洗車スポンジ濾材の発見と検証の経緯についてご紹介します。洗車スポンジ濾材は本サイトが1999年に紹介したものです。作り方に関する記事や動画を作られる場合は、こちらを参考に出典の明記をお願いします。
きっかけは1999年の下水道展(東京ビッグサイト)
「濾材の素材として、洗車スポンジ濾材が優れている」これを発見するきっかけを得たのは1999年7月30 の下水道展(東京ビッグサイト)だった。
当時の濾材の多くは高価で、安いものは定期的な交換が必要とされる消耗品がほとんどだった。ここでいろんな専門メーカの話を聞いて、濾材の基本的な働きと、効率よくろ過を機能させ、長期維持するためのポイントを知ることが出来た(詳細は後述「洗車スポンジ濾材 検証の経緯」)。
下水道展で得た知識をもとに当時市販されている濾材をあらためて見渡すと、専門メーカーの話を満足するような商品は一つもないことに気づいた。
身近な材料から探す
当時ショップで小売りされている濾材の多く(セラミック、ガラス系)は業務用の流用で、小型ろ過装置に入れると体積あたりの表面積が低くなって、十分なろ過能力を得られない。
そこで身近な日用品から濾材に使えそうなものを探すことにした。アクア用として市販されている濾材は高価なものが多かったから、「安く、手軽に使える物」を見つけたいという思いが最初からあった。
そこで私が最初に注目したのが台所にある食器洗い用のスポンジ。
濾材を長期間使うには、ある程度の通水を確保して目詰まりを防がなければならない。そこで、通水性を調べるため、水道の蛇口のすぐ下に配置して水を流してみた。ところが、このスポンジは気泡が細かすぎて※、水が中を通りにくい。大半の水が表面を伝わって落ちてしまった。
※目の細かいスポンジは気泡の独立性が高く、水が流れにくい。
台所には、コゲ付いた汚れ落し用の目の粗いスポンジもあった。これも同様にテストしたところ、今度は抵抗なく水が貫通した(これが後に、プレフィルターの選定基準になった)。
水がよく通るということは、気孔率が大きい(表面積が小さい)ことを意味し、問題のように思えた。また、最近の台所用のスポンジには、「抗菌」の文字が目につき、これを濾材として使うことに抵抗があった。
洗車スポンジ濾材の誕生
台所用のスポンジをテストしていた時、たまたまカーシャンプーのオマケに付いてきた黄色いスポンジが余っているのを思い出した。早速実験してみたところ、良い具合に(主観だが)水が貫通した。気泡の細かさは台所のスポンジと同じくらいなのに、なぜだろう?
その秘密は、大小の気泡が混ざった構造にあるようだった。
すなわち、小さい気泡だけでは水が通りにくいが、大きい気泡が抵抗を小さくして水の通りを良くしている。大きい気泡は詰まりにくく、長期間、濾過面積として機能すると考えられる。
「これは少量で多くの表面積がほしい家庭用濾過装置に適している!」
しかし、これをそのまま使えばウールマットのようにすぐ目詰まりを起こすことは容易に想像できた。そこで、適当なサイズに角切りしたのである。こうして、「洗車スポンジ濾材」が誕生した。
スポンジが濾材に?ふーん、そうかもしれないね
スポンジ濾材を検討しているとき、ADAから同様の濾材が市販されているのを知った。見たところ気泡のサイズが大きすぎて、目の粗い台所スポンジに近かった。それになによりも、価格が高すぎることが問題だった。
ただ、当初は私も「スポンジ」というイメージから来る安っぽさと脆さから、あまり期待していなかった。この時点で、洗車スポンジが濾材に使えると主張しても「ふーん、そうかもしれないね」で終わっていたと思う。
当時、一般に入手できる角切りしたスポンジ濾材といえばADAのバイオキューブくらいしかなかったし、スポンジを濾材として積極的に使おうと考える人は、ほとんどいなかった。
