スポーツカーとは何か~乗り心地が悪い 加速が凄いだけの車はスポーツカーではない

「スポーツカーって何?」と聞くと「加速のいいクルマ」「スピードの出るクルマ」などの返答が多い。サーキットのタイムに価値を置く人もいる。そういう車のほとんどはスポーツカーではない。そこで今回は、どんな車がスポーツカーといえるのか整理する。

 

スポーツカーの定義

 スポーツカーについて、Wikiを調べると次のように書いてある。

「運転を楽しむこと(スポーツドライビング)を主な目的とし、高速走行時の操作性を含めた運動性能に重点を置いて設計・製造された自動車のことをいう場合が多い。」

 合わせて、スポーツカーはサーキットでタイムを競うクルマではなく、公道をメインに走る一般向けのクルマ(ロードゴーイングカー)として作られる場合が多いことに注意したい。

 

スポーツカーと混同されやすい言葉

・GTカー
 GT=「グランドツーリング」「グランツーリスモ」。長距離を高速かつ快適に移動できるクルマ。例:レガシィ、ステージア。レース用のクルマを指す場合もある。

・スペシャルティカー
 普通のクルマに外観や走りの装備など、スポーツカーの要素(後述)の一部を追加したクルマ。

・スポーティーカー
 スポーツカーのような外観を持った普通のクルマ。スポーツカーに乗ったような気分になれるクルマ。

・レーシングカー
 レースでタイムを競うことを目的に作られたクルマ。

・スーパーカー
 動力性能の極限を追求して作られたクルマ。

 これらはいずれも、スポーツカーとは呼ばない。

 

スポーツカーは次のうちどっち?

クルマA

流線形のボディにエアロパーツがたくさん付いてる。
足回りはブレンボ、ビルシュタインなど有名ブランドのパーツで固めてある。
室内には、6MT、レカロシート、高回転まで刻まれたメーターが見える。コックピットはスポーツムードにあふれる。
大馬力のエンジンを積んでいて、ものすごい加速をする。高速道路をぶっ飛ばせる。ゼロヨンやサーキットで速い。
ステアリング、クラッチなどの操作系が重い。
車内の騒音が大きく、突き上げが厳しい。乗り心地が悪い。
運転が疲れる。30分も乗っているとクルマを降りたくなる。

 

クルマB

クルマのレスポンスが良い。ハンドルを切ればスッと曲がり、アクセルを踏めば望み通りの速度がすぐに得られる。
クルマが羽根のように軽く感じる。まるで手足の延長に強力な動力が追加されたかのように、思い通りに走れる。
鋭い加速感があるが、スピードメータを見ると速度は意外に低い。高速道路やサーキットで速くない。
ステアリング、クラッチなどの操作系が軽くて疲れない。
室内の騒音や振動が小さい。乗り心地良く、空調も良く効いてロングドライブが快適。
MTのギアチェンジが楽しい。テンポよくシフトアップして伸びやかな加速感を楽しめる。
運転するのが楽しくて、ずっと乗っていたいと感じさせる。

 

 クルマBがスポーツカー。クルマAはスポーツカーというより、GTカーやレーシングカーに近い。

 

 

スポーツカーの要素

 上記の「クルマB」になるために必要な要素を細かく分解すると、次がある。

 

1.各操作入力に対する応答の早さとリニアリティ

 アクセル、ブレーキ、ステアリングなどの操作に対する応答や、リニアリティを示す。これらの特性が高いと、自分の意のままにクルマを操れる感覚が高まる。  

アクセルフィール

 アクセル開度に対して出力がリニアなことが問題になる。ちょこっと踏むだけでグワっと出力が出るもの、最初の開度が大く踏み込んでもほとんど変わらないものは好ましくない。

ブレーキフィール

 踏力に対して制動がリニアなことが問題になる。ちょっと踏んだだけで強い制動がかる(カックンブレーキ)、フワフワで感触に乏しい、強めに踏むとすぐABSがかかるものは好ましくない。
 良いものはブレーキパッドがディスクに触れる微妙な感触まで足で感じ取ることが出来る。

ステアリングフィール

 センターから切り始めたときの応答、途中から切り増ししたときの応答、反力が問題となる。ステアリングフィールは、パワーアシスト機構だけでなくサスペンション、タイヤ、車体などすべてを総合した結果として表れる。
 センターの遊びが大きい、ステアリングがやたら軽く手応えが無い、直進性が強すぎるものは適さない。重すぎたり、軽すぎるものは好ましくない。
 良いものは、タイヤの接地感や路面の感触までステアリングを握る手のひらに感じ取ることが出来る。

シフトフィール

 シフトフィールは「クルマを操る」実感を得る上で重要な要素になる。どんなに立派なシフトも応答が遅かったり入りが渋いと楽しさが半減してしまう。
 MTのシフトフィールは、ゲートの入りやすさ、入れた時の感触、音、レバーを動かした際のゲートの滑らかさが問題になる。段数は5段がベスト。6段は構造が複雑なためか入りが渋いものが多い。
 MTのレバーやストロークには適度な長さがあり、短いほどいいという物ではない。

