「青空駐車でクルマの塗装の劣化を防ぐ一番いい方法は、何もしないことだ」と以前ご紹介した[1]。しかしプラスチック、ゴムには決め手が無かった。これらの保護を歌う商品は多くあるが、そのほとんどが素材に浸透し、素材を劣化させる劣化促進剤だった[2]。
プラスチック、ゴムの劣化を抑制できる良い材料はないものか・・そう思い、今回あらためてプラスチック、ゴムの劣化抑制に効果ありそうな材料を探してみた。
テスト材料
テストのために用意した保護剤は、肌用のUVスキンケアオイル2種(A,Bと称する)と、303プロテクタント、水性アクリルシリコン塗料(アサヒペン バリューコート 黒)。
紫外線を吸収する有効成分は、スキンケアオイルが「酸化チタン」、アクリルシリコン塗料が「顔料」、303プロテクタントは不明。
アクリルシリコン塗料は住宅の外壁に使われる高級塗料で、屋外でも10年を超える耐侯性がある。
303プロテクタントの能書きには、紫外線から素材を保護するとある。過去の調査によると、この手のツヤ出し保護剤は「ツヤ出し劣化剤」だった。
303プロテクタントの中身は乳白色であり、シリコンを界面活性剤で乳化させた「つや出し保護材」によく似ている。
乾燥させると何らかの油分が残ることから、油分を水に乳化させたものには違いないが、油を溶かすほどの洗浄作用が認められないことから、強い界面活性剤は使われていないようだ。
バリューコート「黒」の仕上がりは弾性がありツヤも適度に押さえられてゴムそっくり。エッジモール、ドアミラーの縁、ウレタンバンパーの底部など、ゴムやプラスチック部の保護に万能に使える可能性が高い。
ただ、皮膜が柔らかいので、擦れや傷には弱い。このような場所に使う場合は何度か塗り重ねて厚みを持たせる必用がありそうだ。
実験方法
テストピースを作り、これを紫外線や風雨にさらす屋外暴露試験を行う。
テストピースはアメゴム(無着色天然ゴム)を使い、ひねったり曲げたりして応力のかかった状態で固定する。
ゴムの劣化は、応力がかかった部分にひび割れが生じたり、表面の酸化(変色、細かい亀裂の発生など)を観察し、未処理品の状態と比較して判定する。
テストピースを設置した様子。黒い試験片はアクリルシリコン塗料を塗布したもの。
これとは別に、金属腐食の実験も行う。これは良く磨いた鉄の表面にシリコンを乳化させたつや出し保護材を塗布し、屋外の雨の当たらない場所に錆が見えるまで放置する。
ここに塗る材料は303プロテクタントと、比較のためアーマオール(Aオール)を追加した。アーマオールは以前から劣化促進や金属腐食(塗料の微細な傷れから浸透し下地を腐食させる)が疑われる商品。
実験結果
実験結果を次の表に示す。ゴム材料のテスト期間は5週間。雨天が数日あった。
表1 屋外暴露試験の結果(5week)
保護剤 | UVオイルA | UVオイルB | Aオール | 303 | アクリルS塗料 |
ひび割れ | × | × | ○ | ○ | ◎ |
表面酸化 | × | × | △ | △ | ◎ |
PH | - | - | 8.6 | 7.3 | - |
金属腐食 | - | - | △ | △ | - |
写真は5week後の様子。左は未処理、右は303プロテクタント。ひび割れ防止の効果が認められる。Aオールの効果もほぼ似たような感じで、303との性能差は認められなかった。
UVオイル(日焼け止めローション)2種には効果が全く認められなかった。
取り外してみたところ。上から「未処理」「303プロテクタント」「Aオール」「アクリルS塗料」。
303、Aオールはひび割れ防止に効果があるとはいえ、永久変形が残っており、日光が当たっていた面は褐色に酸化している。これら保護剤の効果はあるが「何もしないよりはマシ」程度と考えたい。
アクリルS塗料で塗装したものはほとんど劣化が認められない。塗膜で覆った部分がほぼ完全な保護膜として効いている。この場合、保護効果は塗装自身の耐久性で決まるが、塗膜が劣化したら塗り直す事でゴムの劣化をほぼ完全に抑止できると考えられる。
未処理品の変形が少ないのはひび割れして元に戻らなくなった結果。
錆びに関する結果は似たようなもの。どちらも少しだけ錆びている。PHを測ると303はほぼ中性、Aオールはアルカリ性(8.6)だった。
塗り重ねたらどうなるのか・・Aオールと303プロテクタントについて、頻繁に塗布を繰り返した物と、最初一度だけ塗布して後は何もしない物の2種類を追加実験してみたが、明確な差異はなかった。
問題点と結論
今回の実験結果でアクリルS塗料が最も優秀だった。さっそくクルマのゴム部に施工してみたところ問題が起きた。べたつく仕上がりになってしまったのである。
これはゴムに含まれる可塑剤が原因らしい。結局ゴムに対して有効な保護塗料は見つからなかったというのが今回の結論だ。
303プロテクタントとアーマオールはどうだろうか。アメゴムに対しては確かに効果があるが、クルマのゴム製品に対しては、やめておいた方が良さそうだ。
なぜならこれらの商品を塗ると、以前ご紹介したように、もともとゴムに配合されている保護成分を取り去り、303プロテクタントとアーマオールに含まれる保護成分で代替してしまう[2]。これらの保護成分は雨などですぐに消えてなくなるから、塗らないほうが良い結果になる。
結局、プラスチックやゴムに対する有効な保護材は見つからなかった、というのが今回の結論だ。
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<参考文献>
腐食と劣化(6)合成樹脂(ゴム・プラスチック)の劣化評価・分析手法(リンク切れ)
大武義人 (財)化学物質評価研究機構(リンク切れ)