RCは外断熱が正解だという意見がある。確かにこの工法にはメリットがある[1]。しかし鉄骨、木造でも外断熱で提案してくるハウスメーカーがある。RC以外の建物を外断熱にするのは正しいのだろうか。各ハウスメーカーの壁の構造をもとにこれを検証する。
結露さえ回避できれば住宅は長持ちする
構造体をダメにする最大の要因は「結露」。特に断熱材や躯体内部で起こる結露が問題という。逆の見方をすれば、ここが結露しなければ木造とか鉄骨とか関係なく、長持ちすると考えられる。
結露のリスクを計算で調べる
では、どのような構造なら結露しにくいのだろうか。これに関しては、住宅のカタログやメーカーの能書きをいくら眺めてもわからない。そこで、環境条件を想定して結露するか否かを計算で出してみる。
環境条件は次の通り。
表1 環境条件
季節 | 場所 | 外気温(℃) | 相対湿度(%) |
夏場 | 屋外 | 28 | 80 |
屋内 | 25 | 70 | |
冬場 | 屋外 | 0 | 80 |
屋内 | 22 | 60 |
相対湿度は、夏場はエアコンによる冷房、冬場は石油暖房の使用を想定して決めた。外壁表面の熱伝達率は微風を想定して23W/m2℃、内壁表面は9W/m2℃とした。
壁面温度は次式から求められる。
T1 = R・Q+T0、Q = (T1ーT0)/R
Q:単位時間の熱量 (W/m2)、R:熱抵抗(K/W)、T1,T0:温度(℃)、λ:熱伝導率(W/m・℃)、h:熱伝達率(W/m2・℃)、A:通過面積(m2)、熱抵抗 R は、壁面の場合 R=1/(h・A)、物体の場合 R = L/(λ・A)。
最初にQ値を室内外の環境温度が上記の想定条件と一致するよう調整する。このQ値は、壁を通過する熱損失そのもの。つまり、Q値が小さいほど断熱に優れる。
結露するか否かを判定するため、SON-NTAGの式から飽和水蒸気圧を計算し露点温度を求めた。
計算の中身や熱伝導率などのデータは末尾の計算ワークシートを参照して欲しい。なお換気されない閉じた空気層は空気だけの熱伝導率を適用し熱伝達率は考慮していない。
計算結果
以下は、住宅メーカーが示す壁の構造と、その断面各層の温度・露点温度の計算結果。壁の構造は展示場や施工現場の実測値を元にしている。青の線が赤の線を上に貫くとそこで結露が起こる。
1.RC内断熱
史上最大のミステークと叫ばれるRC内断熱。
グラスウールは100mm入れてあるが、防湿層はない。冬場では、グラスウールの内側(4,5,6のポイント)で温度と露点温度が逆転し結露すると予想される。
マンションでこのような施工がされていると非常にまずい。グラスウールが防水されていたり、ポリスチレンが使われていても安心できない。
コンクリートには調湿作用がほとんどないため、断熱材に少しでも隙間があれば、コンクリートに触れたところで水が出てしまう。
2.I-DEAS工法
一条工務店のI-DEAS工法と呼ばれる木造内断熱外壁構造。
断熱材に90mmのポリスチレンを使っており、夏季、冬季ともに露点温度と各部温度がほぼ平行になっている。
結露するポイントはないが、心配なのは冬季に7-8(空気層 約20mm)で露点温度が接近する点。この空気層は電線を通すために必要なものだが、こういう換気されない空気層は結露の原因になりやすい。
3.外断熱二重通気
木造外断熱(外貼り断熱)二重通気工法と呼ばれる凝った工法。
断熱材に40mmのポリスチレンを使っており、インナーサーキット(6-8)の温度は、夏場で外気-1℃、冬季で外気+4℃に設定した。この工法では夏季、冬季で基礎換気口の開閉が条件としてあるため、上のグラフもこの条件で計算している。
夏季は換気口をあけてインナーサーキットに外気を通す。すると断熱材は関係無くなってしまい、8-9の石膏ボードだけの断熱となる。これは冷房の点で不利。換気口は閉じたほうが冷房がよく効く。
冬季は換気口を閉じる。この場合、断熱材の表面(ポイント6)で結露が起こる可能性がある。また、断熱材が薄いため熱損失が多い。二重通気でない外断熱工法にも同じことが言える。
