サブウーファの音が遅れると言われるが、具体的に何秒遅れるのか、測定した事例が見あたらない。そこでトーンバーストを使って遅れを実際に測ってみた。
遅れをどうやって測定するか
スピーカーの過渡応答を測定する方法にインパルス応答法が知られている。この方法はすべての周波数帯域の結果が同時に得られるが、FFTアナライザなどで伝達関数を計算する必要があり、アマチュアにはまだ敷居が高い。
過渡応答を調べる方法に、トーンバーストを使う方法が知られている。成長が遅い低周波を十分なエネルギーと時間をかけて加振でき、機器もICレコーダーといくつかのフリーソフトだけで測定できる。今回はこの方法をご紹介する。
トーンバーストの応答を測ると正弦波が成長する形の応答曲線を得る。この包絡線のカーブを1次遅れの応答曲線 Exp(-t/T)で近似すると、遅れの大きさを表すT「時定数」が得られる。T は振幅が63.2%立ち上がるまでの時間と定義される。
10波のトーンバースト。WaveGeneというソフトを使って作れる。トーンバーストの応答はICレコーダーがあれば記録できる。
本記事ではこの測定にソニーのICレコーダー(ICD-UX523F)を使用した。
トーンバースト応答波形に1次遅れの応答曲線 Exp(-t/T) を重ねてカーブフィットする。すなわち包絡線と最もよく一致する T を求める。この作業は最後にご紹介するエクセルのマクロを使うと簡単。
実測例ではより分かりやすくするため正負反転したカーブを同時表示させている。
共振点では綺麗な包絡線を描いた成長&減衰波形になるためカーブフィットしやすく、比較的精度の良い結果が得られる。
この測定法を以後「トーンバースト法」と呼ぶ。
<参考>
時定数T は、共振倍率Qと共振周波数fcがわかっている場合、次式から計算できる[1]。
T=Q/(π・fc)
トーンバーストを使った測定の問題
始点はどこか?
トーンバースト応答の始点がよくわからないことがある。始点がわからないとカーブフィットできない。図の例で本当の始点は破線の先端付近とみられる。
始点はスピーカーの非線形特性のほか、無駄時間(観測点に音が達するまでの時間遅れ+デジタル処理の遅れ)の影響でズレてしまう。無駄時間は評価の対象でないので排除しなければならない。
上の図のように、何もない線上にあるはずの始点を求めるにはどうしたらよいのか。入力波形と同時に記録しても無駄時間や位相ズレなどで判然としないことが多い。
そこで、終点を探してそこから逆算する。終点からトーンバーストの周期×波数を差し引いたところが始点だ。
図は応答波形と入力波形を終点が一致するよう重ねてみたところ。2つの矢印はそれぞれ始点と終点を示す。
終点は、そこを過ぎると波のピーク値や周期が変動する。図のように波形を重ねなくても、その特徴に注目して探せば見当がつく。
共振点以外の応答を調べるのは難しい
共振点以外では始点と終点で励起されるいろんな周波数がノイズになって基本波が見ずらい。バンドバスフィルターを通すと綺麗になるが、振幅に歪が出てカーブフィットできない。この方法は基本的に共振点の応答を求めるのに有効である。
実測例
ヤマハ NS-SW210(サブウーファー)
ポート共鳴周波数付近を加振し、カーブフィットして得た遅れは37ms。上下の振幅に差があるのは2次高調波が原因なので下の山に合わせるのが正しい。
パイオニア HTP-S333(付属サブウーファー)
ポート共鳴周波数付近を加振し、カーブフィットして得た遅れは、立ち上がり14ms、立ち下り18ms、平均16ms。
補足:無駄時間や群遅延との違い
遅れを表す指標には、時定数のほかに「無駄時間」と「郡遅延」がある。
「無駄時間」には、音速によるもの(スピーカーから発した音がマイクに到達するまでの時間)がある。デジタル処理系では本質的に無駄時間が存在する(音楽業界では「レイテンシ」と呼ばれる)。
無駄時間は周波数に関係なく一定なので、遅れの評価から除外する必要がある。トーンバースト法ではカーブフィットの始点を応答の始点に一致させることで除去できる。
「郡遅延」とは、伝達関数の位相特性の傾き。遅れを評価する指標に使われる。トーンバースト法で求めた共振点の時定数と群遅延は同じ値になる。音圧から実測された群遅延には無駄時間が含まれるので、評価の際に差し引く必要がある(REWというソフト[2]を使うと、これを計算できる)。
<参考購入先>
サブウーファー
<関連記事>
1.サブウーファーの音の遅れを測る2~インピーダンス特性から遅れを算出する
サブウーファーの最適な置き場所はここだ!~音が遅れて聞こえる真の原因を解き明かす
<参考文献>
2.Room Acoustics Software
<測定・データ処理の方法>
(1)WaveGeneでトーンバーストをつくり、これを再生してICレコーダーなどで記録する(WAV形式)。
(2)spwave(フリーソフト)を使って波形を切り出し、データをテキスト形式で保存(拡張子をcsvやtxtに変えておく)する。
(3)テキストデータをエクセルに読み込んで下記のワークシートにペーストする。
(4)開始時間や振幅を調整してカーブフィットする。
過渡特性計算ワークシートaudiocal3