オーディオ機器にACラインノイズフィルターを入れるのは有効か

 ACラインにノイズ対策と称して「絶縁トランス」や「ノイズフィルター」を入れることがある。これらは、オーディオ機器のノイズ対策に役立に立っているのだろうか。

 

ACラインフィルターの効果

  市販のノイズフィルターは通常、高周波(基本的に100kHz~MHz帯)に効くよう作られている。これはEMC(電磁ノイズによる電子機器の誤動作の防止)を目的に作られている為。

 オーディオ信号で問題となるノイズの周波数帯域は20kHz以下なので、これはノイズ対策にならない。

 他に絶縁トランスという商品がある。これは低周波の同相ノイズを除去できる。しかし通常問題になるノーマルモードのノイズは素通りする。

 ネット上には「絶縁トランスを通したらこんなに音が良くなりました」といった記事をみかけるが、私は単に電源インピーダンスを変化させた(容量ダウンさせた)結果にすぎないと見ている。

※トランス結合はマイクロフォンの伝送に使われている。uVオーダの微細な信号を何十メートル引き伸ばしてもハムが乗らないのは、トランス結合による同相ノイズ除去効果のおかげ。

 

オーディオ用に使えるACラインフィルターはあるか

 オーディオ用では20kHz以下の可聴域で効果のあるトランスを使いたい。その中に「ノイズカットトランス」という商品がある。

 これはシールドトランスを進化させたもので、詳しい構造は不明だが代表特性をみると、1kHz以上から効果があるようだ[1]。問題点に、発熱や「うなり音」があるという。

 通常の絶縁トランスの2次側にノイズフィルターを組み合わせる方法もある。ノイズフィルターをトランスの二次側に置くと、上流側のインピーダンスが上昇してフィルターが低周波から利くようになる。うまくいけばノイズカットトランスと同じ効果が得られるかもしれない。

 

クリーン電源(リジェネレータ)は効果あるか

 世の中にはACラインをいったん直流にして新しく電源波形を作り直す(リジェネレートする)機器がある。

 ほぼ完璧なAC波形を作れるが、オーディオ機器の中でどのみち直流に変換されるので、無駄なことをしているように見える。ノイズ対策は尖がった部分を均せば十分であって、波形を綺麗なサイン波にする必要はどこにもない。

 このような機器の中に、コンセントの交流をいったん直流にして、そこに60Hzの「綺麗なノイズ」を追加して交流をつくるものがある。これも意味不明な商品の一つだ。

 

フィルターの容量は何W必要か

 ノイズ対策に重点をおくとトランスやフィルターの電流容量は大いほど不利になる。モノが大きいほど静電結合が増えてノイズが素通りするためだ。

 しかし小さなトランスを選ぶと今度はインピーダンスが高くなって十分な電流が供給できない。オーディオ機器の電源が粗悪だと音に影響してくる。

 結局ノイズと電源容量はトレードオフの関係にあり、はっきりしたことは測定してみなければわからない。

 

フィルターの効果と必要性について

 ACラインフィルターに期待する効果はあくまで「ノイズの低減」。ノイズ低減の結果表れる聴感上の効果はS/N向上だけで、音色が変わって聞こえることはない。

 パワーアンプの場合は電源側に低インピーダンスを求めるから、コンセントとアンプの間に何か入れれば元のコンセントよりも必ずインピーダンスが高くなって悪化の方向になる。

 結局この手のフィルターが有効なのは小電力機器で、かつ明らかにラインノイズが原因と見られる雑音、もしくは通信エラーが入って問題になる場合に限られる。はっきりした「ノイズ源」がある場合は、フィルターをそれに繋いで屋内配線がノイズで汚れるのを防ぐ方がよいだろう。

 

200V→100V降圧トランスについて

 大出力のパワーアンプを何台も使うと、コンセント側の電流容量が足りない場合がある。トランスを使って200Vを100Vに降圧すれば単純にコンセント側の電流容量が2倍になったのと同じ効果になる。

 但し十分容量の大きな変換トランスを使うことが前提だ。せっかく200Vから電源をとっても元の100Vよりも電流がとれなくなっては意味が無い。

 いずれにしても手間やコストがかかるので、やる必要があるかどうか後述の方法で負荷時のコンセント容量を確認してから検討してほしい。

 

ACラインノイズの測定方法

 ノイズ対策の効果を知るためにはACラインのノイズを観測する必要がある。それにはまず、高すぎる電圧(100Vの基本波)を計測可能なレベルに落とす必要がある。それから基本波(60Hz or 50Hz)を減衰させる。これにはノッチフィルターが効果的だが回路調整が難しい。

 最も簡単は方法は抵抗分圧したあと1kHzくらいのCRハイパスフィルターを通してやることであり、これでひとまず計測器に接続し分析可能になる。
 下の図はこうして観測したコンセントのACラインノイズで、基本波を減衰させたおかげで今まで見えなかったノイズが見えている。
AC100Vラインの計測はショートや感電の危険がある。ビギナーは手を出さないで欲しい。

ACラインのノイズをオシロスコープで観察した様子 左は自宅のACラインの電圧を1/100に減衰させた後、60Hzを約-30dB減衰させてみた結果。縦軸は2V/div。

 ここに見えているノイズは低周波成分が主なので、絶縁トランスや市販のノイズフィルターで消すことはできない。電源にこのようなノイズが乗っていても、オーディオ機器の電源回路で十分除去されるのが普通だ。

 

 

コンセントの電流容量を確認する方法

 小型の白熱電球(100V)を、パワーアンプのACプラグを挿している同じコンセントに繋いで光の変化を確認するのが簡単だ。

 大音量で白熱電球の明るさが変化しなかったら、コンセントの容量は十分足りている。つまり電源まわりを改善する必要はないこの実験をする場合も、電球の光(直接見続けないこと)と電球の加熱に十分注意して欲しい。

 さらに、ツイータが発する無音時のノイズに耳を近づけて、エアコンや扇風機、電子レンジなどを動かしたとき何も聞こえなければ、ノイズフィルターも必要ない

 つまり、電源周りをいじる必要は何も無い(改善の余地なし)という結論が得られる。

 必要かもしれないと思ってアレコレ買ったり工事をする前に、まずこのチェックをすることをお勧めしたい。

<関連商品>
ノイズカットトランス
ノイズフィルター

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<参考文献>
1.ノイズカットトランスの減衰率 電研精機研究所