茶碗1杯(0.5合)の炊飯を極める

以前、鍋とガスコンロを使ってガスの味の秘密を解明した[1]。今回はIHクッキングヒーターを使ってガスの味の再現にトライする。そして、難しいといわれる0.5合の極少炊飯でガスを上回る味を実現する。

 

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水加減の考察

2005年に公開した水加減のグラフを再掲する。

ガスと電気炊飯器の水加減の違いを示したグラフ

ここでyを水の量、xをお米の容積とすると、グラフの式は次のようになる(お米1合=容積180cc)。

電気炊飯  y=1.2x
ガス炊飯  y=x+115  (ただし、お米3合=540ccまで)

 このグラフの水の量は洗米後に追加する水の量を示していて、洗米時にお米が吸った水は計算に入っていない。

ガスの線はリンナイのガスコンロに付属している炊飯機能からの引用で、4合から先は y=1.2x+70 となって電気の線と平行になる。0.5合は範囲外なので予測値を記した。

式を見てわかる通り、ガスの式には切片がある。これはおそらく失火しないで燃焼できるガスの最小火力の補正とみられる。
この2つの式から、0.5合炊く場合の水加減は、電気の場合108cc、ガスの場合は205cc となる。

 

電気炊飯器の内釜の水位線に水位を重ねて見た様子水位線に対し2通りの水位の見方があることを示した模式図

電気炊飯の水加減は内釜に刻まれた水位線から読み取れる。ところが、お米を入れた水は写真のように表面張力の関係で縁が盛り上がる。 図のAは縁で盛り上がった上端を水位線の中央に合わせたもの。Bは水面を水位線の中央に合わせたもの。

ここで問題。AとB、どちらがメーカーが意図した水加減でしょう?

答えは「A」です(メーカー2社に確認)。少量炊飯ではこの違いがばかにならない。Aでは1:1.2、Bでは1:1.3の水加減になる。
ところで釜の目盛は信用できるの? そう思う人がいるかもしれない。私がこれまで調査した範囲では、水位線の位置は国内4社すべて同一で、目盛もかなり正確なことを確認している。

 

 

事前準備

実験に使う加熱器具はIHクッキングヒーター(三菱CS-G37H)を使用する。火力は1~12まで12段階調整が可能。火力2=弱火、火力6=中火)火力8=強火で、火力12=3kWとなっている。

炊飯に使う容器は電気炊飯器の内釜(タイガーW銅入り5層)、18cm片手鍋(アルミ製IH対応)、よせ鍋(アルミ製IH対応)を用意した。フタは蒸気穴付ガラス製を使用。

鍋の底に温度センサーを設置した様子 蒸らし時の温度降下を知るために鍋の底に温度センサーを設置した。

 

 

炊飯プロセス

味に影響する重要なポイントは、98℃以上20分の保持と、沸騰時間10分といわれる[1][2][3][4]。詳しい理屈は後述の文献を参照されたい。
細かな火力調整は運用上の問題に過ぎないことから炊飯プロセスを次のように単純化した。蓋は最後までずっと乗せておく。

 

(1)吸水15~30分
(2)5~10分かけて沸騰させる
(3)火力を絞り、水がなくなる(蒸気が出なくなる)まで沸騰を保持する(10分程度)
(4)火を止め5分蒸らす

 

炊飯を始める前に沸騰時間が5~10分となる火力をあらかじめ調べておく必要がある。実際に使用する器具を使って水だけを加熱し、5~10分で沸騰する火力を求める。テストする水の量は、炊飯に使う水加減+10cc

※:0.5合のお米に相当する水の量。実体積50cc×比熱0.2[5]

 

22℃の水に15分浸漬したお米の様子

(1)について、お米は加熱中に水を吸う為、加熱に時間をかける場合は吸水時間は短くて済む。世間では30分~1時間といわれるが、30分以上時間をかけても大差ない。

 写真は22℃15分浸漬後の様子。加熱に10分かける場合はこれで十分。

 

 

 

(2)は事前に調べた火力で実現する。完全に沸騰するか、粘性の高い泡が発生して吹きこぼれそうになったときに火力を絞る(沸騰時間が早い場合、沸騰時間から泡が発生するまでにタイムラグがある)。

 

