大枚はたいて「確かに音は変わったが、お金をかけた割には良くならない」結果に終わるのはなぜだろう。大抵はお客様が選んだ商品をポン付けし、制振材を貼っておしまい。これでいい音が出るのだろうか。正しい手順でクオリティアップを検討すれば、低予算でも満足いく結果が得られる。今回このノウハウをご紹介したい。
なぜ大半の人が満足できずに終わるのか
カー用品店やプロショップに相談すると、価格別のセットプランを見せられて「どれにしますか?」と聞かれる。「じゃあ、これでお願い」といってクルマを預けてしばらくすると、「できました」と連絡が来る。「調整はしました?」と聞くと「やっときました」というだけ。これで満足いく音が出るだろうか。
この流れには、良くない点がいくつかある。1点目は、クルマに何を付けるべきか、先に決められないものを最初に選ばせていることだ。
最適なセットはクルマによって違うことは容易に想像つく。ショップのセットプランがが自分のクルマにマッチするとは限らない。いくつかのプランを広範囲に試してベストなものを採用するのが本当だ。ベストが「純正スピーカー+イコライザーチューン」の場合もある[1]。
2点目は、ろくに調整をしないことだ。大抵は適当な音楽ソースを使って店長などが聴感でやっておしまい。本来は人が座る座席位置(前席2点+後席2点)の周波数特性を測定してイコライジングなどで適切にレベル調整する必要がある。結果によっては、スピーカーを交換したり、制振材や吸音材の配置を見直すことも必要になる。
最近はDSPでこの調整(音場補正)を自動でやる仕組みをもつ商品がある。これを利用して「やりました」とするショップもあるようだ。このような調整は、かえって音を悪くすることが多い[2]。
プロショップに期待する仕事
プロショップは、本来こうあるべきだ。
・お客様と決めるのは、音創りのコンセプト(後述)と予算。その予算の中で、出来る限りのトライをする。
・自分で測定検証した素材(スピーカー、アンプ)しか使わない。
・バラックに近い状態で測定と視聴を繰り返し、本決まりしてからインストール(隠蔽配線)を行う。
・純正スピーカーを社外品に変える場合は、両者の測定データを提示し、変える理由を説明できる。
・サービスホールを塞ぐ場合は、塞ぐ前後のインピーダンス測定データを提示して、塞いだ理由を説明できる。
多くのプロショップは取り付けのプロであって音のプロではない。音を調べたり調整するためには、マイクロフォンや計測機器が必要。こういった計測器を保有し、きちんと活用できているプロショップはほとんど無いようだ。
カーオーディオから出てくる音は、付けた物の合計金額ではなく、技術で決まる。出来るだけシンプルな構成でいい音を出す。それが本当のプロの仕事ではないだろうか。
仕上がりの問題点
社外品を取り付けると、コンポーネントやスピーカがチカチカ・ギラギラ目立った、いかにも「取って付けた」ような仕上がりになってしまうことが多い。
私たちにとって望ましい仕上がりは、インテリアと調和していて目立たないもの。例えば、
イルミネーションやスイッチの形が周りと整合した、まるで純正のような仕上がり。
スピーカーは巧みに隠蔽され、ほとんど目立たない。音を出すと、素晴らしい感動の世界に浸れる・・・
これが理想とする仕上がりの一つだ。
2000年頃のカーオーディオのカタログ。このころは酷いデザインの商品で溢れていた。
いったいどんなクルマに付けることを想定してデザインしたのだろう。キンキンキラキラのイルミ、奇妙な外観、歪んだ形のボタンが並ぶそのデザインは、ほとんどのクルマのインテリアを崩壊させる。
そもそもカーオーディオの役目は何か
カーオーディオの主な役目はドライビングのサポート。走行時に流れる音楽はBGMとしてムードを盛り上げたり、気分を高めてくれたりする。つまり主役はあくまでドライビングであって、音はサポート。
ここを取り違えるとおかしな方向へ行く。例えば、カーオーディオにピュアオーディオのような音質を求めてしまうことがある。
室内で音楽鑑賞できない環境の人が、やむを得ず車でピュアオーディオを目指すことはあるが、それは「車が止まっている」時に楽しむもの。走行中のロードノイズやエンジンの音が大きいところへピュアな音質を求めても無理というもの。