自分で検証を始める
半信半疑で使ってみると意外に調子がいい。亜硝酸の濃度はわずか2週間程度で下がり、従来言われていた1ヶ月以上という目安が大幅に短縮された。
それに、これまで確認が難しかったバクテリアの定着度合いが、臭いと色の変化ではっきりと確認できるのは、新しい発見だった。これは、黒っぽいスポンジ濾材を使っていては、決してわからないこと。こういうことは、実際やってみることが重要だ。
それから、本格的に耐久性試験、最適なカットサイズの検討、長期運用試験を経て、濾材として十分使えることを実証し現在に至る。
洗車スポンジ濾材の普及
洗車スポンジ濾材を当サイトで紹介してから10年後(2009年)にはかなり普及していた。当時2chなどにスレが立って賛否議論されていたが、以降、定番濾材の一つとして定着したように見える。
当サイトでは、洗車スポンジ濾材のことを最初の頃「オリジナル濾材」と書いてきた。10mm程度に角切りカットしたスポンジ濾材の商品は、ADAから既に出ていたから、それ自体はオリジナルではない。では何がオリジナルかといえば、「洗車用のスポンジが、濾材として使えることを見いだした」ことだけである。
目下の欠点は、カットに手間がかかる点。ただ、アクアリウムは趣味なのだから、自分の水槽で使う最も重要な部分を、せっせと手作りするのも、愛着が沸いていいかもしれない。
洗車スポンジ濾材のライバル (2012/12/11)
洗車スポンジ濾材を紹介してから13年。近年、類似商品が登場してきたので、従来あるものを含め定性的な比較をしてみた。洗車スポンジを角切りしたものと同じ商品は見当たらない。
スポンジ濾材の比較(2012年現在)
洗車スポンジ濾材 | ADA バイオキューブ |
ゲルキューブ | ウレタンサイコロ 15mm角 |
|
濾過面積(長期) | ◎ | △ | △ | △ |
長期使用 | ◎ (ポリエーテル) |
○※ | △ | ○※ |
バクテリアの定着確認 | ◎ | △ (Blue) |
◎ | × |
価格(円/L) | 約150(自作) | 750 | 1400 | 500 |
※:材料が不明だがポリエーテル系なら◎。
ADAバイオキューブは古くからある商品。濾過面積は小さい。これは以前から指摘している通り気孔率が高すぎる(スカスカの構造)のためである。製品色Blueはバクテリアの色(茶色)に近い色相であるため定着の確認が黄色ほど容易ではない。
ゲルキューブは乾燥PEG(ポリエチレングリコール)のゲルを発泡させて角切りしたもの。気孔率はバイオキューブと同じ。長期使用は未検証だが水で膨潤し生分解することから△とした。
ウレタンサイコロはサイズが大きすぎて体積効率が悪い。細目(標準品)と荒目があるが、細目は目詰まりして長期的な濾過面積は立方体の表面積と同等になる。荒目の気孔率はバイオキューブらと同等。
上記の評価は私個人の主観だが、今も総合性能で洗車スポンジ濾材がベストと私は思う。
パクリサイト、製作動画の増加 (2019/8/20)
洗車スポンジ濾材を紹介してから20年。当サイトの製作記事ととほとんど同じ内容の紹介記事をみかけるようになった。
洗車スポンジ濾材の作り方は一般に知られているが、だれが考えたのかが、わからない状況になっているようだ。これは、当サイトが本家であることを長年主張してこなかったことにも原因があるのかもしれない。
<関連記事>
洗車スポンジ濾材の作り方
洗車スポンジ濾材 検証の経緯
水中ではほとんど劣化しないことを検証 (2005/1/25)
洗車スポンジ濾材が世の中に普及するにつれ、寿命を気にする声もちらほら聞かれるようになった。実際、ウレタン系のスポンジは屋外に放置しておくと、1年くらいでボロボロになってしまう。この様子から「スポンジ濾材は寿命が短い」と考える人もいる。
