中華まんの蒸し方~究極の蒸し方はこれだ!

 多くの人が好む「ふわふわ」。同じふわふわでもパンのような乾いたふわふわと、コンビニのような「しっとりふわふわ」まである。家庭で中華まんを調理すると美味しくない。店頭やコンビニのようにならないのはなぜだろう。この謎の解明に取り組んだ。

 

コンビニの中華まん

コンビニで買ってきた肉まんの中心温度を測っている様子 写真はコンビニ(ファミリーマート)の肉まんとその中心温度。製造元は裏紙によると井村屋。重さ107g。皮の中まで「しっとりふわふわ」の食感は中華まんスチーマーで作られる。

 中華まんスチーマーの運転は、73±3℃、湿度100%、蒸し時間40分[1]

 

 実際に中華まんスチーマーを運用しているファミリーマートのオペレーションは、「冷凍」された食材をスチーマーに入れて1時間後に販売開始、販売開始から6時間で破棄だった。
 コンビニでは時間をかけて皮の奥深く水分を浸透させることで独特の「しっとりふわふわ感」を実現しているようだ。

 店員さんにスチーマーに入れた時間を聞いて、経過時間の違う商品をいくつか買ってみた。その結果、4時間を過ぎると水分を含みすぎて「しっとりふわふわ」を通り越し、水っぽくなることがわかった。

 

 

いろいろな蒸し方

 最初に中華まんの蒸し方を整理する。併記している容器”L”は鍋の容積ではなく、調理時に蒸気が充満する容積(以後蒸し容積と呼ぶ)。

 

普通に蒸す

 25cmの蒸し鍋で中華まんを蒸している様子 水を加熱し沸騰したときに出る蒸気を使って蒸す方法を「普通に蒸す」とした。

 左は蒸し鍋(GEO-25M 25cm、6L )。この鍋は普通の平鍋に、穴開き鍋を乗せた二段構造。蓋は蒸気穴なしの金属製。

 この構造を多段にすると「せいろ」になる。
 

 

18cm片手鍋で中華まんを蒸している様子 こちらは18cm片手鍋(1.8L)に蒸し器を入れたもの。少量蒸すときに便利。蓋は蒸気穴のないガラス製。

 

 

圧力鍋で蒸す

圧力鍋で中華まんを蒸している様子 圧力鍋に水と蒸し器を入れて蒸す方法。常温で蒸すより高温で調理できる。

 実験に使った圧力鍋はパール金属H-3553 , 4L。最大100kPa(120℃前後)の高温で調理できる。

 

 

電子レンジで蒸す

中華まんをラップにくるんで電子レンジに入れた様子井村屋レシピ

 井村屋の包装に記載されている方法。中華まんラップでくるんで電子レンジで加熱する。加熱が終わったらそのまま1~2分放置したのちラップを開放する。

 ラップの代わりに濡らしたキッチンペーパーで覆う方法がある(クックパッドで紹介されていた)ので、これもやってみる。

 

水を入れたマグカップの上に中華まんを載せて電子レンジに入れた様子マグカップ上乗せ

 ネットで話題になった、水を入れたマグカップの上に置きレンジで加熱する方法。水蒸気が食材に浸透しやすいよう、底紙を取る

 

スチームレンジの「中華まんあたため」を準備した様子中華まんあたため

 スチームレンジのプリセットプログラム(中華まんあたため)を使う方法。写真は日立のスチーム機能つき電子レンジ(ヘルシーシェフ MRO-LS8)。

 

レンジ専用蒸し器(山研工業 SP1243)をセットした様子レンジ専用蒸し器(山研工業 SP1243)

 オールプラスチック製の蒸し器。「少量の水を入れて電子レンジで加熱することで蒸し調理できる」という。

 

レンジでらくチン 曙産業 ゆでたまご4個用 RE-279レンジでらくチン 曙産業 ゆでたまご4個用 RE-279

 マイクロ波シールド付きの蒸し器。ゆでたまご専用。食品を加熱せずに水だけを沸騰させてることでレンジで蒸し調理を可能にした道具。

 

 

 


 

最適な調理条件を見つける実験

実験方法

 上でご紹介した「普通で蒸す」「圧力鍋で蒸す」「電子レンジで蒸す」について実験した。

 

しっとり感を評価する方法

 問題の食感(しっとり感)どうしたら把握できるか。これについて、次のように考えた。

 しっとり感が外皮に含まれる水分に関係する。とすれば、この水分量を測ればしっとり感を定量化できる。水分を直接測るのは難しいが、重さの変化から追加された水の量を把握できる。

中華まんの重さを正確に測っている様子 具体的には以下の計算式で評価した。

 重量変化(%)=100×調理後の重さ/調理前の重さ

 調理前から重量が増えていればその分、水を吸ったことになり、減っている場合は乾燥したことになる。
 写真は井村屋ゴールドあんまんの重さを測っている様子。

 

 

蒸し時間

  曖昧だといけないので、次のように定めた。

 ・蒸気を使う場合:十分沸騰してから食材を入れ、蓋をかぶせたところで時間カウントをスタート。
 ・圧力鍋の場合:設定圧に達してから(蓋がロックしてから)時間カウントをスタート。

