ダンプ材の減衰特性を測る~ビスコロイドの代替品はあるか

 かつて、スピーカーのエッジやソフトドーム振動板には「ビスコロイド」という粘性物質が塗られていた。これは年月が経つと乾燥して硬くなる性質がある。

  ネットを見ると、乾いてしまったソフトドームやエッジをなんとかしたい、と考えている人がけっこういる。しかし、ビスコロイドはもう入手できない。そこで代替品を検討してみた。

 

ビスコロイドとは何か

 ビスコロイドというのは社名のことで、1925年デュポンが買収して1977年までデュポン・ビスコロイド社として存続していたという[Wiki]。ビスコロイドはセルロースを原料とする製品を生産していたというのでこれと何か関係があるらしい。

 よく似た名前の物質に「ビスコース」がある。これはセルロースから作られる黄色い粘り気のある物質で、レーヨンやセロファンの原料になるもの[Wiki]。これもダンプ剤としてスピーカーに使われた例があるようだ。ビスコロイドの正体は、このビスコースかもしれない。

 同じセルロース由来の物質に「ピロキシリン」があり液体絆創膏の主成分になっている。但しこちらは硬化すると樹脂状の塊になり粘性はない。

 

今は何が塗られているのか

 今作られているソフトドームやエッジには何が塗られているのだろう。

 調べてみると、ダイアボンド工業のデービーボンド5508[2]という商品が見つかった。これはアクリルゴムに可塑剤を配合して軟化させたもの。これに近い代替品で一般に入手できそうなものは残念ながら無い。

 

ソフトドームとエッジの補修方法

1.軟化させる

 乾燥しただけなので、溶剤を加えて元に戻せると一番いい。この溶剤の候補にブレーキフルードがあり、既に多くの人が試していて一定の成果を挙げているが、接着剤への影響や長期安定性について十分検証されていない。 

2.上から塗る

 世間ではビスコロイドの替わりにいろんなものが試されている。ダンプ材が乾いてしまったソフトドームにダンプ材を塗ったら高音が良く出るようになったという報告があるが、いきなり塗るのではなく事前にテストしたものを塗りたい。

 

 

ビスコロイドの代替品を見つける

 塗りに使えそうなダンプ材を集めて特性を調べてみた。候補は、

 セメダインスーパーX、ボンドG17クリア、ボンドGクリア、酢酸樹脂エマルジョン(木工用ボンド)、ピロキシリン(液体絆創膏コロスキン)。

 スーパーXは手元にホワイトしかなかったのでこれで実験。木工用ボンドは以前紹介したコーンの質量調整材[3]。JBLのE110にも塗られている。

 

1.試料を作る

 候補の材料についてスティック形の硬化物を作る。

 スティック形の試料を作っている様子。紙の上に塗布して固まるのを待ち、水でふやかして分離する。コロスキンとボンドG17はヒケが多いので4~5回重ね塗りする必要がある。

 

 作成中の試料の一部。上から木工用ボンド、スーパーX、Gクリヤー、コロスキン。両サイドの羽根を切って太さをできるだけ揃える。

 臭いがしなくなったら硬化完了。通常完成まで1週間程度かかる。

 

 

2.テスト方法

 テスト方法。図のように試料を机の端に固定して先端をたわませ、離したときの振動をよく観察する。

 振動数は材料の硬さによって違う。このテストではx2/x1に注目する。減衰の高いものほどx2/x1が小さく、tが短い。

 図の例では、減衰はA<B<Cの順になる。

 高い減衰を持つ材料は元の位置まで戻らずx3が残る場合がある。

 

 

3.実験結果

 結果は次の通り。減衰は温度に大きく依存するので温度別に評価した。

 

各種ダンピング材の特性と適合

  減衰
(5℃)
減衰
(常温)
減衰
(80℃)
 硬さ  エッジ
ダンプ
ソフトドーム
ダンプ
エッジ
補修
木工用ボンド
(酢酸樹脂)
(硬化)   ◎  かなり硬い  × × ×
セメダインスーパーX
(変性シリコン)
 〇  △  柔らかい
ボンドGクリヤー
(スチレンブタジエンゴム)
 〇  〇  硬い  △ ×
コロスキン
(ピロキシリン)
 〇  〇  かなり硬い  △ × ×
ボンドG17
(クロロプレンゴム)
 ◎  ◎  普通  ◎

 

 ダンプ材はG17がベストでありビスコロイドの代用に使えそうだ。溶剤で十分希釈して塗りに使う。完全乾燥には時間がかかる。

 ダンプ材の次候補はセメダインスーパーX。ソフトドームにはやや不適だが、エッジなら問題ない。柔らかい物性がf0の低減に寄与するだろう。これも溶剤で希釈して塗る。但し固まると以後の補修はできないので注意したい。

 スピーカーのエッジ補修では黄色いG17よりもGクリヤーやスーパーXの方が綺麗に仕上がる。スーパーXはクリアやブラックもあるので使い分けたい。

 溶剤はラッカー薄め液が使いやすい。

 

補修の注意点

  ソフトドームはダンプ材を塗る量が難しい。沢山塗ればその分減衰が増えるが、重くなって能率が落ちる。様子を見ながら薄塗りを重ねていくのが無難[4]

 

ブレーキフルードの注意

 ダンプ材を溶かすというこの液体、ダンプ材だけ溶けて接着剤は溶けない・・そんな都合のいいものだろうか。そこで、今回作った試料を使って影響を調べてみた。

 影響を調べているところ。比較のためエチレングリコールを用意。

 結果、ブレーキフルードはダンプ材だけでなく接着剤も溶かすことがわかった。塗りすぎたり他の部に付かないよう扱いに注意したい。

 エチレングリコールの方はどの素材に対しても影響がなかいようみ見えた。

 

 ブレーキフルードの成分にポリグリコールエーテルとある。これはおそらくリエチレングリコールモノエーテル[Wiki]であってエチレングリコールとは違う。

 

ブレーキフルードとエチレングリコールに対する影響(24hr)

  ブレーキフルード エチレングリコール
木工用ボンド
(酢酸樹脂)

(膨潤)
セメダインスーパーX
(変性シリコン)
×
(膨潤)
ボンドGクリヤー
(スチレンブタジエンゴム)
△?
コロスキン
(ピロキシリン)
×
(膨潤・ゲル化)
ボンドG17
(クロロプレンゴム)

(溶解)

注:精密な秤がないので、上記は見た目と感触だけの評価。

 

ダンプ材の枯れを数字で管理する

 エッジにブレーキフルードを塗った、柔らかくなった、成功!という話は多くあるが、できればその効果を数字で把握して管理したい。

 インピーダンス特性を測れば、ダンプ材の枯れが f0c(共振周波数)やζm(減衰比)などに表れる。測り方は以前紹介した通り[5]。ダンプ材が枯れてくるとf0cが上昇しζmが下がることでわかる。但し温度によっても変わるので、注意が必要。

 ソフトドームを補修する際も、聴感ではなく音圧特性を測りながら塗っていことで試行錯誤を減らしてベストな状態に早くたどり着けるに違いない。

 

<参考購入先>
ソフトドームのスピーカー

<関連記事>
3.低音の出ないスピーカを改造する
5.スピーカーのインピーダンス特性を測る

<参考文献>
2.ダイアボンド スピーカー用ダンプ剤
4.かないまるの個室ホームオーディオ