断熱施工の落のとし穴~間違った断熱施工の例と対策

 世の中様々な断熱工法が提案されているが疑問に感じるものも多い。今回はそんな断熱工法をとりあげ、建てた後になって後悔しないための注意点をご紹介する。

 

 断熱工法は、「簡単」で「欠損がない」ことが重要で、その2つが達成できれば形はどうでも良く、一番安い方法を選べばよいと思っている。その方法の一つに、「吹付発泡ウレタン」がある。

 

理想的な断熱工法「吹付発泡ウレタン」

 

 下の模式図は実際に我が家で施工した断熱構造。建物は「木造軸組」で、外壁との間に「通気層」を設け、透湿防水シート(タイベックなど)を貼り、内側から透湿性のある発泡ウレタン(フォームライトSL[2]、アイシネン[3]など)を吹き付ける。

 

吹付発泡ウレタンを使った住宅屋根の断熱構造図 透湿シートと吹付発泡ウレタンで構成された断熱構造。欠損の少ない断熱を低コストで実現できる。

 ポイントは耐力壁のない「木造軸組」で構成され、通気層と透湿防水シートが隣接している点。

 湿気は直ちに外部に放出され、結露の可能性は低い。

 

 我が家ではフォームライトSLとアイシネンを検討して、フォームライトの方が安かったのでこちらを採用した。

 

吹付発泡ウレタンの特徴

 

欠損の少ない施工ができる

 吹付発泡ウレタンは複雑な空間や狭いところに入り込むため、欠損に関しては完璧に近い断熱施工ができる。

吹付発泡ウレタンの現場施工例 コンセントや換気ダクトの貫通部は断熱欠損しやすい部分。写真はコンセントボックス、ダクトパイプを最初からつけた状態で発泡ウレタンを吹き付けたところ。

 筋交いの隅々まで入り込んでいることがわかる。天井付近に部分吹きつけしてあるのは外から貫通してくる補強金物の部分。ここを見落とすと結露の原因になる。

 

 

結露に強い

 ウレタンが透湿層を介して外気に隣接しているため、たとえ断熱層に水蒸気が浸透しても放出されて結露がおこりにくい。透湿層の内側に耐力壁を配置した工法の場合、結露しすいことが実験で確認されている

※2×4ではこの問題を改善するため断熱材の表面にビニールを貼ることが多い(ベイパーバリア)。しかしコンセントや吸排気管の貫通部まで完全にシールすることは困難。

 

適度な通気性がある

 フォームライト、アイシネンはゆっくりした速度で空気や湿気が出入りする。これによって計画換気が行き届かない天井裏も湿気が溜まりにくい。

 

勾配天井が作りやすい

 最初の図には勾配天井が含まれている。タルキに透湿シートを貼ってウレタン施工するだけでよいため低コストで出来る。

 天井部分は輻射熱が問題になりやすいが、その対策に遮熱シートを貼ったり、遮熱効果のある透湿シート(タイベックシルバー)を使う必要はない

※夏場、野地板裏面が60℃のときの二次輻射は140W/m2程度(放射率×形態係数=0.82)。これが発泡ウレタン(80t,10W/m2K at 37℃)の表面で100%熱に変わったとしてもウレタンの断熱性によって室内側ではわずか0.5℃の上昇にしかならない。遮熱工法は屋根裏の断熱が弱い場合に有効な工法。

 

勾配天井に張られたタイベック シート 勾配天井を作るためタイベック シートを貼ったところ。この裏にタルキ間の隙間(通気層)がある。低コストで十分な断熱性能をもつ勾配天井が実現できる。

 

タイベックシートの内側に吹付発泡ウレタンを施工した様子 タイベックの上から吹付発泡ウレタン(フォームライト)を吹き付けしたところ。

 

 

吹付発泡ウレタンの疑問

 この工法を採用するとき、次のような疑問を持った。

 

燃えやすいのではないか

 「発泡ウレタン」というと火事に弱いとか、有毒ガスの発生を問題視する人がいる。建材として使用を認められているものであれば、当然世間の基準を満足していると考えるのが適当だ。

 とはいえ、実際やってみないと信じない私は、確認のためフォームライトの破片をライターであぶったことがある。一応燃えるが、プラスチックを燃やしたときのようないやな臭いはせず、自然消化した。

 

