アルミホイールの真実~軽量ホイールは乗り心地を悪くする

 ホイールを軽くすると、燃費が良くなる、加速が良くなる、ブレーキがよく効く、ハンドルの応答が良くなる、乗り心地が良くなる、などと言われている。しかし、どれも定性的で、いったいどの程度良くなるのか、数字で示された物は無い。そこで、これらの効果を計算で求め、定量的に検証してみた。

 

1.ホイールを軽くすると乗り心地はどうなるか

図1 自動車のタイヤ、ホイール、サスペンションのモデル

 ホイールの重さを検討するためには、地面とホイールの間にばね要素(タイヤ)を考慮する必要がある。その場合の車体の振動モデルは2質点モデルとなって図1のようになる。

 モデルの要素は、m1:ホイールの質量(実際にはばね下の総質量)、m2:車体の質量、k1:タイヤのばね定数、k2:サスのばね定数、c1:タイヤの減衰係数、c2:ダンパーの減衰係数、x0:路面の上下変位、x1:タイヤの上下変位、x2:車体の上下変位である。

 

 

 

 図1のモデルの運動方程式は、次のに表せる。

m1d2x1/dt2 + (c1 + c2)dx1/dt + (k1 + k2)x1 – c2dx2/dt – k2x2 = c1dx0/dt + k1x0  (1-1)
m2d2x2/dt+ c2dx2/dt + k2x2 – c2dx1/dt – k2x1 = 0 (1-2)

このモデルを使って振動伝達率を求めてみよう。

 

 これは一旦ラプラス変換して処理すると簡単だ。式(1-1),(1-2)のすべての初期値を0としてラプラス変換すると次式を得る。

X1(s)(m1s+ c1s + c2s + k1 + k2) - X2(s)(c2s + k2) = x0(s)(c1s + k1)     (1-3)
X2(s)(m2s+ c2s + k2) - X1(s)(c2s + k2) = 0     (1-4)

sはラプラス演算子だ。
(1-3),(1-4)の式から振動伝達関数 G01 ( = X1(s)/X0(s) )、G02 ( = X2(s)/X0(s) ) を求めると、それぞれ次のようになる。

G01 = (c1s + k1)/(α – γ2/β)     (1-5)
G02 = (c1s + k1)/(αβ/γ – γ)     (1-6)
α = m1s+ c1s + c2s + k1 + k2 、 β  = m2s+ c2s + k2 、 γ = c2s + k2

ここまでの解は、教科書によってはそのまま載っているものもあるだろう。

 

 次に周波数応答を求めてみよう。s=jωとおいて、減衰がないときの振幅比(振動伝達率)の周波数応答を求めた結果を次に示す。

τ01 = | k1/(α’ – k22/β’) |     (1-7)
τ02 = | k1/(α’β’/k2 – k2) |    (1-8)
α’ = k1 + k2 – m1ω、 β’ = k2 – m2ω2

τ02が地面から車体までの振動伝達率(変位)になる。車体に伝わる衝撃(力)の比率はτ02を使って次式で求められる。

a02 =  τ02 ・(2πf)2     (1-9)

m1=20kg、 m2=300kg、 k1=2×105N/m、 k2=2×104N/m を「標準」の計算条件とし、各パラメータを標準から1/2振ったときの a02 の計算結果を次に示す。x0=50mmとした。k1,k2は実測値を参考にしている。

2ndmodel2

図2 車体に伝わる衝撃力

 グラフには2つのピークの山が見える(上の方は表示上、カットされている)。これが共振点だ。この共振点の周波数(共振周波数)は、1.2Hzと、16Hzだ。

 防振効果は、共振周波数より高い周波数で得られる。共振周波数より下の周波数では、ばね上とばね下が一体となって動く。つまり、防振効果は得られない。

 

 上記の標準の計算条件から、1.2Hzは車体とスプリング、16Hzはタイヤとホイールで決まる共振である(2つのピークが離れているので、一自由度系で解いてもほぼ同じ結果を得る)。

 ところで、10Hz以下の低周波は車体の上下の揺れに関係し、10Hz以上の高周波は主に突き上げの強さに関係すると考えられる。このことから、車体とスプリングは車体上下の揺れタイヤ&ホイールは突き上げの防振を担っていることがわかる。

 

 以上の結果から、次の結論を得る。

  1. ホイールを軽くすると突き上げが増えて乗り心地が悪くなる。具体的には、ばね下質量を1/2にすると衝撃が約10dB(3倍に)増える。
  2. タイヤのばねを減らす(扁平率を下げる)と突き上げが改善する。
  3. 車体上下の揺れは、タイヤやホイールを変えても改善されない。
  4. 車体上下の揺れは、車体を重くするか、サスペンションのばねレートを下げる(ばねを柔らかくする)ことでしか改善できない。