カーオーディオにはスピーカーに制約が多い。いくらお金をつぎ込んでも、出せる音質には限界があることを知っておきたい。
カーオーディオの目標
カーオーディオの音を良くしたい、そう考える背景には、音に対する現状の不満がある。これは、ドライビングのサポートとして見た時の音質が不足しているわけで、ピュアオーディオとして見た時の不満ではないはず。
従い、カーオーディオの音の目標は、ドライビングのBGMとして満足いく音質であり、これが得られた時点で終わりになる。ピュアオーディオを目標に置くと終わりがないので注意したい。
音創りのコンセプトを明確にする
クルマには、その車格やキャラクターに応じたふさわしい音色というものがある。室内のロードノイズ、空調ノイズ、走行時の振動も、これを検討する上で無視できない要素になる。
望ましい結果は、クルマに合った音創りをおこない、ドライビングにプラスになること。例えば、次のコンセプトはどうだろう。
・スポーツカーには、走りを盛り上げるパンチの効いた低音と、切れのいい高域を備えたエネルギッシュなサウンド
・オープンカーには、ロードノイズや排気音にマスキングにされないだけの、十分な低音を確保した低重心サウンド
・室内が静かで走りが上質な高級車には、透明感のある上質な音色
オープンカーのようなロードノイズの大きい環境へ、上質な音色を求めるのは無理というもの。どのような方向で音創りを進めるのか。それを最初に考えて決めなければならない。
クオリティアップの手順
一般に、改善を考える順番は次のようになる。
- イコライジング
- エンクロージュア
- スピーカユニット
- デッキ
- 外部アンプ
クオリティアップを考える際、大切なことがある。純正でついているものを出来る限り活用することだ。大抵はここを真っ先に変えて失敗する。
高級車ではカーオーディオにも力を入れている。エンクロージュアやパネルの振動、室内音響まで考慮した専用たチューニングがされているものを、社外品に換えて純正を越える音を創ることは困難だ。
オーディオを純正で揃えたR32スカイラインのコンソール。純正のメリットは、デザインや音質がバランス良く仕上がっている点にある。
社外品に変えると、統一感がなくなりデザインが破綻してしまうことが多い。
ボタンやイルミの色を周囲と合わせることの重要性は、液晶画面になっても同じ。
写真はホンダのフィットにストラーダを組み合わせた例だが、青っぽい表示デザインが周囲とマッチしない。このあたり、メーカーにもう少し何とかしてもらいたいもの。
アレコレ手を加える前に、今一度、純正のまま使うことを考えて欲しい。純正オーディオは、搭載されるクルマの車格やキャラクターに合ったものが用意されているのが普通だ。オプションでアップグレードするにしても、クルマの車格やキャラクターを考慮しないとうまくいかない。
高級車の純正オーディオは、そのクルマの音響特性に合わせた専用設計されている場合があるから、ヘタに社外品に交換するとかえって音を悪くする可能性が高い。
クルマを買うときオプションでツイーターを付けて、デッキ、スピーカーなどの純正品に一切手を加えず、イコライジングで納めることができれば、それがベストである[1]。
イコライジングチューン
最初にイコライジングチューンを試みる。純正スピーカーのままでも音質を劇的に改善できることがある[1]。
イコライジングチューンをするためには、7バンド以上のイコライザー機能を持つデッキが必要。
エンクロージュアの改善
エンクロージュアとは、スピーカの背面を覆う囲いのこと。スピーカの裏から出た音が表に回ると相殺する。特に低音が相殺されやすく、スピーカを裸でならすと、ほとんど低音が聞こえない。
そこで、スピーカの裏から出る音を遮断する「エンクロージュア」が必要になる。クルマでは、ドアトリムの内側や、天井裏、トランクルームの空間がこれに利用されている。
エンクロージュアで重要なことは、その空間を形成している壁の「音の通りにくさ」と「振動のしにくさ」。低音を遮断するためには、厚みのある頑丈な壁が必要になる。
初級編
安いクルマでは、エンクロージュアの作りにコストをかけられないため、ペナペナ&スカスカになっている。ここを改善すれば、そこそこクオリティアップが期待できる。
