水槽を立ち上げが終わると魚に取って安全な水ができあがる。ところがこのプロセスに関する詳しい情報がない。そこで文献[1]を参考にまとめてみた。この結果から、今まで良く分かっていなかったCO2や砂糖の添加、脱窒について新しい知識を得た。
有機物が分解されるプロセス
下の図は、魚の糞や餌の食べ残しが最終的に無害なもの(窒素)に分解されるまでのプロセスを詳しく説明したものだ。
このプロセスには多くの微生物が関係する。微生物が有効に働くためには、エネルギー源と炭素源が必要になる。
エネルギー源とは、微生物が活動するために必要なもの、炭素源は微生物の体を作る源になる。以降、エネルギー源を黄色、炭素源を緑色で示す。
従属栄養細菌の働き
水槽内には、多種多様の従属栄養細菌が存在する。水槽内の有機物は、まずこれらの微生物出す酵素によって体外でブドウ糖やアミノ酸などの吸収しやすい低分子有機物に分解される。
分解したらそれを体内に取り込み、酸素を使ってアンモニアに分解することで、活動に必要なエネルギーを得る。また、有機物中の炭素を使って自分自身の体を作る。
ワムシやアメーバのような原生動物の場合は、細菌や小型のプランクトンを直接補食し、体内で酵素を出して分解を行い、エネルギーと炭素源を得ている。
アンモニア酸化細菌の働き
アンモニアと酸素を使って亜硝酸塩と水素イオンに分解し、エネルギーを得る。分解時に生成される水素イオンは、水を酸性に傾ける。また、CO2を炭素源に自分自身の体を作る。
亜硝酸酸化細菌の働き
亜硝酸塩と酸素を使って硝酸塩に分解し、このときエネルギーを獲得する。また、CO2を炭素源に自分自身の体を作る。
水槽の立ち上げとは何か
水槽の立ち上げでは、亜硝酸参加細菌が働くまでのプロセス完成を目標にしている。この確認は、亜硝酸試薬が使われる。すなわち、亜硝酸塩が検出されなくなったことをもって、プロセス完成を確認できる。
脱窒菌の働き
水素供与体と硝酸塩中の酸素を使って窒素ガスと水酸イオンに分解し、エネルギーを得る。また、有機物中の炭素を使って自分自身の体を作る。分解時に生成される水酸イオンは、水をアルカリに傾ける。
硝酸塩を利用して脱窒を機能させるには、酸素のない嫌気的な環境と、水素供与体が必要である。水素供与体は、メタノールのほか、有機物も利用できるが、水槽内で効率よく機能させることは、難しいといわれている。そのため、水草に吸収させたり、換水によって物理的に除去するのが一般的になっている。
以上のことから、アクアリウムに関して次の知見が得られる。
アクアリウム関する知見
いいことづくめのCO2添加
CO2を添加する目的は、ほとんどの場合水草の成長促進だが、アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌も、植物と同様に、CO2から自分自身の体を合成している。CO2を添加すると、植物のみならず、これら無機栄養微生物の成長や増殖を活発化させる効果がある。
砂糖の添加は有効か
砂糖とイースト菌を水に投入したら、コケが減ったという報告がある。これは、水槽内のC/N比を高めることによる脱窒促進の結果と考えられる。
水槽では通常、炭素が欠乏し、窒素が余っている。砂糖は炭素、水素、酸素から構成され、窒素は含まないから、砂糖を加えることで、C/N比を上昇させることができる。
微生物が自分の細胞成分を合成するには、炭素のほか、窒素が必要とされる。C/Nが低い環境では、窒素は利用されないまま余ってしまうが、C/Nが高く、炭素が十分にあると、窒素を使い尽くすまで微生物が増殖し、脱窒が実現できる場合がある。砂糖を添加すると水槽の水が濁るのは、このようにして微生物が大増殖した結果と考えられる。
問題は、常にC/Nが高い条件を維持するため、砂糖を添加を続けなければならないことだ。砂糖の添加をやめてC/N比がさがると、微生物は余剰の窒素をアンモニウムとして放出してしまう。また、大量発生した微生物が死ねば、これもアンモニウム増大の原因となる。
底床で脱窒を機能させる方法
底床には有機物が豊富に蓄積される。そこで、底床内に嫌気域をつくると、比較的容易に脱窒が起こると考えられる。底床の中に嫌気域を作るには、底床内部にゆっくりと水が入るようにし、その途中で酸素が全て消費されてしまうような形にすればいい。
このようなシステムは、掃除を全くやらない手抜き水槽でしばしば実現されている。砂を全くいじらないと、砂の表面が有機物とバクテリアで覆われ、目詰まりした形になる。これが水の抵抗になり、ここを水が通過する際、好気性バクテリアによって酸素が消費され、内部が嫌気性になる。砂の粒径は細かいほど、このようなシステムが形成されやすく、水田や池の土壌が実際にそうなっている。
底床を脱窒槽として利用するのは、簡単に大きな容積が得られることからも、検討する価値がある。
洗車スポンジ濾材で脱窒を機能させる方法
アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌はCO2から炭素源を得ているので、濾過槽内部でも繁殖するが、脱窒菌は有機物から炭素源を得ているので、濾過槽内に嫌気域を作っても有機物がないと繁殖しない。一般に脱窒菌の立ち上がりに時間がかかると言われるのは、これが原因とみられる。これを改善するためには、次のような方法が考えられる。
(1)最初に十分バクテリアが繁殖した洗車スポンジ濾材をわざと酸欠状態にする。
(2)大半のバクテリアが死んだところで、通常通りの濾過を開始する。
わざわざバクテリアを殺すのは脱窒菌のエサとなる有機物を確保するためである。この場合、好気性バクテリアの死骸が、豊富な炭素源および水素供与体となる。好気性バクテリアが死ぬと言っても全滅するわけではないので、濾過を再開すれば、早い復活とが期待できる。
わざわざバクテリアを殺さなくても、長い時間がたてば濾過槽の中にはバクテリアの死骸が蓄積してきて、同じ状態が得られる。根気強く待つのも一案といえる。
発酵式CO2添加でコケが減るわけ
発酵式CO2添加は炭酸ガス添加にくらべコケの発生が少ないようだ。これは酵母が糖を分解する際に発生するアルコールが気化して、CO2とともに水槽内に溶け込み、これが脱窒菌を活性化しているためと推測される。このような効果は、底床内のみならず濾過槽の中など、水槽全体で機能する。
発酵式でない高圧ガスボンベからの供給ではこの現象は起こらない。
<参考購入先>
CO2添加装置 植物を成長させるだけでなく、バクテリアを活性化させる効果も期待できます
濾過装置 バクテリアの力を利用して水を浄化し、安定した環境を作るために必要不可欠なアイテムです
バクテリア商品
<参考文献>
1.「土壌微生物の基礎知識」西尾道徳,農文協,ISBN4-540-88126-4