「木は、鉄よりも強いんですよ」これは木造を扱うメーカでよく聞かれるセールストークだが、実際はどうなのか。
通常、曲げ強度は材料のヤング率Eに断面二次モーメントIを掛けたもの(EI)で評価する。「木は、鉄よりも強いんですよ」というのは、これをさらに密度で割った「比強度」で比較しているところにカラクリがある。比強度ではなくEIで比較するのが本当だ。
ヤング率の比較で言えば、鉄は木の約20倍強い。しかし、中実の鉄材は重すぎるから、通常はH形やC形にしたものが使われる。当然、肉を抜いた分だけ強度が落ちる。それでも鉄が強いといえるのだろうか。
これについて、計算したグラフを左に示す。このグラフは同じ外寸同士の木材とI形鋼の強度比を示したもの。
外寸が同じ場合、無垢の木材は、わずか0.7tのペラペラの鉄板を使った鉄骨に等しい。軽量鉄骨では3.2tが普通なので、デフォルトで木の4倍以上の強度がある。重量鉄骨に至っては、木など比較にならない強さだ。
「同じ強度」という条件でみると、軽量鉄骨を使うことで木より柱の太さを40%細くできる。軽量鉄骨の骨組みが細く見えるが、それで十分なのだ。
重量鉄骨は3階建ての建築に使う材料。2階建てでは明らかに過剰スペックになる。
木材の懸念すべき問題に「クリープ」がある[1]。これは家具などの重量物を木の上に載せておくと、少しずつたわんでしまい、荷重を取り除いても元に戻らない性質のこと。
昔、木製のパソコンデスクにプリンタやブラウン管ディスプレイを載せたら、たわんでしまった、という経験をした人がいると思う※。鉄の場合、このような問題とは無縁である。
※:パソコンデスクは、ディスプレイを乗せる部分が金属製のものを選ぶべきである。
最近ではエンジニアリングウッド(EW)と称する木材があり、狂いが少ないが、使っている「接着剤」が有機材料であるため、これによって材料の信頼性や寿命が決まる。
見た目が黒い接着材(レゾルシノ-ル)を使ったEWの耐久性はきわめて高いが、わずかにホルムアルデヒドを発する欠点があ。これは換気システムと併用すれば問題ないという。ホルムアルデヒドを発しない接着剤を使ったEWは耐久性に乏しく、材料の信頼性や寿命が無垢材に劣るようだ。
鉄やコンクリートは錆や風化によって劣化が進む。SUS(ステンレス)の鉄骨を使えばそういう問題はないのだが、住宅には高すぎるのか、使われている事例はみられない。
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