純正スピーカはフランジと鉄板の間にガスケットが無い場合がある(R32 スカイラインでは付いてなかった)。チェックして付いてない場合は必ず追加する。
スピーカーを付けた状態で音量をあげて、ビビり音がでる部分揖制振材を貼る(デッドニングという)。闇雲に貼る必要は無い。サービスホールも塞がなくてOK。
ドアパネルのサービスホールの様子。写真はホンダのフィット。ここはダクト(共鳴器)として作用することも考えられるるので、塞ぐとかえって低音が出なくなる可能性がある。
中級編
スピーカーのインピーダンス特性を測定[5]しながら、サービスホール塞ぐ塞がないの判断や、適切な吸音材の量、制振材の配置などを決める。
吸音材を入れる目的は、定在波の防止。具体的には、平行な面ができる部分のどちらか片方に20~30mm程度のものを貼る。水を被るので、吸水しやすく乾燥しにくい素材を使わないよう注意。基本的には、吸音材の量が多いほど音はデッド(元気がなくなる感じ)になっていく。
測定と試聴を繰り返しながら、トライアンドエラーで適量を探る。
一般ユーザーやプロショップができるのは、ここまで。
上級編
ドアトリムの振動特性を考慮に入れてトータル的にチューニングする。
内部の吸音材や鉛シートの配置、適切な補強によって、ドアトリムの鳴り具合(振動モード)をコントロールし、ドアトリムをきれいに鳴らして音色的にプラスになるようもっていく。
これをやるには、振動センサーとFFTアナライザなどの解析ツールが必要になる。この調整はメーカーが高級車を対象にすることであって、一般ユーザーが同じことをするのは困難である。
スピーカの交換
スピーカーのレイアウト
4~5人乗りのクルマのリスニングポイントは、前席2点、後席2点、合計4点ある。基本的に、フロントから中高域、後から中低域が出るようにする。後ろから中高域を出すと後ろに座る人がうるさくてたまらず、会話の支障になりやすい。スピーカーはこれに従い、
フロント2way(ウーファー+ツイーター)+リアスピーカー(ドアパネル内蔵)
の6スピーカーとする。これ以上ユニットが増えると音をまとめることが難しくなる。
低音が不足する場合はリアスピーカーの中域から上をカットする。100Hz以下でクロスさせ、アンプを入れて低音専用にするとサブウーファーの代わりになる。
このあたりは測定データをもとにトライする内容。「低音が足りないからサブウーファーを追加しよう」ではなく、今あるものを出来る限り活用する。
サブウーファーは必要ない
サブウーファーは50Hz以下の低音再生を受け持つが、この帯域はロードノイズに埋もれやすいため、再生できても聞こえにくい。それに、50Hz以下に重要な音が含まれる音楽ソースそのものが少ない。
50Hz以下をきちんと再生するためには口径25cm以上必要なので、どこに配置しても邪魔になったり、収納が犠牲になりやすい。サブウーファーは無しで済ます形がベストである。
低域再生限界に注意
低域再生限界は、エンクロージュアの容積と、スピーカのf0(最低共振周波数)で決まる。カタログに書かれている再生周波数帯域は、車に付けると変わってしまうのであまり参考にならない。
能率(出力音圧レベル)に注目する
能率が高いものほど応答が良く、生々しい音が飛び出すスピーカーだ。最低ラインは90dB。何を付けるにせよ、これ以下の商品は避けたい。能率の高いスピーカーを使うことで、外部アンプも不要になる。
スピーカーの音色はこの能率と、振動板の材質、サイズなどで決まる。ブランド固有の音色を期待したりセールストークに感化されないよう注意したい。
ウーファーはごく普通の商品を選ぶ
紙を使った、ごく普通の地味な顔をした商品が音質的に優れていることが多い。
スペックは低域側ではなく、高域側の再生限界に注目する。これが高いほど、ツイータとの音のつながりを自然にできる。
コーンの素材は、紙などの天然繊維系がベスト。コーンを軽く指ではじいてみて、プラスチック的、金属的な音がするものは避けたい。
それともう一つ、マグネットは大きいものほど低音が出にくい。それは電磁制動が大きくQ(共振倍率)が低くなるため。低音再生の面では小さなマグネットの付いた純正スピーカーが有利なので、まずはこれを試したい。純正スピーカーは大きな音を出すのは苦手だが、BGM目的なら十分のはずだ。
