音に無関係。

 海外製の高級コンポのフタを開けてみたらスカスカだった・・そんな外観と中身のバランスがとれていない商品もある。

 趣味の商品に一定の外観は重要だが、見えない部分にお金がかかっていたり、外観だけやたら豪華な作りの商品に注意したい。

 プロ用アンプではこのような無駄を徹底排除している。プロ用アンプに見られない作りは、外観を良くしているだけで音質には寄与しないものと考えて間違いはない。

 

4.十分な修理・校正サービスがないメーカー製

 アンプは設置してオシマイではない。アナログアンプのゲインは次第にずれていくもの。アンプの価値を維持するために、定期的な調整や、劣化した部品の交換が必要になる。

 アキュフェーズはこのサポートがしっかりしていて初期性能を回復してくれるが、それ以外のメーカーはサービスの内容をよく確認した方が良い。

 海外の輸入品はほとんどが「売りっぱなし」。サービスがあるように見えても代理店が変わったり、代理店が取扱いをやめてしまえばそこで終わり。そんなリスクから、海外製は避けた方が無難。

 

 

振動はアンプの音に関係しない

 微妙な音の違いを問題にするスタジオモニターにパワーアンプが内臓されるのは、スピーカーの振動がアンプに影響しないから。音の変動要因になるスピーカーケーブルを無くせるというメリットもある。

 パワーアンプの中には「電源トランス」という振動源がある。アンプの振動対策では、「外からの影響を防ぐ」でなく「自分の振動を外へ出さない」方が重要になる。

 

マルチチャンネルの落とし穴

 チャンネルデバイダーと複数のアンプを使ってユニットを個別に駆動する「マルチアンプ方式」がある。

 ネットワークのインピーダンスが無くなり特性上は確かに有利だが、測定環境も技術も伴わない素人が音をまとめるのは不可能に近い。マルチアンプは泥濘の始まりだから手を出さないのが正解だ。

 

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まとめ~アンプはこのようにして選ぶ

 結局、次の手順で選べばよい。

 

1.必要なアンプの出力を求める

 使うスピーカーの能率を調べて次のグラフから必要なアンプの出力を求める。実用最大出力がこの線を上回っていればよいが、1桁超えないよう注意。出来るだけ能率の高いスピーカーに小出力のアンプを組み合わせることが、良質な再生音を生み出すポイントになる。

オーケストラの音圧再現に必要なスピーカーの能率とアンプ出力の関係(再掲)

2.ボリウムのギャングエラーを調べる

 オーディオチェックCDとテスターを持ってお店に行き、図のような配線を了解してもらう。

 浮いた電圧を測るので、テスターは必ず電池駆動のものを使う。

 

 

 オーディオチェックCDはデジタル信号がそのまま記録されたもの、例えばDENON オーディオ・チェックHQCD を用意するか、WaveGene(フリーソフト)で1kHz -3dB L+Rのサイン波をWAVファイルに落としてUSBメモリなどに入れたものを使う。

 テスターをAC測定モードにして、ボリウムを絞り切ったところから少しずつ上げていき、テスターの数字を読む。数字がゼロに近いほどギャングエラーが少ない。具体的なエラーの比率は、そのときのSP端子電圧で割って求める。

 ギャングエラーの上限は2%を目安としたい。4%を超えるものは候補から除外する。これでクズアンプを掴まずに済む。あとは、デザインや価格をみて決めればよい。

 

 ヤマハ RX-S600の測定風景。ギャングエラーは1.6%(ボリウム位置に関係なくほぼ一定)だった。

 ちなみにボリウムが可変抵抗のアキュフェーズC-275は1.7%(MAX位置を除く)。ミニコンポで4%前後[5]

 

3.スピーカーケーブルを選ぶ

 アンプの音はスピーカーケーブルとセットで決まる。通常は長さに応じて次のように太さを選ぶ[4]。電線はこの条件を満たすものなら何でもよく、ホームセンターに売られている平行ビニールコードで十分。みてくれが気になる人はオーディオテクニカのAT61シリーズを検討してほしい。

 4mまでなら2スケア
 7mまでなら3.5スケア
 11mまでなら5.5スケア

 音色の調整は太さで可能。この基準から細くしていくと過渡応答が劣化して低音が良く響く「真空管アンプの音」に近づく。

 

設置の際の注意事項 

 スピーカーケーブルは必ず端末処理して使う。端末処理は、圧着端子(Y形)か、バナナプラグが使いやすい[4]。続際には、締め付けトルクに注意する[7]

 端子類は新品のうちにコンタクトオイルを塗り、テープや防塵キャップなどで養生しておくと新品のコンディションをずっと維持できる。

 

 

買った後のメンテナンス

 年に一度、上記の要領で左右のギャングエラー(レベル差)をチェックして、4%を超えるようならメーカーに校正に出す。これはアンプの価値を維持するうえで必要な作業。

 

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7.スピーカ端子を緩まなくする

<参考文献>
1.オーケストラの出力音圧レベル 「ハイファイスピーカ」中島平太郎 日本放送出版協会 p11