 


 

2.ホイールを軽くするとバタバタする、跳ねやすくなるのはなぜか

 ホイールを軽量化した人が「足回りがバタバタする」「飛び跳ねやすくなった」といった症状を経験することがあるようだ。

 図1のモデルを見てわかるように、タイヤ&ホイールの部分は質量m1、ばね定数k1、減衰項c1、の3要素から成り、m1,k1,c1の3つのバランスから成っている。そこへ、ホイールm1だけ極端に軽くしてしまうと、c1,k1が相対的に高くなり、振動伝達率や減衰特性が悪化してバタバタしたり跳ねやすくなる。

 この弊害を避けるためには、ホイール軽量化と同じ比率でタイヤの減衰率とばね定数(扁平率)も下げなければならない※1。同じことがサスペンションについてもいえる。

 

 以上の結果から、ホイールの軽量化やローダウンでサスがバタバタする場合は、足回りの質量、減衰、ばねレートのバランスを崩した結果と考えられる。

※1:c=2ζsqrt(m・k)だから、mとkを同時に1/2にした場合、cはsqrt(0.5×0.5)=1/2にすれば元の特性を損うことがない。

 


 

 

3.インチアップorダウンで乗り心地を犠牲にしないためには、どうすべきか

 インチダウンによる乗り心地の改善を考えた場合、ホイールは軽量化or重量化、どちらが良いのだろう。グラフ1-1の標準から、インチダウンを仮定してタイヤのばね定数を1/2とし、同時にホイールの質量を2倍、1/2倍した場合の計算結果を次に示す。

2ndmodel3

図3 インチダウンした場合、ホイールの質量がどう影響するか調べたもの

 インチダウンしたとき軽いホイールを選ぶと効果が相殺して変わらないことがわかる。

 ばね下の質量はホイールだけで決まらないので注意が要る。例えば、軽自動車など、もともとばね下の機構が単純(ばね下が軽い)なケースではホイール質量が影響しやすいが、ばね下に複雑なリンクや大型ブレーキなどが付く(ばね下が重い)ケースでは、ばね下全体の質量に占めるホイールの比率が小さいため、ホイールを軽量化しても全体としてあまり変わらない。

 

 結局、インチダウンによって乗り心地を改善したい場合は、ホイールが軽くなり過ぎないよう注意を払い、

インチアップで少しでも乗り心地の悪化を押さえたい場合は、ホイールを現状より重くするのが正解

 「ドレスアップ」と称してローダウン&インチアップする人が多いが、このとき現状より重くなるのを嫌って軽量ホイールを選択するのは間違いだ。

 それと、ローダウンやインチアップの際、ホイールの質量やタイヤの扁平率(ばね定数)を極端に変えないよう注意したい。これらがノーマルから2倍以上変わると回転軸系の曲げ、ねじりの共振点が常用域に入り、特定の速度で振動が発生して改善できなくなる恐れがある。

参考:タイヤの扁平率とばね定数の関係(実測値)

 


 

4.軽量ホイールは加速や燃費にどの程度寄与するか

 ホイールを軽量化した場合、加速や燃費はどの程度良くなるのだろうか。下の表は、φ640のタイヤを履いて、0-100km/hを10秒で加速した場合の、ホイールの回転慣性による損失トルクを計算した結果だ。

表1 ホイールサイズと損失トルクの関係

ホイールサイズ
(インチ)
リム幅
(インチ)
リム平均肉厚
(mm)
リム質量
(kg)
慣性モーメント
I1(kgm^2)
損失トルク
T1(Nm)
17(軽量) 7.5 7 4.82 0.218 1.89
17 7.5 10 6.84 0.304 2.64
16 7.0 10 6.00 0.236 2.05
15 6.5 10 5.21 0.180 1.56
14 6.0 10 4.48 0.134 1.16

表の損失トルクT1(Nm)は次式で計算できる。

T1 = I1・dω/dt    (4-1)

I1:回転慣性モーメント(kgm2)、v:車速(m/s)、D:タイヤ径(m)、t:加速時間(s) 、dω/dt:ホイールの回転角加速度=2v/(D・t)(rad/s2)。この例では dω/dt=2×27.8/(0.64×10)=8.68rad/s2である。

 表の一番上は17インチのホイールで軽量化を図ったもの。2番目のノーマルと比較するとリム質量は2.0kg減(4本で8.1kg)、損失トルクの差分は0.75Nm減(4本で3.0Nm)となっている。

