写真は超音波洗浄器。シチズンSWT710、東芝TKS-210(絶版)。実際使ってみると、キレイになったり、あまり落ちないな、と思うことがある。この原因は「水深」。これを適切に決めないと安定した洗浄が望めない。今回は、これについて詳しく解説する。
超音波洗浄の原理
まずは、原理を知る必要がある。超音波洗浄機は、水槽の底に振動子がついていて、これを耳に聞こえない超音波(40kHz前後)で振動させる。このとき、次の作用が起きる。
①振動
入れたモノが超音波の振動で小刻みに震える。これは水中で揺すって汚れを振り落とす原理と同じ。振幅は目に見えないくらい小さいが、周波数が高いので大きな加速度が作用する。この作用で汚れが表面から剥がれる。
②衝撃力
水中を超音波が伝わるとき、真空の気泡ができて消滅する。このときの衝撃がモノに作用する。一瞬で発生し消滅するため目に見えないが、アルミホイルを入れると、これを目に見える形で観察できる。
この力は「まばら」なアタックである。多数のボールを相手にぶつける形であり、ボールが当った部分だけ綺麗になる。表面全体に当てるためには、洗浄時間を長くしないといけない。
③反応促進
モノが振動することで、表面に触れる水がよく入れ替わる。洗剤や薬品を使った場合、これによって反応が促進される。
洗浄力が安定しないのはなぜ?
使っていると、汚れ落ちがいい時と、悪い時があることに気づく。これには、定在波が関係するため。2つの並行な面間で音波が反射を繰り返すとき、「定在波」という共鳴が起きる。
超音波洗浄では、この定在波を利用している。いつも水をドボドボ適当・・では効果が安定しない。
最適な水深とは
40kHzの超音波では、18mmの倍数で定在波が発生する。ということは、水深をこれに合わせれば良い、というわけでもはない。現実はいろんな方向で発生する為、複雑である。
水が少ないとき、強い定在波が沢山できて水の表面が激しく波打つが、水深を深くすると弱くなる。これは音波の移動距離が増えて減衰する為。超音波洗浄では、できるだけ水深を減らす(水を少なくする)ことが重要である。
それと、槽に入れるモノは、少ないほど良い。無造作に多くのものを放り込むと、音波が減衰して洗浄力が落ちる。
洗浄ムラの対策
定在波には、振幅が最大になる「腹」の位置と、なったく動かない「節」の位置がある。節の位置では汚れ落ちが悪い。これは28kHzなどの低い周波数のとき問題になる。市販品の多くは40kHzなので、この問題はあまり起きない。
洗浄ムラが気になる場合は、洗浄中にモノを少し動かすといい。
洗剤の併用で洗浄力アップ
超音波洗浄は水だけで効果があるが、界面活性剤(台所用洗剤)を併用すると飛躍的に洗浄効果があがることが知られている。
チョっと入れるだけでいいので、試してほしい。
樹脂はキレイにならない?
超音波から見た樹脂は、フニャフニャの粘土のようなもの。高速で振動させることができないため、上記①の作用があまり働かず②がメインの作用になる。この衝撃アタックは「まばら」なので、表面全体にまんべんなく気泡が当たるまでに時間がかかる。
固く脆い材料は表面から破壊されていく。これが、べっ甲や象牙、一部の宝石類(真珠、オパール、珊瑚)などを入れてはいけない[1]、と言われる理由。
気泡の破壊力は周波数で決まり[2]、W数や時間は関係ない(これらは、気泡の密度に関係)。短時間なら無事に済む、というわけではない。
周波数は高いほどよい?
超音波の洗浄力は、周波数が低いほど高い。反面、波長が長くなって洗浄ムラができやすい。例えば、業務用には28kHzの商品があるが、素材に与えるダメージが大きく一般向けではない。
アマゾンには50kHzに近い商品があるが、これは精密小物や、小さなアクセサリの洗浄に向く商品である。
メガネ、時計など身近な小物類の洗浄に最適な周波数は、40kHz。用途に応じて最適なものを選んでほしい。
<参考購入先>
楕円容器の超音波洗浄機
シチズンSWT710
<参考文献>
1.超音波洗浄の原理-㈱カイジョー
https://www.kaijo.co.jp/sansen/technical/genri.html
2.超音波洗浄によるキャビテーションのサイズ-日本アレックス㈱
https://www.nalex.co.jp/technology/tech-cleaner/select-frequency/
超音波による化学物質の分解と超音波反応器の開発-安田啓司
https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno6_pdf83.pdf