(3)はブツブツ泡立つ水分が見えなくなった時点で終わりとなる。約10分でこれが実現するよう火力を調節する。中身が見えるガラス製の蓋がわかりやすい。小火力のため音や蒸気による判断は難しい。火力は使用する容器やフタ(蒸気穴の有無等)によって異なるので数回炊いてみて最適な火加減を見つける必要がある。

おこげが出来た様子  底におこげが出来る場合は(3)のプロセスの火力が高すぎ、15分過ぎてもべたつく場合は火力が低すぎる。
写真は失敗例。

 

 

(4)蒸らしは5分で十分。少量炊飯では消火と同時に急速に冷え5分で約20℃下がってしまう。世間で言われる通り10分も置くと冷めてしまう。再加熱して10分継続しても、炊きあがりの品質はほとんど変わりない。

 

おこげは美味しくない

蒸らし中に短時間強火加熱することで意図的に「おこげ」をつくれるが、香りが落ちて美味しくない。おこげは品質を悪くするだけと見ておきたい。

 


 

実験

 

実験1.電気炊飯器の味をIHで再現する

電気炊飯器の味の原因が水加減にあることを確かめるため、0.5合を電気の水加減(容積比 1:1.2=108cc)で炊いてみる。炊飯プロセスは上記標準でマジメに沸騰10分を適用。容器は電気炊飯器の内釜(タイガーW銅入り5層)と、ガラス蓋を使用した。

電気炊飯器の内釜をIHで加熱して電気炊飯の味を再現している様子 中を見ると終始底の方でピチピチやってるだけで沸騰中に泡がフタまで昇ってくることはない。

 

電気炊飯器と同様に見える炊飯結果 出来上がり。カニ穴のようなものは見えず、壁面に付くオネバは底の方だけ。この見た目と微妙にヌカ臭い香りは、電気炊飯器の結果に近い。この炊飯のメリットは、小さな容器で沢山炊ける、電気代が少なくて済むこと。

 

「水加減に問題があるなら、増やせばよいのでは?」 そう思う人がいるかもしれない。今の電気炊飯器は沢山のセンサーによってガチガチにオペレーションされている。水加減を増やして味を変えることはできない。炊きあがりが柔らかくなるだけ。

 

実験2.ガス炊飯の味をIHで再現する

0.5合をガスの水加減205ccで炊いてみる。炊飯プロセスは以前調べた次の卓上ガスコンロ(リンナイ)を参考にした。

中火で加熱を開始→沸騰後極弱火→中火→極弱火→短時間強火→消火(蒸らし)

蒸らし10分含む全工程が28~37分であることがわかっているので、出来るだけこれに沿って炊いてみる。器具はアルミの片手鍋を使用。沸騰が早いため、吸水不十分だと芯が残る。今回は30分吸水したお米を使用。

 

普通の片手鍋をIHで加熱してガス炊飯の味を再現している様子

火力6で加熱開始。5分で沸騰し火力2に設定。
9分後、沸騰による泡が引いてきたので火力6に設定して加熱再開。
13分後、水がほぼなくなる。ここで火力2に設定。
17分後、10秒だけ火力8で加熱して消火。
27分後蒸らし完了。

 

 

 

 

お米が立ち、カニ穴が多く見られる炊飯結果 出来上がり。立ちまくるお米とカニ穴。この素晴らしい見た目は10年前の実験結果[1]と同じ。最後の強火加熱でおこげができる。

大量の水を強めの火力で強引に飛ばして炊いた香りと味は、ガスそのもの。糊化を高温短時間でやった結果が、いわゆる「ガスの味」といわれる物の正体らしい。糊化は完全ではなく、これが独特の食感を生んでいる。

電気炊飯器より良いのは確かだが、これが最高かといわれると疑問符が付く。電気代もバカにならない。

 

 

実験3.ガスを超える味にチャレンジする

ガスの水加減210ccで炊飯すると火力の管理が難しいうえ電気代がかかる。そこでガスより少なく、電気より多い水加減 1:1.55 (約140cc)で炊いてみる。

炊飯プロセスは最初に示した単純なものを使用。容器は電気炊飯器の内釜(タイガーW銅入り5層)と、ガラス蓋を使用。

炊飯中に泡が蓋まで登って来ている様子 写真は沸騰中の様子。泡がフタのところまで昇ってくる。この時点で火力を2に落とし、炊飯開始から20分後に消火。泡が蓋まで届かない場合は火力が足りない。

 

