高能率スピーカーの選び方~生演奏の迫力を自宅で再現する

 ドラムやパーカッションの生音には迫力がある。しかしスピーカーの再生音にはそれがない。特性がいくら良くても生音と「かけはなれた」音しか出ない。これこそ現代のスピーカーに一番欠けているもの。この謎を考察し、生音に近い音の出るスピーカー選びのポイントをご紹介する。

 

スピーカーが生音にほど遠いのはなぜか

 ドラムやパーカッションから出る音圧の変化はとても鋭い。皮膚がビリビリ震え腹にズンズン響くのは、その音圧(気圧の変化)が体にぶつかってくるため。

 スピーカーを使って、演奏会場と同じ音量で再生しても同じ感覚が得られない。それは、スピーカーの音の立ち上がりが鈍く、音圧の変化が鈍ってしまうためと考えられる。

 このことは低音に限らない。「金属を摺る」ような生々しい弦の音や、びっくりするようなトランペットの音でも同じだ。

 スピーカーの音の立ち上がりは、振動系が軽いほど、駆動力が強いほど(磁気回路が強力なほど)鋭くなる。応答に関係するスペックに、出力音圧レベル(=能率、感度)がある。すなわち、能率のスペックが高いほど、生音に近い音を出せると考えられる。

 スピーカーのインパルス応答をFFT解析して群遅延を求めれば応答に関する詳細がわかるが、このようなスペックは公開されておらず、アマチュアには測定困難[1]。能率が唯一、カタログスペックから応答を推し量れるモノサシになっている。

 

能率の高いスピーカーの特徴

 能率の高いスピーカーは立ち上がりが鋭いだけでなく、微小信号によく反応し、細かい音を描き出す。世間の表現を借りれば、

「クリアで鮮明」「打てば響く」「音離れがよい」「生々しい」

といった特徴になる。かつて隆盛したジャズ喫茶も、このような音でお客を魅了させていたに違いない。

 

長岡鉄夫 壮絶超音速スピーカーの製作記事(1985年 STEREO)

出典:STEREO 1985年6月号

 長岡鉄男氏の作品に能率102dBのスピーカーがある(PA-2 1985年)。

 試聴の結果についてこうある(一部抜粋)。 

「壮絶、圧倒的。メーカー製のシステムでは絶対に聞けないショッキングなサウンドだ。ものすごく音離れが良く、全域にわたってスピード感がある・・・このスピーカーの音は、超音速、というよりは超高速で飛んでくる感じがある・・・音圧の衝撃は力はたいへんなものだ。直径1mのフライパンでガーンとひっぱたかれる。そんな感じである」

 

 但し、能率最優先で作った結果、周波数特性が犠牲になり音色にクセがある。「ソースによってはちょっと落ち着けない」とコメントされいる。

 

口径の割に能率が高いスピーカーを見える形にする

 長岡鉄男氏の能率102dBは文句なしに能率が高い。しかし口径の割に能率の高いスピーカーがある。例えばクリプシュのR-14Mは10cm口径で90dB。これは能率が高いといえるのだろうか。

 スピーカーの能率は、振動系の軽さと駆動力の他に、振動板の面積(口径)が関係している。スピーカーの応答を正しく比較するためには、面積の影響を除外して考えなければならない。

 そこで、面積(口径)の影響を除外して能率を比較できるグラフを作ってみた。

 

ウーファーの口径と能率の関係を示したグラフ

図1 ウーファーの口径と能率の関係を示したグラフ

 オレンジのプロットは、高域の再生にホーン型ユニットを使った、いわゆる「高能率スピーカー」。オレンジのボトムを繋いだ線を高能率のボーダーラインとした。スピーカーの応答はこの線の傾きに沿って等しいと考えられる。オレンジの線から-3dBのところを中能率のボーダーラインとした。

 このグラフから、クリプシュのR-14Mは鋭い音の立ち上がりが期待できる、高能率スピーカーの一員であることがわかる。生々しい音で多くの人を魅了した 2S-305 (ダイヤトーン 1958年発売)も、相当な高能率スピーカーだった。

 生音の再現に興味がある人は、少なくとも水色の線から上の商品を選んで欲しい。どんなにお金を出しても、アンプに何を組み合わせても、水色の線の下にある商品から、その線を超えた音が出ることはない。

<注意>
 応答はユニット単体で決まるので、ウーファーが複数の場合、公称値から次の値を差し引いた。ダブル(2連):-3dB、3連:-4.8dB、4連:-6dB。応答は同じ電流値で比較しないといけないので、能率が定電圧( 2.83V基準)で表示された製品は1W基準に補正した( 10log10(R/8)を加算)。

