私はこれまで、ボディ塗装面の劣化を防ぐために、マメな洗車とワックスがけが有効と思っていた。
「汚れを放置するのは悪い」「手入れをしないと早く傷む」
そんな話を信じて、毎週欠かさずカーシャンプーでクルマを洗い、1ヶ月に一度ワックスやコーティング剤を塗布していた。ところが、1年経つと、ボディにクレータが目立つようになった。
ワックスをかけると、クレーターの窪みで白い瘢痕が浮き出すので、拭き取りが大変だった。プラスチック製のエアロパーツ(リアウイング)のクレータが特にひどかった。ゴム製モールにもクレータが出来て、ボロボロと崩れてきた。
4年もすると、樹脂製のエアロパーツの塗装に深刻な問題が生じた。塗装が剥げてきたのだ。
ある日、同年式のクルマを駐車場でみかけた。塗装やゴム部品の劣化に悩んでいたから、他車のコンディションには興味があった。
「私ほどマメに手入れする人は少ないだろうから、他のクルマはもっと酷いに違いない」
そう思って観察してみると、期待は裏切られた。ロクに手入れしているように見えないのに、クレータが見られない。プラスチックやゴム部の劣化も明らかに少なかった。
従来の常識は正しいか
長い間、常識と考えられてきたことが間違いで、実は逆効果だった、という話は、ままある。
「汚れを放置するのは悪い」「手入れをしないと早く傷む」
という話を、実際に検証した人がいるのだろうか。この論理はわかりやすいから「その通りだろう」と思って誰も疑わなければ、訂正されることはない。
クルマの手入れを扱うほとんどの記事が「汚れを放置するのは悪い」とし、こまめなケア(カーシャンプー&ワックスがけ)を勧めている。つまり、塗装の劣化を防ぎ、長持ちさせたければ、
「こまめに洗い、月に一度はワックスをかけなさい」
というのが常識だ。そのための洗車のコツなる書き物は山ほどある。
塗装の劣化要因
ボディ塗装面の劣化が気になる背景には、大切なクルマの保管場所が屋根のない屋外、すなわち「青空駐車」になっていることがある。青空駐車でボディを痛める要因には、次がある。
1.鳥のふん、虫痕
2.酸性雨
3.紫外線
4.鉄粉
1 は取り除かないとマズいが、最近の塗装は優秀で他は大した被害を受けない。上記以外にもタール、ピッチがあるが、これらはむしろ保護になる。
ところで、世の中には、これらよりもはるかにボディを痛める要因がある。それが次のものだ。
界面活性剤
石油系溶剤
これらはコーティング剤やワックス、カーシャンプー、水性のツヤだし保護剤等に大量に含まれている。これ以外にも、ケア用品と呼ばれるものは大抵これらの成分を含んでいる。
これらは人間が塗らない限り、決してボディに接触することはない化学物質である。
界面活性剤の害
カーシャンプーを使って洗車すると、界面活性剤が残留して塗装を侵食し、シミやクレータを作るという。これは、「水洗いの不十分」によって起こるといわれる。
だとするなら、どうしたら十分な水洗いをチェックできるのだろう。合成洗剤で手を洗った時のことを思い起こして欲しい。泡は洗えばすぐに流れるが、ヌメリはなかなか落ちない。
食器の場合も同様で、一時期洗剤の残留濃度が問題になったように、どんなにすすぎ洗いしても洗剤の残留をゼロにすることは困難だ。
カーシャンプーも同じように、泡はすぐに落とせても塗装に吸着している残留成分を完全に落とすことは難しい。泡が見えなくなったところで「水洗い完了」と判断するのは危険だ。
石油系溶剤の害
ワックスやコーティング剤に含まれる石油系溶剤は、灯油とほぼ同じ石油類。灯油をボディにぶっかけて放置する人はいないと思う。しかし、コーティング剤やワックスを塗って乾せば、これと同じことになる。
これを繰り返せばどうなるか。塗装は急速に侵食されてしまうだろう。石油系溶剤の害に比べたら、酸性雨などミネラルウオータみたいなものだ。
ワックスの主成分「ロウ」は保護の働きをすることに間違いない。但しそれは「ナマ」で使った場合に限られる。クルマのワックスは、固形ワックスでも有機溶剤と界面活性剤を含んでいる。柔らかくしないと、硬くて使えない為。
結局ワックスも、シリコンを乳化させた水性ツヤだし保護剤同様、その効果は「ツヤ出し」が主であり、塗装面に対しては、良いことはないものと考えておきたい。
紫外線が劣化を加速させる
カーシャンプーやワックスが害になる、といっても、問題にならないケースがある。例えば、それを塗る頻度が少ない場合や、ワックスをかけたあとガレージ行きの場合(紫外線に晒されない場合)がそうだ。
青空駐車の人は、クルマを少しでも綺麗に保とうとして、一生懸命ボディを洗い、ワックスをかけているかもしれない。
