知らないうちにスピーカターミナルのナットが緩んでしまうのはなぜか

 締めたはずのスピーカーターミナルのナットが緩んでいることがある。緩まないようにと思って、しっかり締めても改善しない。締めれば締めるほど良く緩むようだ。これはいったいなぜだろう。

 

 

 銅やアルミなど非鉄金属は、潰したり曲げたあとで力を開放しても完全に元に戻らない。締めれば締めるほど潰れていく、粘土のような材料だ。温度変化で緩むこともある。熱膨張で潰れ、冷えると隙間になる為[1]

 そんな非鉄金属も多少弾性があるので、適正な締付トルクで締めれば緩みにくくなる。次の表はその目安。

表1.端子の適正締付トルクの目安

ねじのサイズ 端子付(Nm) 裸電線(Nm)
M3 0.5
M4 1.4 1.1
M5 2.4 1.7
M6 3.0 2.0
M8 6.0

 

 この表は数社の端子台の締付トルクを参考に作ったもの。値はメーカーによって異なり、前後1.3倍程度の幅がある。表の値を大きく超えて締めると、緩む可能性が高くなる。

 

「手締め」でまともな接続は期待できない

 裸電線の2.0Nm(M6)という値が想像つくだろうか。指の感覚(回転半径50mm)だと4キロ程度の力になる。これは普通ボルトの適正締付トルクに比べると1/3以下の値。緩むからと言って、ギュウギュウ締めてはダメなことがわかる。より強い締め付けをしたければ、裸電線はやめて端子を付ける必要がある[1]

 締付トルクの管理は接触抵抗を安定させる(音質を安定させる)ために重要なはず、アンプやスピーカのカタログに奨励締付トルクが記載されていれば参考になるが、そういうものが見当たらない。管理できない「手の力」で手締めするものになっている。

 締付トルクを正確に管理するためには、小さなトルクから測れるトルクレンチが必須。ところが、ターミナルは工具の利用を想定していない作りがほとんど。

 

トルクレンチで締めれば万全か

 アンプやスピーカのターミナルは粗悪なものが多い。作りがお粗末なものは、上記のトルクをかけると破損する恐れがある。

 高級機では、クルマの給油口にあるようなラチェット式のトルクリミッタを装備するのが望ましい。

 

定期的な「増し締め」が必要

 裸電線は振動や温度の上下で緩みやすいので、「定期的な増し締め」が欠かせない。

 増し締めとは、より強く締めるのではなく、表1のトルクを再度かけることを意味する。これをやらない場合、接触の信頼性はさらに落ちる。

 

端末処理が必要

 上記の問題はすべて、裸電線を直接ターミナルに取り付けることで起こっている。何かと問題の多い裸電線の固定をやめ、圧着端子で端末処理する。これが接触抵抗を安定にできる一つの答えだ[2]

スピコンをスピーカーに接続している様子

 プロ機器ではスピコンが標準。確実な接触が得られ、緩むこともない。最も信頼性の高い接続方法の一つだ。

 

ワッシャ、電線の固定が必要

 圧着端子を使って端末処理しても緩むことがある。ケーブルが反時計回りに動くとナットに緩む方向の力が働くためだ。これを防止するには、ケーブルが動いたとき端子に力が及ばないよう、ケーブルをターミナルの手前で「固定」しなければならない。

 また、ナットと端子の間に、「ワッシャ」などの板材が必要だ。これ無しで裸電線を締めると、ナットの回転力が電線に加わり細い素線がヨレヨレになる。板材を介して締めれば電線に圧縮方向の力しかかからない。他に逃げ場のない形で構成すれば、裸電線で圧着端子に近い固定が可能だ。

 上記のスピコンは、「ワッシャ」と「固定」の2つの要素があるので、裸電線を使っても信頼性の高い接続ができる。

 

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