こんなはずでは・・14年過ぎた今、失敗した点や、当初思いもよらなかった出来事を中心に、これからマイホームを建てる人の参考になる情報をご紹介する。
立地の利点が欠点に変わる
マイホームは土地選びから始まるが、求めるのものは皆同じ。「通勤・通学・買い物に便利な土地が欲しい!」そこは高いし、住宅が密集していて近所に気を遣う生活を余儀なくされる。
そんな当初の利便が必要なのは20~25年間。自分が退職して子供たちが出払ってしまうと、空き部屋が目立つ。そして次のことに気づく。
妻と2人(離婚したら1人)で住むには、無駄が多い。体力も落ちて建物の維持管理が大変。足腰が衰えて2階に上がれなくなったらどうしよう・・残りの人生は30年以上あるが、このままでいいのか。ここで死ぬまで暮らせるのか。
当初必須だった通勤・通学はもう関係ない。この際、鉄道や幹線道路から離れた、静かで空気のいいところで老後を過ごしたい、と思うかもしれない[4]。
家づくりの過ち
大抵の人は現状の不満と、直近の都合をベースに計画する。それまで狭いアパートや社宅住まいの人は、広々した空間にあこがれを抱く。映画好きな人はホームシアターが欲しいと思うだろう。「緑に囲まれた広々とした住まい」多くの人はそれにあこがれ、計画にたくさんの夢と希望を詰め込む。
人数分の子供部屋に、おじいちゃん、おばあちゃんのための和室、寝室、広いリビング、対面キッチン、庭にウッドデッキ・・などと考えると、家は結構な規模になる。そうして建てた理想の家は、その後どうなるか。
人数分用意した子供部屋の結末
子供部屋が必要な時期は短い。子供がこれを使うのは、だいたい中学~高校までの6年間。そのあとは就職・進学等で空き部屋になることが多い。ニートちゃんにならない限り、男子は就職、女子は結婚して出ていく可能性が高い。
広々LDKの結末
リビングで家族みんなが過ごすのは小学生まで。中学生になると食事の時だけそこにいて、サッサと自分の部屋に閉じこもってスマホなりゲームに没頭。昔のようにみんなで一緒にテレビを見る、なんて光景はもうない。広すぎるリビングや吹き抜けは、空調や照明に電気がかかる無駄なスペースに変わる。
和室・ホームシアターの結末
おじいちゃん、おばあちゃんのための和室を作っても、該当する人がいなければ使わない。客間としても、使うのは、お盆と正月くらい。ホームシアターを作っても、使ったのは最初だけ。
こだわったガーデニングの結末
緑を見たくて木を植える。それが小さいうちはいいが、やがて剪定のために休日が潰れ体力を消耗するようになる。そこで「木なんか植えるもんじゃなかった」と思うだろう。室内から見えない「シンボルツリー」は無駄の代表。シマトネリコは最悪。もし植えたのなら、大きくなる前に切ってしまうのがよい[1]。
ウッドデッキ・屋上空間の結末
屋上空間やウッドデッキを作っても、活用するのは最初だけで、すぐに使わなくなる。夏は暑く冬は寒い日本でこういうものを作っても有効活用が難しい。洗濯物の足場にしかならない。
住宅ローンのリスク
長期ローンを組んで退職金で一括完済。それはいいが、退職するまで夫婦共々、借金を返すために働く生活が何十年も続く。仕事がイヤになっても借金がある以上どうにもならない。これをローン地獄という。
想定外の出来事が起こる場合がある。うちは築10年目にオヤジが亡くなって遺産を相続して完済できた。その時の解放感と自由の嬉しさは、例えようがない。
離婚のリスク
子供ができてから「ねェあなた、そろそろ家が欲しいワ」などと言われてから建てると、万一離婚になった場合、自分が稼いだ資産の半分を持っていかれる。最悪、家も土地も無くなり、借金と養育費の支払いが残る。
家を建てるなら結婚前、せめて土地だけでも確保したい。そうすれば、離婚しても手元にその資産が残る。
家づくり一生に一度、ではなく2度に分ける
退職を境にライフスタイルが激変し、それまで必要だったものが無駄と重荷に変わる。そこで、サラリーマンは家づくりを前半と後半の2段階に分ける。3回に分けるのが理想だが、現実には2回が限界だろう。
前半
子供がいるときの前半は建売がおすすめ。建売はどれも、通勤通学に最適化した商品になっている。どうせ一生いないのだから、安い物件でよい。
新築する場合は「見栄え」のこだわりを捨ててローコストを徹底する。何にどうこだわっても、退職する頃には上物(建物)の価値はゼロになって土地だけになる。グレードの高い住設は維持にカネがかかるだけ。前半は上物に価値を求めず、ローンを払い切ることを優先してリスクを下げることが重要。
勤め先が将来どうなるかわからないし、怪我や病気で働けなくなったり、クビなるリスクもある。そこで副業や投資を始めて、収入が勤め先1つに依存しない状況を作るよう努める。
子供が成人する頃には将来が見えてくる。家に残りそうもないなら、土地探しを始めるといいだろう。すぐに見つかるものではないので、年数をかけてじっくり探す。
後半
退職後の後半は、死ぬまでそこで暮らすことを前提に、環境のいい場所に家を新築する。立地条件は、食料・日用品の調達と医療機関だけ[4]。
後半の家づくりでは、間取り、住設の使い勝手、住み心地、耐久性など、最初の家で得たいろんな知識と経験が役立つ。断熱や冷暖房も、快適に暮らすためベストな方法が見えるだろう。
そんなカネ作れるか?と思うかもしれないが、新しく建てる家は、夫婦2人+郊外なので、土地や上物にあまりお金がかからない。貯金+土地売却+退職金の余り(+親の遺産など)を元手にキャッシュ一括払いが基本。そのためには、最初の家をできるだけ安くあげて、時計やクルマなど余計なものにお金をかけないことが重要。
家づくりが一発で成功することはまずない。初めての家づくりは直近の都合だけで考えた素人計画。最初の住まいが一生モノだから全力投球、ではなく経験を積むための練習台と考え、後半を本番と考えるべきである。
年金をいつからもらう?
