「ボワンボワン響く」「音が遅れる」それはこれまで、サブウーファーが原因とされてきた。本当にそうか。「遅れ」の真の原因を突き止め、サブウーファーの最適な置き方を検討した。
サブウーファーの遅れを改善してみる
スピーカーシステムは、吸音材を多めにすると音が大人しくなり、少な目にすると元気で余韻の多い音になる。これは吸音材の量でシステムのQ0(最低共振周波数における共振の鋭さ)が変わるため。
以前ご紹介したように、Q0は過渡応答(音の遅れ)と関係あるから、Q0を下げれば遅れが改善される[2]。そこで、音が遅いと嫌われるサブウーファーの遅れを吸音材で改善できるか実験してみた。
実験方法
低周波の調整には、ふんわりした厚手の吸音材が役に立つ。今回の用途にちょうどよいものに、お魚のろ過装置で使うウールマットがある。今回はこれを使う。
対象機はヤマハ NS-SW210。分解してみると、ほとんど吸音材が入ってない。ユニットすぐ横に小さなフェルトの切れ端があるのみ。これに吸音材を追加する。
条件を、なし(吸音材の追加なし)、半分(ウールマット4枚)、Full(ウールマット8枚。隙間をほぼ埋めた状態)とした。
写真は「半分」の条件。追加した吸音材の配置は、上面1枚、底面2枚、マグネット背後に1枚。
木ねじを外したら、そのねじ山に潤滑にワセリンか、固形石鹸を塗っておくと以後脱着が楽。
吸音材に使用したウールマット。多くはスカスカの低密度だが、最近は吸音材として使えそうな高密度版もあるのでこれを使用。実測密度はグラスウール24K相当である。
実験結果
図1はインピーダンス特性。吸音材を入れたことでQ0(ピークの尖り)が下がっている。f0cの山の裾にあった歪も消えて綺麗なカーブになった。バスレフポートの共鳴周波数fdは58Hzだが、この付近のカーブはあまり変わっていない。
図2はポート付近の音圧周波数特性。「なし」では600~800Hz付近に内部定在波とみられる山が目立つが、吸音材で低減されている。「Full」ではポートの音圧が低減しており入れすぎと判断できる。
結論〜吸音材ではあまり改善できない
サブウーファーに吸音材を入れても遅れはあまり改善しなかった。ただし、インピーダンス特性のカーブが綺麗になり、内部の定在波が抑制されて音の品質が向上した。
以上結果からすると、遅れは改善しなくても吸音材は入れた方が良く、その量については、出力音圧特性とのバランスから「半分」がベストとみられる。
ダンプド・バスレフにしてみる
先に紹介したウールマットを使ってダンプド・バスレフを実験してみた。
条件は「なし」のほか、半分(厚さ1cmに薄く裂いた10×10cmウールマット)、Full(ウールマットを深さ10cmまでふんわり詰めたもの)を試した。その他、フェルト(10cm×20cm 厚さ1mm)も入れてみた。
「半分」の条件の様子。
遅れはポートの共鳴周波数fdでトーンバースト加振した波形をカーブフィットして求めた[1]。
表1.NS-SW210の吸音材の量と音の遅れ
遅れ(ms) | 音圧レベル(dB) | |
なし | 37 | 0 (基準) |
ウール半分(100×100×10t) | 27 | -7.0 |
ウールFull | (判読不可) | -15 |
フェルト(100×200×1t) | 28 | -5.4 |
ポートの内側を吸音することで、ポートの遅れをかなり改善できる。ただし、同時に音圧レベルが下がってしまう。つまり、遅れと音圧レベルがトレードオフの関係にあることがわかった。
ここは空気が激しく出入りする場所なので、少し入れるだけで効果がある。「詰め込む」のではなく、薄いフェルトや起毛シートをダクトの壁面に沿って貼るだけでよい。
遅れの原因はサブウーファーではなかった!