※:スピーカーの能率は、その質量m、面積S、駆動力F(=BL・I)によって決まる。Sが増えるとmも同時に増えて相殺されるが、磁気回路が強力になりFが増えるから、結果的に能率が口径に比例する。

 

 

高能率・低能率の利点と欠点

高能率スピーカー

(利点)
・応答に優れた生々しい音質が得られる
・微小な信号によく反応する
・少ない振幅で済むため歪少なく、大音量でも音質が崩れない
・アンプの出力が小さくて済む(アンプにお金がかからない)

(欠点)
・低音が出にくい(振動板が軽い為)
・周波数特性にクセを生じやすい

 

低能率スピーカー

(利点)
・周波数特性をフラットにしやすい
・低い周波数の低音が出る(振動板が重い為)

(欠点)
・重鈍で暗い音質
・振幅が大きくなって歪が増える
・大出力アンプが必要(アンプにお金がかかる)
・大音量再生が苦手(歪が目立ち、うるさく感じる)

※:私は昔、10cmフルレンジ(FE-103)のコーンにJBL LE-8Tを真似てパテを塗ったことがある。パテを塗り重ねるほど能率と引き換えに低音が良く出るが、元気で明るい元の音色とは程遠い、暗くぼんやりした音だった。

 

欠点の改善策

(高能率スピーカー)
・低音が出にくい →サブウーファーを追加する
・周波数特性にクセを生じやすい →周波数特性がフラットな機種を選ぶ

 高能率SPは能率を優先した設計で周波数特性が犠牲になっている製品が多い。そんな中にも特性に配慮した機種がある。こういう商品を選び、不足する低域をサブウーファーで補うことで音質的に満足いくシステムを作れる[1]

(低能率スピーカー)
・重鈍で暗い音質 →アクティブサーボをかける(低音のみ改善)
・振幅が大きくなって歪が増える →(改善不能)
・大出力アンプが必要 →(改善不能)
・大音量再生が苦手 →(改善不能)

 低能率の方はどうしようもないものが多い。アクティブサーボで電流フィードバックをかけると、質量を補償できる。以前ヤマハがASTと称してこの技術を売りにしていた。現在はYSTに名前を変えて同社のサブウーファーに受け継がれている。

 

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ダイナミックスピーカーの遅れを調べる

 高能率スピーカーの大きな特徴である応答の速さは、振動系の質量と駆動力で決まる。口径が同じであれば能率が高いものほど応答が良い。

ダイナミックスピーカーの口径と遅れの関係を表したグラフ

図2 ダイナミックスピーカーの遅れ データはエンクロージャ設計支援ソフトsped付属のものを使わせていただきました。

 能率とTSパラメーターからダイナミックスピーカーの遅れ(共振点付近を除くフラットな領域の遅れ)を概算してみた。縦軸は38cm口径、能率100dBの遅れを1とした時の比率。

 口径が小さいほど遅れが少ない(応答が速い)。遅れの傾きは能率6dBごとに約2倍。

<参考>
遅れは、音圧の立ち上がり時定数をTとすると、
T∝m/F 。SPL∝S・F/m、SPL∝10(能率/20)、F=BL・I などから、Iを求めてT∝m/(BL・I )で求まる。Iもコイルのインダクタンスによる遅れを含むが、十分小さいので無視できる。

 小口径ほど応答の面で有利だが、絶対的な能率が低いため出せる音圧に限界があり低音再生が苦手(近接で鋭い気圧の変化を出せても、それが遠くまで届かない)。但しニアフィールドなら小口径でも「それらしい」音が聴ける。逆にニアフィールドで大口径は定位や指向性の問題から不適当。

 つまりユニットの口径は鑑賞距離による最適解がある[3]

 

ウーファーの応答はどれだけあればよいのか

 最初にご紹介したPA-2のウーファー(PS300)は30cm 98dB。図2では遅れ比率0.8のポイントになる。これで超音速サウンドが聴けるということは、ウーファーの応答はこのあたりで十分かもしれない。これと同じ応答を38cm口径で求めると厳しく、一部の高能率機種に限られる。ジャズ喫茶ベイシーで使われているとされる15″ウーファー(JBL 2220B)の能率は101dBなのでこれに近い。

 絶対的な音量が要求されるSRでは38cmが必要とされるが、ホームユースでは30cm口径で能率96dBを、応答と低音再生を両立できる一つの基準と考えたい。これをグラフ上の基準(比率1)とおいた。

 部屋が広くてリスニングポジションが離れる場合、30cmでは迫力が不足するかもしれない。この場合は口径をあげるのではなく、30cm口径のまま数を増やすのが正しい。

 

