「換気口の風が寒い」「寝るとき寝室が冷え切っている」「キッチンのゴミ臭が充満」3種換気は単純でコストが安くできることから広く施工されている。しかし設計難易度は一番高い。施工後の調整が不可欠だが、大抵の建築業者は風量測定もせず「完成しました」といって引き渡してしまう。
設計のポイント
新築の換気設計はファンを作るメーカーに丸投げすることが多い。我が家の場合MAXが担当したが、出てきた計画がダメだったので自分でやることにした。自分で設計してみて気づいた24時間換気システムの設計のポイントと注意点をまとめてみた。
1種と3種のメリット・デメリット
住宅では1種(強制吸気+強制排気)または3種(自然吸気+強制排気)で計画される。それぞれのメリット・デメリットは次ようになる。
1種のメリット
・設計通りの換気が実現できる。
・建物の気密が怪しくても問題なく機能する(屋外と室内に気圧差を生じないため)。
1種のデメリット
・排気共に電動ファンを設ける必要があり、設備費がかかる。
・ランニングコスト(電気代)がかかる(3種の約2倍)。
3種のメリット
・設備費が安い。
・躯体内結露に強い(室内が負圧になるため、暖かいしめった空気が躯体内に入っていかない)。
3種のデメリット
・建物側に欠陥のない気密性能を要求する。
・設計通りに換気しない場合がほとんど。施工後の調整と手直しが不可欠。
3種ではサッシや窓に高気密のものが必要となり、ダクト、電気配線、コンセント、スイッチ、水道配管、エアコン配管などあらゆる貫通部に丁寧な気密処理が求められる。これらが不十分だと、吸気口以外のところから意図しない換気が発生して設計通りに機能しない。
設備機器のコストは3種が安いが、建物側の機密処理にコストがかかることを考えると、決して安いとはいえない。
1種と3種、どちらがいいかは微妙なところ。我が家ではランニングコストを重視して3種を採用した。
良く見落とされるユニットバスの基礎パッキン。ここを塞がないとユニットバスが外にあるのと同じになる。
3種との組み合わせは最悪。基礎パッキンからどんどん外気が入り込み、天井裏を通って室内へ。冬は断熱したはずのバスルームが寒く、冷たい外気が天井裏に入って建物の断熱が無意味になる[2]。
写真は見落としがちなエアコン貫通部。カビだらけ。手をかざすと外気が入ってくるのがわかる。
下の絵は、エアコン配管の貫通部処理の例。重要なのが赤い部分。大抵はここを省略して外気が室内へスースー。酷い場合はスリーブも付けない。
「エアコンを外してみたら裏側がカビだらけだった」となるのは、この赤い部分を省略した結果。大抵の電気工事業者は換気のことなど考えずブスブス穴を開けてそのまま。
これはエアコンに限らず屋外コンセントやアンテナ、光ケーブル、電話線の引き込みすべてに共通する。この図を見せてめんどくさそうな顔をする業者には、満足いく結果が望めない。
エアコン配管の貫通部とコンセントは、新築の時は必ず先行設置する。後から穴を開けると断熱材の傷つきが避けられない。先行設置では防水貫通スリーブが便利。これで外壁内側のコーキングを省略できる。
先行設置したエアコン貫通部とコンセント。キャップはナスタ製。屋外側のキャップは耐久性を考慮してアルミ製になっている。
集中換気システムはどうなの?