年金は60歳から繰り上げ受給できる。この場合、80歳あたり損益が逆転し、90歳までもらっても総額9%しか違わない(注:2022年から減額率が0.4%/月になったため)。
ここはよく考えたい。私などは、少々減額されようが元気なうちにもらって使うのが得と考える。最初にたくさん投資をしたほうが、あとで増えるお金も大きい。つまり損にはならないどころか、増える可能性がある。
収入のアテが年金しかなく、投資もしない人は、最後の老人ホームでいい暮らしをするために、65過ぎても働けるだけ働いて、繰り下げ受給を考えるのがベストかもしれない。
死ぬまで住む本番家作りのポイント
今までわかったことに次がある。
・基本は木造、RCはNG
RC外断熱は一般的でないので基本木造になる。柱を鉄骨にするか、天然木にするか、よく考えたい。天然木の軸組構造は建築後に歪んでサッシ隙間の原因を作った[2]。RCは冬は冷蔵庫で夏は乾燥炉。老人が住める環境ではない。RC外断熱は理想だが現状は課題が多い。
・構造は単純に
できるだけ直方体にして余計なデコボコを付けない。入り組んだ構造はメンテが大変で、雨漏りなど欠陥の原因を作る。シンプルな構造は建築費が安く、メンテも安い。外観はシンプルな立方体を組み合わせた形がベストである。
・断熱は厚みより隙間がないことが重要
気を付けたいのは、隅や貫通部の処理。一般的な3種換気は室内が負圧になるので、わずかな隙間で断熱が台無しになる。通気性がある発泡ウレタンは3種換気と相性が悪い。独立セルなら問題ない。そういう発泡ウレタンはアイシネン以外見当たらない。
・外壁は金属系がベスト
サイディングを貼ると目地やひび割れの補修が必要になり、そこにお金がかかり、それが延々続く。ガルバなどの金属系は外観が悪くなるだけで、放っておいても性能に支障がない。目地や塗装の耐久性に依存するALCはもってのほか[3]。天井やバルコニーの防水についても同じことが言える。外装は壁に限らず金属系がベストである。
・暖房は床暖に限る
いまや高気密高断熱が当たり前。若いうちは「床暖など要らない」「エアコンで十分」と考えていたが、50代になり体温の調節がうまくいかなくなると、足元の冷えが辛くなる。冷えは老人の大敵、床暖はそんな老人に対する最適解だ。
・庭木は植えない
歳をとると維持管理のための体力が続かない。放っておけば、どんどんデカくなっていき、そのうちどうしようもなくなる。緑を見たかったら、最初から自然林が見えるところに家を建てる。どーしても植えたいなら、アオキやサザンカがよい。成長が遅く、あまり手がかからない[1]。成長の早いシマトネリコは、間違っても植えてはいけない。
・セールストークや噂に左右されない
ネットを見ると信憑性が疑わしい情報が多い。販売サイドの資料や、一見綺麗な解説サイトに注意。観察力に乏しい素人の体験談(口コミ)も参考にならない。信頼でるのは、自分の目で見て体験したことのみ。真実を知るためにも、最初の家での「練習」が欠かせない。
・できれば平屋
だれでもいずれ、二階に上れなくなる日が来る。2階建てにする場合は、1階だけで生活が完結する間取りにする。できれば平屋がベスト。そうしないと、動けなくなったら老人ホーム行きになり、そこでおしまい。
・こだわる人も規格住宅を
完全自由設計はとにかく大変、ドカンとブ厚いカタログを渡されて「この中から選んでね」はしんどい。眺めるだけで1日終わってしまう。
住設もいろんなメーカーがあって見学に回るのも大変、グレードの違いを見比べて選ぶのも大変。「こんなもんかな」で見積もったら高級車が買えてしまう金額にビックリ仰天。建物は安くできても住設にカネがかかると結果的に安くならない。
間取りに注文付けて考え抜いた家も、住んでみると「しまった」と思うことが多い。家づくりの経験のない自分の能力をもとに作った「こだわり住宅」はプロの規格住宅に叶わないことが多い。ある程度仕様が決まった規格住宅をベースに変更を加えるのが楽で結果的に良いものができる可能性が高い。
最後に
子供たちが家に残れば2回建てることにならない。少々作りがマズくても、2代にわたって自分が建てた家を使ってくれて、自分の面倒も見てくれる。子供がローン地獄に嵌らないで済むメリットは計り知れない。子供たちが出ていってしまうのは、幼少期からの、親の接し方に問題があったのかもしれない。
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