10年前のナショナル炊飯器をもらったので、タイガーの最新型と味比べをしてみた。最新型は「土鍋」や「かまど炊き」をイメージさせるいろんなセールストークを聞く。これらは何か味に関係するのだろうか。
10年前の炊飯器と最新型を比較する
写真は奥からナショナルSR-DG10F(2005年)、タイガーJKC-W100(2008年)。 タイガーの内釜はW銅入り5層。どちらも機能的なは支障はなく、内臓リチウム電池もまだ生きている。
2台の炊飯器で同時に炊いた結果は微妙。味は「同じ」といっいい。
ナショナルの内釜は銅釜、タイガーの内釜はW銅入り5層で厚みがある。「水加減」を調べたら内釜1合目盛の水量はまったく同じだった。
後者はフッ素コートがかなり痛んでいる。味に支障はないが、毎回ご飯がくっついて手入れが激しく面倒。
内釜は単品で購入できる。値段は機種にもよるが、5千円~2万円の幅がある。W銅入り5層(JKC1750)は1万円。少しお金を足せば新しい炊飯器が買えてしまう。
多層釜、土鍋、豪熱・・これらは味に関係するか
炊飯器のカタログには様々な能書きが見られ、消費者は判断に迷う。整理すると次のようになる。
表1 炊飯器のセールスポイントと味への寄与度
メリット | デメリット | 味への寄与度 | 備考 | |
内釜の銅入り、多層構造 |
熱伝導の向上 |
コストアップ | なし |
いまどき炊きムラが問題になる商品はない |
竈、土鍋※ | 炊き上がり後の保温性向上 | 熱伝導の悪化 コストアップ 電気のムダが多い |
マイナス |
IHと陶磁器の組み合わせ自体が不適当 |
豪熱、大火力、おどり炊き | なし | なし | なし | 必要な火力は水の量で決まるもの。意味無し |
多段IH※ | なし | コストアップ | なし | |
圧力炊飯 | 炊き上がりが早い。 山岳部など気圧の低い場所で使える。 |
コストアップ |
なし |
常圧下では意味無し(1気圧100℃で十分おいしく炊けることは実証済) |
スチーム | なし | なし | なし | 炊飯時に自然に出るものを追加する意味が不明 |
この表から、実際には何のメリットも無く、イメージに訴えるだけの能書きが多いように見える。
炊飯器を選ぶとき「おいしく炊けるものを」と誰もが思う。その点は大差ない(どれも同じ)と考えていい。
以前書いたように、ご飯の味は水加減(同じ炊き上がりを得るために要する水の量)で決まる。電気炊飯器はどのメーカーのどの機種も、判を押したように 米:水=1:1.2 の割合で炊けるよう制御されている。ここが変わらない限り、味に差が出ることは無い。
電気炊飯器は、日本的な家電の代表
ところで、なぜメーカーは1:1.2の水加減を変えないのか。水の割合を増やすと味がガスに近づくが、炊飯に必要な電気代が増えるうえ、同じ釜で炊ける炊飯量が減ってしまう。5合炊きが4合炊きに「スペックダウン」してしまう。
「そんな商品は売れない」そう考えているのかもしれない。
「こんなに小さなサイズと少ない消費電力で、5号も炊ける」 今の炊飯器はいかにも日本的な家電だ。この制約の中で実現可能な手段は研究し尽くされており、改善の余地が無い。
味が横並びになってしまった今、竈や土鍋といった「イメージ」に訴えて差別化するしか無くなっているのは仕方ないのかもしれない。
高価なIH炊飯器には過剰スペックの内釜が付属することが多い。
内釜の価値は熱伝導と熱容量で決まる。
熱伝導の違いは同時に加熱して上端の温度測ればわかる。左の結果はナショナル銅釜の勝ちだったが、炊きムラが起こらない限り気にする必要は無い。
調理家電はIoTで進化する
電気炊飯器や電子レンジには沢山の調理メニューがあるが、役に立たないものが多い。調理家電は無線LANでスマホやパソコンにつなげて加熱プログラムを自由に作れる形にすると新しい商品ができるのではないか。
炊飯器なら、水と米の比率をプログラムして自分の好きな味を追求できるようになるだろう。ユーザーが作った調理プログラムはネットで共有され、ダウンロードして利用できる。人気投票の機能を付けたり、メーカー主催でコンテストを開くのも面白そうだ。これはIoTを活用した調理家電の進化形の一つといえるだろう(PAT.Pend)。
写真はタイガー炊きたてミニ JKO-G550-T。なぜか5合炊きの商品が多いが、4人家族で3合以上炊くことは滅多にない(我が家では、年に1度もない)から、3号炊きで十分。
このクラスには圧力など余計な機能が付いていないこともうれしい。
電気と土鍋の組み合わせは何者だ?
最近「土鍋」を使った炊飯器が登場したが、これはいったい何だろう。ガスの少量炊飯では熱伝導率の悪い土鍋が使われるが、これは炊飯に必要な「沸騰時間10分」を稼ぐための工夫。つまり「仕方なく使っている」道具だ。
土鍋の熱伝導が悪い性質を利用して水加減を増やして炊けば、ガスの味[1]が再現できるかもしれない。しかし空気袋を使い土鍋炊飯器の目盛りを調べたところ、水加減は電気釜とまったく同じだった。
火力を自由に絞れる電気に土鍋を組み合わせる理由がわからない。意味不明。
これはおそらく、差別化のネタに困ったメーカーが苦し紛れに生み出したものだろう。料亭で出てくる土鍋の「イメージ」に訴えたイメージ商品に過ぎないと、私は見ている。
結論~電気炊飯器を選ぶポイントはこれだ
結局、電気炊飯器は、1~2万円程度のシンプルなごく普通のIH式を選べばよい。
高い機種をフンパツしても味は同じ。味に不満がある場合は、買い替える前に最後の蒸らしを手動でやることをお勧めする[1]。
<参考購入先>
3合炊きのIH炊飯器 圧力や余分な能書きの付かない普通のIH。このあたりから選べば失敗ありません
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裏側の吸気口はメンテナンスで見落としやすい部分。年に1度は埃をとっておきたい。
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