フルデジタルアンプの問題点と実力

 入り口から出口まで全てデジタル処理し、一切のアナログ処理が介在しない「フルデジタルアンプ」は、アナログでは望み得ない高精度のボリウムコントロールと忠実な信号伝送が期待できる。しかし、このタイプのアンプはまだ発展途上で、いくつかの問題があるようだ。

 

演算の桁落ちによる情報量の減少

  ボリウムでゲインを下げるとどうなるか。アナログアンプでは半導体の特性やノイズによって情報が損失するが、デジタルの場合は演算処理の桁落ちによって情報の欠落が起こる。トーンコントロールでも同じ。

 問題が最も目立つのはゲインを下げた場合で、これをわり算で処理すると小音量において極端に情報量が減る。これに関しては、わり算をやめ、出力の波高値を変えたり(S-Master Pro のパルスハイトボリウム)、小音量用の低電圧電源を別途用意し、切替えて使う(ケンウッド R-K1000など)などの改善が試みられている。

 

左右の位相誤差

 左右にゲイン誤差が無くても位相誤差があると音像定位がズレる。アナログアンプの位相は振幅特性だけで決まっていたが、デジタルの場合は無駄時間があるため可聴域に位相ズレが観測されてしまう。

 位相誤差はスイッチング周波数で決まるため計算で求められる。たとえばケンウッドのR-K1000では20kHzで10度の群遅延があるので、10/(360×20×103) = 1.38μ s= 720kHz あたりで駆動していると推定できる。
 20kHzで10度という数値は聴感で解るはずもないが、可聴域に誤差が出ていると気になる。無意味な過剰スペックはHi-Fiオーディオ機器のモットーだからだ。
 ちなみにシャープのSG40は5.6MHzスイッチングだから20kHzの位相誤差はほぼゼロ(測定限界以下)になる。

 

DF(ダンピングファクター)が低い

 デジタル信号では原理的に電圧フィードバックがかけられず、結果として出力インピーダンスを下げられない。つまりフルデジタルでは、アナログアンプのような高いDFは実現できない。この問題は原理的に改善困難といえる。

 現在のデジタルアンプの多くがフルデジタルではなく、プリ部をアナログで処理している。こうすれば、ここにフィードバックをかけることでDFを高くできる。「フル」のデジタルアンプが少ないのは、この問題が原因の一つかも知れない。

 

負荷によって特性がかわってしまう

 デジタルアンプでは、出力にデジタルをアナログに変換するためのローパスフィルタが入っている。このフィルタのカットオフやQ(共振倍率)が繋ぐスピーカのインピーダンスによって変わってしまう。ネット上にはこのことを大げさに取り上げた記事もあるが、アンプで規定されているインピーダンスを逸脱した負荷を繋がない限り、問題はない(可聴域以上の話)。

 

フルデジタルアンプの商品例

 フルデジタルアンプの例に、ケンウッド(R-K1000)、ソニー(TA-F501 S-Master Pro 搭載機)がある。
 ケンウッドは音量調整をわり算で処理しているのか、ボリウムレンジを変更できるAModeが付いている。このモードを解除すると音場が多少、希薄になるようだ(レベルが1dB変わるので、視聴の際は補正が必要)。

 ソニーとケンウッドのDFはどちらも実測20前後であり、半導体アンプとしてはかなり低い部類に入る。これだけDFが低いとどんなに太いケーブルを使っても5%程度のQの上昇は避けられない。しかしDFが低いことを「音の特徴」と解釈することも可能だ。たとえば最新のデジタルアンプの音調は、真空管アンプに近いという風だ。

 ソニー TA-F501の音質は実に優秀で、低音に芯があり細かな音がよく分離して聞こえる。無論、ケンウッドも優秀で、フルデジタルのメリットを堪能できる。フルデジタルには上記のようにいろいろ問題があるが、出てくる音からは問題を意識させない。このピュアで分離の良い音は、価格が1桁~2桁以上高いアナログアンプと同等、もしくは越えており、もうこれで十分と思わせる実力がある。

 

デジタルアンプの音は、値段に比例しない

 デジタルアンプには10万円を超える高額な商品もあるが、対象外。デジタルアンプは本来安く出来るので、数万円の商品で十分だ。10万円を超えるものは、無駄な所にコストがかかっていると見るべきである。ソニーにはより高額な商品もあるが、安心を求めて上位機種を選択するのは間違いだ。価格と音質は比例せず、出力は小さい物ほど音がよい傾向にあるからだ。この原則はデジタルアンプでも変わりはない。

 デジタルアンプの発信素子を取替えてオーバークロックした改造品が、元の商品価格より高い値付けで出回っている。音質改善に疑問があるばかりか、発熱が増えて寿命が短くなる懸念がありお勧めできない。

 

audioset 

 写真はデジタルアンプ比較テスト時の様子。我が家では結局、ソニーTA-F501 がリファレンスになった。ネットでみかける本機の評価は、外観の印象を言葉にしたような内容が多いようだが、この音は本物。
 ケンウッドの作りはミニコンポの延長。Hi-Fi機器として見たとき気になる点が多い。

 最近のコンポは小さいためラックががら空きになった。しかし重量物だったアンプが小型軽量になったのは喜ばしいことだ。

 

<参考購入先>
デジタルアンプ一覧
ソニーのデジタルアンプ一覧 TA-F501はいまも入手可能です
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