スピーカーのインピーダンス特性を簡単に測る方法

 インピーダンス特性は、抵抗とICレコーダーがあれば誰でも測れる。今回はこれらの道具を使って測る方法をご紹介したい。

 

インピーダンス特性から何がわかるのか

 アンプの負荷に関係する最低インピーダンスのほか、グラフのカーブから次のことがわかる。

・低域再生限界(最低共振周波数f0c)
・バスレフの特性(ポートの共鳴周波fd)
・低域の過渡応答(f0cやfdの共振倍率)[4]
・ツイーターのアッテネータ構成(高域のインピーダンスが高ければ単純に抵抗直結)
・定在波、エンクロージュア、振動系内部の問題

これらはスピーカーの中身を知るうえで、とても参考になる。

 

インピーダンス特性の測定回路

 スピーカーのインピーダンスZspは次のような回路構成と式から求められる。

インピーダンス特性の測定回路図

Zsp=R・Vsp/Vr

R:セメント抵抗、Vsp:スピーカー端子の電圧、Vr:抵抗の両端電圧

 

 

 インピーダンス特性の測定法には定電流駆動と定電圧駆動の2種類あり、違いはRの大きさ。定電流駆動ではZspに対し十分大きなRを使い、定電圧法では逆にZspに対し十分小さなRを使う。定電流法ではスピーカーに十分電流を流せないほか、大きな抵抗を使う関係上誘導ノイズが乗りやすい。定電圧駆動の方が精度よく測れるとされる。

 式からわかるように、電圧は分母分子で単位が消えて電圧比になる。そのため面倒な計測器の特性補正や物理量への変換が不要で、市販されている普通のICレコーダが測定に利用できる。

(2020/6/3追記)
 Rの値は、ヘッドホン含め様々な負荷を使って実験した結果、負荷の公称インピーダンスの1/2~1/10の範囲で選ぶことで比較的精度の良い結果が得られることがわかった。

 


 

測定の流れ

 

1.テスト信号を作る

 測定に使うテストトーンはWaveGene[1]と、その配布サイトからDLできるユーザー波形を使って作る。ユーザー波形は、FLATSWEEP_63356 を使い、WaveGeneを -3dBの設定で出力する。

 インピーダンスの絶対値を正確に調べる場合は、共振のピークが十分成長するよう十分時間をかけて加振する必要がある。この場合、図のようにWaveGeneのWave1,Wave2をサイン波にセットして10Hz~1kHzまでを30秒以上かけてスイープする。

WaveGeneのトーンバースト出力設定

 

 

2.ICレコーダーで記録する

 最初に示した測定回路を構成する。WaveGeneからテスト信号を出力した状態にして、レコーダーの録音レンジをVspが飽和しないよう調整して記録する。Vrを測るときも同じ録音レンジを使うことに注意。

 

ICレコーダーを使ってインピーダンス特性を測定している様子 写真は測定回路を構成した例。

 ICレコーダーはライン入力できるTASCAM DR-05 を使い、44.1kHz WAV形式で記録。

 Vrは「浮いた電圧」なのでGNDに繋ぐとアンプの出力がショートする。電池駆動のポータブルレコーダを使うと安全。

 

 

3.FFT分析する

データを得たらWaveSpectra[2]で再生してVspとVrを周波数分析する。FFTの設定は、サンプルデータ数 32768、関数 flattopとする

測定データをWaveSpectraで分析したところ [測定モード]にして波形を再生し、[Peak]の結果(赤線)を得る。

 Peakの波形が落ち着いたら下にあるストップ[s]ボタンを押してオーバーレィファイル(OVERLAY.WSO)ファイルを書き出す。

 VspとVrは区別できるよう適当な名前にvsp.WSO、vr.WSO などにリネームして保存する。

 

 

4.インピーダンスを計算する

 インピーダンス特性計算マクロ(創造の館製、後ろのリンク参照)を開き、使用した抵抗値を入力し、保存したオーバーレィファイルを順番に読み込み込む。
 このマクロには機械インピーダンスの理論計算値のカーブを重ねてカーブフィットすることで損失係数ζmを調べる機能もある。

 

DALI ZENZOR1のインピーダンス特性を求めた結果 結果の例(DALI ZENZOR1、サインスイープで測定)。低い周波数まで十分な解像度で測れている。

 

インピーダンス特性のピークにカーブフィットした結果  横軸をリニアにして低周波の部分を表示した結果。

 破線はカーブフィットの結果( ζm=0.085)。

 
 

定電流法でインピーダンス特性を測定した結果  DALI ZENZOR1をR=1kΩとして定電流駆動で測定した結果(参考)。定電圧駆動よりピークの値が高い。

 

定電流法で測定した特性のピークにカーブフィットした結果 横軸をリニアにして低周波の部分を表示した結果。破線は ζm=0.080。

 

 


 

測定治具を作る

インピーダンス特性の測定冶具

 測定回路をバラックで組むと結線ミスやショートの危険があるので専用治具を作った。

 この治具で重要なのはあらゆる形の末端形状に対応できること。本機はバラ線、Yラグ、バナナ、ヘッドフォン(ステレオミニプラグ、モノラルミニプラグ)対応する。

 

 側面のステレオミニプラグが測定端子。Vsp- をコモンにしたステレオ2chでVspとVrを同時に測る。
 Vrは浮いた電圧なので、ここに繋ぐ測定器は電池駆動(もしくは電源ラインに絶縁トランスを入れた計測器)が前提となる。差動アンプで受ければPCのライン入力などに直接接続できるが、今回そこまでやらない。

 

インピーダンス特性測定冶具の回路図

 回路図。抵抗をマイナス側に繋いでVsp- をコモンにした。うっかり測定端子のコモンをアースと短絡してもショートしないので安全。

 ヘッドフォン用のプラグはステレオミニプラグのRchをNCにしてモノラルジャックに対応できるようにした。

 

 まずやらないと思うが、AMP側のヘッドフォン端子とスピーカー端子を同時に繋ぐと出力同士がショートするので注意。

インピーダンス特性測定冶具の中身 治具の中身。抵抗は0.2Ωをパラにして0.1Ωとした。

 

 

4端子法で抵抗値を測っている様子 抵抗は念のため測定して誤差の少ないものを選別。手持ちの抵抗を測ってみたが結構精度いいのでここまでする必要はなさそう。

 

 

ヘッドホン測定対応型にアップグレード

 2020/6/18治具を改良。ヘッドホン測定に完全対応した。回路のSW1はヘッドホンの左右切替用。接触抵抗を下げるために現物では2回路を並列接続している。

インピーダンス測定回路(改良版)

抵抗は外付けに変更。小型の抵抗はモノラルプラグに入れて差し込み式にした。セメント抵抗は先端をフェルール端子で端末処理してある。

インピーダンス測定用治具改良版

 測定用の抵抗セット。0.1Ω~200Ωまで、倍々のステップで準備。これでどんな負荷も測定できる。

 AMP側の端子をショートしてSpeakerから信号を入力すれば関連記事5の回路が形成出来る。抵抗の有無によりON/OFF法が実現でき、出力インピーダンスの周波数特性を測定できる(Vsp,Vrには同じ信号がパラで出力される。計測器側に両方繋ぐと、計測器の入力IMPがパラで入るの注意)。

インピーダンス測定用標準抵抗

 カナル型イヤホンの測定例。小型のカナル型はケーブルの抵抗がけっこうあるので公称値通りにはならない模様。

カナル型イヤホンのインピーダンス特性の例 

 

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<関連資料>
1.WaveGene
2.WaveSpectra