小さい部屋に大きなスピーカーはなぜダメなのか~ルームチューニングでオーディオの音を劇的に良くする

 「低音がボワボワする」「音がはっきりしない」「高い商品に買い換えれば・・」そう思って行動しても結果は変わらない。「部屋に原因があるのでは?」そんな考えが頭をよぎるが具体的にどうしたら良いか、わからないから機器の買い替えに走ってしまう。

 スピーカーの設置を変えたり、パネルを立てたり、インシュレーターを入れたり、ケーブルを変えてみたり、いろいろ努力する人もいる。何かを変えれば多少は変わるが、本質的には変わらない。

 一方で、「いい音を出すにには部屋が重要」「部屋が良くないと、どんなに良いスピーカもその性能を発揮できない」という話がある。

 そこで今回は、この問題の本質「何が音を悪くしているのか」に関して、部屋が原因で起こる音の問題について詳しく調べ、部屋の音響特性を簡単に改善できる方法をご紹介する。そして最後に、スピーカーの最適な設置方法をご提案する。

 

 

音を悪くしている原因のほとんどは「定在波」

 定在波とは、これは平行な面の間で音波が反射して往復を繰り返すうちに、特定の周波数が増幅される現象のこと。

 「低音がボワボワする、いまいち音がはっきりしない・・」これらは「定在波」が原因の可能性が高い。

 従い、室内音響は定在波の対策がメインになる。

 

定在波の周波数

 定在波ができることを「定在波が立つ」という。

 定在波の周波数(Hz)は、音速/(2×波長)の次数倍になる。概ね、170/部屋の内寸(m)の整数倍と考えて差し支えない。この計算で出る基本の周波数を1次とすると、1次とその整数倍(2次、3次、4次・・)で出る。

 室内の壁面は完全な剛体でないため、実際に生じる定在波は計算通りにならず、10%前後の誤差を生じる。

 

定在波が目立つのはどんな場合か

 定在波は平行な2面があればどこでも立つが、増幅される音の大きさは部屋の吸音によって左右される。部屋に絨毯やカーテンがあると、音が反射を繰り返す際に吸音されて振幅が小さくなり目立たない。

 私の経験では、次の傾向がある。

・面間距離が短い(小さな部屋)ほど目立つ。一般的な6畳間では、距離の短い面間(短辺や床と天井間)の1次と2次が目立つ場合が多い。6畳未満の部屋やお風呂場では、すべての方向の定在波が目立つ。
・3次以降の高い周波数はカーテンや絨毯などで吸音されて目立たない場合がある。
・距離の長い面間の定在波は目立たない(室内のカーテンや絨毯などで吸音されやすい為)。
・床に絨毯などの敷物がある場合、床と天井間の定在波は目立たない。
・床が畳の和室ではどの方向の定在波も目立たない。 

 

定在波の「腹」と「節」

 定在波の振動の形を「モード」という。1次の周波数で1次モード、2次の周波数で2次モード・・という形で出来る。定在波の振動のモードには、「腹」と「節」がある。

定在波が立った時の音圧分布図 図は閉じた円柱の中の1次、2次、3次モードの「音圧分布」。壁際やコーナーは、どの次数でも必ず腹になることがわかる(ネット上でよくみる定在波の図は、音圧分布でないことに注意)。

 このようなモードは、天井と床の間でも同じように出来る。

 定在波の腹にスピーカーを置くと、定在波が最も効率的に増幅される。逆に、定在波の節に置いた場合は増幅されにくい[6]

 例えばサブウーファーを真ん中に置くと、1次は問題ないが、2次が増幅される。そこでサブウーファーを真ん中に置いて2次から上の音が出ないようカットしてしまえば、定在波と無縁にできる[4]

(当方の室内実験では、スピーカーを節に置いた場合と腹に置いた場合では、発生する定在波の最大音圧が22dB違った)

 

 

 図から、部屋の壁際は定在波が効率よく増幅されることがわかる。特に部屋の4隅は、上下左右前後のすべてモードが「腹」になる最悪の位置になる。

 

定在波が出来るとどうなるか

 定在波が立つと、次のような問題が起こる。

1.音に方向感がなくなる

 場所によって低音が良く聞こえたり、ほとんど聞こえない。一定の周波数の音を出した状態で自分が移動すると、これがよくわかる。この場合、音に方向感がなく、音がどこから出ているのか、まるでわからない。

