高性能なプロ用工具でDIYを楽しむ!~家庭で使う電動ドライバーの選び方

 電動工具と聞いてみなさんは何を思うだろう。「そんなもの要らない」「勿体ない」そう思う人が多いと思う。電動工具といっても、いろいろある。私の経験上、身近に置くことで非常に役立つ電動工具がある。それは「電動ドライバー」だ。

 

時計を柱に取付ける際に気づく問題

 ここでいま、仮に、時計を買ったとして、それを木の柱に取付けるケースを考えてみよう。

 時計を柱に取付けるためには、時計を引っ掛けるためのビス(木ねじ)を、事前に柱に付けておく必要がある。具体的には、4mmくらいの木ねじを木の柱にねじ込む(ビスを打つ、という)。

 たったこれだけの作業に、どんな問題が予想されるだろうか。時計を買う人の多くは「そんなの簡単」「すぐ終わる」と思うのか、あまり考えない。

 高い場所にビスを打つ作業は、実際やってみると結構大変だ。ドライバーが途中で重くなって、ねじ込めなくなるかもしれない。「ドライバーなんてどれも同じ」そんな感覚の人は、サイズの合わないドライバーを使って頭をナメてしまうかもしれない。

 いきなりビスを打つのが無理だと気づくと、キリで下穴を開けるだろう。スンナリいって1~2分。試行錯誤すれば5分以上はかかる。腕力も必要だ。

※:十文字の窪みが潰れてなくなり、ドライバーで回せなくなること。

 

いい道具を手にするとDIYが楽しくなる

 自宅でビスを打つ機会は結構ある。「鞄やハンガーを吊るためのフックを付けたい」「棚を追加したい」そう思ったことはないだろうか。この程度なら手回しのドライバーで何とかなるが、本数が多いと大変になる。例えば組立式の雑貨や家具を作る場合がそうだ

 ビスを打つ作業が大変なのは、ヒトの腕がドライバーを回すような動作を得意としない為。ここは「モーター」という回す動作が得意なものを使って補うのが合理的で、その威力は一度手にすれば実感できる。

 今まで苦労していた作業が一瞬で終わる。組立式家具も、何の苦労もなくあっという間に完成するだろう。いい道具を手にすると、簡単にいろんなものが作れるようになってDIYが楽しくなる。

※ビスが固くてねじ込めない時は、固形石鹸をねじ山に塗って潤滑すると楽になる。最近はカムロックや樹脂製のインサート(鬼目ナット)の締結が主流になって組立が楽になったが、強度は著しく低下した。

 

電動工具の市場

 電動工具の市場は大きくプロ用とDIY向けに分かれていて、メーカーにより注力する市場が異なる。マキタはほとんどプロ用なのに対し、リョービとボッシュの日本市場はDIY向けに力を入れている。マルチツールで人気のブラックアンドデッカーの日本市場はDIY向けのみ展開。

 プロ用電動工具(プロ機)を作るメーカーは多くない。現場で酷使されるプロ用工具を作るメーカーは過去のトラブルの経験をもとに改良を重ね、部品一つ一つの作りから材料に至るまで相当なノウハウの蓄積がある。振動衝撃に耐えるギリギリのところを見極めた設計がされており、経験の無いメーカーが同じ値段で同じ品質のものを作ることは無理。参入障壁の高い市場のようだ。

 プロ機を作るメーカーにはマキタ、日立、パナソニック、ボッシュなどがあり、値段や性能は横並びだ。この中でマキタが選ばれるのは、他社に比べサービス網が充実している為だろう。仕事に使う道具はトラブルの復旧が早いことも大切な要素で、手厚いサービス体制がマキタブランドに高い付加価値を与えているようだ。

 

プロ機とDIY機では何が違うのか

 プロ機の特徴は、毎日の酷使に耐える堅牢な作りと、大容量の電池が付いてくること。実売4万円前後と高価だが、その2/3は電池と充電器代。

 ホームセンターで見る電動工具のほとんどはDIY向け。電池容量と耐久性(材料のグレード)を落としてコストダウンしたもので、実売2万円未満が多い。耐久性がプロ機に劣るといっても、お父さんが毎週、休日に使って10年以上持つ作りになっている。

 プロ機には3.0Ah~6.0Ahの電池が付くが、一般家庭のDIY作業ではその半分も要らない。DIYでしか使わないのに、フンパツしてプロ機を買っても、無駄に大きい電池のために「重い」「腕が疲れる」といったマイナスの面が目立つ結果になる。