結局この工法のメリットは、夏季に冷房しないなら、換気口を開けることによって他の工法より涼しい(かもしれない)ということだけ。
この工法に本当にメリットがあるのか、結露しないのか、現物で検証する必要がある。この工法で家を建てると、毎年季節の変わり目に換気口の開閉作業が必要になる点も注意したい。
断熱性能と結露余裕のメーカー比較
下のグラフは、上記環境条件における壁の通過熱量(断熱性能を表す)と、各部温度と露点温度との差の最小値(結露余裕温度)をメーカ別に比較したもの。
RCと外断二重通気を除けば各社大きな差はない。結露に関しては、防湿層がどれだけきちんと施工されるかで決まるようだ。
断熱性能は断熱材の厚みで決まると考えていい。冬季にミサワの損失が最も多いのはグラスウールが80mmと薄い為。
結露に関してはダイワのDC Wallがやや危険であり、これは室内側にある空気層が30mmと厚いため。
柱(熱橋)部分については別の検討が必要だが、柱も防湿層できちんと室内空気と隔離される構造になっていれば結露の心配は少ない。
木造住宅では、実際に結露する条件下でも水滴がみられないことがある。それは、木材の調湿作用によって水分を吸い込んでしまうため。しかし、水が出ている現実に違いはなく、長期的には躯体を痛める可能性が高い。水滴が目に見えないからといって安心は出来ない。
まとめ
以上の結果から次のことがいえる。
1.断熱性能は断熱材の厚みで決まる
断熱材は種類によって性能(熱伝導率)に違いがあるが、少々の性能差は厚みで簡単に補える。「厚み」が最も重要なスペック。
2.通気層がある外壁は断熱に寄与しない
外壁のすぐ裏に外気に通じる通気層があると、温度が外気に等しくなり外壁の断熱性能が関係しない。厚い発泡コンクリート(ALC)も内側に通気層がある場合、断熱の作用はない。
3.通気する断熱層は結露の温床
断熱層では大きな温度勾配が出来るため、グラスウールのような通気性がある断熱材は結露する。グラスウールがビニールに入っているのはそのため。グラスウールの内部が結露で水びたしになるのは、ビニールのどこかに穴が空いた可能性が高い。
グラスウールを使う場合、必ず室内側に防湿層が要る。2×4では同様の理由から防湿シートの施工が重要となる。空気を透過しないポリスチレンの断熱材は、それ自身が防湿層を兼ねるため結露の面で有利。
石膏ボードのすぐ裏側にある空気層も結露のリスクがある。ここは電気配線用のスペースとして設けられるが、この層は可能な限り薄く(20mm以下)するのがよい。
4.鉄骨、木造の外断熱にメリットなし
鉄骨、木造の外断熱は外壁を固定する都合上厚みのある断熱材が使えず、50mm程度に制約されることが多い。
木造の二重通気工法は通気層を二重にしたものだが、断熱材の厚みが僅か40mmしかとれず、内側の通気層に外気を通せば「無断熱」に等しくなってしまう。
普通に内断熱すれば簡単に100mm以上の断熱層が設けられるものを、「外断熱」のために構造を複雑にして性能を落としている。
5.結露させない為のチェックポイント
(1)断熱材の厚みは十分か(断熱材は厚ければ厚いほどよい)
(2)断熱材の室内側に、防湿層が隙間無く施工されているか(熱橋部も含めて)
(3)断熱材が室内側の内壁に密着しているか(胴縁空間なしの内断熱がベスト)
結露を防ぐには、どのような構造でも防湿フィルムが隙間無くキッチリ施工されることが重要。特に注意したいのが、窓やダクトなどの開口部や、コンセント、スイッチボックスまわり。この部分の機密をどう処理するつもりなのか、しっかり確認しておきたい。
いくら図面やルールがあっても、それが現場で守られなければ意味がない。図面を無視して無造作にブスブズ穴をあけてほったらかし、断熱材が脱落しても知らん顔[2]。現実には施工品質の問題もある。
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gaihekical 今回の計算に使ったエクセルのワークシートです