2.過渡応答が悪くなる(音がゆっくり成長し、ゆっくり減衰する)

 低音が「ボワンボワン」響くようになる。「ブーミー」ともいう。

3.不自然な付帯音がついて音が汚れる

 定在波ではないが、定在波が立ちやすい室内で手をたたくと、「パン!」ではなく、「ベチ!」とか、妙な音に聞こえる。「フラッターエコー」ともいう。風呂場で観察できる。

 

スピーカーを壁に寄せると低音がブーミーになるのはなぜか

 スピーカーを部屋の壁や床に寄せると低音が増える。これは2つの理由がある。

 一つは、後ろや下に放射されていた低音が反射して前に出るため。
 もう一つは、定在波が増幅されるため。

 上記したように、壁や床付近は定在波の「腹」になるので、定在波がよく増幅されてしまう。

 

小さい部屋に大きなスピーカーを入れてはいけない理由

 定在波が立つ室内では、低音の量と定在波がトレードオフの関係になっている。

 つまりスピーカーのセッティングとは、定在波で起こるブーミーさと、低音の量感との間で妥協点を探す作業に他ならない。

 小さな部屋に大きいスピーカーを入れてしまうと、そのようなセッティングの自由度がほとんどない。スピーカーは定在波が増幅されやすい壁際や、最悪の場所(部屋の隅)に寄せて置くしかなくなる。そして悪いことに、上で書いたように定在波は部屋が小さいほど目立って増幅される。これが、

「小さな部屋でに大きなスピーカを入れても実力を発揮できない」

理由だ。

 

吸音材で定在波を無くすと残響も無くなる

 定在波の影響を改善する方法は2つある。一つは部屋から平行な面を無くすこと。もう一つは吸音することだ。

 平行な面を無くす方法では、傾ける面のサイズが小さかったり、角度が浅すぎると効果がない。このサイズと角度は、定在波の波長で決まる。

 例えば6畳間の短辺で決まる1次モードは65Hz。波長に換算すると5mになる。この半分にも満たない物体、例えば絵画を傾斜して設置したり、小さな凹凸を作る拡散パネルを追加しても、効果が無い。

 吸音材は平行な面の片側だけ貼ると効果があるが、無暗に吸音面積を増やすと部屋の残響が減ってつまらない音になる。音楽を楽しむためには、残響時間も大切な要素になる。

 

自動音場調整は音を悪くするだけ

 定在波でできる特性の山や谷を、イコライジングやアンプの自動音場調整機能を使って、見た目だけフラットにしても意味ないばかりか、かえって特性を歪めてしまう[2]

 マイクロフォンがちょうど定在波の節に置かれた場合、その周波数の音を不要に持ち上げてしまうことが容易に想像つく。

 

残響が犠牲にならない吸音方法

 部屋の残響を犠牲にせず、定在波を抑える方法はないものか。その答えは、上でご紹介した、

部屋の隅は、上下左右前後のすべての面間、すべての次数で「腹」になる

の中にある。部屋の隅が定在波の腹になるのなら、そこに吸音材を置けば、すべての定在波を抑えることが可能だ。

 隅の次に効果があるのが「コーナー」。つまり定在波の対策は、

部屋の隅やコーナーに沿って吸音材の塊を設置するのがベスト

になる。これにより、室内の残響をできるだけ犠牲にせず定在波を抑えることができる。

 


 

模型実験(2018/3/12追記)

 隅に吸音材を設置するだけで本当に定在波を抑える効果があるのだろうか。これを検証するため、ガラス水槽+ガラス蓋を使った模型実験をしてみた。

 

実験方法(小さな空間で起きる定在波を正確に観測する)

 小空間の中にスピーカーを設置するとスピーカー自身が音場を乱して正確な観測ができない。そこで外部から間接加振する方法を考案した。

 すなわち、ガラスで閉塞空間を作り、外からスピーカーで間接的に音圧加振し、内部に発生する定在波を録音し解析する。これで小空間の定在波を正確に測れる。

 定在波は隅が必ず腹になるので、マイクロフォン隅に設置することですべての定在波を漏れなく観測できる。

 壁面にマイクロフォンを埋めるのがベストだが、今回はICレコーダーで代用、加振音源はホワイトノイズを使用した。

 

実験1.四隅のみ吸音

 

ガラス水槽の角に吸音材を設置して定在波を防止する実験をしている様子

 ガラス水槽の上下4隅(8ヵ所)に角切りした吸音材(30×30×20t 程度のウレタンフォーム)を設置。

 