実は、遅れの要因はサブウーファーだけではない。サブウーファーの遅れが十分小さくても、定在波が立つと遅れが増える。つまり、リスニングポイント(RP)で耳にする低音の音の遅れは、
サブウーファーの音の遅れ + 部屋の定在波による音の遅れ
で表される。定在波による音の遅れは、いったいどのくらいか。
私が今いる部屋は1次75Hz、2次150Hzの定在波が立つことがわかっている[3]。そこで、上記のサブウーファー(NS-SW210)を使い、1次(75Hz)の定在波について以前ご紹介したトーンバースト法[1]で遅れを測ってみた。
次がその結果。
なんと、60msもある。75Hzは13msecだから、何周期も遅れて聞こえることに。これではまともな低音再生はできない。
音の成長がこれだけ遅いと聴感上でもわかり、不自然に感じてしまう。これでは、いくらサブウーファーの応答を良くしたところで無駄。定在波による音の遅れが、「サブウーファーの音が遅れる」と評される本当の原因に違いない。
定在波を詳しく調べる
定在波は2つの並行面の間で成長する。室内の並行面は、短辺、長辺、天井床がある。また、対向する辺を結ぶ方向の定在波(接線波)も関係する。
定在波には「モード次数」がある。壁間の1次と2次のモードは図のようになる。音圧が最大になるところを「腹」、音圧がゼロになるところを「節」という。1次では節が部屋の中央、2次は両側の壁から1/4の位置にできる。
一般的な屋内では1次と2次が成長しやすく、3次以降はカーテンやクッションなどで吸音されて目立たない場合が多い。接線波は平行な面に比べて出にくい[7]。
定在波の周波数(Hz)は、音速/(2×波長)の次数倍になる。概ね、170/部屋の内寸(m)の整数倍と考えて差し支えない。
6畳間を想定すると、短辺は約2.6mだから1次は65Hz、2次は130Hzになる。
結局、6畳程度の空間では、短辺、長辺、天井床方向の「1次」と「2次」の定在波に注目して対策すればよさそうだ。
定在波の周波数を求めるのは少々面倒だが、REW[6]というソフトのRoom simという機能を使うと簡単である。
スピーカーの節点駆動
スピーカーをモードの腹に置くと定在波がよく成長し、節では成長しにくい。節に置いて駆動することを「接点駆動」という。
壁付近は定在波が腹になりやすい位置。部屋の隅は上下方向も含めたすべてのモードが腹になる最悪の位置になる。
「方向性がないから自由に置ける」は間違い
サブウーファーは「低音は方向性が無いから、置き場所を選ばない」とされ、壁際や部屋の隅などに置くことをアドバイスする資料がある。
サブウーファーを壁際に置くと、定在波がよく成長することを先にご説明した。定在波が生じると部屋全体に腹と節の分布ができて「どこから音が出ているのか、よくわからない」状態になる。つまり、方向性のない音場が作られる使い方は、定在波が生じる最も良くない使い方になる。
デッドゾーンの問題(2018/6/1)
デッドゾーンは一般に定在波の節の位置を指すが、それ以外にもスピーカーの背後の壁で反射してきた音と、直接音が干渉することで生じる。デッドゾーンでは直接音と反射音が相殺して低音が聞こえない。
デッドゾーンは次の寸法関係のとき起こる。
L2 =0.5 L1
L2が上の条件を満たさないよう、設置に注意したい。
L1が2m以下のとき干渉する周波数は170Hz以上になるためサブウーファーの担当周波数を外れる。メインスピーカーもほとんどの場合、壁に寄せて置かれるため問題になることが少ない。
これが問題になるのは、オーディオショップの試聴。スピーカーを前に出してもらう場合は、上式の条件にならないよう注意したい。
サブウーファーの最適な設置場所はここだ!
メインSPにサブウーファーを組み合わせた場合、通常メインSPから出る低音と干渉しないよう、メインSPの低音をカットする必要がある。このクロス点が、クロスオーバー周波数。これは、以下のようにして決める。
壁間の寸法をW(m)としたとき、次の2つの方法がある。
①サブウーファーを1次定在波の節の位置(W/2)に置く場合
クロスオーバーを、1次と2次の中間=240/W(Hz) とする。
①サブウーファーを2次定在波の節の位置(W/4)に置く場合
クロスオーバーを、2次と3次の中間=480/W(Hz) とする。
要は、スピーカーを特定の定在波の節に置き、その位置で腹になる定在波の周波数をカットして出さないようにする。
このルールは、天井と床にも当てはまる。天井高さをHとすると、H/2の位置に置くのがよいが現実的ではない。せめてH/4(≒0.6m)床から離して置きたい。
クロスオーバーをこのように定在波の中間に設定しても、両隣の周波数が近い(1/2octしかない)ためキッチリ分離できるわけではない。吸音材を併用するのよがい[3]。
例1.一番上のモードを分離する
サブウーファーを定在波の節に置いて、メインSPを短辺2次の節に置いた例。この例ではクロスオーバーを120Hzに設定することで、節点駆動を実現できる。
周波数特性のグラフは自分の部屋の実測値。99Hzは接線方向の1次と、長辺方向の2次の両方ある。
この方法ではメインSPで120Hz以下を再生する必要がないので、小型SPが適している。
例2.一番下のモードを分離する
図は例ではクロスオーバーを85Hzに設定して一番下のモードを分離した例。長辺の1次モードが出にくい性質を利用している。長辺の1次モードが出ないから、サブウーファーをテレビの裏における。ホームシアターに適した構成例である。
どちらの方法もクロスオーバーの調整はAVアンプで行うので、クロスオーバー調整機能を持つAVアンプが必要。
サブウーファーを使わない場合(2020/1/25)
メインスピーカーを壁際から部屋寸法の1/4離した場所がベストポイント。
この例では上下方向について節点駆動できていない。この問題は勾配天井にすることで解決する。上下方向の定在波が起きないから、ウーファーの配置に高さの制約がなくなり、サブウーファーを床置き出来る。新築でホームシアターやリスニングルームを設計する際に考慮してほしい[4]。
確実に改善したい方へ
上記の方法で満足いく結果が得られない場合は、素直に部屋の改善に取り組むのが賢明だ。やり方は、下の関連記事3を参考にしてほしい。
<参考購入先>
AVアンプ サブウーファーのクロスオーバーを細かく設定できるものを選んでください
サブウーファー 口径が大きい機種がお勧め
DALI SUB12F 大口径ユニットが正面を向き、Dクラスアンプ、オートスタンバイ搭載。理想に近い商品です
<関連記事>
1.サブウーファーの音の遅れを測る1~スピーカーの過渡応答を測定する トーンバーストを使って遅れを測った事例を紹介します
2.サブウーファーの音の遅れを測る2~インピーダンス特性から遅れを算出する インピーダンス特性から遅れを求めた事例を紹介します
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オーディオアンプ スピーカー特性の測定の仕方とコツ
<参考文献>
6.Room Acoustics Software
7.実用音響学 初歩の初歩 加銅鉄平