あなたの知らないPCファンの選び方~風速計で適正動作を確認する

 ファンには圧力型と風量型がある。使い道を間違うと冷却が不足したり無駄に冷やすことがある。ファン選び方と、風量を測って有効に働いているか調べる方法をご紹介する。

 

ファンの市場

 ファンの設計は「カーペット線図」から始まる。大体の形が決まったら流体解析で形状を最適化し、PQ線図を計算して実測で確認する。ファンの基本的な形は概ね決まっていて、山洋電気の商品が一つの手本になる。

 このようなファンの設計技術を持たないメーカーは既製品をコピーして作る。適当に形を決めてもそれなりに機能するから、多くのメーカーが参入している。中には、素人が思いつきでデザインしたとしか思えない珍妙な「奇形ファン」もみられる。

 コピーファンや奇形ファンも、裸で回せば一応風が出る。しかし機器に取り付けたとき期待通り動作する保障はない。

 

ファンの性能

 ファンの性能はPQ線図からわかる。右肩下がりのカーブがファンの性能を表している。
 

PQ線図の例(山洋電気 技術資料より) 左はPQ線図の例(山洋電気 技術資料[3]より)。システムインピーダンスはPCケースの圧損特性で、PQカーブとの交点がファンの動作点になる。

 PQカーブは右肩下がりの直線ではなく、真ん中付近に踊り場(凹みの場合もある)ができる。この部分を「サージング領域」という。通常は図のようにサージング領域の右側に動作点がくるよう設計する。サージング領域を含む左側は風が軸方向に流れず、ファンとしてまともに機能しない。

 

PQカーブが立っているものは「圧力形」、ねているものは「風量形」とみることができる。

圧力形ファンの例 風量形ファンの例

 圧力形(左)、風量形(右)の例(メーカーカタログより)。圧力形と風量形は、PQ線図を調べなくても外観である程度区別できる。圧力形はブレードが短い、中心のモーター部が大きい、本体の奥行が長いといった特徴がある。風量形はその逆で、ブレードが長く、中心のモーター部が小さく、奥行きが薄い。

 圧力形と風量形はそれぞれ用途が異なる。使い方を間違えると望み通りの冷却ができない。また、PCの中にはHDDなど、直接風を当てたり、冷やしすぎるとかえってよくないパーツもあるので注意したい[1]

 筐体の熱設計は発熱量と圧損を把握したうえで必要風量を算出し、それを満足するファンをPQ線図を見ながら選ぶのが通常の手順になる。

 PQ線図はファンの選定に不可欠なので、メーカーはユーザーが要求したら提示できる用意がなければならない。PQ線図を出さない(出せない)メーカーは、コピーファンを売っているだけの可能性があるので注意したい。

 

ファンの騒音

 ファンの騒音の要因は、ブレードから出る風切音と、本体からケースに伝わる固体伝搬音の2つがある。

 風切音の原因は気流の乱れであって、気流の乱れは周速の高いブレード外周部や、吸気側のグリルやダストフィルターで起こる。この問題は回転数を落とすことで容易に解消し、グリルやダストフィルターがあっても許容範囲に抑えることができる。

 低回転にすると風量が減るが、サイズでカバーできる。すなわち、大きなファンを低回転数で使う。これが静かな環境を作るうえで第一に重要な指針になる。

 

 固体伝搬音は、ファンの振動がケースに伝わり音を拡大する問題だ。裸で回すと静かなのに取付ると音が出る原因のほとんどがこれに該当する。この振動は市販の「防振ブッシュ」で減衰できるが、能力に限界があるので最初から振動が小さい商品を選ぶことが大切だ。

 アンバランスの度合いはファンを回した状態で手に持ってみるか、吊り下げて振れをみるとわかる。バランスの悪いファンは安物に多い。バランス修正をアルミや銅のテープをウエイトに使ってできなくはないが、別の商品を選び直した方が早い。

 振動の大きなファンをケースに取り付ければ必ず音を出す。ファンの振動について定量的な表示が求められる。ちなみに、ファンの振動測定に関する規格はJBMS-72-2[2]が参考になる。

 

 

振動対策

 防振ブッシュを介して取り付けるのが一般的。以前は脱着が難しいうえ効果も十分といえない商品が多かったが、最近はファン自身に防振部材を内臓した商品が登場し、取付容易で防振性能も安定するようになってきた。

 防振支持ではゴムが柔らかいほど、ファン本体が重いほど、防振効果が高くなる。効果が不足する場合はファンに錘りを付けると改善の方向に向くが、最初から振動の少ない(動バランスのよい)ファンを選ぶことが大切だ。

