アナログレコードの需要が2006年を底に上昇しているという。注意深く針を落としたらササッと後ろに退いて体育座りで音楽を楽しむ。そんな時代は確かにあった。レコードにはA面とB面があり、片面の再生が終わったらひっくり返さなければならなかった。
曲間に針を落とすのはやや難しく、1曲目から再生することが多かった。この時代の「アルバム」はA面かB面の1曲目から順番に聴くことでアーティストが意図した音楽(ドラマ)を味わえる「音楽作品」だった。片面の最後には終わりを印象づけるテンポのゆっくりな曲が収録されることが多かった。
1980年に登場したレコードの曲間頭出しを自動化した商品。難しいトーンアームの動作がボタン一つで行え、再生が終了すると自動的に元の位置に戻る。まるで幽霊が操作しているかのよう。フルオートプレーヤーと呼ばれていた。
アナログレコードの音はCDに勝る!?
今になってアナログレコードが再評価されている理由は、アナログの「音質」にあるのだろうか。ネット上にはそんな記事もみかける。CDが登場した当初、レコードとの比較視聴がよく行われた。私も注意深く聞き比べたことがあるが、DENON(デノン)のカートリッジDL-103を使った再生音は優秀で、CDプレーヤーから再生される音との違いは微妙だった。
レコードとCDから実際に出てくる音の違いは世間で言われているほど大きくない。おそらく、一般の人はブラインドテストで区別できないだろう。
DENON DL-103。FM放送局で使われていたというカートリッジ。音質はクセがなくニュートラル。とりあえずこれを買っておけば問題なかった。
音楽がデータになって失ったもの
現代では音楽ファイルの一覧を見ながらタップ一つで簡単に再生できる。こうなるとアルバムはもはやアーティストの作品というより曲の「まとまり」でしかない。 タップ一つで簡単に好きな曲に飛べて再生できるしくみは、アルバムを作った作者の意図を無視した再生を促す。そんな音楽は店舗で流れるBGMと同じだ。
レコードを再生するとき針を落とす儀式が伴う。これは「緊張」を伴う作業で、コンサートやライブが始まるときの緊張感に似ている。無事、針を落として音楽が始まると「ホッ」とする。これはタップひとつで再生する仕組みでは体験できないことだ。
これらのことはレコードが再評価されている要因に違いない。しかしレコードにはもっと大切な意味があった。
写真は私の思い出のレコード。思い出がこもったアイテムは捨てられない。レコードを取り出してジャケットを眺めながら音楽を聴くと当時の思い出がよみがえる。音楽と共に思い出が刻まれたレコードは、大切な宝物だ。
右の写真は最近みかけなくなったジャケットの裏側。インターネットなどない時代、みんな音楽を聴きながらこのジャケットを眺めていた。ジャケットの大きさは30cmくらいあり、個別に飾るとインテリアにもなった。
思い出はメディアと共にある
レコードがCDになったとき、ジャケットの有難味はその面積比で失われたように感じた。CDのコレクションもそれなりに出来たが、文庫本より小さなメディアを並べたそれからはレコードほどの満足感は得られなかった。
音楽配信が普及するとジャケットはアイコンになってしまった。音楽は単なるデータになり、1曲からバラ売りされる仕組みによってアルバムという構成がほとんど意味を成さなくなった。形を持たないメディアが思い出と共に残ることはない。
音楽は聴ければよいというものではない。これ以上の音質を追及しても、多くの消費者にとって何のメリットも無いだろう。レコードの復権は、音楽と一緒に思い出を残せるメディアを求める動きかもしれない。
写真は私の宝物。映画の思い出は、映画館で買ったパンフレットと共にある。DVDが思い出と一緒にできないのはメディアのつくりに問題があるのかもしれない。
レコードを聴く儀式をCDで実現したプレーヤー
写真はマランツのCD-23。アナログプレーヤーの再生儀式をCDでできるようにしたユニークな商品。ガラスの蓋を外して内のクランプを取ってCDを乗せる。この作業は面倒で外した蓋の置き場に困る欠点があった。CDなので針を落とす緊張感はない。
しばらくの間、再生機がこの面倒なプレーヤーしかなかったので、全部のCDをMP3に変換してハードディスクに収めた。その結果、再生環境は劇的に合理的で便利になった。クリックひとつでいつでも好きな音楽を聴ける仕組みは巣晴らしい。
しかし再生はいつもBGMスタイルで、アルバムををじっくり聴くということはなくなってしまった。確かに手軽になったが、音楽の価値はかつて無いほど低下しているように感じる。今になってレコードが見直されるのは必然なのかもしれない。
ついでに真空管アンプの復権を目論む動きも
アナログレコードの復権を機に真空管アンプも復権させようと考える人もいるようだ。私は真空管の音に関心したことは一度もない。真空管の音の秘密は以前書いたように「抵DF」にあって、皮肉なことに最新のデジタルアンプがこの特徴を受け継いでいる。
無駄に電気を食う上に特性の悪い真空管に今さら戻るメリットは何もない。真空管アンプに価値があるとすれば、インテリア性だけだろう。
<参考購入先>
レコードプレーヤー 最近急激にラインナップが増えてきました
フルオートプレーヤー 全自動でアームが動く様子はまるで幽霊が操作しているかのよう。今では新鮮な光景です
DL-103 昔も今も音質に定評あるカートリッジです。MCなので昇圧が必要
MC対応フォノイコライザー AT-PEQ20 とりあえずこれを買っておけば全部に対応できます
アマゾンのレコード
真空管アンプ インテリア商品。音を期待するものではありません
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