私は家を新築して当初まったく考えも及ばなかった、いろんな問題を経験した。工事中から竣工後5年間にかけて起きた問題をご紹介する。
ハウスメーカー選びの注意点
キャッチコピーの問題
住宅展示場に行くといろんなキャッチコピーを目にする。
「木は鉄よりも強い」「資産価値の高い住まい」「ロングライフ住宅」
木が鉄よりも強いと言うのは、強度を重さで割った「比強度」の話[1]。「重さの割に強いんですよ」というのが正しい。資産価値が高いというのなら、売ったらいくらになるの数字を出すべきだろう。ロングライフも高額な維持費用と引き替えでは意味が無い[2]。
「ウチは、地震に強いんですよ」
地震の被害が相次いだせいか、これも良く聞かれるセールストーク。どのメーカも地震に強いことをアピールしているが、今時、地震に強いことは当たり前。地震に強いんですよ、ではなく、「震度7が10回来ても強度を90%維持できます」のように数字で示してぼしい。
私はいろんな建築業者の営業と話をしたが、ハウスメーカの若い営業は全く相手にならなかった。彼らが口にする言葉は、自分の経験ではなく、教育されたものなので、説得力がまったくない。
私は住宅展示場のほかにも設計事務所を訪ね歩いた。そこには「建築家」と呼ばれる人がいる。彼らはプランニングが得意だが、住宅性能に関わる工学的な知識はあまり詳しくないようだった。
新しい工法は良いのか
ハウスメーカの中には新しい工法を開発したといって、それを売りにしているところがある。二重通気だとか、木造なのに外断熱とか、合理性に疑問のある工法が多い。
新しい工法は実験棟を建て、何年もかけて測定データをとって検証していくもの。そういうデータがないものは、手を出さない方が無難だ。
私はそんな工法を一通り検討して、結局、普通のヒノキ木造軸組+吹付発泡ウレタン断熱とした。それが最も合理的で柔軟で、長持ちすると考えた。吹付発泡ウレタンは、断熱欠損を防ぐための、最もよい手段に思えた。
次点は2×4(ツーバイフォー)で、中身がグラスウールではなく発泡ウレタン断熱。強度の高い家を作れるが、使う材質が腐朽しやすい欠点がある。日本国内での耐久データがないことが気になった。
丈夫さでは軽量鉄骨がベスト。但し住宅メーカーの規格品であり、断熱がグラスウールになってしまう。吹付発泡ウレタンができないこともないが、規格から外れて違うことをすると高くなることが問題だった。
建築家+工務店の形で契約
私が契約したのは、地域密着型の中堅工務店。住宅展示場の中で見つけたその工務店では「お客様第一主義」を掲げていた。契約の決め手は、「社長の人柄」。実際に会ってみて、この人なら信頼できる、そう思った。
私は新築を機にリスニングルームを計画した[3]が、工務店に雇わている設計士には、それを実現する力がないように見えた。そこで、建築施工と設計を分離し、設計を私のプランに興味を持ってくれた「建築家」と契約した。
ところが、これが問題だった。
最低レベルの施工品質
実際工事が始まると、いろんなトラブルが生じた。
建設現場では「施工品質」が重要になるが、私が家を建てて感じたのは、住宅工事に関わる業者にこれを求めることは困難なことだった。以下は実際にあった問題の一部である。
・発泡ウレタンの断熱材にブスブス穴をあけてそのまま
高気密を求めて吹付発泡ウレタンをやったが、あとから電気屋さんが断熱材に穴をあけまくり、そのまま。これではせっかくの高気密が台無し。スイッチボックスからスースー外気が侵入していることで気づいた。
写真は天井裏で見つけた電気引き込み部分の大穴。このようなウレタンの断熱補修は発泡ウレタンのスプレーが使える。
・壁クロスにボコボコ凹みが
クロスを貼る前に下地をフラットにする作業が必要だが、これを手抜きされた。クレーターのように目立つ窪みのひどいところ(3ヵ所)について張替えを依頼したところ、
「ライトを当てたら目立つにきまってる」「こんなところ、フラットにできるわけないだろ」と逆切れする有様だった。
写真は穴の開いた石膏ボードの下地を直さずにクロスを貼られた部分。
・サッシ枠が歪みまくる
サッシを閉めても風がスースー。見ると1センチも隙間がある。なぜこんなに隙間があるのか。聞くと天然木(ヒノキ)の柱は建築後しばらくの間歪み、落ち着くまで数年かかるという。本当は、木材の「乾燥不足」ではないだろうか。
天然木ではなく、EW(エンジニアリングウッド)か、軽量鉄骨で組めば、たぶんこういうトラブルは起きない。天然木にこだわったのが失敗だった。
写真のサッシは閉めた状態で取手付近に1センチ隙間がある。程度の差はあれ、すべてのサッシが似たような状態。ひどい場所は3センチあった。
1センチくらいの隙間はサッシ枠の方に詰め物を入れ、無理やりサッシのフレームを湾曲させて収めていた。3センチの場所は外壁を壊して枠の付け直しになった。
・ガラスが指定と違う
Low-E複層を指定したのに低グレードのものが付けられていた。竣工後に気づいて指摘してから交換となった。
・換気ファンを石膏ボードに直接ビス止め
