若い夫婦が家を作るとき次の注文をつける。「おばあちゃんのための和室が欲しいわ」「人数分の子供部屋を作って頂戴」そうしてできた家はどっちを向いても壁。一つ一つの部屋が狭くトイレはギリギリの閉塞空間。モデルハウスで見た夢の空間とかけ離れている。なぜこんな結果になってしまうのか。
多くの人が、大きな借金を背負ってウサギ小屋と大差ない家を作ってしまう。日本の住宅で最も欠けている物は「広々とした開放感」ではないか。
私たちが住宅展示場でみるモデルハウスは、ハウスメーカーが威信をかけて設計したもの。そこには「広々」「開放感」を得るための、様々な工夫が盛り込まれている。
私は新築を機に、このようなメーカーの工夫について観察し、それを自分の家に実際に盛り込んでみた。そして、狭い土地と建物の中で「広々」「開放感」を得ることに成功した。今回はその中身をご紹介したい。
なぜ閉塞感あふれる家になってしまうのか
ほとんどの家が狭くなってしまう、その主な原因に次がある。
・狭い土地、床面積の中をさらに細かく区切って、それらを廊下で結んでしまう。
・壁をたくさん設けて見通しを悪くしてしまう。
狭い土地と建物の中で「広々」「開放感」を得るためには、この「廊下」と「壁」の2つをできるだけ無くすことが重要である。
部屋をできるだけ1つにまとめ、必要に応じて間仕切りする
多くの人が作ってしまうのが、おじいちゃん、おばあちゃんのための「和室」と人数分の「子供部屋」。どちらも常時ではなく一定期間だけ必要なもの。そこで、これらについては専用部屋を作らずに次のようにする。
・和室について
→LDKに繋げてしまう。
和室はLDKの一角に置き畳を敷いて対応。常時必用になった場合は、間仕切りを設けて部屋を分ける。
・子供部屋(2人分)について
→12~14畳の長方形の部屋を作り、必要に応じて2部屋に間仕切りできるようフリーウォールを設置する。
子供が小さいうちは書斎orシアターorオーディオルームとして利用[1]。子供部屋として必用になったら、間仕切りして2室に分割する。進学就職等でいなくなったら、元通り1室として利用する。
廊下ではなくホールにする
部屋に出入りするためだけに設けられた「廊下」は無駄の代表。限られた空間の中で廊下を作るほど勿体ないことはない。
そこで廊下の幅を広く取って「ホール」にする。するとこのスペースに机や椅子を置くことができるようになり、新たな室内空間が生まれる。
写真は吹き抜けと繋げたホールの例。奥には部屋に出入りするためのドアががある。吹抜と繋げればでホールが見晴らしの良い快適な空間になる。
我が家の唯一の廊下。階段上がって左側の正方形の小さなエリアが、強いて言えば廊下。
この正方形の廊下が、正面ウォークインクローゼット、左の寝室、右のトイレの3つの空間を繋げる通路になっている。
吹き抜けの1面をテレビ背後の壁にする
開放感を得る手段として「吹き抜け」は効果的だが、普段目を向けない壁面を吹き抜けにしたり、小さすぎる吹き抜けは視覚効果のない「ダクト」になってしまうから注意したい。
吹き抜けは最も目を向ける壁際に設置する。テレビを置いた背面の壁が上下に高くなっている形がベスト。
このように高い吹き抜けが作れない場合もある。この場合の手段に「面取り」「傾斜」のテクニックがある。
外の空間と繋がりを持たせる
「外部空間」とうまく繋げると物理的空間以上の広さを感じられる。たとえば、LDKに対し、ウッドデッキやバルコニー、ベランダを床面フラットで繋ぐ。坪庭を作ってリビング、玄関、浴室から見せるようにする。
外の空間とつながりを持たせることで、たとえ部屋が小さくても十分な開放感を得ることが可能。
リビングの床とフラットにウッドデッキに繋げる。モデルルームでよく見られる手法。
ウッドデッキの庇の張り出しは1.8mあり、近年の強烈な日射を遮る。庇の上には、広々としたベランダが作れる。
北側には坪庭を作り、床面まで窓ガラスにして見えるようにする。
坪庭の空間は2坪とした。
玄関ホールから見る坪庭。これもよく見られる玄関ホールを広く見せるための工夫。
つまり、北側に2坪の坪庭を作り、玄関、リビング、洗面、浴室の4室と視覚的に繋げた。これによって、北側のすべての空間に解放感をプラスした。
ユニットバスのサイズは1616(1坪)。十分な広さを確保。
浴室のエプロンや床をブラウン(ダーク系)にしたのは失敗。水道の水垢(カルシウムやミネラル)は白系の汚れなので、これが目立って掃除が大変。浴室は白系の内装を使うのが正解。
0.5坪のトイレは狭い!必要なところに必要な空間をとる
施工主のわがままによる空間的なしわ寄せはトイレ、玄関、洗面脱衣場などにいきやすい。これらの空間を妥協せず、必要十分なスペースを確保することが、広々とした解放感のある家を作るためのポイントになる。
よくやってしまうのがトイレを0.5坪にしてしまうこと。写真は0.75坪で設計したトイレ。0.5坪との違いは歴然。
少なくとも1カ所は0.75坪にしておきたい。
洗面脱衣場を1坪で作ってしまう例が多い。そこに洗濯機や衣類の収納を設置すると、一人着替えをするのにやっとの空間になってしまう。
1.75坪で設計した玄関。タイルのエリアを1坪とって応接ができるようにした。写真の折畳机は弘益 TC-800T 天板サイズ80cm。
左側は玄関収納の床と接続し、右側は坪庭に接続していて1.75坪以上の空間に感じられる。
ベランダといえば通常、布団を干すだけの通路になってしまうが、これだけのスペースがあればガーデニングに利用したり、机や椅子を置くことも可能。
私はミジンコの培養や錆び、樹脂の劣化など、いろんな屋外実験に活用している。
鏡を使う
鏡を使って広く見せる施工は、いろいろな場所で見られる。ただし実際これをやるとコストがかかるので、我が家では採用しなかった。どうしても空間が取れない場合の最後の手段と考えたい。
最後に
写真を見ると広いおうちに見えるかもしれないが、この家は60坪の土地に建っている。
狭い土地の中で、トイレ、洗面脱衣場、浴室、玄関、ベランダなど、狭くなりがちな場所に十分な空間をとれているのは、部屋を細かく区切らず廊下を排除した結果。新築計画の参考にしていただければ幸いだ。
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<改訂履歴>
2018/10/17 写真を追加して大幅に増筆しました。
2019/11/18 浴室の写真を追加。