スポーツカーの選び方~86,BRZ,GT-R・・実はつまらなかった本格(風)スポーツカー

 スポーツカーと称するクルマが売れない大きな原因に、メーカーがスポーツカーを作ってこなかった事があるのではないか。ここで「スポーツカーなら昔から沢山ある」と思うかもしれないが、それは違う。

 

ほとんどのスポーツカーはスポーツカーではない

 2016年、86・BRZとGT-Rが新しくなる。変更点はいろいろあるが、要するに見た目を変えてちょこっとパワーアップするお決まりのパターン。その目的は明らか。販売のテコ入れだ。

 私は、こういったスポーツカーと称するクルマがあまり売れない原因は、メーカーがスポーツカーを作ってこなかった事にあるとみている。「スポーツカーなら昔から沢山あるじゃないか」と思うかもしれないが、それは違う。

 確かに「スポーツカー」と称して売られている(売られてきた)クルマは沢山ある。しかし、そのほとんどは加速が凄いだけのハイパワー車か、スポーツ風の外観を持つラグジュアリーカーだった。

 

スポーツカーのパワーはどのくらいあればいいか

 スポーツカーとして成立するために必要な最も重要な条件に、パワーと重量の比率がある。これについてはパワーウェイトレシオが知られているが明確な基準が無い。ここは以前公開した次のグラフが参考になる[2]

走りが楽しく感じられる車重の限界を示したグラフ

グラフ1:走りが楽しく感じられる車重の限界(経験則)

 重量をパワーで補うにも限界がある。車重1.3トン、排気量2000ccがその上限。これ以上になると「応答」が鈍くなり、いくらパワーがあってもスポーツカーは成立しない。

 

 塗りつぶしの領域に入るクルマはスポーツカーの素質を持っている。こういうクルマはサスペンションや操作系フィールなどの条件[1]が揃うと、まるで手足の延長に強力な動力が追加されたかのようなイメージで、思い通りに操れるクルマになる。

 領域から出たところにあるクルマは決してスポーツカーにはなれない。流線形のボディ、エアロ、大径ホイール、レカロ、6MTなどを与えたところで、それはスポーツ風の外観を持った普通のクルマだ。

※:グラフの左端(軽自動車)のNAの領域に入るクルマに「軽トラック」がある。これもスポーツカーの素質を持つクルマの一つだ。

 

ターボとNAどちらがいいか

 同一車種でターボとNAが用意されている場合、選択に迷うことがある。ターボの場合、普通の乗り方だと概ね2500回転以下ではブーストが利かず、同排気量のNAよりパワーが落ちることを知っておきたい。最近はごく低回転でピークトルクを発揮するものがあるが、これも実際にターボが効くのは2500~3000回転から。

 ターボとNAの選択は、2500~3000回転より上か下、どちらを重視するかで決まる。具体的には、回転を落とさずに走れるケース(高速道路など)で楽しめるのはターボ、3000回転以下を多用する街中やワインディングではNAが有利な傾向がある。

 NAは非力では?と不安に思うかもしれないが、上述したグラフ1の領域に入っていれば「非力でつまらない」結果にはならない。

 

ATとMTどちらがいいか

 ATはトルクコンバーターのトルク増幅作用がある。同じクルマでATとMTが用意されている場合、ATの方が低速トルクが豊富で走りやすいことを覚えておきたい。また、ATは低速トルクが細るターボとの相性もよい。

 同じターボでも小さい排気量で大馬力を絞り出す高圧縮ターボは避けたい。こういうクルマは低回転トルクがスカスカで乗りにくい[3]。VTECなどの超高回転型エンジンも同様に低速トルクが細い欠点がある。

 

心地よい「加速感」がある

 加速感は、強ければよいというものではない。ドライビングを継続して楽しめる「心地よい」領域がある。加速感が少ないと「遅い」「つまらない」と感じてしまい、強すぎると「不快」となってクルマを降りたくなる。

 心地よい加速感を得るための領域は、上記グラフ1の線から少し下までで。それ以上の動力性能は、無駄である。

 

大パワーは一度経験すれば十分

 GT-Rやインプレッサ、ランエボといった「大馬力」のクルマに憧れることがある。しかしこれらのクルマはパワーと引き換えに快適性が犠牲になっていることが多い。スポーツカーでは快適性能も重要なスペックだと考える[1]

 とはいえ、これらのクルマで体験できる「強烈な加速を一度味わってみたい」、そう思う人もいる。この場合、他人のクルマで体験させてもらうといい。パワーは飽きやすく、強烈な加速も一度体験すれば十分である。

 

速さはどうでもいいこと

 スポーツカーはよく「レーシングカー」と混同される。両者の区別が曖昧な人も多い。レーシングカーは速く走ることを目的に作られたクルマであって、スポーツカーではない。

 スポーツカーにとって、速度やタイムは重要ではない。「ゼロヨン何秒」「ニュルのタイムが何秒」といったことは、どうでも良いこと。クルマ雑誌を読みすぎるとサーキットのタイムが重要であるかのように勘違いしやすくなる。

 優れたスポーツカーは、走り出した瞬間や、ごく低速から運転操作そのものを「楽しい」と感じさせてくれる。渋滞でゴーストップを繰り返すときでも、コンビニの駐車場にバックで停めるときでも、十分その良さ(主に応答の速さ)を実感できる。

 「速さ」「パワー」といったものは、スポーツカーの一部に過ぎず、過剰なパワーを求めると快適性や操作フィールなど、走りの楽しさが犠牲になる。速度やパワーの延長に走りの楽しさは無いことを知っておいてもらいたい。

 

消費者の期待を裏切り続けた結末は・・

 GT-Rや86・BRZといった、スポーツ風のクルマを買った人は今頃どう思っているだろう。おそらく

「スポーツカーってこんなもんだったのか・・」

そんな感想で「次も同じ車を買おう」と考える人は少ないのではないか。

 メーカーは長いこと、スポーツカーのような外観と装備を与えた、乗り心地が悪く疲れるだけのクルマを「スポーツカー」と称して売ってきた。そんなクルマが消費者を満足させるはずがない。こういうことを続けていると、スポーツカーの市場は消えてしてしまうかもしれない。

 

もし86にターボが与えられていたら

 GT-RはR32の前期型が頂点だった。スペック以上の実馬力と4WDのおかげで直線だけは非日常を体感できるクルマだった。その後どんどん車重が増加し、今ではクラウンより重たい怪物になっている。

 86・BRZのNA2L、1.2トンというスペックは、上記グラフの領域をはみ出している。AE86の軽快な走りを期待して買った人は、がっかりしたに違いない。もし86・BRZにターボが与えられていたら・・まったく違った評価を得ていたに違いない。

 

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<改訂履歴>
「間違いだらけのスポーツカー選び~速度やパワーの延長に走りの楽しさは無い(2007/8/14)」の内容を本記事に加えて統合しました。