定在波防止実験のFFT解析結果

 実験結果。3つの矢印は水槽の寸法で決まる定在波の基本波(515Hz,698Hz,1016Hz)。なのでこれ以下のピークはすべてケース板材の共振、これ以後に見える無数のピークは、主に定在波(基本波の整数倍)。

 オレンジの線は吸音無し。隅のみの吸音で基本波が3つとも 5dB以上減衰しているほか、他のピークについても多くが減衰していることがわかる。

 

実験2.上下のコーナーのみ吸音

 

ガラス水槽の4隅に吸音材を設置して定在波を防止する実験をしている様子

 次に、吸音材(1片=30×240×20t )をコーナー4ヵ所の上下に沿って8本設置してみた。

 

定在波防止実験のFFT解析結果

 実験結果。基本波から高周波にかけてほとんどの山が消滅している。

 この結果を違う寸法のものに適用する場合は、波長の比率を同じにすればよい。以上の実験は1次定在波(515Hz)の波長 340/515=0.66m に対し厚み20mmの吸音材を使ったので、20/660=1/33 、つまり定在波の波長の1/33の厚みの吸音材を使えばよい(340は音速)。

 吸音材はモノによって性能が違う。実際は、定在波の波長の1/20~1/33の範囲を目安に選ぶ(一次定在波の周波数で吸音率0.7が目標)。例えば6畳間(3.5m)の場合は、360/(170/3.5)×(1/33)≒0.2m以上の厚みの吸音材が必要という風に計算できる。

 つまり20cm以上の膨らみを持った長細い吸音材の塊を、コーナー4カ所の上下に沿って床から天井まで設置すれば、模型実験と同じ結果が得られる。吸音の量は、厚みを変えずに施工面積で調整する。

 

上下のコーナーに沿って設置した低周波の吸音機構の例

 創造の館リスニングルーム[1]では上下のコーナーに沿って穴あき石膏ボード(低周波吸音器)を配置し、定在波の防止に取り組んだ。

 これにより、残響時間を犠牲にせず低周波の定在波を効果的に抑制できる。

 

 


 

吸音材は測定しながら適材適所、必要最小限に

 

 残響時間を犠牲にしないためには、設置する吸音材は少ないほど良い。これは聴感に頼った試行錯誤ではなく、測定で確認するのが望ましい。

 やり方は、スピーカーを部屋の隅に置いてピンクノイズで音響加振し、別の隅にマイクやICレコーダーを置いて測定するだけ。図は定在波の測定例(部屋寸法=3.40×2.56×2.35m)。ソフトはWaveSpectra(フリーソフト)を使用。

 

定在波の測定結果

 低音再生で問題になるのはこの3つの山。吸音材を設置する前にこのデータを取り、設置後と比較して効果を確認する。

 吸音材で消えない山は、共振が原因の可能性が高い。原因を調べて制振材などで対策する。

 


 

まとめ~こうすれば室内音響を改善できる!

 以上の結果から導き出される対策はとても簡単。それは、

 20cm以上の膨らみを持つ吸音材の塊を、コーナー4カ所の床から天井まで設置する

だけ。測定で対策前後の効果を確認すれば完璧。これでスピーカーの性能を引き出すためのセッティングにトライできる。抱き枕は縦置きすると自重で縮むので2個縦に並べて床から天井までカバーする。

 定在波さえ抑えてしまえば勝ったも同然。反射防止や音の拡散に良かれと思って細かいものをゴチャゴチャ設置しても邪魔になるだけで効果はほとんど期待できない。無駄なものをお金を使わないよう注意してほしい。

 

 

<参考購入先>
吸音タワー 当館が開発に協力した商品です!
家具転倒防止つっぱり棒 吸音タワーの固定に
有孔ボードフック
抱き枕
2×4アジャスター 2×4材にこれを填めて、2本で抱き枕をコーナーに固定します

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4.サブウーファーの最適な置き場所はここだ!~音が遅れて聞こえる真の原因を解き明かす スピーカーの配置はこちらを参照
5.DALI(ダリ)を上回る!?PC用 小型スピーカー・サラウンドリアスピーカーの選び方

<参考文献>
3.リスニングルームの設計と製作例 加銅鉄平著 設計バイブル。12畳で0.50Sec、20畳で0.55Secが一つの指針です
6.自作スタジオのための音響理論入門