スポンジ濾材が褐色に色づくのはなぜか
スポンジ濾材を使って水槽を立ち上げると、スポンジが褐色に色づく。この現象に劣化が関係しているか、考えてみる。スポンジ濾材が褐色に色づくことについて、考えられる仮説に次がある。
(1)微生物が持つ固有の色による着色
(2)化学的な分解(加水分解)
(3)紫外線による酸化
(4)微生物による生分解
写真はその検証結果(2年前に実施)。
左はポリエーテル系スポンジを裁断してビニールに入れ、冷暗所に保存しておいた新品。
中央は、透明の容器に水道水と一緒に入れ、蛍光灯が当たる場所に3週間さらしておいたもの。
右は、蛍光灯が当たる場所(空気中)に3週間さらしておいたもの。
中央と右のサンプルは隣接して置いたものなので、条件は水浸せきの有無だけ。3週間という時間は、水槽の中で普通に使ってハッキリと色づきを確認できる時間を想定している。
空気中に置いたものは、かなり変色しているが、水浸せきしたものは、新品と区別が付かない。強度については、どちらも明らかな劣化は認められなかった。
この実験によると、光源下に置いたスポンジが色づいたのは、(3)の紫外線が原因とみて間違いない。これはウレタン製の低反発枕が褐色になってしまう現象と同じ。
たとえ光があっても、水中にあれば全く変色しないことからすると、濾材に使ったスポンジが着色するのは、(1)のバクテリアによるものと考えて間違いなさそうだ。
水中でスポンジの加水分解は進むか
(2)の加水分解は濾材の寿命に関係しそうだ。ウレタンのスポンジを屋外に放置しておくと、1年くらいでボロボロになってしまう。これは、空気中では紫外線や酸素(オゾン)が同時に作用して急速に劣化が進行するためとみられる。
しかし水中ではどうだろう。最初に作ったウレタン濾材は、もう3年以上問題なく使えている。劣化の速度は、空気中にある場合に比べるとかなり遅いようだ。それは、水中では劣化を促進する要因、つまり紫外線や酸素が少ないためと推察する。
水中でスポンジは生分解するか
(4)の生分解はどうだろう。スポンジは有機物だから、これを分解して炭素源にする菌類がいても不思議はない。土中に埋めた場合は急速に生分解するかもしれない。
しかし、3年使った濾材を観察しても、微生物によって分解された痕跡はない。通常、炭素源やエネルギーといった栄養源は、利用しやすい物から消費される性質がある。炭素源については、水中のCO2をはじめ、スポンジの中にはバクテリアの死骸が豊富にある。
スポンジを分解しなくても、こういったものから容易に得ることができるから、スポンジの生分解はほとんど起きないものと推察する。
スポンジの劣化は材質によって違う
一口にスポンジといっても様々な素材がある。私が勧めているポリエーテル系のスポンジは、吸音材にも使われていて空気中では比較的に劣化の少ない素材の一つだ。
スポンジ濾材は詰まらなかった
昔は「スポンジ濾材は詰まってドロドロになる」という意見があり、誰も積極的に使おうとしなかった。
サイコロカットしたスポンジが詰まらないことは、これまでのレビューで実証してきた。当然のことだが、プレフィルターを付けていないとドロドロになってしまう可能性は高い。それは濾材の問題ではなく、間違った使い方をした結果だ。
いずれにせよ、私がスポンジ濾材を世に紹介してもうすぐ6年になる。早く始めた人はそろそろ5年目を迎えているだろう。今では多くの方が実践しているようだ。このサイトでご紹介してきたことは、多くの人の手によって検証されていくと思う。
スポンジ濾材は詰まるか 2(2003/1/14)
過去の観察によると、1cm程度にサイコロカットしたスポンジ濾材の隙間は、詰まることがなかった。すると次は、中身がどうなっているかが問題になる。そこで、スポンジ濾材の粒を拾い出して、カットしてみた。
