水替えで魚が死ぬのはなぜか~実は不完全だったハイポのカルキ(塩素)抜き

水道水には塩素が含まれている。中和にハイポがよく使われるが、十分無毒化できないようだ。この問題は水質に敏感なシュリンプ等の栽培で問題になる。今回はこれについて詳しく調べてみた。

 

塩素の中身

 水道水に含まれる塩素には2種類ある。

A:遊離残留塩素
B:結合残留塩素(モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン)[1]

Aは一般に「カルキ」と呼ばれているもの。Bは、Aがアンモニアなどと結合してできたクロラミン類。Aほど殺菌効果は強くないが、魚にとって有毒なことに変わりない。

 

残留塩素を調べる方法

 試薬などを使って色で残留塩素を調べる方法が知られている。これをDPD法(ジエチルパラフェニレンジアミン法)という[Wiki]

 市販の試薬のほとんどは遊離残留塩素を調べるもの。私たちが知りたいのは、結合残留塩素を含んだ全残留塩素。これを調べる便利な試薬に、笠原のDPD-TL-1がある[2]

 結合残留塩素は通常、遊離残留塩素を調べた後でヨウ化カリウムを加えて測る。この商品は最初からそのヨウ化カリウムが混ざった試薬とみられる。 写真は笠原のDPD-TL-1。1回(10ml)分ずつ小さな袋に小分けされている。

笠原DPD試薬

 

 笠原には比色板とセットになった商品(DP-1Z)がある。目指すのは有害成分の完全除去。塩素の絶対量を数字で知る必要はないから、試薬だけあれば十分である。

 ちなみに笠原の比色板DPD(A)の最小値は0.05mg/L(=0.05ppm)、水道水の残留塩素(1mg/L)の5%に相当する。DPD-TL-1で色がまったく付かなければ、遊離成分も結合成分も、ほぼゼロになったと考えられる。

 ちなみにホームセンターで見るクリタック ウォーターチェッカーの比色限界は0.05ppm なので、測れる限界は同じ。

ウォーターチェッカーの比色表

ウォーターチェッカーの比色表

 

 

カルキぬきの実験

 時期は水道の塩素が増える夏場(7月)。試薬は笠原のDPD-TL-1を使用。10mlの検体に1袋入れて、2分後に色を観察する。

 塩素中和剤は以前の自家製コントラの記事[3]で紹介した標準のレシピを使用。希釈倍率2000倍(100ccあたり1滴=0.05ml)で使える実験水溶液を作り、塩素ゼロを保証するため雨水で作った。これを以降、「ハイポ」と称する。

※:希釈倍率2000倍のハイポ実験水溶液は、500ccの水に1.19gのハイポを溶かすことでできる。

 

 実験した水は以下の通り。

・水道水
・水道水の活性炭処理(1L/80g、20時間)
・水道水の汲置(午前中から直射日光にあてそのまま1晩静置)
・水道水の煮沸(レンジで一瞬沸騰)
・雨水

これに、ハイポの有り無しを組み合わせる。

 水道水ではトリハロメタンが問題視されている。除去には長時間の煮沸が必要とされるが、飲むわけではないので煮沸は一瞬とした。

写真は汲置の様子

日光下で汲み置きしている様子

活性炭浸漬は写真参照。活性炭はニッソーの商品を使用。1袋約80g。7時間以上浸漬することで塩素が検出されなくなった。

活性炭で水処理している様子

雨水。日よけシートの下に設置。大雨の時期に集めておく。

雨水を貯めている様子

 

 以下はその結果(2020/7/23)。

 

表1.塩素中和の結果(DPD-TL-1による 2020/7/24)

  ハイポなし ハイポ標準
水道水 着色あり 無色

+汲置き
 (直射日光1日)

無色 無色
+煮沸 無色 無色

+活性炭処理
 (1L/80g,20hr)

かすかに色づく かすかに色づく
雨水 かすかに色づく

 

DPD試薬を使った水質検査の様子

 写真は上段左から 雨水、活性炭処理、水道水
 下段は、上段をハイポで標準処理したもの。一番左下は何も入ってない。

 「かすかに色づく」は、DPD試薬は塩素以外のものと反応して色づくことがあるので、これが原因と考えられる。また、ハイポはごくわずかな量で効果があること、今まで検査から抜け落ちていた「結合残留塩素」は問題なさそうなことを確認できた。

 従来の検証は「試薬で色が検出されなかったから安全」で終わってるものがほとんど。毒性検査までやっみないと本当に安全かどうかわからない。そこで、これをやってみた。

 


 

ミジンコを使った毒性検査

 試薬で色が検出されなかったので、ミジンコ(タマミジンコ)で毒性検査してみる。魚やシュリンプなどよりデリケートなミジンコで問題なければ、まず大丈夫と考えられる。

 水道水のカルキ抜きは標準レシピと、10倍濃度のレシピを準備。比較のためテトラ社の「コントラコロライン」を用意した。

ミジンコを使った毒性検査の様子

 色付かなかった水を使ってミジンコを培養。飢死にしないようエサとしてクロレラを与える。順調だと、緑の溶液が茶色くなるのでわかりやすい。

 

結果は次の通り。

表2.水処理の方法とミジンコの生存性(2020/7/24)

  ハイポなし ハイポ標準 ハイポ10~100倍 コントラ標準
水道水 × ×
(あまり増えない)

+汲置き
 (直射日光1日)