 この3.0Nmという値は、ギアの減速比を考慮すると1Nm以下。エンジントルク(2エンジンなら200Nmくらいある)と比較しても2桁以上小さい。従って、ホイールの回転慣性をいくら小さくしても、加速の違いを体感できる人は、まずいない。数字に表れるような燃費の向上も、全く期待出来ないと考えていい。

 

 今度は、ホイールの進行方向の慣性に注目してみよう。この場合、ホイールの全質量が影響し、ばね下、ばね上は関係しない。進行方向の慣性による損失トルクT2は、

T2 = m・a・D/2    (4-2)

である。aは車両加速度(m/s2)で、a=v/t=100km/h/10sec=2.8m/s2

ここで例えばホイール4本で20kg軽量化した場合、タイヤ径D=φ640とすると T2=20×2.8×0.64/2=17.8Nm を得る。つまり、ホイールの進行方向の慣性の影響は、回転慣性よりもひと桁大きいことがわかる。

 

 以上の結果から、加速性に関しては、リムの回転慣性はほとんど影響せず、ホイールを軽くした分が単純に車体全体の質量から減算される※3と考えて良い。その効果(%)は、100×軽量化した質量(kg)/車重(kg) だけの簡単な式で定量的に見積もることが可能だ。

 元々のホイールが16インチ以下の場合は、超軽量ホイールに変えてもトータルとして大幅な軽量化が出来ないため※4、高価な鍛造ホイールを使うメリットはほとんど無い。それでもなお加速感がアップしたと感じた場合は、他の変化要因(空気圧や、ころがり抵抗の変化)によるものだろう。

※3:100kgの重量増による0-100km/h 10sec加速の損失は、W=mv2/s=7.72kW=10.5馬力であるから、ほぼ車重10kgあたり1馬力損すると考えてよい。タイムに換算すると、1.4トンのクルマを100kg軽量化することで0.7秒の短縮になる。

※4:16インチのホイールは鋳造品でも9kg前後の物が多い。これをたとえ半分に軽量化できたとしても4本合わせて18kgの軽量化にしかならない。

 

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5.ホイールを軽くするとステアリングも軽くなるか

 回転しているホイールの切り角を変えると、その軸回りの回転慣性によるトルク反力T3(Nm)と、ジャイロモーメントJm(Nm)の2つがホイールに作用する。これらは、それぞれ次式で示される。

T3 = I2・dωs/dt     (5-1)
Jm = I1・ωn・ωs    (5-2)
I2:ホイール切り角に関する回転慣性(Kgm2):dωs/dt :ホイール切り角の角加速度(rad/s2)、I1:ホイール回転慣性モーメント(Kgm2)、ωn:ホイールの回転速度(rad/s)、ωs :ホイール切り角の角速度(rad/s)

 

 表4-1の17インチホイールを軽量化した例で考えると、I2は、前輪2本で0.10Kgm2 の低減※5。回転慣性I1は2本で0.17Kgm2 の低減になる。

 ※5: 17インチホイールのl2 = 0.17Kgm2、17インチ軽量のl2 = 0.12Kgm2 (ホイール1本あたり)

 ステアリングの切り角は、比較的クイックな蛇行運転の操作を想定して1秒間に±10度(±0.17rad)とすると、角速度ωs =2π0.17f=1.10rad/s、角加速度dωs/dt=2π1.10f=6.89rad/s2である。
 走行速度を時速100km/h、タイヤ径0.64m とすると ωn=86.81rad/s である。

以上の数値を使ってT3とJmを計算すると次の結果を得る。

 切り角によるトルク反力 T3 = 0.10×6.89 = 0.69Nm
 ジャイロモーメント Jm = 0.17×86.81×1.10 = 16.2Nm

 

 これだけクイックなステアリング操作を仮定しても、切り角によるトルク反力は無視できるほど小さいことがわかる。Jmはそこそこあるが、パワーステアリングのアシストに埋もれて体感できるか疑問だ。

 従って、ホイールの軽量化でステアリングの重さの変化を感じることは、まずないだろう。低速域でステアリングの重さが大きく変化した場合は、空気圧や、タイヤ幅の変動(接地面積の変化)の影響だろう。

 


 

6.「ばね下重量の軽減は、ばね上の約10倍の重量軽減に匹敵する」とはどういうことか

 販売元、製造元の記事によっては4倍、14倍と記載されているものもあるが、根拠が見あたらない。このような情報によって、

「ばね下を1kg減らしたのだから、車体を10kg以上軽量化したことになる」

と勘違いしてしまう人が多い。シャーシやサスペンションにかかる負荷荷重はばね下の質量に比例するから、軽量化は構造の簡素化やコストダウンの為には効果的である。しかしこの理屈からは10倍という数字は出てこない。