モーターでファンを回す構造上、どの方式を選んでも必ず寿命が来る。だいたい10年でベアリングからキシリ音が出始めることが多い。
3種のパイプファンなら似たものをネットポチって自分で交換すれば終わり、値段も安く5千円前後で済むが集中換気の場合はモーター交換で8万円前後かかるという。熱交換などやって10年エネルギーを節約してきてもこの時点で赤字になってしまうだろう。配管に溜まった埃は清掃しようもなく放置するしかない。
換気システムを考える場合は、このような設備の維持費を考えておく必要がある。
レイアウトのポイント
湿気・臭い・埃の出る場所を排気にする
基本、湿気・臭い・埃の出る場所(トイレ、洗面、キッチン、寝室など)を排気にして、普段人のいない場所に吸気を設けるのが正しい。これで、家の中が清浄な空気で満たされる。
温まった空気は上に行きやすいので、吹き抜けがあるなら吸気を1Fに集中するとよい。こうすると、2Fが温かく、2Fの個室で発生した汚れた空気も速やかに排出できる。冬は1Fのリビングだけ暖房することで、家中の温度差を少なくできる。
この基本を守らないと、「換気口の風が寒い」「寝るとき寝室が冷え切っている」「キッチンのゴミ臭が家に充満」などの問題が起きる。ところが、メーカーに換気計画を投げると、こうなってしまうことが多い。それは、現場を知らない人が机上で設計するため。
場所別の具体例
自然吸気レジスタ
1Fリビング、玄関、通路
排気ファン
個室、寝室、トイレ、洗面(人感式)、浴室、キッチン
とする。寝室、トイレは24時間換気機能付きの人感式、ドライヤーやヘアースプレーを使う洗面台の上には12cmクラスの人感式パイプファンが適する。パイプファンには湿度感応式もあるが、動作がいまひとつ信頼できない。キッチンはレンジフードとは別に排気を設けないとゴミ臭が溜まる。
埃が溜まりやすい寝室を吸気にするのは間違った換気設計の代表。これをやってしまうと、寝るとき寒く部屋に埃が溜まる。
写真は我が家の寝室。パナソニックの人感センサー付きの排気ファンを設置してある。布団をいじると埃が出るが、強運転に切り替わって早やかに排気される。寝返りで反応して強運転にならないよう、センサーの下半分に白い養生テープをはってある。
吸排気口の具体的な設置場所
吸気口は空気がよどまない場所に設置するのが原則。排気口は吸気口に対向する壁面の、部屋の隅に設置するのが原則になる。軒天の下に設けた換気口は、給気にしておくのが正解。
軒天の下を排気にすると軒天に室内の湿った空気が溜まって軒天がカビることがあるので注意したい。
ドアのアンダーカットは必ずしも必要ない
ドアを付けると、換気抵抗を減らすためアンダーカットが必要といわれるが、それは気密の高い部屋の話。実際はドア外周の隙間だけで十分な場合が多いようだ。アンダーカットを設けると費用がかかるうえ、音漏れしやすくなる。
ドアの圧損はパイプファンの運転音で確認できる。ドアの開閉状態によって圧損が増えなければ、ファンの運転音が変わらない。我が家の寝室はこの方法でアンダーカットが要らないことを確認した。
キッチンのレンジフードの排気量に注意
レンジフードは「強」運転のとき 400m3/hを超える換気量を要求する。これを24時間換気システムの吸気だけでまかなうのは無理。
窓を開ければ済む話だが、それをやってくれるとは限らない。フード連動ダンパか、差圧感応式の吸気レジスタ、同時給排装置を別途設けて欲しい。
写真はヤマハのサイクロンフード。上の穴がが同時給排の吸気穴。計算上必要風量の6割しか吸気しないが、吸排気のダクト穴が同じ径なので、これで十分だった。
施工結果をチェックする方法
3種のシステムが設計通り機能しているか、確認をお勧めする。方法は、風速計を使って自然吸気口の風速を計るだけでよい※。φ100で1m/s 前後(手をかざすと風が吹き出している)の風速がないといけない。
おそらく大半はNGだろう。ほとんどの施工業者は作りっぱなしで風量の測定などしない。まともに3種が機能するのは、F&Pの家くらい[3]。
※:1m/sの微風を精度よく図るのは難しい。実際は広口じょうごを利用するか、事業者はカスタムWS-05がお勧め。
表は我が家の風量を自分で測った結果。設計通りになることはまずないので、施工後に換気部材の見直しが必要になるのが普通。
取付=終わりではない。完成に5年かかる
どんなに綿密に設計しても、設計通りにならないことが多い。実際の空気の流れは建物の完成後でないと検証できない。たとえば給気レジスタの周りや天井にカビが出た場合は、排気にすべきだったところを吸気にしたせい。この場合、吸気と排気を入れ替えなければならない。
つまり、最初の数年は様子を見ながら、吸排気の入れ替えをしていくことになる。完成まで5年かかるとみておきたい。
後から壁裏の配線を追加できない。そこで、後から吸気レジスタを強制吸気や排気に変更できるよう、全てのパイプダクトに100Vの電線を先行配線しておくと良い。我が家の場合はこれをやって正解だった。
設計支援ソフトは使えるのか
換気システムの設計は設計支援ソフトを使うと簡単。しかし中身がブラックボックスで、間取りに対応したものか疑問だ。
換気システムの設計は、抵抗回路網と同じ。PQ線図とレジスタの抵抗曲線があればエクセルで計算できる。私は中身を全部把握して自分で設計したかったのでエクセルを利用した。
設計の注意点(自分でやる場合)
直列回路、並列回路については次のように考える。
PQ線図と抵抗曲線の交点が動作点になるが、ここがPQ線図の横軸(最大風量)の半分より右側になるよう設計する。
最大風量より左側の領域は軸流ファンとして機能しない領域になる。
必要換気量の考え方
換気ファンはずっと動かして使うのが原則。必要換気量は夏と冬で違うのが現実。換気回数0.5(回/h)に合わせて常時換気すると冬に寒く、電気代もかかる。普段いない部屋まで0.5(回/h)で換気するのは無駄なこと。
上述したように、寝室やトイレ、洗面脱衣場については普段「弱」運転していて、センサーの反応で「強」運転に切り替える形のファンがよい。0.5(回/h)は全てのファンが「強」運転の時、達成できれば良い。
してはならない設計
3種で個室を自然吸気にする⇒NG!