 

食材

井村屋の中華まん 王将のふっくら豚まん

 スーパーやデパートで普通に手に入るものを用意した。
 写真左はスーパーなどで広く流通している井村屋の「冷蔵」商品。最もローコストな商品で調理前66.5g 前後。コンビニの商品に比べ具材が少なく、皮も薄い。
 井村屋にはゴールドシリーズがあり、こちらの重さは調理前88g 前後。
 右は「冷凍」商品。王将の豚まん。調理前77g 前後。

 

食材の温度

調理中の中華まんの温度を測っている様子  写真の接触式温度センサー(A&D AD-5605C)を使用して測定した。

 

 

 


 

実験結果

普通に蒸した場合の結果

普通に蒸した場合の重量変化を示したグラフ

 中華まんをおいしく食べられる重量変化は10~20%。重量変化の傾きが大きいほど蒸し調理が順調なことを示す。

 食材に記載が無いものは井村屋肉まん。
 調理時の環境は20℃、20~30%RH、食材温度6℃(以下共通)。
 IHの火力は300W=弱火、750W=中火相当。100kPaと書かれたものは圧力鍋。
 容積”L”は鍋の容積ではなく、調理時に蒸気が充満できる体積(蒸し容積)。

 

蒸し時間と食材中心温度の関係を示したグラフ

 中華まんをおいしく食べられる温度は80℃前後なので、少なくとも80℃以上にあげないといけない。

 

 実験結果から次のことがわかった。

1.中華まんの水分は、蒸気が食材に衝突&吸収されることで増える
 重量は火力に比例し、蒸し容積に反比例する。このことから、食材の重量(水分)の増加が蒸気の衝突&吸収によって起きていると推察できる。
 同じ火力のとき、容器が小さいほど重さが増えるのは、食材と衝突する蒸気が多くなる為。

 重量変化10%以上で「ふわふわ」になり美味しく食べられる。15%前後で「しっとりふわふわ」、20%を超えると「水っぽく」なった。

2.火力が足りないと重さが増えない
 蒸気を当て続ければ食材がどんどんそれを吸って重さが増える・・ではなかった。
 食材も加熱されて水分が蒸発しようとするから、蒸気が少ないと水分の供給と蒸発が平衡してしまい、時間をかけても水分が増えなくなる

3.冷凍からスタートすると大幅に重さが増える(場合がある)
 これは、解凍が進む過程で結露して出来た水を取り込んでいく為と見られる。冷蔵の食材もいったん冷凍することで同じ結果を得る。
 増える水分量は食材(皮の構造)によって異なるようで、井村屋ゴールドは冷凍スタートしても冷蔵とあまり変わらなかった。

4.蒸し時間は10~15分(冷凍はプラス5分)が目安
 中華まんをおいしく食べられる温度は80℃前後。必要火力の条件では67gの肉まんでは10分、井村屋ゴールド(88g)の場合は15分。冷凍スタートの場合はプラス5分でこの温度を満足することがわかった。

5.圧力鍋を使うメリットはない
 圧力鍋は煮物料理で時間短縮に役立っている。温度上昇が早く5分で100℃に達するが、早すぎて重量の増加が追いついていかない。蒸し調理で圧力鍋を使うメリットはない

6.蒸し調理では、容積に応じた火力が必要
 蒸し調理は蒸気を当てれば良いというものではなく、ある程度の密度が必要
 蒸し器の容積に対し火力が足りないと、

 蒸気の密度が薄くなり
→食材と蒸気の衝突が減り(水分供給が減り)
→加熱による水分の蒸発と平衡してしまい
→重量が増えも減りもしない

 結果になるようだ。食材の水分が増えていくために必要な蒸気密度が得られる火力を実験的に求めた。これをグラフ4に示す。蒸し調理では、必ずこの線より上の条件で調理する必要がある。

蒸し容積と必要火力の関係を示したグラフ

グラフ4 蒸し容積と必要火力の関係

  線の下側では食材の水分が増えていかない。蒸し容積に対して火力が足りないと蒸気の密度が薄くなってしまうため。

 蒸し器は必要最小の大きさのものを使うことが、少ない調理コスト(火力)で調理するためのコツ

 

 

電子レンジで蒸した場合の結果

電子レンジを使って中華まんを調理した結果をまとめた表 

 ほとんどのケースで重量変化がマイナス(乾燥)になっている。これは食材が加熱されたことで水分が逃げてしまった結果。スチームレンジやレンジ専用蒸し器を使っても乾燥するだけ。

 蒸し調理では食材に蒸気を衝突させる必要がある。レンジ調理すると乾燥になるのは、これらの器具で発生する蒸気が足らないうえ、食材が直接加熱されることで水分が逃げてしまう為とみられる。

 食材が加熱されてしまう場合は、ラップなどでくるんで水分の蒸散を防ぎつつ、短時間で加熱を終わらせるのが最も簡単。これが井村屋の包装紙に記載されたやり方。最後に1~2分放置するのは、蒸発した水分を食材に戻す為とみられる。