 

 10倍という数字はやはり回転慣性に関係した物だろう。そこで、ホイールの回転慣性を、ばね上の質量に換算してみよう。(4-1)式を(4-2)式に代入し、mについて整理すると、

m = 4・ΔI/D2    (6-1)

を得る。これが、回転慣性モーメントの軽量化分ΔIをばね上質量mに変換する式だ。

 表4-1で示した17インチホイールの例を使うと、回転慣性モーメントは、0.0860kgm2 減(4本で0.344kgm2 減)となるから、ΔI=0.344kgm2。タイヤ径D=640mm(乗用車相当)として計算すると、

  m = 4×0.344/0.64= 3.36kg

 というように、m (kg)が ΔI (kgm2) に対しほぼ10倍になる。

 つまり、慣性モーメントΔIの単位kgm2からm2を省略して読んでしまえば「ばね上は約10倍の重量軽減に匹敵する」という謎の説明が作れる。

 ところで、この倍率を m/ΔI と置くと式(6-1)は次のように簡単になる。

 倍率 = 4/D2     (6-2)

 問題の倍率がタイヤ径Dだけで決まる式だ。ここでたとえば、タイヤ径D = 530mm(軽自動車を仮定)とすると約14倍、D = 1m(トラックやバスを仮定)にすると4倍という風に、世間で噂されている様々な係数が求まる。ちなみに、進行方向の慣性は、ばね下を1kg軽量化したら、ばね上でもやはり1kgである。

 同じ1キロでも、質量と慣性モーメントは別物。質量を1キロ減らすのはたやすいが、もともと0.2~0.3キロしかない慣性モーメントを1キロ減らすのは不可能だ。これも結局、商売に都合がよいように、巧妙に作られたセールストークだろう。

 


 

7.路面追従性を良くすると乗り心地は良くなるか

 軽量ホイールの能書きに次の文言をみかける。

 

「ばね下が重いとサスペンションの動きが鈍くなるので乗り心地が悪くなるのです」   (a)
「ばね下が軽くなれば、サスペンションの動きが良くなり、乗り心地や居住性が改善されます」  (b)

 

 これらは一見正しそうに見えるが間違っている。まず、スプリングやばねレートが相対的に上昇することを考慮していない。さらに、路面追従性を良くすると乗り心地は悪い方向に行く。

 ホイールが軽くなると路面追従性が良くなるという話は正しい。路面追従性が良くなるということは、ホイールが激しく上下することを意味するし、サスペンションから見れば、路面のおうとつが増えたのと同じこと※5

※5:グラフ1-1には、タイヤとホイールで決まる16Hzの「共振点」がある。この周波数から下が、ホイールと路面が一体で動く、「つまり100%路面追従する」帯域。

 共振点から上は、路面が変動してもホイールが追従して動かない、「路面追従が悪い」帯域である。100%路面追従する帯域では、路面の振動が直接サスペンションのバネに伝わるので、乗り心地が悪くなるのは自明だ。

 

 そもそも「防振」とは路面の上下に追従しないことで発揮される効果。ホイールを軽くするとこの共振周波数が上昇して100%路面追従する条件が拡大する。つまり、ホイールを軽くすればするほど、車体に伝わる振動が増える結果になる。

 タイヤが激しく上下動しているのに車体がフラットを保っている図を連想する人もいるだろう。これは、サスペンションのばね定数k2を低くした場合の話であって、ばね下を軽くしてもこの状態を作ることはできない。

 従い、(b)は、次のように言い換えると正しくなる。

 

「サスペンションのばねを弱くすれば、サスペンションの動きが良くなり、乗り心地や居住性が改善されます」   (b’)

 

「サスペンションの動きが良くなると乗り心地が改善される」のは、摩擦のためにダンパーの動きが悪くなっている不具合を指しているのかもしれない。

 


 

8.結論~軽量ホイールのメリットはあるか

 ホイールを軽量化して、慣性を小さくした効果は「加速」に表れるが、上記で仮定したような0-100km/h 10秒の世界では、軽量ホイールのメリットは無いに等しい。

 但し、激しい加減速を繰り返す用途、例えばレースの世界では、大きなメリットになる。

 もしあなたが軽量ホイールに履き替え、これまでと違う何かを体感できたら、それは軽量化した結果ではなく、空気圧など別の要因によるもの、と考えるのが正しいかもしれない。

 

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<改訂履歴>
2015/5/7 グラフの縦軸を振動伝達率から車体に伝わる衝撃に変更。ばね上換算倍率の計算を追補。