写真は1999年中旬にセットアップした洗車スポンジ濾材(小)をカットして断面を調べたもの。セットアップから3年半が経過している。一番最初に作ったものなので、形はちょっといびつだ。
茶色の濃い部分がバクテリアが密集しているエリアで、まばらに点在している。全体が詰まっている様子はない。大きい気泡の部分は空洞になっている。濾材を軽くつまんでみると、簡単に水がにじみ出してくる。
この結果から、スポンジ濾材の詰まり率を、60%前後と推定した※。
<関連記事>
※:アクアリウム濾材の濾過能力を計算比較する~ウールマットの能力は意外なものだった
3年後の様子 (2002/6/30)
1999年の中旬にセットアップした洗車スポンジ濾材は、今年の7月で3年を迎える。スポンジの様子には別段異常はなく、濾材として十分機能する状態にある。
表面には相変わらず茶褐色のバクテリアがべっとり付いているが、繁殖しすぎてベタベタになっている様子もない。それは濾過膜が適度に剥がれて入れ替わっているからだろう。
これまで実施してきたメンテナンスといえば、数ヶ月に一度、点検のためにコンテナを取り出しているだけ。コンテナを引き上げると自動的に逆洗されるので、これで古い濾過膜のカスはだいたい取れてしまう。
スポンジ濾材の寿命は永遠か (2001/10/31)
アクア用としては高い性能と優れた特徴を多く有する洗車スポンジ濾材(スポンジ濾材)だが、加水分解には触れていなかった。
ポリウレタンなどの高分子材料は、水分と反応して徐々に分子構造が崩壊するのが宿命。寿命は一概にはいえないが、3年とも7年とも言われている。
水に漬かった環境でどの程度まで使えるのかわからないが、2年たった今でも十分使えることを確認している。少なくとも、市販品でよく見かけるような、「1ヶ月ごとに交換が必要です」ということにはなっていない。
これから検討する人は、材料をよく吟味してほしい。洗車用スポンジとして売られている材料には、セルロース、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテルなどの種類がある。ポリエーテルが、最も加水分解に対して丈夫だから、こちらをお勧めしたい。
スポンジ濾材の寿命は、最初に始めた私の方で確認できると思う。寿命対策について今後フォローしていきたい。
スポンジ材料の劣化は、弾性や引張り強度を調べることで確認できる。点検の際に1個取り出し、引張ってみて、簡単にちぎれなければOKと判断できる。
塩水で働くバクテリアの様子 (2001/6/23)
写真は塩水濾過で長いこと回していた洗車スポンジ濾材と、同じ濾過層に入れていた目の粗いスポンジの様子。
塩水中で発生するバクテリアはこれまで確認しずらいものだったが、初めて明瞭な写真がとれた。2枚目の写真で見える無色半透明のどろっとしたものが塩水で活動するバクテリアに違いない。
塩水のバクテリアは淡水産と違って無色無臭のよう。珊瑚砂を濾材としている場合はほとんど確認不能だろう。1枚目の写真でも同じように大量のバクテリアが付着しているはずだが、目視ではわかりにくい。
成功と失敗例 (2001/5/8)
おもしろいサンプルの写真がとれたので公開する。写真右は、もうすぐ2年になる洗車スポンジ濾材(成功品)、左は、一度酸欠になり、バクテリアの大半が死んだことがあるもの(失敗品)。色の違いに注目して欲しい。
成功品は明るい茶色になっているのに対し、失敗したものは、黒ずんでいる。表面の状態をみると、成功品は茶色くどろっとしたものがスポンジに密着しているのに対し、失敗品は黒いポロポロしたもの(バクテリアの死骸らしい)を見ることができる。スポンジ濾材をインストールして運用している方は、点検の際にこの写真と色を見比べて欲しい。
