タマミジンコの増やし方~自宅でできる連続培養法

 「うまく増えない」「増えたと思ったらすぐ全滅」なぜうまくいかないのか。その原因を解明し、自宅で連続培養できる方法を確立したのでご紹介する。

 

培養に関する文献

金魚の飼育と繁殖(1970年)

本「金魚の飼育と繁殖」本「金魚の飼育と繁殖」のミジンコ培養法を記述した部分

 写真は1970年代に私が飼育の参考にしていた本。対象は金魚。「青水」を良しとし、「定期的な水替え」を維持の基本としている。この当時はまだ、バクテリアの働きに関する記載は無い。屋外飼育における冬場の管理方法などは国内淡水魚を飼育する上で今でも参考になる。

 ミジンコの培養に関する記述があり、要約すると次の通り。

・容器は深さ60cm以上のもの。水深に対し20%程度の腐葉土を入れ、これに対し10%の肥料(家畜の配合飼料、油粕、魚粉、鶏糞、米ぬかなど)を入れて、水を加え泥状に練る。

・水を入れて水深30~50cmとする。そのまま数日おいて水が青みを帯びてきた時点で種ミジンコを投入。PH調整に消石灰を10~20%混ぜるとよい。

・最適培養条件は 18~23℃、PH6~8。大食漢なので増殖のためにはエサの量が重要、不足するエサを補う飼料としてクロレラが有効。

・突然死は酸素欠乏、栄養分の不足、糞や脱皮殻の堆積などが原因。定期的な沈殿物の除去が必要

 

ミジンコ類の大量培養技術の開発(2008年)

 ミジンコ類の大量培養技術の開発と魚介類幼生への餌料効果に関する研究[1]が公開されている。要約すると次の通り。

・タマミジンコ(モイナ)が餌として優れる

 世間で培養されているミジンコには Moina(モイナ) と Daphnia(ダフニア) の2種類があり、モイナは1ミリ前後の小型で子持ちの個体を上から見るとタマのように丸いので「タマミジンコ」と呼ばれている。

 ダフニアは2ミリ以上になり尻にトゲを持つ。モイナは魚の飼料に適しており養殖業者によって高密度培養されている。

・ヒータで26~28℃に加温する

 この温度範囲でミジンコの代謝(繁殖速度)が最も高くなる。電照(照明)は必要ない。

・十分な溶存酸素を確保する

 エアストーンを沈めてエアレーションする。但し水流をミジンコが泳ぐ速度(約3cm/s)以下に抑える(激しい水流を作るとミジンコを傷め増殖が鈍る)。論文では水流を抑えたエアレーションを実現するために多重円筒管で構成したエアリフタが紹介されている。

 エアレーションしない止水培養では水面に密集し渦を巻くような増殖形態になり、水の容積が無駄になる。エアレーションしつつ還流させることで水槽全体にミジンコを分布させた高密度培養が可能になる。

・エサはクロレラを用いる

 コスト低減を目的に焼酎の蒸留粕やドライイーストを混ぜることもある。

・培養液として鶏糞水を利用する

 クロレラだけでは不足する栄養分を鶏糞が補うことで生存率や増殖がよくなる。

・底部の汚物を定期的に除去する

・ワムシ類など有害生物の侵入に注意する

 ワムシはミジンコに取り付いて成長を阻害する。

・タンクを3基用意してローテーションする

 産まれたミジンコを適切な条件下で培養すると3日で産仔可能になる。タンクを3基用意して毎日ローテーションすることで安定した収穫が得られる。

 

 この方法は養殖業者向けのもので、100L以上のタンクを想定している。一般家庭では100L未満になるから、小さな容器でうまく増やす方法を別に考える必要がある。

 ノウハウは誰でも簡単にできて同じ結果が得られるものでなければ意味が無い。これらの情報をベースにして培養方法の確立に挑戦する。

 


 

