塗料に石灰を混ぜて塗装することで下地材料の質感を漆喰や土壁のようにする技法が知られている。しかし石灰を入れすぎると塗装が弱くなったりひび割れしてしまう。そこで最適な混合比を検討してみた。
用意した材料
塗料はアクリルシリコン系2種 アサヒペンのバリューコート(現行商品スーパーコート)とマットカラー。どちらもホームセンターで売られている優秀な水性塗料。比重は水よりやや重い1.2~1.3。
バリューコートは5分ツヤ程度の仕上がりであり、ツヤが足りない時は別途艶消し材を混ぜればよい。艶消しの仕組みは細かい粒子の混合なので、艶消し材を混ぜるとその分塗料の性能が落ちる。今回は塗膜が弱いとみられるマットカラー(艶消し)を使って実験した。
消石灰と有機石灰。消石灰は水酸化カルシウムの微粉末。かさ比重0.67。有機石灰は貝殻などを砕いたもの。いろいろあるが、写真の商品はかさ比重1.1だった。
苦土石灰はドロマイト(炭酸カルシウム+マグネシウム)。写真の商品ではかさ比重が塗料と同じであり、重量比=体積比として扱うことが出来る。
消石灰をふるい(100均の茶こし)にかけた様子。非常に細かい粉を含むが、粒子の大きいものも含まれる。
有機石灰。石灰に比べると粒子が大きく、微細な粒子をあまり含まない。大粒の粒子を多く含む。
苦土石灰。消石灰並みに微細な粒子を含むが、メッシュを通り抜けない粒子は比較的少ない。大粒を若干含む。
どの場合も大粒の粒子はダマになっているだけなので、強く擦りつけることで粉々になる。壁のコテ塗りならこれでもいいが、塗料の場合は事前に取り除く必要がある。
最適混合比率を調べる実験
ガラス板にサランラップを貼って、各種混合比に調整した塗料を塗る。材料は、マットカラーと苦土石灰を使用。乾燥後、サランラップを折り曲げたり、引っ張ったりして様子を見る。
表1.マットカラー+苦土石灰の結果
石灰混合比 | 密着 | 伸び | 備考 |
20% | ◎ | ◎ | 混入無しとほぼ変わらない |
40% | ◎ | △ | 下地に追従せずひび割れることがある |
80% | × | × | 乾燥時にひび割れ |
実験結果からすると80%はボロボロ剥がれてしまいあきらかに入れすぎである。2割にとどめれば塗料としての性能が混合無しとほぼ変わらない。
苦土石灰の重量比は体積比に等しいので、この結果をかさ比として他の石灰に応用すれば同等の結果を得る。
石灰の種類による仕上がりの違い
ガラス板にサランラップを貼り、各種石灰を前の実験で最も良かった、かさ比20%程度で混合した塗料を塗る。乾燥後、サランラップを折り曲げたり、引っ張ったりして様子を見る。塗料は少しツヤの出るバリューコートを使った。
シワはサランラップのせいなので無視して欲しい。消石灰と苦土石灰は大差ない。微細な粒子は塗料の粘性をあげるだけで表面模様に寄与しない。表面のザラザラ模様になってくれる粒が少ないため、のっぺりした感じになる。
細有機石灰は細かすぎない粒子がメインなので、ほとんどの粒が表面模様に出てくる。そのため土壁に近い自然な仕上がりになった。
有機石灰、苦土石灰の品質はいろいろ。同じ名前で売っていても、商品によって違うことに注意してほしい。
計量は重量比?かさ比?
消石灰と苦土石灰の比重は2倍くらいちがう。そのため重量で計量すると、軽い方を入れすぎてしまう。かさ比重で測ることで、どの石灰を使っても同じ結果にできる。
標準施工要領
シーラー等の下塗りを除くと、基本的には次の形でよい。
標準:塗料だけ1回+石灰入り1回
厚塗りしたい:石灰入り2回
滑らかに仕上げたい:石灰入り1回+塗料だけ1回
入れる石灰の量は、かさ比20~25%が良い。つまり石灰の種類にかかわらず
塗料:石灰=1:0.2~0.25(かさ比)
とする。石灰は事前に30メッシュ程度のふるいにかけて大粒の粒子を取り除いてから使う。これにより、品質の良い仕上がりを得る。
失敗の原因
石灰の入れすぎたり、厚塗りするとひび割れる。厚塗りせず、数回に分けて塗るのが無難。
園芸用の有機石灰は使えない?
園芸用の有機石灰は水で固まらないので使えないとする噂があるが、料に混ぜて使う場合は塗料だけで固まるので関係ない。違いは仕上がりだけである。
砂は使えないのか
ツブツブ感を増すためなら「砂」も使えそうだが、砂粒だけだと底に沈殿しやすい。石灰は細かい粒子を含むため同時に粘度があがり、この問題が起きない。
石灰は屋外だと徐々に風化してしまう。シリカ粉がベストとみられるが、一般に入手できない。
<参考購入先>
ふるい 裏ごし用がちょうどいいです
アサヒペン塗料
消石灰
苦土石灰
有機石灰