喚起口が脱落しかかっているのを見て不思議に思い、ネジを締めたら空回り。石膏ボードにビスは立たないのにねじ込んである。
見た目についているだけで固定されていない。原因は取付業者がボードアンカーを省略したため。
・浴室の排気パイプが内側で脱落
写真はユニットバスの点検口から排気パイプ接続部を見たところ。パイプが外れている。気づくまでお風呂の排気は全部屋内に吹きこんでいた。開口部周辺が黒っぽくなっているのは、湿気が当たることで繁殖したカビ。
見ると同径のパイプ同士を突き合わせてテープで巻いただけだった。テープでは粘着が湿気で劣化しすぐに外れてしまう。ここは本来、継手部材を使うべきところだが、省略されていた。
・換気口から雨水が侵入
台風の日、換気口からポタポタ水が垂れてくる。換気部材を外してみたら、パイプに水勾配を付けていなかった。規定では、屋外側に向けて勾配がないといけないもの。それが室内側に傾斜していたのが原因。
・2換気口のパイプが壁まで届いていない
外してみて気づく。24時間換気の排気の一部が漏れ、胴縁の中に入り込んでいた。
・床下に潜ると断熱材の脱落、床を支える支柱未固定、配管水漏れ・・
床下にもぐってみると、いろいろ問題が見つかる。
写真は青い配管を通したとき断熱材が脱落してそのままのところ。
写真はプラ束と呼ばれる床を支える支柱。高さ調整したらナットを回して固定しないといけないはず。しかし触ってみると全部ゆるゆる。
洗濯機の排水継ぎ手から水漏れしているもの見つかった。
・玄関階段を1段省略
図面通りやらない外構工事。階段が図面と違って1段足りない。後で1段追加したら継ぎ目のところで泣き別れ。階段は建物側の基礎と一体なのに、追加した階段は駐車場の土間コンと一体にした為。
・雨漏り
調査を依頼したら、外壁をむやみに剥がすだけのずさんな調査をおこない、結局原因不明。コーキング打ち直しで止まってしまった。こういうことが起こらないようにと思って付けたGEOの保証は役に立たなかった。
5年後、再び雨漏りが発生し、外壁を壊して原因が判明。入隅部分のタイベックを止めたタッカーだった。この針のような孔1つが致命傷になっていた。
不正のマンネリ化
どこのハウスメーカーに注文しても実際の施工は下請がやる。長年同じ仕事を続けるうちに初心を忘れ、施工図を無視し、手抜きをし、都合の悪いことは隠し、面倒に思うことは省略する。
下請の職人作業には第三者による検査が入らない。いい加減な作業を続けても仕事をくれるし金ももらえる。これが、このような不正が常態化してしまう原因になっているようだ。
現場監督な何をしていたのか
家を建てる契約をすると現場監督が付く。その監督は、地鎮祭の時「私が担当になりました」といって挨拶に来ただけ。現場で顔を見ることは一度もなかった。
彼らの関心事は計画通り工程を進めることであり、図面通りモノを作ることではない。毎日現場に足を運び、図面と照らして一々チェックなどしない。この部分は下請に丸投げ。
建物が完成すると「できました」といってノーチェックで引き渡される。上記のようにガラスが指定と違っていてもそのまま。どこに頼んでも、似たような対応になると思う。
設計を頼んだ建築家には、引き続き施工管理の契約もしたが、現場を見に来たのは1度だけ。結局、毎晩懐中電灯と図面を持って現場に足を運び、自分でチェックすることになった。
トラブルを防ぐために、どうしたらよいのか
下請け業者には誠実なところもある。しかし顧客からはそれが見えないし、第三者の信頼できる評価もない。実際に仕事をやらせてみるまでわからないのが実態だ。そんな状況下でトラブルを防ぐには、次の対策が考えられる。
工場で大方作ったものを組立てるだけにする
いわゆる「プレハブ住宅」。大部分が工場品質になり、雑な作業をする下請けが入り込む余地が少ない。但し仕様が標準化されているので、アレコレ注文を付けることが難しい。
完成品(建売)を買う
現物を見て判断できる。チェックするところは室内ではなく、床下、天井裏、壁の内側。地中に埋設された配管図面。いろいろ外したり開けてみる必要がある。初めて家を買う人が問題を見抜くのは難しい。
どちらにせよ、きちんと音響設計したリスニングルームを作りたい[3]とか、注文をつけるのは難しい。
計測器を持たないところは避ける
工務店やハウスメーカーと契約するとき「どのような計測器をお持ちですか?」と聞いて見るといい。
風速計、ファイバースコープ、サーモカメラ、騒音計は品質を検査するうえで最低限必要なもの。これらを持っていないということは、それについて何も検査してないということ。トラブルが起きた時も満足な対応は望めない。私が契約した工務店も、建築家も、上記の計測器はどれ一つ持っていなかった。
気密検査の設備も住宅の性能を検査するうえで必要なもの[4]。これを保有していることは、ハウスメーカーを選ぶときの一つの基準になる。
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