ブラインドテストの落とし穴~アンプ、ケーブルの比較はすべて間違っていた!

 雑誌に載っているオーディオアンプやケーブルの比較記事や、一般消費者の試聴レポート(口コミ)は信頼性に乏しく参考にならないものがほとんど。この問題を取り上げて詳しくご説明する。

 

スピーカーケーブル比較の問題点

 スピーカーケーブルを変えるとダンピングファクタ(DF)が変わる。DFは次式で表される。

DF=Rs/(R0+R1)              (1)

Rs:スピーカの公称インピーダンス、R0:アンプの出力インピーダンス、R1:ケーブルのインピーダンス

 

スピーカー周波数特性のダンピングファクターによる変化を示したグラフ

ダンピングファクターと周波数特性の変化
出典: 「強くなる!スピーカ&エンクロージャー百科」誠文堂(1980) P38

 グラフはDFによるスピーカの特性変動を示した物。DFによって周波数特性に大きな変化を生じる事がわかる。DFが10を超えると変化が少なくなるが、耳のいい人は過渡応答の違いを聞き分けるかもしれない。

 分母のR0とR1はどちらもミリオームオーダだから、ケーブルの音の違いを正確に知るためには、DFを一定にするためにケーブルの抵抗値R1を揃える必用があることがわかる。

 

 大抵の人はことのことを知らないから、スピーカーケーブルの違いはブラインドテストで明確になると考え、太さが違うケーブルを「同じ長さ」に切りそろえて、取っ替え引っ替え比較視聴をやってしまう。そして、

 

「これこそが、スピーカケーブルによる音の変化である」

「ケーブルで音が変わることを実証した」

 

と勘違いする。極端に太さが違うケーブルを「同じ長さ」に切りそろえて比較すれば、差が出るのは当たり前のこと。それはもちろん、ケーブルの音の差などではない。

 ブラインドテストを試みると統計的に「有意差」が見つかることがある。この結果から、

「オーディオは、何をやっても、音が変わるんだ」

という結論を出してしまう。

 そんな人たちに、「計測でわからないものが、なぜ聴感でわかるのか?」と質問すれば、「未だ解明されていない、未知な部分があるんだ」ということにして考えるのをやめてしまう。

 

「オーディオは、何をやっても、音が変わる」理由

 例えば、ピンケーブルを変えて、音が変わったという統計的な結果を得たとする。しかしそれは、ピンケーブルの音の差ではない可能性が高い。なぜかというと、「ピンケーブルを変える」という操作をすると、別のものが同時に変わってしまうため。

 この「別のもの」とは何だろう。それを理解するにはまず、比較試聴で聴く音が次の3つの総和になることを知る必要がある。

 

人間が聞く音=主観(心理的変動分)+ 別の変化 + 実際の変化     (2)

 

私たちが知りたいのは「実際の変化」。ブラインドテストは「主観」を排除するが、「別の変化」については排除できない。これが「別のもの」の正体だ。この中身には次がある。

1.出力感度(音量)の変化
2.試聴点までの伝達特性の変化(聞く位置のズレ)
3.機器の特性変化
3.接触抵抗の変化(ケーブル類の場合)
4.直流抵抗の変化(ケーブル類の場合)

 

出力感度(音量)の変化

 出力感度(同じソースを再生した時の耳に届く音量)は機器によって違う。チェンジのたびに校正信号を使って試聴点の音圧を正確に校正しなければならない。ボリウムにギャングエラーがある場合はこれも調整して排除しなければらなない。

試聴点までの伝達特性の変化

 人間の存在が伝達特性を乱すので、友人にチェンジをお願いして部屋から退出してもらう。テスト中は頭をできるだけ動かさないようにする。実験によると、4cm程度の耳のズレは±2dB以内に収まり、ほとんど影響しない。

機器の特性変化

 スピーカーの特性(f0、Qなど)が温度によって変わる[3]。アンプやケーブルの特性も温度の影響を受ける。これは、チェンジごとに十分な時間の「慣らし運転」で回避できる。

接触抵抗の変化と直流抵抗の変化

 ケーブル類は抵抗値を精密に測って長さを調整する。端子にはハンダ付けするか、コンタクトオイル(Rational003など)を使うなどして接触抵抗を十分小さくする(ケーブル抵抗の2桁以下)に管理しなければならない

 

 このように考えると、聴感で評価するための実験環境を整えることが困難なことがわかる。ブラインドテストによって先入観を廃しても、有意な実験をすること自体、かなり難しい。

 

「試聴」でまともな評価は出来ない

 音楽ソースを使って人間が聴感で判断するという評価方法は、最も「曖昧」で、「不正確」で、「信頼性の低い」方法である。そもそも、耳や頭の形が個人によって違うため鼓膜に同じ音が届いていない。

 上の式2で、主観と別の変化の2つを取り除いたら、「実際の変化」が見えるだろうか。電源コード、ハンダ、トランスポートの実際の変化は、とても人間が知覚できるとは思えない。

 結局、音の違いを知るためのテストは、計測器とテスト信号を用いるやり方が一番正確だ。

 計測で変化が認められないことは、「未だ解明されていない」「未知な部分の影響」ではなくて、「聴感においても変化がないことの証」にほかならない。

 

アンプやスピーカーケーブルの音は存在するか

 アンプやスピーカーケーブルでは別の変化の大きな要因としてDFがある。ところが、スピーカケーブルやアンプを比較するためにDFを意識して抵抗値を揃えた例を見ない。

 従い、従来実施されきたこれらの音の比較視聴は、単にDF(抵抗)の違いを聴いていたに過ぎないと考えている。

 DFを一定にして(抵抗値を揃えて)ブラインドテストすれば、「アンプやケーブルに固有の音」などというものが存在しないことを証明できるはずだ[1][2]

 

真空管アンプの音のカラクリ

 真空管アンプのDFは一般に10以下だから、グラフ1から真空管アンプは低出力の割に低音が良く出て、響きが多い(過渡応答の悪い)音と予測できる。これは一般に言われている真空管アンプの音の傾向と一致する。

 「真空管アンプは、トランジスタアンプより10倍の駆動力がある」などという論評があるが、このような性質を知らない人が解釈した結果だろう。

 半導体アンプに細いケーブルを組み合わせれば(DFを落とせば)、真空管アンプそっくりの音が、ずっと低歪で再現できる。

 

ブラインドテストで評価できるのはスピーカーだけ

 結局、聴感でわかる差が出る機器はスピーカーくらいである。他の機器の「実際の変化」は微妙で、別の変化の中に埋もれてしまって見えない可能性が高い。

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