サバは安くて栄養豊富。素晴らしい食材だが、積極的に食べる気になれない。その原因に鯖固有の「臭み」がある。臭みは鮮度の低下(腐敗)によって生じるという。今回はこの改善にトライして完全に除去する方法を見つけたのでご紹介する。
世間の臭みを取る方法
ネットを検索すると色々出てくる。だいたい次のものが多い。
・霜降り(お湯をかけ流す)
・塩を振ってしばらく置く
・酒に漬ける
・ショウガ、ネギと一緒に煮る
・皮を取ってから調理する
実際やってみると、どれも効果は今一つ。当館では以前より酸による消臭効果を確認してきた[1]。魚の匂いにも有効ではないか?そこで酸を使った方法を試してみた。
実験と結果
1.繰り返し煮こぼす
霜降りの徹底版。水からサバを入れて加熱し、沸騰直前に取り出す。お湯を新しくしてこれを繰り返す。
結果、2回目まで出汁が白く濁って臭い。3回目から透明になるが臭みは残る。4回やっても同じ。結局この方法は効果が少ないことが判明した。新鮮な鯖ならこれでいいかもしれないが、スーパーの鯖に対しては不十分である。
2.1%酢水で煮こぼす
酸に「酢」を使う。これはしめ鯖に使われているようにサバと相性が良い。
水に対し酢を入れて酢水を作る。これに鯖を入れて一緒に加熱し、沸騰直前で取り出す。新しい酢水を用意してこれを繰り返す。酢の濃度は味への影響を考慮して1%とし、沸騰までの加熱時間を2分とした。
結果良好。1回目に泡のようなものが出るが、実験1と違って出汁が濁らない。出汁の匂いを嗅ぐと多少臭みが残っている。2回目の出汁は透明で、臭みがほとんどない結果だった。
1%酢水を使った沸騰1回目の様子。水だけで沸騰させる場合と違って白濁りしない。
1%酢水を使った沸騰2回目の様子。出汁が透明で臭みが消えている。
煮物では1回酢で処理したのち、お湯を捨てて2回目に酢を1%入れ、そのまま調理すれば同じ結果になる。
3.1%酢水に浸漬する
1%の酢水(15℃)に浸漬する。浸漬時間を15分、20分とやってみた。15分でわずかに臭みが残るが、20分でしめ鯖のような匂いになった。この方法は鯖を焼く場合の下処理に有効。
1%酢水に浸漬している様子。ここで砂糖や塩を加えると溶液が内部に浸透拡散しやすくなって、より効果のある処理ができると考えられる。
軽く塩を振って焼いてみたところ。皮がパリパリで肉がホクホク。素晴らしい味。スーパーの鯖とは思えない。
匂いの成分は焼くことで弱まるので、浸漬は15分で十分だった。
4.酢水で霜降りする
90℃1%の酢水を作ってそこにくぐらす。
結果、あまり効果がない。匂いの成分は表面的なものとは限らないので、表面の一過性処理では効果がないとみられる。
結論
次のようにすれば鯖の臭みを完全に取れる。
1%酢水に浸漬するか、煮こぼす
浸漬時間は切り身の厚みや塩分の濃度によるが、20分以上を目安としたい。長時間放っておきたい場合は、雑菌の繁殖を防ぐため料理酒(アルコール)を1割程度混ぜるとよい。
この方法は鯖に限らず魚全般の臭み消しに有効と見られる。酢の濃度を1%とすることで、仕上がりが酢臭くならない。むしろ、ほのかな酢の香りが食材の味を引き立てているように感じる。
砂糖や塩を併用することで酢を内部に浸透させ、完全な臭み抜きができる可能性がある。今後検証していく。
完全に臭み抜きされた鯖の味噌煮。臭み抜きのノウハウを手に入れたことで、スーパーの鯖料理を積極的に展開できるようになった。
写真の皿は半月皿。魚の煮物、焼き物を美味しそうに見せる。
ぶり大根。最初に1%酢水でぶりのあらを煮こぼすだけで、臭みもアクもかなり少なくできる。この方法はすべての魚料理に有効だ。
臭み抜きの限界
上記のやり方でも臭みが十分抜けない場合がある。それは鯖そのものの鮮度が落ち過ぎた為。こればっかりは、どうしようもない。できるだけ鮮度の高い鯖を入手することが大事だ。
考察~なぜ酢が有効なのか
匂いの元はトリメチルアミン(TMA)。腐敗するとこれが分解してメチルアミンとなり、これが匂いの元[3]。これに酢などの「酢酸」が加わると、
トリメチルアミン+酢酸 ⇒ 酢酸トリメチルアンモニウム
という風に中和反応して匂わない成分になるという[2]。これは化学反応なので温度が重要になる。化学反応なら匂いを消すのにたくさん要らない。1%で十分だったというわけである。
従来使われてきた酒やショウガは、匂いを抑制またはマスキングするだけらしい[3]。
ネット上の情報について
酸(酢)が有効な手段なことがわかってから、これをKWにネットを検索すると結構ヒットする。「酢洗い」として以前から知られていた方法だった。
しかし「鯖の臭み抜き」で検索すると、酢が出てこない。あっても沢山ある一つの方法の一つとして、最後の方に紹介してあるだけ。
一番効果のある方法が検索上位になかったり、あっても後ろなのは何故か。それはおそらく、自分で実際に試したものではなく、他人の記事をコピーしたのだろう[4]。
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<参考文献>
調理温度が調味料浸透速度に与える影響
2.食のサイエンス 魚の臭みは酢が消してくれる(リンク切れ)
3.宝酒造 においに関する基礎知識
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