ミジンコの入手方法

 田んぼや池から採取する。夜間、懐中電灯を使って集める方法が簡単。

 水面に光を当てると5分くらいでミジンコが集まってくるので、それをすくう。田植えが終わった頃(5月)はミジンコをスタートさせるのに最適な時期。

 乾燥飼料や土壌からも発生するといわれているが、耐久卵は乾燥すると時間と共に孵化率が低下することが知られている。生きているものを直接採集するのが簡単で確実だ。

※キョーリンのフリーズドライで実験したが発生しななかった。30年くらい前まではミジンコをそのまま乾燥させてガラスガラスビンに詰めた「乾燥ミジンコ」が市販されていたが今は絶版となっている。

 

干上がる直前の田んぼ 田んぼから採取してきたミジンコ

 ミジンコはどこの田んぼや池でも採取できる。写真はあと数日で干上がりそうな休耕田の水溜り。覗き込むとミジンコがウジャウジャ・・主にダフニア。

 採集してきた個体をよく見ると子持ちは少なくほとんどが耐久卵もち。ミジンコたちは自分たちの住処が干上がるのを察知しているようだ。

 

 


 

培養の実例

 

培養開始(2013年6月)

  培養タンクとして60Lのプラ舟を用意し、屋外培養を開始した。屋外タンクには次の特性が求められる。

・強度が高く紫外線による劣化に強いもの
・植物プランクトンを増やすために太陽光がよく当たるもの(広くて浅い容器)

 プラ舟はこれらの要求を満た最適なな選択肢の一つ。これを3基用意して、植物プランクトンをまず増やし、種ミジンコ投入、収穫&リセットという形でローテーションする。

 

60Lのプラ舟を3基でミジンコの培養に取り組んでいる様子 写真は60Lのプラ舟を3基設置したところ。 設置場所は日当たりのよい2Fのベランダとした(1Fだとボウフラの温床になりやすい)。

 手前の四角い箱はエアポンプやサーモなどの電装品を入れる為の電源BOX。100均のプラケースの底に穴を開けて下から電線を通したもの。

 

プラ舟にすだれを乗せて日光の直射を防いでいる様子 すだれを使って日光の直射を遮っている様子。

 

 

 

 順調に増えるが、田んぼからの自然採取の為、ダフニアの他にケンミジンコ、カイミジンコ、アオムキミジンコ、ヒメミミズなど、いろんなものが混じっている。

 一番厄介なのがカイミジンコ。捕食されないのでどんどん増えてしまう。カイミジンコは厄介者なので種の段階で排除すべきだった。

 

連続培養に成功(2013年7月)

 開始から2ヶ月。努力の甲斐あって家庭でできる中規模培養法を確立できた。しかし毎日十分な量を確保しようとすると、結構な規模になる。

 今のところ定期的なリセットが欠かせないため、連続収穫を得るためには複数のタンクをローテーションしなければならなず、それが規模の拡大を招いている。

ミジンコ培養容器群(2013年) ミジンコ用の屋内予備水槽

 2013年7月 稼働中のミジンコ培養容器群。プラ舟5+バケツ2+(室内2) 総計9基の体制。

 毎日安定して餌を確保しようとすると、どうしても大規模になる。今や、飼いたい魚とどっちがメインなのか、わからない状態。

 

 

 

通年培養に成功(2016年)

 これまでは秋に耐久卵を採取してクローズし、翌年の春に孵化させていたが、加温設備を整えて通年培養に成功した。写真は加温培養設備。

ミジンコ用の加温培養設備 

真冬の雪景色と共に撮影したミジンコ 雪の降った朝に冬季培養中のミジンコを屋外の景色と共に撮影(2017年1月)。

 気温が氷点下の時期に動くミジンコを見ることは、これまでなかった。

 

 

休眠卵の孵化実験(2022/8/8)

