RCAケーブルにお金をかける価値はない~ピンケーブルの選び方

「これだけ純度が高くて、高価な商品なら、さぞやいい音が出るに違いない」

そんなケーブルを買ってきて機器に挿すと、ある問題に気づく。

「真っ直ぐ挿さらない・・」

 電線を挿すと重みで垂れ下がる。電線が硬く曲がりのクセで端子にストレスがかかる。プラグにバリがあって、挿すと端子にキズが付く。挿し込みが硬く、ガリガリ端子のメッキを削りながら刺さっていく・・

これは価値ある商品といえるのだろうか。

 

ピンケーブル選びのポイント

 ピンケーブルを選ぶポイントは次の通り。

1.コードやプラグが軽量にできていること
2.コードがしなやかで容易に曲がること
3.マイナス端子の内側がなめらかに出来ていること
4.はめあい精度が高くなめらかに挿入できること
5.シールド効果の高い構造になっていること

 方向性があると称するケーブルに注意。電線はどの方向で使っても同じ特性であるのが、いい電線である。

 まずは、プラグが相手にまっすぐ平行な状態で取り付けできなければ、お話にならない。

RCAピンプラグをジャックに接続した状態の模式図 プラグやコードが軽いほどいいというのは、図から理解できる。

 接点の中心点がO、プラグの重心をm、お互いの距離をLとすると、mの質量が小さいほど、またLが小さいほど、接点周りの慣性モーメントが小さくなり、相手の端子との相対的な位置関係を保持しやすい。これは振動などの外乱に対して安定した接触を維持するために大切なこと。

 

 コードはしなやかに曲がらなければならない。図のように挿し込んだ状態で電線を曲げたとき、プラグが斜めになったり、ジャックに力がかかる(ストレスを与える)ようなケーブルは使えない。

 3 は、接触抵抗を低く保つために要求されるポイントだ。マイナス側の形状は単なる円筒よりも、スリットがある方が接触点が増えて抵抗が下がりやすい。

マイナス側にスリットが設けられたRCAプラグの例

 マイナス側にスリットを設けたプラグの例。黒ずんでいる部分が接触していた場所。

 スリットの外周が樹脂で覆われているので、機器に刺したとき隙間から端子が露出せず錆びに強い。

 

 

 4 は、自分と相手との隙間に関するポイントだ。きつすぎず、ゆるすぎず、「しっくり嵌る」ことが理想。

 5 は、耐ノイズを高めるためのポイント。シールドが隙間なく緻密に編んであるものがよい。この点、アンテナケーブルはすぐれたシールド構造をもつ。

 

オーディオテクニカの極太高級ケーブルを剥いた様子 写真は1980年代に購入したオーディオテクニカの極太高級ケーブルを剥いたところ。シールドは編組みだが、スキマが大きいのが問題。導線自体も腐食している。

 シールドの性能は唯一ケーブルを差別化できるポイントだが、ピンケーブルではこれが不明なものがほとんど。

 

 

スピーカーケーブルとの違い~抵抗は重要でない

 スピーカケーブルではとにかく抵抗を減らすことが重要だった[3]。それはアンプの出力インピーダンスが低く(0.2Ω以下)、それがダンピングファクターに影響するからだが、ピンケーブルの場合、抵抗は重要でない。なぜなら、プリアンプやプレーヤーなどの出力インピーダンスが50Ωくらいあるからだ[1]

 ピンケーブルでは抵抗よりむしろ、耐ノイズに関係するシールドの作りが重要になる。それは出力インピーダンスが高いとノイズが乗りやすくなる為。

 日常最も大きな影響のあるノイズに、100V電源周波数の誘導ノイズがある。これはどんなにシールドを良くしても無くすことが難しい。この課題はXLRケーブル[4]を使ったバランス伝送で解決する。

 

表皮効果、磁界の相互作用の影響(2020/8/22)

 表皮効果とは高周波の電流が表面近くに偏り、中心付近が流れにくくなる現象をいう。細い素線を寄せ集めた一般的なケーブルでは別の作用(磁界の相互作用)も同時に働き、これによって流れにくくなる。

 リッツ線を使うと表皮効果の問題が改善するが、磁界の相互作用は改善しない。そのためロジックアナライザなどの計測器用ケーブルではリッツ線をプラスとマイナスをツイストしてこの影響を打ち消す形にしている。

 いずれの問題も、オーディオ帯域(20kHz)の領域では関係ない話なので、気にすることはない。詳しいことは、文献6,7,8,9を参照されたい。

 

特性インピーダンスの影響(2020/8/22)

 特性インピーダンスの整合が取れてないと信号が反射してロスが増えることが知られているが、オーディオ帯域(20kHz)の領域ではその影響が -390dB以下となり完全無視できる。文献10を参照。

 

 


 

ピンケーブルを自作する

 ピンケーブルは完成品が売られているが、残念ながら上記のポイントを満たすものがない。そこで、プラグとケーブルを別々に購入し自作することを検討する。

 

1.プラグを探す

 RCAプラグにはチャッキング式(本体を回すことで接触部が締まる構造)があるのでこれを候補に入れていくつか買ってみた。

 

いろいろなRCAピンプラグ 自作プラグの候補。左からWBT-0147 , ZAOLLA RCG-1R , カナレF-09 , F-10。他に DAYTON AUDIOのLOCKING RCA PLUGもある。

 センターポール(+端子)の寸法を測ったところ、直径に1割近い寸法のばらつきがあった。

 これだけマチマチでは接触不良や相性問題が生じて当たり前。RCA規格のプラグに信頼性を求めること自体が間違いなのかもしれない。

 