 軸受の振動は原理的に「流体軸受」やスリーブベアリングが有利になる。ボールベアリングはアンバランスによるシャフトの振動が伝わりやすいが、アンバランスが十分小さければ軸受による差はほとんどない。

 ボールベアリングの音は「シャー」という転動音。ユーザーレビューに見る「ベアリング音」は、そのほとんどがアンバランスによる振動の聞き違いとみられる。

 

軸受の種類と特徴

 ファンの軸受にはスリーブ、玉軸受(ボールベアリング)、流体軸受が使われている。流体軸受にもいろいろあり、スリーブにオイルを入れただけの軸受も一種の流体軸受だ。

 振動や回転精度に優れた流体軸受は、回転によって動圧を発生させ、軸心を安定させる仕組みを持った「動圧流体軸受」になる。このような軸受を使った商品は、NZXT、Corsair、CoolerMasterの一部に見られる。
 動圧が働かない流体軸受は軸ブレが大きく、かえって振動が大きい場合もあるので注意したい。

 

有効に働いているか調べる方法

 まずPQ線図を把握する必要がある。市販のファンにPQ線図が付属する商品は少ないが、仕様にある最大風量(CFM)と最大圧力(mm-H2O)がPQ線図の両端を示すので、この2点を結んで簡易的にPQ線図を描くことができる。

いろいろな120mmPCファンのPQ線図 左は120mmクラスのボールベアリングまたは流体軸受を持つファンを対象に、カタログから数字を拾って簡易PQ線図を作ったもの。このグラフはファンの選定に役立つ。

 

グラフ1 120mm PCファンの簡易PQ線図

 

 ケースのシステムインピーダンスがわかれば動作点が把握できる。これがグラフ1のPQ線図のサージング領域(中央付近)から右側にあれば、ファンは適切に機能している。

 ケースのシステムインピーダンスは通常不明なので、風速を測って面積から以下の式で風量(CPM)を求め、これをグラフ1にあてはめて動作点を求める。

 風量Q(m3/s)=風速(m/s)×開口部面積(m2)    (式1)

CPM=60×35.31×Q    (式2)

 

測定例

 写真はDefine MiniにCooler Master FP120をつけた状態で風速を測定している様子。

風速計を使ってファンの排気風速を測定している様子

 風速は実測平均1m/s、開口部面積 0.11×0.11m2。式1,2より約26CFM。これをグラフ1のPQ線図にあてはめると、サージング領域のある中央から右よりで動作しており問題なさそう。

 あとは、最大負荷時に排気温度-気温の差が15℃程度になるよう、風量を調節するなりファンを換えるなりすればよい。試行錯誤の繰り返しより、合理的な調整ができる。

 

 

 

お勧めのファン

 グラフ1の圧力を回転数の二乗で割り、風量を回転数で割って回転数を無関係にすると、ファンの性能が見えてくる。これを次に示す。

120mmPCファンのPQ線図から回転数の影響を除いたグラフ

 線が立っているものは圧力形。ダストフィルターを前置した吸気や圧損の大きな窒息系ケースの排気に適している。

 線が寝ているものは風量形。低回転で大きな風量が得られるので、排気ファンに使えば静音化に貢献する。

 線が右斜め上方にあるものほど効率が高いファン。効率が高いファンは、低いファンに対し同じ風量を得るのに低い回転数と電力で済む。

 

グラフ2 120mm PCファンの簡易PQ線図 (回転数で正規化)

 

 グラフから、山洋F12-PWMは圧損に強く効率の高い優秀なファンの一つといえる。PWMで回転数を変えて使うことで吸気、排気、CPUクーラーなど万能に使える。但し、ボールベアリングのため振動がケースに伝わり、音が出ることがある。音を問題にする場合は防振ブッシュの併用を薦めたい。

 風量形ではNZXT FNシリーズがお勧め。開放に近いケースの排気ファンに使うことで十分な風量を確保しつつ無音に近い環境を実現できる。

NZXT Phantom 240の標準ファン FN-120V2 NZXT Phantom 240のケースに標準で付いてくる FN-120V2 。取付部に防振パットを内蔵。動バランスも優れており、このようにフロントファンが露出していても音はまったくといっていいほど聞こえない。

 

 

<参考購入先>
山洋電気のファン F12-PWMは万能に使える優秀なファンです
NZXTのファン 防振ブッシュ内臓のものはほぼ無音です
防振ゴムブッシュ 柔らかいものを選んでください
風速計 検証に欠かせない風速計。温度も同時に測れるものが便利です

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<参考文献>
2.JBMS-72-2 スモールファンの空気伝搬騒音及び個体伝搬振動の測定
3.山洋電気 技術資料