2×4で施工できるか

 耐力壁のある2×4では断熱材にグラスウール、アイシネン、フォームライトを使うと結露の可能性がある。これは、耐力壁が湿気の透過を妨げてしまうため。

 2×4ではクギをたくさん使うが、外から貫通してくるクギが露出している部分で結露する可能性が高い。耐力壁がある工法の断熱には、湿気を通さない「独立気泡」タイプの発泡ウレタンを使うのが正解だろう。

 

 


 

断熱の意味なし!間違った断熱施工の例

 

基礎パッキンを通じて外気スースー

 「浴室」「土間」で間違った断熱施工を見ることがある。良くあるのが、基礎パッキンからの外気流入。

システムバスが入るエリアの断熱施工の例 システムバスが入るエリアの断熱施工の例。壁を断熱していながら、基礎パッキンと点検口で外気と通じている。この状態で終わりにしているハウスメーカが多いのではないだろうか。

 

 この状態で3種換気をやると、外気が基礎パッキンから侵入し、ユニットバスとの隙間を通って天井裏に入り、照明器具やコンセントの隙間を介して室内に侵入する。

 土間についても同じで、基礎パッキンを通じて外気が室内に流入すると、壁に入れた断熱が無意味になる。

 

 これらの問題は、外気と通じる基礎パッキンを内側からスプレー缶式発泡ウレタンで埋めてしまうことで改善する。

 ユニットバスは、基礎パッキンを塞いでも十分ではない。ユニットバスは基礎の上に置いてあるだけなので、基礎から独立した空間にしないと同じ事になってしまう。

 

ユニットバスに繋がる基礎の入口を塞いで点検扉を付けた例 ユニットバスのエリアは屋内と同じと考える。基礎の入口を塞いで点検扉を付け、基礎の立ち上がりにも断熱材を施工。

 温度計は温度と湿度のモニター用。この施工で10年以上、問題ないことを確認済み(2019/1/21)。

 

 

参考:基礎断熱について

 基礎床面の断熱は必要ない。立ち上がり部分だけでよい(床面は地中温度に等しくなり一年中安定する)。

 基礎断熱に使う断熱材は、基礎との間に隙間ができるとそこが集中的に結露する可能性がある。断熱材を隙間無く密着させることが重要。ここは発泡ウレタンを接着剤代わりに使用するのがよい。これによって完全に隙間なく施工できる。

 玄関土間もユニットバス同様、基礎断熱が必要だが、構造的に施工困難。寒冷地にお住まいの方は、基礎全体の外断熱を検討して欲しい。

 

 

隙間だらけの床断熱

 下の図は床下断熱の標準的な施工。ポリスチレンフォームを落とし込んで、L字型の金物で支えているだけ。この施工では、断熱材の周囲に隙間ができる。これによって分厚い断熱材が意味ないことになっている。

 床板と断熱材との間にどのくらいの隙間があるか、それは床下にもぐって断熱材を押しあげてみればわかる。我が家の場合、5~6mmあった。写真右は下から押したときの様子。

床下断熱の標準的な施工図  

 この問題は、隙間を埋めるか、断熱材を床板と密着させることで改善する。

 

床下から断熱材の隙間をコーキングした例 床下から断熱材の隙間をコーキングした例。この問題は後から気づいたので自分で施工した。カートリッジが長いせいで床下での作業性が悪く苦労した。

 ポリスチレンフォームには溝を切ってバネ特性を持たせたものがある。材料費が高価だが、これを使えば隙間はできない。

 

床下の断熱材に開けられた給排水パイプ貫通部の穴 床下にもぐるといろいろ問題が見つかる。配管を通すために断熱材に穴をあけるが、大抵は開けっ放し。ここは吹付発泡ウレタンで塞ぐ必要がある。

 

 

送電線の引込部に開けられた穴 送電線の引込部。ここも穴をあけてそのまま。電線管から外気スースー。

 電線管を引き込む場合は外の入口を不乾性パテなどで塞ぐ必要がある[1]

 このように貫通部と隙間を丁寧に処理することで、本当の高気密、高断熱が実現できる。

 

 

 

断熱欠損を眼に見える形にする 2019/1/24追記

 冬にサーモカメラを使うと、確認が難しい断熱欠損や隙間を目に見える形にできる。カメラを向けるだけで点検が出来てたいへん便利。このようなカメラは以前は数十万円したが、今は数万円で手に入るようになった。

サーモカメラで玄関を撮影した例

出典:アマゾン FLIR ONE Pro 商品説明

 スマホと組み合わせて使える商品 FLIR ONE Pro で玄関を撮影した例。

 

 

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<参考文献>
2.フォームライトSL
3.アイシネン