カーシャンプー(界面活性剤)が残留したところへワックス(有機溶剤)を重ね塗りし、日光浴させて紫外線をタップリ当てれば、塗膜の劣化が加速しそうなことは容易に想像つく。
洗ったりワックスを塗る回数が多ければ多いほど、ボディは痛み、気が付いてみればクレータだらけ。私が経験した通りの結果になるはずだ。
放置すると付く「汚れ」の皮膜で保護する
青空駐車のクルマを洗車しないで放っておくと、表面に薄い汚れの皮膜が出来る。この皮膜には次のような特性がある。
1.塗装に対して無害(汚れの中身は排気ガスや無機の土ホコリに由来するものが大半)
2.波長の短い光を吸収(紫外線をカット)する
3.酸性雨の害が軽減される(汚れに含まれる有機物が先に犠牲になることで塗装が痛まない)
4,完全な親水性がある(水玉のレンズがまったく出来ない)
5.除去しても自己再生する(自然に汚れる)
見た目はともかく、その保護作用はプロのコーティング以上ではないか。この汚れの皮膜を「自然のコーティング膜」と名付けた。
青空駐車では「何もしない」のがベスト
青空駐車では自然のコーティング膜を活用するのが、最も塗装を傷めない可能性が高い。そこで汚れの目立たない色を選んで、何もしないのがベストと考えられる、この法案を
「何もしないメンテ法案」
と名付けた。
汚れが目立たない色の候補に、メタリックシルバー、メタリックグレーがある。
黒、グリーン、青などの濃色は、汚れが目立つため空駐車に向かない。気になって洗車が必要になってしまうだろう。このような濃色は、屋根つきのガレージを持つ人にのみ許された色だ。
何もしないで放置するとどうなるか~5年間の検証結果
ここまでの話だけだとアイデアで終わってしまう。そこで、自分のクルマを5年間、何もしないで青空駐車してみた。クルマはR34スカイライン、検証期間は2000年~2005年。
写真の場所は、最も傷みやすかった樹脂製エアロパーツの上面塗装。写っている時計は、そのエアロパーツの上に乗せて反射をみたところ。表面がまだらに見えるのは雲が映り込んだ結果。
表面の汚れ被膜を取り除いたのち、夜中に懐中電灯で照らしたところ。普通なら5年も経てば光源の周りにクレータやヘアスクラッチがたくさん見えるところだが、何も見えない。水道水で洗わないので、イオンデポジットとも無縁(イオンデポジットは水道水に含まれるカルキやミネラルが原因なので、雨水では付かない)。
但し、まったく問題が無いわけではない。表面がややざらざらした感触になっている。ツヤも新品のままとはいかない。この程度の自然劣化は屋外ではやむを得ないところ。
以上の結果から、5年間何もしないで青空駐車を続けても、塗装面に大きな異常が起こらないことを確認できた。
(2006/10/29補足) 6年目にボンネット、天井、トランクの上面をミガキに出したところ、新車以上にピカピカの鏡面になった。5年過ぎて生じた表面のざらざらは、ごく表面的な劣化だったことが判明した。
「何もしない」場合の課題
5年間青空駐車したことで新たな課題がわかった。それは、全くクルマを洗わないと縁など埃が溜まりやすいところや湿気の多い下回りにカビや藻類が繁殖することだ。
上の写真で、エアロパーツとトランクとの境界に見える黒ずみは「カビ」。下回りのマッドガード継ぎ目あたりには緑色の藻類が見られた。
カビや藻類の繁殖を防ぐ方法
月に一度、ハイターの500~1000倍希釈液(水1Lに対して1~2ml)を気になるところにスプレーして、数十分後に水で洗い流せばいいようだ。雨が降りそうな場合はそのまま放置でもよいが、アルミやメッキを変色させる場合があるので注意。
これを続けることで、カビや藻類の繁殖を防ぎつつ、親水性を持った理想的な無機コーティング膜が出来てゆくと考えられる。
鳥の糞や虫を除去する際にもハイターの希釈水が役立つ。ハイターのアルカリがこれらの汚れを「中和」するので一石二鳥だ。
<参考>
ハイターの成分は、次亜塩素酸ナトリウムNaOClと水酸化ナトリウムNaOHの混合物。いずれも有機物と反応する性質があり、藻類やカビの細胞膜を破壊する。
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<改定履歴>
2017/12/28 あちこちに分散していた以下の関連記事を本記事1つにまとめました。
究極のボディケア4~理想的なカーシャンプーとは(2005/6/30)
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