システムバスではオプションで音響設備を選べる。「お風呂で音楽が聞けたらステキ」と思うかもしれないが本当にそうか。トクラス(ヤマハ)の「サウンドシャワー」を7年使ってみた結果をご紹介したい。
強制オプションのサウンドシャワー
我が家はシステムバスにヤマハ(現在トクラス)の製品を導入した。この商品には「サウンドシャワー」と称するシステムが標準で付いてくる。要らなくても外すことができない。
その理由についてヤマハは「リラックスする場所である浴室に音楽は欠かせないものと考えます[1](要約)」と説明している。
サウンドシャワーはどんな設備か
写真はサウンドシャワーのスピーカー。5cmの小さなフルレンジだが背面にパッシブラジエータがあり、バスレフポートを通して低音を出すという凝った作り。マウントした壁面の剛性が足りず、手で触ると振動している。
右はコントローラー。浴室の外なので入浴中に音量調節や曲のセレクトが出来ない。ボリウムが付いているが、入力を絞るための抵抗だとすれば酷い設計(最近の商品は音量調節が浴室内からできるよう、ワイヤレスリモコンになっている)。
スピーカー近接の周波数特性。ほぼフラットで、低域は100Hzまで出ている。上手にシステム化すれば、それなりの音が期待できそう(測定音源がMP3ピンクノイズのため20kHzは出ていない)。
浴槽付近。入浴中に聞く音がこれ。山谷が多くクセのある音。聴感上はいろんな付帯音が被っていて、“安物のラジカセ” のよう。この山の正体は、平行な面によってできる音の共鳴(定在波)。
7年使ってどうだったか
音を出したのは最初のうちだけ。7年間利用してきた印象は「無駄な付帯設備」。「付いていてよかった」とは思えない。
使わなかった理由は2つある。それは、使い勝手が良くないこと、そして肝心の音が悪いこと。
浴室は最悪の音楽再生環境
浴室で声を出して歌うと音が良く響く。このことから、音楽も綺麗に響くと思うかもしれないが、そうはならない。
浴室は平行面で囲まれた小さな空間なので、共鳴(定在波)が目立つ。つまり、特定の周波数が強調される。声が問題にならないのは、声に含まれる周波数と、その定在波の周波数が、たまたま一致しないだけ。
浴室の音響特性が良くない事は、手を叩いてみればわかる。定在波が目立つ環境では、いくらいい設備をつけても生かされない。台無し。これはトクラスに限った話ではない。
定在波は片面に吸音材を貼ると消えるが、浴室に水を吸うものは使えない。壁面を傾斜させて平行な面を無くすなど、構造で工夫しないとダメだ。
写真はウォークマンを繋げて再生しているところ。「山が気になるならイコライジングチューンしたら良いのでは?」と思うかもしれない。
定在波は一種の共鳴なので、イコライジングで振幅特性だけフラットにしても意味ない[1]。しかし、何もしないよりはマシになる。
騒音の大きいMAX換気装置の組み合わせでダメ押し
トクラスのシステム商品にはもう一つ別の問題がある。換気装置の騒音だ。MAXの換気装置とセットしているが、MAXの設備はファンの音が大きい。
サウンドシャワーはサウンドシステム以前に、浴室が音楽を聞ける環境になっていない。音を出すときはファンを止めるといった仕組みはできないのだろうか。
ショールームで聴く音は参考にならない
定在波は平行な面によってできる。窓や入口が解放されるなどして、片側の面がなくなると発生しない。そのような環境に近いショールームで聴く音は参考にならないので注意したい。
本当にお客様の為を考えた装備か
ヤマハは音響機器としての強いブランド力がある。リビング事業にそれを応用して、他社と差別化したい気持ちはわかるが、サウンドシャワーは浴室にヤマハブランドのスピーカーをポン付けしただけ。
ここでトクラスの理念を再掲する。
「私たちトクラスは、リラックスする場所である浴室に音楽は欠かせない、そう考えサウンドシャワーを標準装備にしています」
出来たモノを実体験した結果からは、買って頂いたお客様に本当に音楽でリラックスしてもらおうと考えて計画されたものか疑問。
浴室音響には開拓の余地あり
浴室音響システムを室内音響まで考えて取り組んでいるところは少ない。誰も本気で取り組んでいなところには、開拓の余地がある。
室内音響まで考えて構造設計すれば、残響の多いバスルームの特異性を生かして今までに無い音環境を作れる可能性がある。「あなたの浴室がコンサートホールに!」そんなPRができるかもしれない。
そういうことを実現したうえで「不可欠であります」といって標準で付ければ、誰もが「付いていて良かった」と納得する商品になるに違いない。
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<参考文献>
1.浴室音響システム『サウンドシャワー』を業界に先駆けて標準搭載