失敗品でも新しくバクテリアが定着するから濾過が機能しないわけではない。失敗品には成功品には見られない特徴がある。それは、ガスが発生して排水パイプから定期的に放出されることだ。このガスの正体は不明だが、ひょっとすると脱窒が働いて出来た窒素ガスかもしれない。しかし、大量のバクテリアの死骸が予期せぬ事態を招くかもしれない。
現時点では、左のような状態になったら濾材をリセット(完全洗浄)をお勧めする。この場合、一度に全部の濾材を洗うと濾過が破綻する。1/3ずつ2週間置きに洗うなど、時間をかけて順番に処理していくと良さそうだ。
スポンジ濾材は詰まるか (2000/10/28)
久々にスポンジ濾材を点検してみた。これがそのときの写真。セットアップしてから、もう1年以上経過している。無論、濾材の洗浄はしていない。
茶色いどろっとしたものが水槽の命、バクテリアだ。写真をみてわかるように、小さい気泡は部分的に詰まっているが、大きい気泡は詰まっていない。粒同士の隙間もきちんと確保されており、通水性は損なわれていない。さらに、濾材自身の劣化もみられない。
また、このどろっとしたバクテリアの発生状態から、ミクロン単位の微細な凹凸が濾過面積にまったく関係しないことがわかる。
スポンジ濾材が詰まりやすい、耐久性が弱いと言う話は根拠の無い迷信といっていい。但し、使い方を誤ると詰まる場合がある。それは例えば、スポンジをマットの形で使った場合、生物濾過と物理濾過を分離しない場合、水槽負荷に対して濾材の量が明らかに不足する場合が該当する。ただこれは、濾材がスポンジに限った話ではない。すべての濾材で共通していえることだ。
バクテリアが増えてくると、濾過装置の水量が落ちてくるが、これはやむをえないことだ。極端に水量が低下した場合は、物理濾材の詰まりやホース内壁の汚れが原因であることが多い。これらを改善すれば、正常な水量に復帰するはずだ。
スポンジ濾材を使う場合、物理濾過との分離は必須だが、物理濾過に使う濾材が詰まらないよう、くれぐれも気を付けて欲しい。物理濾過の部分で詰まると、スポンジ濾材にとりついた好気性バクテリアが酸欠で死んでしまう。バクテリアが死ぬと、写真のように明るい茶色ではなく、黒っぽくポロポロした感じになる。
11ヶ月後の様子 (2000/6/23)
メイン水槽にセットアップした洗車スポンジ濾材もそろそろ1年になる。果たして予測通りの性能を発揮しているだろうか。
3ヶ月後の状態よりも褐色が色濃くなっていて、バクテリアが増殖していることが伺える。これまで一度も洗浄していないが、目が詰まっている様子はない。現在も濾材の芯まで水が通り、濾過が機能しているようだ。また、事前に行った耐薬品テストの予測通り、1年程度では濾材が溶けたり消耗する様子は見られない。
この濾材を使用した水槽には、エンゼル3、カージナルテトラ16、グラミー2、ダイヤモンド1、オトシン4、ヤマト10を飼育しており、60cmの水槽負荷としてはやや多めだが、濾材の色からすると能力的にまだ余裕があるように見える。
通常、装置の濾過能力が足りているかどうか、判断することは難しいが、洗車スポンジ濾材は処理すべき水量に対して濾材の量が少ないと発生するバクテリアでと真っ茶色になる。色で濾過能力の充足を判定できるのも、この濾材の利点だ。
嫌気性濾過能力はあるか (2000/2/26)
洗車スポンジ濾材を装填した濾過器の排水パイプから頻繁に気泡が出てくる。最初、内部が負圧になった為かと思い排水を絞ってみたが、減る様子はない。濾過器のコンテナは半透明なので、ライトを当てて透かしてみることができる。してみると、驚いたことに濾材の1つ1つが気泡を付けている。これはもしや、嫌気性濾過が行われているのではないか?