 とはいえ、「DIY向けの工具では物足りない」「プロ機を手にしたい」そう思う人もいる。少数だがプロ機に小容量の電池を組み合わた商品があり、実売2.6万円で買える。プロ機と同じ性能の工具を安く欲しい人にお勧めできる(後でご紹介する)。

 ちなみに、1万円に未たない商品はオモチャ。手を出さないほうが無難。

 

「インパクトドライバー」と「ドライバードリル」の違い

 電動ドライバーには、普通に回るだけのドリルドライバーと、回転方向に打撃する機能がついたインパクトドライバー、軸方向に打撃する機能がついた振動ドライバーがある。このうち、DIYで最も使う機会が多いのはインパクトドライバーだ。

 インパクト機構のおかげでトルクが大幅に向上し、小さな電動工具1つで小ネジからクルマのホイールナットまで対応できる。原理的にネジの頭をナメにくいのもうれしい。プロの建築現場でも、DIYでも、今後これが主流になっていくだろう。

 ただし、インパクトドライバーにも欠点がある。小ねじ等の、大きなトルクをかけてはいけない締め付けが苦手なことだ。一応、トリガーの絞り具合でトルクを調節できるが、操作をミスるとねじ山を破損させてしまう。

 デリケートな小ねじの締め付けは、クラッチ(設定したトルク以上で空回りする機構)の付いたドライバードリルが適している。インパクトとクラッチ付きドライバードリルの2本あると完璧だが、最初の1本は。広い用途をカバーするインパクトがよいだろう。

 

充電式かACコード式か

 昔の充電式工具は使えるものではなかった。パワーが弱いうえ、すぐ電池が無くなった。時間が経つと放電してしまい、使う前に長い時間かけて充電しなければならなかった。電池の寿命も短かったから、利用頻度の少ないDIY用はACコード式が普通だった。

 リチウムイオン電池の登場でこの状況は変わった。自己放電がほとんどなく、容量が大きく、寿命が長い。この電池のおかげで持続時間が問題になるプロ用途でも、利用頻度の少ないDIYの用途でも問題なく運用できるようになった。インパクト機構の搭載でパワーも十分になり、現在はACコード式を選ぶ理由はほとんどなくなっている。

 

電池を使い回しできるものを選ぶ!

 充電式は最初の1台を慎重に選ぶ必要がある。充電式は電池と充電器が付いてくるものが多い。新しい工具を買い足すたびに電池と充電器が増えていくのは無駄なので、同じ電池を幅広い機種で使い回しできて、それらの機種が本体のみでも買えることを確認することが重要だ。

 DIY機の多くは電池とセット売りなので、切断や削り、掃除用に追加で買っていくと、充電器と電池がダブついてしまう。プロ機は本体のみ単品販売していて、それがDIY機の電池セットと同等以下の金額で買える。

 そこで例えば、1台目は少々高くてもプロ機の電池セットを買い、別用途に追加で欲しくなったらプロ機本体のみ買う。すると、充電器と電池が効率よく使いまわしできて、結果的に性能の良い道具を揃えていける。

 DIY機も本体のみ買えると良いが、そんなラインナップをするメーカーは少ない。現在ボッシュがやっているが、ボッシュの本体売りは電池セットと値段の差があまり無いためメリットが薄い。

 

ブラシ式かブラシレスか

 最近ではブラシレスモータを搭載した機種があるが、DIY用途ではメリットがほとんどない。DIY機のほとんどが安価なブラシ式で消耗品となるカーボンブラシの寿命は150~200hr。短く見えるが毎月延べ1時間使ったとしても10年交換の必要がない計算になる。そのためDIY機はカーボンブラシの交換が出来ない設計のものが多い。

 とはいえブラシレス機を一度握るとその高質な使用感に魅了される。BMWのエンジン、切れ味の良い刃物を想起させる。過剰スペックに違いないがモノにこだわる人にとって魅力の高い道具だ。

 

電動ドライバーの例

リョービ FDD-1000 チャック10mm 6.4N・m

電動ドライバーの例 リョービ FDD-1000 写真は9年前に購入したドライバードリルのエントリーモデル。実売4千円で今も売られている。20段のクラッチ付きで目盛1の最小トルクは実測で0.85~0.90Nm。プラスチックタップ4mmの締付け[1]から通販で買った家具の組立まで幅広く使える。パワー不足は下穴加工でカバーできる。

 充電式を手に入れる前、私はほとんどこれ1台でネジ締めの用途を賄ってきた。気になる点は強いネジ締めで頭をナメやすい、そしてやっぱりACコードが邪魔臭いことだ。

 

 

 