× ×
+煮沸

+活性炭処理
 (1L/80g,20hr)

雨水

 

 なんと、これまで良しとされてきたレシピがダメなことが判明。

 すぐに全滅する場合と、少数生き残るが増えていかない(子供が生まれても生きられない)場合がある。水道水と汲み置きは一昼夜でほぼ全滅。ハイポの濃度を10倍に増やすとすぐには死なないが、あまり増えない結果だった。

 ハイポをさらに1桁増やしても状況は変わらないので、ハイポでは中和できない何らかの毒物が残っている模様。

 汲み置きは効果なし。塩素に紫外線を当てると分解するが、十分毒性がなくなるまでもっと時間が必要なのかもしれない。

 成分がハイポと同じはずのコントラでは問題なかった。コントラの成分はハイポ+色素と考えられるが、何か別のものが中和に寄与しているようだ。

 

ハイポ以外の中和成分は何か

 これまでコントラはハイポで代替できると考えてきたが、ハイポだけでは不十分なことがわかってきた。試しにコントラ原液のpHを測ってみると8.9(アルカリ)。ハイポ水溶液pHは中性付近だから、コントラは単なるハイポ水溶液ではないことがわかる。

 「水道水+ハイポ」がダメで、「水道水+コントラ」で問題ないのはなぜか。これには、以前から言われてるものがある。ハイポで塩素を中和すると、次のものができる。

Na2S2O3・5H2O(五水和物)+4HClO → 2NaCl+2H2SO4+2HCl+4H2O

 問題になりそうなのがH2SO4(硫酸)とHCl(塩酸)。微量だから問題ないとされてきた。実際、中和前後でpHは0.01も変わらない。

 これらは炭酸ナトリウムNa2CO3の追加で最終的に無害な物質に中和できる。反応は次。

Na2CO3+H2SO4→Na2SO4+H2O+CO2

Na2SO4というのは硫酸ナトリウムという無害な物質。漢方薬に使われていたり温泉に入っているらしい[Wiki]

塩酸との反応は次の2段階。

Na2CO3+HCl→NaCl+NaHCO3
NaHCO3+HCl→NaCl+H2+CO2

中和反応が複雑なのでしっかり攪拌反応させることが重要である。

硫酸と塩酸の中和に必要な炭酸ナトリウムの質量は、分子量から計算するとハイポの1.7倍。これは塩素が全部反応した場合の話なので、実際は余ることが多いだろうし、入れすぎの弊害が心配。

 自家製コントラは、ハイポと同じ量の炭酸ナトリウムを入れるとちょうどいいだろう。公式レシピを関連記事3にまとめた。

 

トリハロメタンを中和する

 煮沸すれば良かった実験結果(表2)から、カルキ以外の有毒物質に揮発成分が考えられる。

 水道水に含まれる揮発性の有害物質にトリハロメタンがある。これは総称で、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムが該当する[5]。沸点は次の通り。

クロロホルム61.2℃
ブロモジクロロメタン90℃
ジブロモクロロメタン120℃
ブロモホルム149.1℃

 トリハロメタン中の6~9割がクロロホルムらしい。これを沸騰以外で無害化する方法を調べた。文献7によると苛性カリもしくは苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などのアルカリで分解できるという。ただコントラのpHからすると、このような強アルカリは入ってない。

 沸騰は長時間やらないとトリハロメタンが逆に増える[6]。飲むわけではないし、一瞬沸騰させればOKだった結果からすると、トリハロメタンは魚に関係なさそうだ。

 どっちにしても沸騰水を使うのは実用的でないので、今回はこれについて追及しない。

 

ハイポを入れすぎると害になる?

 ハイポやコントラに関して、入れすぎの弊害を気にする方が多い。当方の実験では既定の3桁(1000倍)濃くしてもミジンコの増え方に変化なかった。残留分については、あまり気にする必要はなさそうである。

 

結論(2020/10/17)

 塩素中和剤と称する商品はコントラのほかにいろいろある。試しにGEXコロラインオフクリアをテストしたところ、結果はハイポ単体と大差ない、つまりコントラに劣る結果だった。どうやら、中和剤によって無毒化の能力に違いがあるようだ。

 市販品では、コントラコロラインを使うのが最も無難。自家製コントラは、ハイポと同じ量の炭酸ナトリウムを入れたものでOK。ミジンコを使った長期検証で、コントラコロラインと変わらないことを確認している。詳しい作り方を関連記事3にまとめた。

 

<参考購入先>
コントラコロライン 結局これがベストということか・・
DPD試薬DPD-TL-1 全残留塩素(遊離+結合)を測れる試薬です
ニッソーの活性炭 有効だが、長時間の浸漬が必要なので面倒

<関連記事>
3.ハイポ中和は不完全だった!~自家製コントラコロラインの作り方
タマミジンコの増やし方~自宅でできる連続培養法

<参考文献>
1.遊離残留塩素と結合残留塩素 イワキ
4.SIBATA DPD法FAQ
5.水道水の有害物質と水質基準
残留塩素測定試薬 DPD試薬 | 笠原理化工業株式会
クリタック㈱ ウォーターチェッカー
6.種々の加熱条件下にお ける水道水中の残留塩素,トリハロメタン,2-メ チルイソボルネオールの濃度変化
7.クロロホルムの分解機作 田部浩三
8.ハイターの塩素濃度 花王
9.処理対象物1(kg)に対するチオ硫酸ソーダの必要理論量(kg)大東化学株式会社