気泡が出る水槽では、イースト菌を利用したCO2添加装置を付けている。イースト菌が発酵するとCO2の他にアルコールが出るが、これが若干水にとけ込んで、脱窒菌のエサになっている可能性がある。
しかし、普通は脱窒菌のエサを補給しても嫌気域がないと脱窒は機能しない。シポラックスやサブストラットもそうだが、通常の多孔質濾材は表面が詰まってしまうため濾材の芯までスムースに水が通ることはない。いくら内部が嫌気性になっても、水が通らないのでは濾過は行われない。
左は一般的なスポンジ濾材の模式図。黄色い粒は好気性バクテリアを示し、矢印は水の流れを示している。好気性バクテリアは酸素の豊富な表層部に大量発生し、次第にスポンジの凹凸を埋め尽くす。
最終的には、表層部に薄皮一枚(5ミクロン)だけの濾過膜を形成し、濾過面積は濾材の表面積に等しくなる。濾過が機能するのは表面だけとなり、それ以外は無駄な空間になる。
酸素は表層部で消費されてしまい、内部は嫌気性になるが、濾材の中心部分は通水がないため、嫌気性濾過は機能しない。
洗車スポンジ濾材の気泡は何か。脱窒によるものだとすると、次の仮説が立つ。
左は洗車スポンジ濾材の模式図。好気性バクテリアによる生物濾過は、表層のみならず、大きい気泡の通路の壁面に沿って形成されるため、同サイズの一般的な濾材よりも濾過面積が大きい。
酸素は表面の濾過膜で消費され、濾材の内部に嫌気域ができる。
洗車スポンジ濾材は大小の気泡が入り交じっているため、表層部の凹凸がバクテリアで埋まっても、水は大きい気泡の通路を通って濾材の中に入り込む。そのため内部まで水が通りやすい。
その流速は濾材の外側に比べゆっくりとしており、嫌気濾過が行われる条件が整う。ここに嫌気性濾過バクテリア(青い粒)が図のように発生し、嫌気性濾過が機能するというわけ(あくまで推測です)。
<関連記事>
イースト菌を利用したCO2添加装置
3ヶ月後の様子 (1999/10/22)
3ヶ月ぶりに60cmメイン水槽の濾材を点検した。写真は3ヶ月前に外部濾過装置(フルーバル303)にインストールした洗車スポンジ濾材のコンテナを引き出したところ。コンテナを開くとバクテリア固有の臭いが漂い、大量のバクテリアが発生していることが伺える。
濾材はやや茶色がかっている程度で詰まりはまったくなく、濾過が立ち上がっている現在でも能力的にはまだかなり余裕がみられる。水に浸すとスッと水が染み通り、濾材の芯まで有効に機能していることがわかる。
現在の水槽は60cm2本、30cm予備水槽1本だがこのスポンジ濾材に替えてから調子がよく病気も見当たらない状態が続いている。
究極の濾材を発見?~洗車スポンジ濾材の検証を開始(1999/7/30)
1999/7/30 東京ビックサイトで開催されている下水道展に行く機会があり、濾材を作っている専門メーカの話を聞く機会があった。それによると
1.生物濾過の能力は、水との接触面積によって決まる。
2.長期的な有効接触面積は、1mm以下の細かい凹凸を無視した表面積に等しくなる(多孔質の微細構造は、発生するバクテリアですぐに詰まってしまいろ過面積に寄与しない)。
3.生物濾過膜の表層から5ミクロンより深い部分は、酸素が届かないため生物濾過は機能しない。
4.多孔質の濾材はバクテリアの定着が早い。
5.濾材の形状は「くら型」がもっともよい。
ということだった。結局、濾過面積として有効なのは流れている水が接触する表面の薄皮一枚ということになるらしい。たとえ濾材の内部に水があっても、表面のバクテリアによって酸素が消費されてしまうため、内部では機能しないらしい。濾過の性能は形状で決まる要素が強く、材質は関係しない。
以上からすると、家庭用の小型ろ過装置入れて使う生物濾材には次の特性が求められそうだ。
1.単位体積あたりの濾過面積が大きいこと。
アクア用では濾過装置の容積が限られているため、濾過能力に直接影響する重要な特性だ。単位体積あたりの表面積は粒子が細かいほど大きくなるが、細かすぎると通水が悪くなって詰まりやすくなる。おそらく5mm~10mmが適当だろう。