これから買う人にお勧めの機種

 電動ドライバーは非常に種類が多く、調べるのも選ぶのも大変だ。数多くの機種から選び抜いた電動ドライバーを紹介する。

マキタ TD134DSHX 1.5Ah(リチウムイオン)

電動ドライバーの例 マキタ TD134DSHX 

 プロ用インパクトに小容量の電池を付けたモデル。本体は新型ではなく5年前の枯れた型で実売2.6万円。我が家のメイン機。軽量なうえに重心がちょうどグリップのあたりに来るため、たいへん使いやすい。

 トルクが150Nmあるのでクルマのタイヤ交換や自転車の調整分解も対応できる。

 インパクトの強さを調整する機能はなく、トリガーの引き加減だけで力を調整する。無理するとねじの頭を飛ばすが、慣れればシンプルな操作が使いやすく感じるだろう。

 電池がプロ機と共通なので、最初にこれを買っておけば以後別の工具や後述する掃除機を安く買い揃えられる。ブラシ交換可能なのでDIY用途では一生モノだ。

※ホイールナットの規定トルクは105Nm(軽は90Nm)。緩めるのは問題ないが、安全にかかわる部分だけに締め付けの最後はトルクレンチが無難。

 

マキタ DF010D 5Nm 1.0Ah(リチウムイオン)

電動ドライバーの例 マキタ DF010D ペンタイプの電動ドライバードリル。21段のクラッチ機構で締め付けトルクを細かく管理でき、インパクトでダダダ・・とやるわけにいかない機器の組立てや圧着端子の取り付けで威力を発揮する。目盛1の最小トルクは実測0.5Nm。樹脂タップは3mm[1]から使える。

 これと上述のインパクトの1セットあれば完璧。

 

 

パナソニック USB充電ミニドライバー

パナソニック USB充電ミニドライバー

普通のドライバーを電動にした商品。ペン型より出番が多くなっている。この商品は電工をターゲットに作られたもの。類似商品の中で最も小さなトルク(1Nm)だが、電工作業で最も多い3.5mm~4mmのネジの締め付けをドライバー任せで決めることができる。

小ねじの締め付けメインに使えるが、3mm以下はトルクが大きすぎてナメる危険がある。特に樹脂タップの緩めではボタンの押し間違えが致命的なので、最初だけ手で緩めるのが無難。

手締め中に誤ってボタンを押すことがある。これを防ぐためか、チョン押しでは動作しない仕組みがついている。慣れないと締め付けと緩めを押し間違えることもある。ここはボタンがスライドになっているベッセルが便利。

 

マキタ 充電式クリーナー  CL142FDZW(25W)

マキタ 充電式クリーナー 電動工具のプロ機を買うとその電池がクリーナーに流用できる。そのため、電池セットだと高いクリーナーが単体で買える(驚くほど安い)。
 元々作業現場の清掃用だがその高性能とシンプルで落ち着いたデザインが評価され家庭用に買う人も多いようだ。

 

 筐体は厚いプラスチックで出来ていて手に持つとプロ用工具のようなガッシリした手応えがある。表面がつや消しのため安っぽくない。ノズルを付けた状態の重心はMakita文字付近に来る。

 強弱切り替え式のスイッチを入れると「強」からスタート。強でも騒音はさほど気にならない。電動工具に付属するバッテリ2個をローテーションしながら使う形になるので持続時間はほとんど問題にならない。
  ラインナップは豊富で紙パックとカプセル式があるが、清掃が1箇所で済む紙パック式がお勧め。オプションのフレキシブルホースがクルマの室内清掃にとても便利。

 

日立工機 FWH14DGL 140Nm 1.3Ah(リチウムイオン)

 DIYをターゲットに徹底してコストを削りつつ、プロ機に近い性能を実現したモデル。実売1.5万円。上記のマキタより一回り大きく重い。電池はプロ機と互換がある(メーカー確認済み)。インパクト1台だけあればよいという人にお勧めできる。マキタ同様、付属電池がコードレスクリーナと共用できる。

 続けて日立を購入しようと考える人には勧められない。日立にはDIY用工具本体の単品売りはないので、これを買うと2台目はプロ機にするか、DIY用にするかで迷う。他のプロ機やクリーナーと組み合わせるには電池容量が少ないし、DIY用を選べば電池と充電器が重複して無駄になる。個人的には彩度の高い色とスポーツ用品のようなデザインが気になる。

 

<参考購入先>
ソケットアダプターセット ソケットレンチを活用するための必需品。ホイール交換や自転車の整備に欠かせません

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<参考文献>
1.タッピンねじ・タップタイトの技術資料
2.マキタ
3.日立工機