純正スピーカーは大抵フルレンジの設計。低音が出来ない場合は木工用ボンドを塗ってウーファーに改造できる[4]。交換する前に試してみることをお勧めする。
ツイーターは音のキャラクターを決定づける
上で書いた音創りのコンセプトはツイーターの選択で反映させる。ツイーターの音色は主に振動板の材質で決まる。これを、音創りのコンセプトに沿ったものを選ぶ。例えば、
ソフトドームはクセの無い大人しい音。上品な音色創りに向く。欠点は能率が低いこと。
アルミやチタンなどハード系は、エネルギッシュな音創りに向く。欠点はクセがあるものが多いこと。
ホーン型は高能率で生々しい音を出す。欠点は、指向性が強いこと、設置が難しく邪魔になりやすいこと。
がある。一般的にソフトドームが最も無難で、失敗が少ない。
ツイーターのスペックは高域側の伸びより、低域側の伸びに注目する。1.6kHzから再生できるものがベスト。具体的な選び方は動画を参照。
クロスオーバーネットワーク(2020/4/13)
下記のいずれかのパターンでカットオフ1.6kHz近辺とする。
1.ツイーター 6dB/oct + ウーファー (フィルターなし)
2.ツイーター 12dB/oct + ウーファー 6dB/oct
ウーファーとツイーターのカットオフ周波数は、「別々に」調整する。
クロスオーバー周波数固定のネットワークは、大抵ウーファーとツイーターが両方とも自分の方を向いている時うまく繋がるよう作られている。これを使うと、中域が抜けた音になってしまうことが多い。これはドアスピーカーのウーファーが自分から見て斜めに設置されてしまうため。
ウーファーが自分から見て斜めに設置されると中高域が指向性により減衰し6dB/oct相当のネットワークが入ったのと同じことになる。
ウーファーのカットオフ周波数は、ウーファーが斜めに入ることを計算に入れて決める必要がある。この最適値は、1.6kHz付近。この周波数でツイーターと繋ぐと、ウーファーの角度が70度まで許容できる。つまりウーファーの取付角度による音の乱れがリスニングポジションに影響しない。実測データは以下の動画を参照。自由にカットオフの調整ができるデジタルプロセッサーがあると便利である。
コアキシャルタイプはNG
カー用スピーカではウーファとツイータが一緒になったコアキシャルタイプをよく見る。このタイプはまったくお勧めできない。特性のアバレがひどく、まともな音が出ないスピーカーがほとんど。
スピーカーケーブルは純正ケーブルをそのまま使う
ケーブルに固有の音というものは存在しない。ケーブルの抵抗でアンプのダンピングファクター(DF)が変わるだけ。カーオーディオの配線は短いので素材や電線の太さこだわってもほとんど意味がない。
先行配線されている純正ケーブルがあればそのまま利用すればよい。こういうところに無駄なお金をかけないよう注意したい。
音像定位はあきらめる
2chステレオ再生では音の位相差による音像定位が期待できるが、カーオーディオでは制約が多すぎて良好な定位はほとんど期待できない。前方定位させようとAピラーにツイーターを配置してもドアパネルのウーファーと離れてしまい中途半端な結果しか得られない。
最近はDSPの演算処理でこれをなとかする機能がある。このような機能は大抵音質と両立しない。
外部アンプの選び方
外部アンプが必要なケースは、出力素子に音質的に不利なICモジュールが使われている場合だけ。最近のナビ一体型システムでは良質なアンプが内蔵されるケースが増えている。これに能率のいいスピーカーを組み合わせれば、外部アンプは必要ない。
アンプにとって電源が重要なことはHi-Fiオーディオと同じだが、ここがスイッチング電源になっている商品がある。
12Vバッテリーと4Ωスピーカーの組み合わせで出る計算上の最大出力は122/4=36W。バッテリー電圧が14Vのとき50Wなので、カタログスペックは50W 4Ωが限界。これ以上は電圧を挙げるためDC-DCコンバーター(スイッチング電源)が使われている。
デジタルアンプのカーオーディオへの展開が期待される。スペースが厳しいDC電源のカーオーディオには、デジタルアンプがベストマッチする。
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<改定履歴>
2017/7/4 FITの写真を追加しました。