 塗らしたペーパーでくるんでも結果に大差ない。2%重さが増えているが、これはペーパーの水が食材に付いて濡れただけと見られる。

 ゆでたまご調理器は食材が加熱されないようマイクロ波のシールドをつけて無理やり蒸し調理を可能にしたユニークな商品。結果は申し分ないもので、レンジで美味しく作れる唯一の解。

水を入れたマグカップの上に乗せたものと、すぐ横に置いたものとの結果は同じ。マグカップの出口を塞いでいる底紙を取っても変わらない。
 レンジ調理では時間をかければかけるほど、乾燥が進んで食材が縮んでいった。

水を入れたマグカップの上に乗せてレンジ調理した後の様子 

(2022/11追記)
 マグカップ法は、サランラップで全体を覆う改良法がある。ただしこの方法は水分の減りを防いだだけで蒸し調理になっていない。

中華まんに金属の網を被せてレンジ専用蒸し器に入れた様子 レンジで蒸し調理は無理なのか・・食材が加熱されないよう、マイクロ波のシールドを作って実験してみたが結果は失敗。ステンレスのアミのようなものではダメらしい。

 

レンジでらくちんを使って調理した後の様子 マイクロ波シールド付きの蒸し器を見つけた。レンジでらくちん。結果は合格。500W 8分で中心温度84℃、重量10%増えて十分な品質を得る。200Wの場合は12分。

 水は標準で100ccだが、30cc消費するだけなので50cc入れれば十分。同時に1個しか蒸すことができないのが欠点。

 

 

レンジ調理でうまくいく方法は、今のところ、レンジでらくちんと、マグカップ上乗せ+サランラップ覆いのみである。

 

 


 

結論-究極レシピはこれだ!

 普通に蒸す。ポイントは、蒸し容積に合った火力を使って蒸すことのみ。具体的なレシピは次の通り。

1.食材を準備する

 一度冷凍させると蒸し時間がかかるが「しっとりふわふわ」にしやすい。

2.蒸し容器の容積を調べる

 蒸し容器は蓋ができるものなら何でもよい(品質に影響しない)。蓋は平らなものよりドーム型の方が食材に水滴が垂れにくい。蒸し容器が決まったら、蒸気が充満するおおよその容積(L)を調べておく。18cmの片手鍋だとだいたい1.8L。

3.下のグラフから必要火力を求める

蒸し容積と必要火力の関係を示したグラフ

グラフ4 蒸し容積と必要火力の関係(再掲)

 グラフの横軸(蒸し容積)は、蒸気が充満する容積。必ずこの線より上の条件で調理する

 火力WはIHの数字。300W=弱火、750W=中火に相当する。

 

4.蒸し器と水を入れ、蓋をして沸騰するまで加熱する

 空炊きに注意する。消費する水の量は、300W(弱火)で50cc、750W(中火)で200cc。少なくともこの1.5倍以上の水を使う。

5.食材を入れて調理する

 水が沸騰して蒸気が出てきたら、グラフで求めた火力にセットして食材を入れ、蓋を閉める。食材に水滴が垂れると品質を著しく損ねる。薄いタオルを挟むことで水滴を防げる。

 蒸し時間は、井村屋の一番ローコストな商品(67g)の場合10分。井村屋ゴールド(88g)の場合15分が目安。冷凍からスタートした場合はプラス5分する。

蒸したての肉まんを割った様子 完成写真。水分をたっぷり含み皮の内部までしっとりふわふわの肉まん。温度も80℃前後で美味しく食べられる。

 家庭でこれだけの品質が得られれば満足だと思う。

 
 

 

(2017/12/24追加)

 1個だけでよければお手軽にレンジ調理も可能。レンジでらくちん(ゆでたまご4個用)を使い、500W 8分もしくは200W 12分(井村屋の一番ローコストな商品67g前後の場合)。

 消費する水は30ccなので50cc入れればよい(線の半分程度の水深)。

 

 

蒸し器の選び方

 蒸し器とは食材が水に触れないよう持ち上げるためのゲタ。蒸気がよく通るよう沢山穴の開いたものが多い。大きさを可変にできるフリーサイズの蒸し器と、平板の蒸し皿がある。18cm以下の片手鍋では蒸し皿の方が便利。

フリーサイズ蒸し器の例 フリーサイズ蒸し器の裏側

 写真はフリーサイズの蒸し器。大きな違いは中央の支柱の有無。真ん中に支柱があると邪魔になるので無いタイプがお勧め。奥はアマゾンで見つけた中央に支柱がないタイプ(矢部製作所 H-623)。

 

蒸し器にも煮込み鍋にもなる GEO-25M 以前紹介したGEO-25M。沢山の食材を一度に蒸せる。

 広い蒸し器に1個では、ほとんどの蒸気が食材と接触しないで排気されてしまう。調理する食材の数に合ったものを選ぶことが大切だ。

 

 

<参考購入先>
蒸し器
中華まん

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