応答の要求は周波数によって異なる

 音の波長は周波数によって大きく違うので、応答もこれに応じた要求があると考えられる。

 応答の要求は高音側にいくほど厳しい。例えば100Hzと1kHzでは10倍波長が違うので、波形の再現性を考えると1kHzは100Hzよりも10倍速くないといけない。

 図2では遅れ比率1のラインを基準としたが、これを100Hzの要求とすると、1kHzでは遅れ比率0.1のラインが基準になってくる。10cm口径の応答は100Hzに対して十分だが、1kHzの応答を求めると8cm口径でも厳しいことがわかる。

 

応答のよいスピーカーを選ぶポイント

 ツイーターの応答はウーファーよりずっと速い。1kHzの応答をウーファーに求めると厳しいが、ツイーターに任せれば楽。

 つまりツイーターを出来る限り下の周波数まで使って(クロスオーバーさせて)高い能率を実現したシステムが応答に優れたシステムになりやすい。このようなシステムは大型のホーンと組み合わせることで実現できる。

 

理想的なホーンスピーカー(2019/1/16追記)

 コーン型やドーム型は振動板の質量を負荷として駆動するため質量が応答に影響するが、ホーン型は振動板の前にある空気を負荷として直接駆動するため、周波数特性に振動板の質量があまり関係しない。

 そのため軽い振動板を使い、強力な磁気回路と組み合わせて応答を高めることができる。

 応答に優れた音を出すという点では、強力な磁気回路と組み合わされたホーン型(コンプレッションドライバー+ホーン)が最も有利な方式の一つである。

<詳細>
 文献 1によるとホーンスピーカーの応答を示す時定数はf/fc>5でほぼゼロになる(fc:ホーンのカットオフ周波数)。実際はf/fc>5でもコイル時定数と振動板の質量が応答に影響するが、軽い振動板と強力な磁気回路を使うことで遅れを小さくできる。

 

ホーン型、ドーム型ユニットの応答を知る方法

 システムの能率は大抵ウーファーの能率。ツイーターが担当する中高域の能率については、わからないことが多い。

 ホーン型やドーム型ユニットの応答の速さを知る一つの参考に、マグネットの重さがある。「駆動力」に直結する磁気回路の大きさ、すなわちマグネット重さが、応答の速さに比例すると考えられる。

 マグネットの重さが不明な場合、本体の重さ(ホーンはドライバー部分のみの重さ)が参考になる。

 

生音の再現に適したスピーカーの候補

 30cm(12インチ)のウーファーを搭載した能率96dB以上のホーン型スピーカーを探してほしい。このようなスピーカーは民生用にはほとんどなく、プロ機器にある。上記の条件を満たす候補に次がある。

 

表1 生音の再現に適したスピーカーの候補

  能率(dB,W,m) ウーファー口径 ドライバー口径 クロスオーバー(Hz)
ヤマハS112V 97 12″ 2″ 2k
ヤマハCBR12 96 12″ 1.4″ 2.1k
         
         
         

 

 これらは元々SR用のプロ機器。同クラスには他からもいろんな商品が出ているが、Hi-Fiに使えそうなものはこの2つ[1]。同シリーズの15″とドライバーが共通でウーファーだけ小さくしたものなので応答の面では15″より有利になる。

 単体だと低音が不足するので、鑑賞用に使う場合はサブウーファーが必要。バスレフは遅れが増えるので、ポートに吸音材を詰めてサブウーファーと併用するのがベストである。詳細は下記の関連記事1をご参考。

 


 

参考:過去の高能率スピーカー

  能率を高めるうえではホーン型が有利だが、民生用の高能率システムは過去を振り返ってもあまりない。

 一つは図1にプロットした三菱電機2S-305、テクニクスSB-E100、外部イコライザーを使う前提でONKYO グランドセプター GS-1(28cm,97dB/unit)、パイオニア S-HE10(25cm 95dB/unit)がある。

 パイオニアのS-HE100(25cm,93dB/unit)、エクスクルーシブ2402(40cm,95dB)はいずれも中能率。

テクニクス ホーン型SPのラインナップ(1980年頃)

 テクニクスのホーン型SPラインナップ(1980年頃のカタログ)で、ちょうど平面SPがブームだった頃。

 左上のSB-10000は46cm,95dB(中能率)。右のSB-E100の方は30cm,95dBなので高能率の部類に入る。

 

 

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ヤマハS112V  特性がフラットでお勧めの高能率スピーカー
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<参考文献>
1.特開平05-064283 ホーンスピーカー,パイオニア