換気設計を業者に投げると、トイレや浴室を排気にして、個室を吸気にしたシステムになることが多い。「人のいる個室は、新鮮な空気を導入するのが望ましい」というのがその理由だが、間違い。
このシステムは、全ての部屋の窓を締め切った場合でしか成立しない。例えば、どこかの部屋(リビングなど)で窓を開けられると換気経路にショートカットが出来てしまい、個室の換気量がゼロになってしまう。
個室に外気が直接入るため冬季は部屋が冷え切り、暖房を入れても換気口から冷気が入って寒いことになる。寝室ではフトンから出たホコリが排出されず、部屋に溜まってしまう。
屋根裏で集中換気する⇒NG!
屋根裏などに大型の排気ファンを設置して集中換気するシステムがある。これも窓やドアがすべて締め切られた状態で成り立つもの。
このシステムは屋根裏換気装置のイニシャルコストが高く、音が問題になることがある。上述したように天井裏を走るパイプダクトには埃が溜まる一方であり、清掃手段がないほか、だいたい10年ごとにモーター交換で8万円前後の出費が出る。
熱交換式(ロスナイなど)にする⇒やめた方が良い
3種で個室が寒くなる課題について、ロスナイなどの熱交換式の給排気装置を導入して改善しようとする施工業者もある。この設備の欠点は、
設備が大型のため目立つ、設備費用がかかる、フィルターやエレメントなどをこまめに清掃・交換しないと性能が維持できない、ランニングコストや設備の交換費用が高い。
などがある。1種よりはるかに高コストでデメリットが多い。
気密検査の注意
気密検査を1回で終わらせるハウスメーカーに注意。通常は次のような段階的な工程にしないとダメなはずだ。
気密検査(現状検査)⇒修正工事⇒気密検査(確認検査)
気密検査で建物を負圧にすると、気密の悪いところから空気が入ってくる。そこを見つけて丁寧に修正しなければ、数字だけ目標を満足しても不十分である。それは1カ所から大量に空気が入るケースがあるため。
確認検査でNGなら、修正工事をして、再検査を行うのが本当だ。
施工後の運用とメンテナンス
吸気フィルターの清掃
自然吸気レジスタに付属してくるフィルターは薄くて目が細かいためすぐに目詰まりしてしまう。そこで、キッチン用の金属たわし(ステンレスのリボンをカールさせたもの)をフィルターの代わりにパイプダクトの中に詰める形にする。これで少なくとも9年は何もしなくてよくなる[1]。
長時間運転停止すると壊れやすい
冬場の換気量を抑えようと、一部を止めてしまう人がいる。寒いからと言って止めてしまうと、換気扇のモーターが外気や湿気にさらされてすぐに傷んでしまう。シャッターを駆動するためのソレノイド(プランジャー)が錆びついて動かなくなってしまう場合もある。
冬場寒くなるのは、換気設計が失敗している証拠。そこでファンを止めるのではなく、センサーに反応して強弱が切り替わるタイプに交換するか、吸気になっている場所を排気に変更することを検討してほしい。
<参考購入先>
換気設計のアドバイス 具体的にどうしたよいか、アドバイス承ります
パイプファン/自動運転(湿度)常時換気付 【FY-08PFH8VD】
寝室や個室にお勧めのパイプファン。運転音が非常に静かで気にならない。我が家では個室を全部これに変えました
パイプファン一覧 いろいろ買ってみましたが故障しにくさ、音の静かさでパナソニック製が一番のお勧めです
防水貫通スリーブ エンビパイプを突き出して防水テープベタベタ、ではなく専用部材を使うのがベターです
<関連記事>
1.24時間換気のエアフィルターをノーメンテナンスにする
2.断熱施工の落のとし穴~間違った断熱施工の例と対策
3.FPの家~手堅い選択肢の一つ
高気密・高断熱のサッシは隙間だらけだった~新築で後悔しないサッシの選び方