クラッチフィール

 踏力が問題で軽めがよい。やたら重たい強化クラッチは疲労に繋がる。強化クラッチはジャダーが出やすい。

ハンドブレーキフィール

 引くときのラッチ音、解放時の音と剛性感に注目してほしい。シルビアやスカイラインなどの日産車は解放時に「キン!」という小気味よい金属音を伴う。

 

 

2.エンジンフィール(心地よいエンジン音、エキゾーストノート)

 回転数に対するトルクの出方の均一性(谷がないか)、高回転での音色や音量の変化が問題になる。
 ターボはその性質上、低回転のトルクが細くトルクの出方も不自然になりやすい。この点NAの方が良いが、ターボの欠点も慣れるとさほど気にならなくなる。
 回転をあげるとエンジンが苦しそうな音色を出したり、うるさいほど音量が増大し不安を感じさせるものは適さない。
 エンジンの方式や気筒数はあまり関係なく、多気筒がよいとは限らない。BMWのように4気筒でも文句なくいい物が存在する。
 エキゾーストノート(排気音)は室外の音が良く聞こえるオープンカーにとって重要。この点、ロードスターのエキゾーストノートはよく出来ている。

3.スポーツムードを演出するデザイン

 エクステリア、インテリアの両方に関係し、中から見た外の景色や、ヒップポイント(座面の高さ)のほか、シートのホールドといった機能的なデザインも関係する。これらがよく作られていると、シートに座るだけで乗る人の気分を高揚させる。
 スポーツカーにはスポーツカーらしいボディデザインが望まれる。但し、エアロパーツやホイールは見た目だけのもの。この部分にお金をかけすぎないよう注意したい。
 シートはホールドがよく、疲れにくいことが重要になる。革シートは滑りやすいものが多く、スポーツカーには適さない。

4.パワー(トルク)と車重の比率

 スポーツカーというと、真っ先に目がいくのは「何馬力」といったスペック。スポーツカーにとってパワーは大切な要素だが、重さとセットで考えなければならない。スポーツカーとして成立するために必要な動力性能と車重の基準を関連記事4に示した。以下の関連動画も見て欲しい。
 スポーツカーに「加速感」を期待し、これに憧れるケースが多い。しかし強すぎる加速は不快に感じる。例えば、R32 GT-Rの加速は強烈だが、吐き気を覚える。
 それに、パワーが大きい車はそれ相応の足回りになる。サスペンション固く、扁平率の低いタイヤがつくことで乗り心地(快適性能)が犠牲になる
 重さに関しては軽いほど良い。インプレッサSTiのようにマニア受けする装備を後付して重くなったケースがある。装備を増やすのは簡単だが、軽量化は簡単にはいかない。「軽い」ことは、いかなる装備、パーツよりも価値あることを知っておきたい。

5.スタビリティ

 クルマのパワーに対して適度なスタビリティがある。パワーに対してタイヤのグリップが勝ち過ぎていると面白味に欠ける結果になる。同じ理由でハイグリップタイヤは必要ない[3]
 4WDは加速や走破性能を高める為に有利だが、スポーツカーには必要ない。アクセルオンで適度にスリップした方が、乗っていて楽しい。

6.快適性能

 ロードノイズが大きい、突き上げが強く乗り心地が厳しい、操作系が重くて疲れる、といった特性を持つクルマでは「運転を楽しむ」ことが出来ない。
 ハイパフォーマンスを誇るクルマの多くは快適性能が犠牲になっていて、運転を苦痛に感じることが多い。
マツダ・ロードスター Vスペシャル(GF-NB8C)

マツダ・ロードスター Vスペシャル(GF-NB8C)


 いつも快適性能だけが足りない残念なスポーツカーの例(ロードスターGF-NB8C)。

 

7.ライフスタイルの演出

 スポーツカーは、「カッコいい」ライフスタイルを演出できるアイテムにもなる。これを上手に利用できると、見る人の「視線」「表情」によってうれしい気分になれる。
 ライフスタイルの演出は、クルマだけではなく、クルマとオーナーのセットで決まる。クルマのデザインレベルが高いほどオーナーにも高いファッションセンスと美的感性が要求される。
 オーナーの見た目がクルマに劣ると、見る人に違和感を与え、嘲弄の対象になることがある。

 

 

最後に

 世間では「ニュルのタイムが何秒」とかいった議論が活発で、速さこそがスポーツカーの価値と思い込んでいる人が多い。このような間違った認識が広まっているのは、クルマ雑誌のせいかもしれない。

 スポーツカーが速く走る必要はどこにもない。渋滞でゴーストップを繰り返すときでも、コンビニの駐車場にバックで停めるときでも、十分その良さを実感できる性質のクルマだ。

 私はスポーツカーの性質と、その良さを、多くの人に知ってもらいたいと願っている。

 

 

 

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