低音の出ないスピーカを改造する

 「スピーカーの低音をもう少し出したい」そう思う時、普通はトーンコントロールを使ったりサブウーファーを追加するが、一つ禁断の秘技がある。以下にご紹介する施策はあくまで自己責任。やってみる場合は、最悪スピーカーユニットを潰してしまうリスクを承知して欲しい。

 

コーンを重くすると低音が出る

 低音が出ない原因はコーンが軽すぎること。なので単純にコーンに錘を追加すると低音が出るようになる。その具体的な方法には次がある。

  1. コーンの表側に、塗料やパテを塗る。
  2. センターキャップに錘を貼り付ける。
  3. コーンの裏側に錘を放射状に貼り付ける。

それぞれ一長一短あるが、裏側施工が目立たなくてよいかもしれない。

 

錘の追加と調整の方法

 錘は損失係数が高く、比重が高く、剛性が弱い という特性が求められる。具体的にはブチルテープのほか、アクリル系、酢酸ビニル系の塗料が候補になる。酢酸ビニル系では木工用ボンドが使える。

 塗料を塗る場合は比重を稼ぐためシリカなどの微粉末を混ぜるといい。白いパテのようなものを作ると、JBLのコーンに似たものが出来る。

 重さの調整は、元のコーン質量の10%ピッチで行う。30cmの場合は5g、38cmの場合は10g程度が目安になる。キッチリ重さを管理して左右同じになるようにしなければならない。

 調整と試聴は、片chだけ施工し他方(未施工)と比較しながら行う。ツイータの音が邪魔になる場合は配線を一時外すか、低音だけ出るテスト信号を使う。

 錘を追加していくと、能率と引き換えにどんどん低音が出るようになる。同時にf0c(最低共振周波数)も下がる。但しやりすぎは禁物、能率や応答が極端に悪いスピーカになってしまう。

 塗料を塗ると元に戻せないが、コーン紙の内部損失を高めることで不要な振動が抑えられ、上質な鳴り方をする方向に向く。但し、オリジナルの音色は消失する。

 

実例~PCスピーカーを改造する

 写真のSPはF社のパソコンについてきたオマケで、音はまるでAMラジオのよう。バラしてみると、Hi-Fiとはほど遠いユニットが付いていた。このどうしようもないSPをチューンしてみる。

 

オマケのPCスピーカーを分解した様子 このような小型ユニットでは表面に塗料などを塗布する。塗料は酢酸ビニル樹脂(木工用ボンド)がベスト。

 「そんなものを!?」と思うかもしれないが、木工用ボンドの硬化物は減衰特性が優秀で、これに代替できるものはそうザラにない。

 あまり知られていないが、JBLのE110シリーズにも同じものが塗布されている。

 

 

スピーカーのコーン紙に木工用ボンドを塗った様子 木工用ボンドを塗布したところ。塗りムラは色の濃さで分かる。

 表面ではじいてしまう場合は、台所用の液体洗剤をほんの少し混ぜるとよい。

 

スピーカーのコーン紙に塗った木工用ボンドが乾燥したところ 乾燥後。これで大体、0.2~0.3gの質量アップになる。PCスピーカは能率に余裕がないので、この程度にとどめる。

 フルレンジユニットではコーン中心付近(半径の概ね1/3のエリア)とセンターキャップは高域を担うので、最初は塗布しないで様子をみてほしい。

 センター付近に塗ると高域が出なくなってフルレンジでなくなってしまう。

 

 

 結果は、低域のレンジが延びてAMラジオのような音がかなりマシになった。能率はかなり下がっている。今までと同じ音量を出す為には、かなりボリウムを上げないといけなくなった。

 写真の塗り厚は10cmクラスのSPで丁度良いもの。今回はもう少し薄めに塗ったほうが良かったかもしれない。

 

追加のアップグレード

 音のクオリティが上がると、他の欠点が目立つことがある。上の実例ではプラスチックの付帯音が耳に付くようになった。これは薄いプラスチックで出来ているエンクロージュア(箱)が振動している為。

 薄いプラスチックの制振は不乾性パテ(ネオシールB-3)使える。10mm厚くらいで内側からペタペタ貼るだけでいい。剥がしたり付けたりが粘土細工のように簡単にできるので、様子を見ながら自由に調整できる。

 箱の中に吸音材が入っていなければ、入れてみる。吸音材は定在波を抑えるだけで十分。小さなスピーカーでは適当なスポンジや布団の綿のようなものでも十分効果がある。

エンクロージュアに制振材と吸音材を追加した様子 アレコレ手を加えていくことで音は改善するが、ヘタをすると元のSPより材料費が高くなりかねない。コストのバランスを考えることも大切だ。

 

 

最後に

 コーンの改造は「タブー」といえる。今までどうにもならなかった「低音」が、自分の裁量でどうにもでコントロールできるという知識は毒だ。やりだすとハマりやすく、私もこれでスピーカーユニットをいくつ潰してしまったかわからない。

 測定環境も設備も持たない素人が聴感だけでスピーカの音を煮詰めていくのは不可能に近い。なにをするにしてもオリジナルから大きく変わらない程度にとどめ、施工も安いスピーカに限定すべだ。

 最後に、低音の増強は、あくまで能率と引き換えの効果であることを忘れないで欲しい。

 

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