音楽なんて聞こえればそれでいい・・でも音にこだわる人にとって「音像定位」「解像度」は気になるスペック。この2つが備わっていると、その場に奏者がいるかのような錯覚を覚える。音像定位と解像度は、どこから来るのだろう。
音像定位
図1のように、左右2つのスピーカーの真ん中(RPの位置)に座って、左右から同じ音量の音を出す(音の大きさの比率を、左:右=1:1とする)と、スピーカーではなくスピーカーの中央の何もない空間に音源が浮んで聞こえる。それが「音像」。
これは人間の脳がそう解釈するためと言われる[7]。
左のみ音が出ている場合、当然左のスピーカーが音源として意識される(左:右=1:0)。左右に音量差がある場合、例えば(左:右=2:1)の場合は、中央からやや左寄りにその音像を意識させる。
これによって、音楽に含まれるボーカルや楽器類などの音源を、2つのスピーカーの間の任意の位置にイメージさせることができる(音楽制作では、ミキシング作業の中でこの配置が行われる)。
奥行方向の音源位置は、RP(リスニングポジションから音源までの距離を半径とする円弧上(図1)に定位すると考えられる。正面から見ると、2つのスピーカーのやや奥になる。
実際の音像定位
ボーカル再生の理想は、スピーカーを正面から見て、中央やや奥の位置(図1の赤いポイント)に、針先のように定位することになると考えられる。
ところが実際の音像は、上下に拡散したり、2台のスピーカーの外側に広がったり、前に飛び出したり、ボヤけてはっきりしない場合が多い。図2はそんな音像イメージの例。
音像定位を悪くする要因
図2のような現象が生まれる要因に次がある。
f特の乱れ。例えば中高域のレベルが相対的に高い
→音像が前に張り出す。女性ボーカルなどでこの現象が出やすい。
室内の反射音や定在波
→音像がボヤけてはっきりしない
みかけの音源が大きい(マルチウェイの大型SPを近くで聴いている)
→音像イメージが大きくなる、上下に長細くなる
低域の位相がずれている(バスレフなど)
→低音がボヤける
分割振動で音が出ている(フルレンジなど)
→指向性(音の広がり)にムラができ、音像がボヤける
左右の音量に差がある
→音像が左右に偏る。左右の音量差は、アンプやプレーヤーに原因がある[2]場合もある。
不自然な音像定位は結局のところ、左右の耳に届く音のレベル差や位相差が原因。女性ボーカルが良好な音像を得やすいのは、小口径のユニットから出た中高域が主体のため(音源が小さく定在波などの影響をうけにくい)。音像定位はあまり気にするな、という意見もある[1]。
スピーカーとの最適距離はどのくらいか(2019/5/12)
ウーファー、スコーカー、ツイータなど多くのユニットを使ったマルチウェイスピーカーの近くではみかけの音像イメージが大きくなり良好な定位が得られない。ではどのくらい離れた良いのか。
下のグラフは当館の経験から導いた距離の目安で、線上では見かけの大きさが同じになる。たくさんのユニットを使った大型スピーカーでも、十分離れてしまえば小型スピーカーと同じ定位が期待できる。
グラフ上の部屋のサイズは団地間。部屋の長手方向の距離Lとし、スピーカーの後方にL/8、自分の後方にL/4[7]の距離を確保した残りの距離(長手方向の1/1.6)を示している。団地間12畳だと音源サイズ0.5mが良好な音像定位が得られる上限になる。
基本的に離れるほど点音源に近くなって音像定位が向上するが、小口径のスピーカーは離れると低音が拡散して低音不足になるためニアフィールドが適している。
12畳未満の部屋で十分な低音再生を望む場合、大口径のSPを入れるより、小型SPにサブウーファーを組み合わせた方が音像定位と低音再生を両立させやすい。
音場の「三次元定位」は、良い再生なのか
本来2つのスピーカーの間の直線上にしか定位しないはずの音源が、
三次元的に定位する、スピーカーの外側からも聞こえる・・
となる現象は、よい結果なのだろうか。
サラウンドでは、意図的に位相差を加えることでスピーカーの外側や後方に音源があるように感じさせている。音楽ソースでも意図的に位相を細工しこのような特殊効果を出すことがある。
そうでもないのにこのような結果になる場合は、定位を悪くしている音の位相差を脳が都合の良い方向に解釈した結果にすぎない。
音の解像度
性能の良いスピーカーで聴くと、普段気付かなかった音に気付くことがある。小さな音だが、音源として確かに存在し、他の音と分離して聞こえる。
このように細かな音がよく聞ける性能を「音の解像度」と呼ぶようだ。
音の解像度を悪くする要因
解像度を悪くする要因に次がある。
分割振動、共鳴(フルレンジの高音、バスレフの低音など)
→過渡応答が悪い
リスニングポジション(RP)の距離が遠い
→暗騒音に埋もれて情報が減る
つまり解像度の劣化は、過渡応答や、より大きな音に埋もれることなどで生じる情報のロス(損失)によって生じる。
スピーカーから離れて聞くより、ニアフィールドで聴いたり、ヘッドホンで聴いた方が解像度が高く感じられるのは、音源が耳に近づくことで情報のロスが減るためである。
音像定位、解像度の良いスピーカーの例
良好な音像定位は同軸型スピーカーで得やすい。しかし構造上の制約が多く、特性にアバレが出やすいなどの問題がある。同軸でもカーオーディオによくみる「コアキシャル型」は良好な特性を得ることが難しいようだ。
1.同軸型スピーカー
同軸型で最も成功している例にタンノイがある。
タンノイの同軸2wayの構造。ホーンツイーターが同軸に配置される。私は学生のころアーデン(かバークレイ)を聴いて、その明確な音像定位に驚いた経験がある。
1980年代、平面型が流行るとパイオニアやテクニクスなどが平面型の同軸スピーカーを作っていた。中でもパイオニアのS-F1(40cm 4Way)が記憶に残る。
2.カナル型イヤホン
耳の穴に挿して使うカナル型イヤホン[4]は音像定位と解像度を両立できる唯一の解とみられる。但し音像イメージは頭の中に展開する不自然さががあり課題になっている。
これを信号処理などで無理やり外に定位させる(頭外定位という)試みがある。昔、アンビエンスコントローラー※というものがあった。今も発展途上にある[5]。
※:テクニクス SH-3040 ,SH-3045(1977年頃)が最初だったように思う。
3.バーチカルツイン
みかけ上同軸音源を実現するバーチカルツイン。音源が上下に大きく分散するので、かなり距離をとらないと想定した効果を得にくいようだ。
音像定位を求めて同軸を求めなくても、距離に応じた適切なサイズのスピーカーを選ぶか、スピーカーが大きい場合は離れる(みかけの音源が小さくなる)ことである程度満足いく結果を得ることが多い。
結局同軸型のメリットは、「近距離でも良好な音像定位が得られる」ことのようだ。距離をとらないと見かけ上同軸にならないバーチカルツインは、あまり意味の無い構成といえる。
私は昔、その音像定位の良さからタンノイにあこがれたが、現在は高能率小型SR+大出力サブウーファーの組み合わせがHi-Fi的に満足いく解の一つと考えている[6]。
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1.リスニングルームの設計と製作例―良い音へのアプローチとそのテクニック 1991 加銅 鉄平著 P175
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<参考文献>
5.ソニーバーチャルホンテクノロジー
7.振幅と位相制御における音像定位の研究