2.目詰まりによる性能の劣化が少ないこと。
どんな濾材でもバクテリアが増えてくると表面が目詰ってきて、通水性が落ち、濾過面積が減少してくるが、この劣化がすくないほどいい。このことは濾材の形状や粒子のサイズに大きく関係する。
3.表面が多孔質であること。
表面が多孔質のものはツルツルのものよりバクテリアの定着が良いという。
4.化学的に安定であること。
硝酸塩、炭酸塩などの溶出物があったり、濾材自身が劣化してしまうものは使えない。
これらの特性を満たすものが無いか、売られている濾材を一通りチェックしてみたが、満足いく商品は見つからなかった。中には濾材の用途に不適当と思える商品もある。例えば次がそうだ。
•セラミックや発泡ガラス製のリング状濾材
中心の空洞がまるまるムダであり、粒も大きさも大きいため無駄な隙間が沢山できることから単位体積あたりの濾過面積はかなり小さい(微細構造は上述したように関係しない)。この濾材は水処理プラントなど大きな容器に大量に入れて使うもので、家庭用の小型ろ過装置には向かない。これらの商品は、おそらく業務用の流用と見られる。
•ウールマット
細かい多孔質構造のおかげで濾過の立ち上がりが早く、初期性能は非常に高いが、発生するバクテリアによって次第に詰まり、性能が急降下する(ろ過面積は板状に等しい)。薄く使ってもこの性質は変わらない。
•PHコントロールを謳っている商品全般
濾材自身の溶出物や化学反応でPHが変わってしまうと本来の現象が見えなくなり、水質の管理が難しくなる。
身の回りでいい素材はないかと探してみたところ、理想的な素材を見つけた。
1999年、濾材を作るために洗車スポンジをカットした最初の写真。このスポンジはカーシャンプーを買ったときオマケで付いてきたもの。たまたま手元にあったものだった。
このスポンジには小さい気泡の中に大きい気泡が適度に入り交じっている特徴がある。多孔質であるため濾過の立ち上がりも早いことも予測できる。
大きい気泡のおかげで、粒子のサイズが小さくても通水性がいい。濾材の内部まで水がよく通るため、酸素が濾材の内部に供給される。そのため、濾材の内部まで濾過面積として作用し、立方体の見た目以上の濾過面積が確保できそうだ。
しかも、大きい気泡は詰まりにくいミリ単位のサイズであるため、内部のろ過性能も長期間持続しそうだ。
この材料は、上述したアクア用生物濾材に求められる特性をほとんど満たしている。これはもしかして、理想的な濾材かもしれない。
今回、この濾材を60cmメイン水槽の外部濾過装置(フルーバル303)にインストールした。今後経過を観察していくつもりだ。
<関連記事>
完成した美しいアクアリウムを紹介
スポンジ濾材の耐薬品性をテストしてみた (1999/7/22)
スポンジフィルターは耐久性がなく、定期的に交換が必要というのは本当だろうか。紫外線以外の劣化では、バクテリアによる酸化くらいしか考えられない。そこでスポンジの耐酸性を調べるため、サンプルを入手して70%硫酸滴下と2N塩酸浸漬による実験をしてみた。
写真は左からテトラのニュービリーフィルター、ウイルソンの洗車用スポンジ、ブリヂストンの吸音フォーム。以下はその結果。
スポンジの耐薬品テスト結果
種類 | 70%硫酸 | 2N塩酸 |
ウイルソン | ○ | ◎ |
ブリヂストン | △ | ◎ |
テトラ | × | ◎ |
塩酸漬けおきは2昼夜の結果で、この程度では外観も機械的強度も変化が確認できなかった。この様子だと変化が出るまでかなり時間がかかりそうなので中止した。硫酸についてはテトラのみ、滴下した先からすぐ溶け出した。
しかし2N塩酸漬けおきというのは実際の使用状態では何年分に相当する負荷だろうか?実際のところ、交換は必要ないんじゃなかろうか。
ウレタン系のスポンジは紫外線に弱い。光の当たるところでは酸にやられる以前に紫外線でボロボロになってしまう。しかし濾過器の中など、光の入らない暗い密閉容器の中なら、意外に長持ちするかもしれない。
<関連記事>
洗車スポンジ濾材の作り方