ガスに近い炊飯結果が得られた様子出来上がり。大量のオネバが降り注いでツヤツヤ。カニ穴も見える。香りと甘みが両立した味はガスを超えている。

何度も炊いて得られた水加減の調整幅は130±10cc(米:水=1:1.44)。

 

 

 

実験4.ロバスト性(条件の変動による影響)をチェックする

10分で沸騰する火力さえ押さえて炊けば、容器は炊き上がりや味に関係ないはず。極端な例として、アルミのよせ鍋を使ってこれを検証する。

大きな広口鍋にお米を薄く広げて炊飯している様子この広い鍋に0.5合のお米を入れると薄く分散。こんなものが炊飯に使えるわけない、そう思うかもしれないが・・

 

大きな広口鍋で問題なく炊飯ができた様子 結果は問題なし。

10分で沸騰する火力は2だった。IHは小火力だと一部のコイルしか使わないので、加熱ムラが出来やすいがアルミ鍋ならなんとかいける。

 

 

実験4から次のことがわかった。

・味
味は沸騰時間と水加減で決まる。沸騰時間が長いと甘みが増え、短いとガスの味に近づく。

・加熱器具
少量炊飯を成功させるためには、微少火力を正確に設定出来るものが必要でありIHがベスト。

・容器
少量炊飯では熱伝導率が良く熱容量の大きいものが適している。

電気炊飯器に付属する内釜が最も良い。これが無い場合は18cmまでのIH対応アルミ片手鍋で代用できる。鍋は厚いほどよく、底厚5mm以上のアルミ鋳物がお勧め。内面にふっ素コートされていると御飯がくっつかず手入れが楽。

蓋は中身が見えるガラス製が使いやすい。使う火力が弱いためフタの蒸気穴有無はあまり関係ない。

安価なDCMアルミ片手鍋で炊飯した結果安価なDCMアルミ片手鍋の結果。

 

なお、次の容器は少量炊飯に適さない。
・ステンレスなど薄手のもの(加熱ムラが出やすく焦げ付きます)
・ダッチオーブンなどの鉄鋳物(加熱ムラが酷くNGだった)

 

まとめ

次の要領で炊けばよい。

容器:熱容量が大きくて熱伝導率が良いもの+蓋
例:18cm以下の厚手のIH対応アルミ鍋
鍋はふっ素加工されているものがお勧め。蓋は中が見えるガラス製が使いやすい。
薄手のものは蒸らしで冷えてしまい、芯が残ったような味になる。

水加減:米:水=1:1.44
0.5合=90cc (約80g) に対し、水130cc±10cc。計量カップで正確に測る。

加熱器具:IHクッキングヒーター。火力を細かく調整できるものがいい。

前準備
(1)手持ちの道具で130ccの水が10分で沸騰する火力を調べる(初めに一度だけやる)
蓋をして水だけを加熱し、トライアンドエラーを繰り返す。これを火力Aとする。

(2)お米を吸水させる
22℃で15分以上。冬など水温が低い場合は時間を延ばすか、ポットのお湯を混ぜる。
30分以上の吸水は大差ない。

クッキングタイマーがあると便利。

炊飯
(1)蓋をして前準備で調べた火力Aで炊飯を開始。
(2)泡が蓋まで登ってきたら吹きこぼれないよう火力を絞る。これを火力Bとする。
(3)そのまま10分以上沸騰を保持する。
(4)水がなくなったら火を止め、5分蒸らして完成。蓋は最後まで取らない。

注意
・(2)で泡が蓋まで登ってこない場合は火力Aが弱すぎる。
・火力Bにしてから10分以内に水がなくなってしまう場合は火力Bが強すぎる。

 

<参考購入先>
洗米用品 私は「米とぎ棒」を使ってます
IH対応ご飯なべ
炊飯器専用内釜 少量炊飯に適した内釜部品。IH対応に注意

<関連記事>
1.時間が経つと不味くなるのはなぜ? 電気炊飯器の寿命と美味しく炊く秘訣
炊飯器の選び方~調理家電はIoTで進化する
レンジでご飯と味噌汁を同じ温度に温める

<参考文献>
1.おいしいご飯の炊き方(炊飯の科学) 今中鏡子著
2.炊飯の科学 木戸詔子
3.おいしくご飯を炊く (リンク切れ)
4.炊飯技術口伝「はじめちょろちょろ…」の理論と実際
5.米の比熱
6.熱分析によるデンプンの糊化・老化特性の解析(リンク切れ)