2016年から休眠卵のサンプルを採ってきたので、孵化実験をやってみた。

休眠卵の孵化実験

結果は次の通り。

休眠卵の孵化実験結果 2022/8/8 気温28℃~30℃ 保存温度7℃前後

採卵日 経過日数 孵化確認
2016年5月 2290 OK
2016年9月 2167 OK
2016年11月 2106 OK
2017年5月 1925 NG
2017年11月 1741 OK
2018年5月 1560 OK
2018年5月 1555 OK
2019年6月 1164 OK
2020年6月 798 OK

あまり期待しなかったが、なんと6年経っても孵化することを確認。ただし、孵化率は年数と共に下がる印象。2020年は良好な印象だが、2019年はかなり落ちる。品質的には2年以内に使った方がよさそう。

NGは保存に使った水の塩素抜きが不十分だった可能性[2]がある。

 


 

エアレーションの害と対策~水面エアレーション

 ミジンコの培養ではエアレーションが害になることが知られている。強い水流や、気泡の破裂によってミジンコが弱るとされる[1]が、実際に弱るところを見たことが無い。

 エアレーションが害になるという話は、脱皮を阻害するためはないか。すなわち、脱皮のときに水流があると体を傷つけたり損傷を受ける。セミが脱皮する際も「手伝ってやろう」として手を出すと体を傷つけたり死んでしまうことがある。

 強すぎる水流の中で脱皮すれば、脱いでいる途中で殻が引っ張られ、手足が傷つくことが想像付つく。

 しかし現実の培養では溶存酸素を増やし、水面に発生する植物プランクトンの膜を防止するためにエアレーションが不可欠になる。

 脱皮を阻害せず、水面を波立たせて植物プランクトンの膜を防ぎ、水中の溶存酸素を増やす。そんな都合のいい方法がないものか。これについて考え、実験を重ねて「水面エアレーション」を考案した。

 

水面エアレーションの例

 水面エアレーションとは、エアーストーンを水中に放り込むのではなく、水面付近に固定する方法。

 水面を波立たせることで止水域が増え、溶存酸素が増え、ミジンコの損傷を防ぎ、植物プランクトンの膜を防ぎ、蚊がタマゴを植えつけにくくする効果もある。

 

 


 

培養技術のまとめ

 培養の成果をまとめた培養ガイドを公開します。下記は、メダカや金魚のブリーダ、品種改良に本格的に取組む人のためのガイドです(すみませんが有料です)。

ミジンコ培養テクニカルガイド
クロレラ培養テクニカルガイド

 

培養資材のまとめ

 培養に必要な資材です。

<ミジンコ用飼料>
ほうれん草パウダー
乾燥鶏糞

<クロレラ培養資材>
ハイポネックス
ハイポニカ
大塚ハウス

<培養機材>
プラ船 黒 ミジンコの培養に最適な黒いプラ船です
ヤスナガ エアーポンプ AP-80+10方分岐管 屋外で使える耐久性に優れたポンプです。分岐管とセットのものをお求めください
亜硝酸試薬 水質検査に必須の亜硝酸試薬
不乾性パテ(ネオシールB-3) 分岐バルブの防錆保護に使う不乾性パテ。コンセントまわりにも使えます
レンガチップ テトラのスポンジフィルターを埋設することで濾過能力を強化できます
シリコンエアーチューブ 屋外ではシリコン製のエアチューブを使います
水替え用ポンプホース
大型のスポイト
スチロールブロック

ポリカ竿ピンチ5P
オーバーフロー防止用のウールマットを固定するために必要なピンチです。
ステンレス竿ピンチ 4個セット
オーバーフロー防止用のウールマットを固定するために必要なピンチです。ポリカのものよりやや小さくポリバケツに適しています

 


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ミジンコの永久プレパラートを作る~白濁,気泡不良の原因

<参考文献>
2.水替えで魚が死ぬのはなぜか~実は不完全だったハイポのカルキ(塩素)抜き
1. ミジンコ類の大量培養技術の開発と魚介類幼生への餌料効 果に関する研究(リンク切れ)