 

 コンタクトの仕上げを観察すると、ZAOLLAだけ鏡面仕上げされてピカピカ。残りはすべてバイト痕が残る仕上がり。写真はないがDAYTON AUDIOも同じだった。

 センターポールを観察すると、ZAOLLAが4分割φ3.05、WBTが2分割先開きφ3.35。カナレはどちらもφ3.20円柱だが長めに作られている。RCAではプラス側のバネ要素はジャック側に持たせるのが普通なのでプラグ側の分割は必要ない。

 

2.はめあいのテスト

 冒頭のポイントで挙げた「はめあい」のテストを行う。このテストでは、無理なく適度な力でスムースに差込&抜去できるか、何度も抜去して相手に傷を付けないかどうかがチェックポイント。

 金属同士の勘合では、潤滑油(コンタクトオイル)の併用が望ましい。今回のはめあいテストではRational001を使用した。結果は次の通り。

 

表1.RCAプラグ、ジャックのはめあいテスト結果

品名 抜去力 相手の傷つきにくさ スムースさ
WBT-0147 やや強 ×
RCG-1R(ZAOLLA) 非常に強 × ×
F09(カナレ) 適度
F10(カナレ) やや強

 

 WBTはマイナス側切込部の内側にカエリがあり、挿し込みが少しきつい。抜くと相手に傷が付くのが確認された。

 ZAOLLAはプラス側が緩く、マイナス側がかなりきつい。抜くのにペンチが必要だった。当然、抜いた後のジャックは傷だらけ。

 カナレの2種はいずれも相手に傷を付けなかった。F-10はややひっかかりを感じるが、これはマイナス端子のテーパーが大きいため。F-09はどんな相手に対してもスムースなフィーリングだった。

 はめいあいのベストはカナレのF09。自作ではこれを使っていく。

 

RCAピンプラグとジャックの「はめ合い」をテストしていている様子

 写真はRCAジャックとはめ合いのテストをしている様子。見た目ではわからない寸法や工作の精度を確認できる。相手に傷を付けてたり、きつすぎてメッキを削ってしまうものは論外。

 この結果は、高級なプラグが必ずしも良いとは限らないことを示した。少なくとも、ジャックを傷付けるようなプラグの付いたケーブルに、高いお金を払う価値はない。

 

 

 

 

3.メッキの品質について

 高級プラグの多くは金メッキされているが、経験上、金メッキで錆びないものは一つもなかった。金メッキの色艶が何となく悪いことに気付いても、それは汚れであり錆びているとは思わない人が多いようだ。

 高級プラグが塩水噴霧や腐蝕ガスによる耐蝕試験をパスしていれば、価値を認めることが出来る。しかし、そのような試験データを掲げたプラグは見あたらない。

 そこで長期実験してみた。結果は関連記事5を参照。結果は、未処理ではどれも錆びた。防錆効果のあるコンタクトオイル(Rational003など)を塗布しておくことで、錆びを防ぐことができた。

 

 

4.ケーブルを探す

 下の表は、冒頭で書いたポイント(シールド効果の高い構造になっていること)を満たすケーブルを探してリストアップした結果。

 

表2.ピンケーブルの候補一覧

品名 外径(mm) しなやかさ 耐ノイズ 経年変化 中心導体(スケア) 価格(円/m)
S4CFB 6.0 0.50 70
L-4CFB(カナレ) 6.1 0.50 63
S5CFB 7.7 0.87 120
S5CFBL 7.7 0.87 130
L-5CFB(カナレ) 7.7 0.87 87
GS-6(カナレ) 5.8 1.0 180~500

価格は目安(2017年調べ)。※は100m単位の販売です。

 S4CFB、S5CFBはアンテナケーブル。後ろのL付きは3重シールド、カナレは高密度シールドにして規格より少し良いものを提供している。

 ケーブルが太いものは重いうえに曲げが硬い。ピンケーブルは上で書いたように抵抗は重要でないので、軽くてしなやかに曲がるGS6か4CFBがよい。

 以上のことから、ケーブルのベストはカナレGS6かS4CFB。自作ではこれを使っていく。

 ちなみに、カナレのF-09に対する適合はカタログ上φ7.5だが、実際はφ7.7も結線できる。

 


 

ピンケーブルの結論

 ピンケーブルは、「軽くてしなやか」「接触の信頼性」「耐ノイズ」の3つが重要。接触はプラグで決まり、耐ノイズはケーブルで決まる。

 この要求は、次のパーツを買って自作することで達成できる。

 プラグ:カナレF-09
 ケーブル:カナレGS6もしくは S4CFB

 この組み合わせは安上がりなだけでなく、市販のほとんどのピンケーブルを上回る。アンテナケーブルはグレーが一般的。オーディオ配線では目立たないほうが良いので、S4CFBは黒を選ぶといい。

 接触の信頼性や耐ノイズの面では、XLRでバランス伝送した方がずっと良い。そんなピンケーブルにお金をかける価値は無いことを知っておきたい。

 

 

実例

 

 結論でご紹介したプラグとケーブル使ってピンケーブルを実際に作ってみた。ケーブルの候補が2種類あるので、組み合わせは2通りになる。冒頭のポイントと照らしてみた評価表は次の通り。

 

表3. ピンケーブルの評価表

要件 F-09 + GS-6 F-09 + S4CFB
コードやプラグが軽量にできている
コードがしなやかで容易に曲がる
マイナス端子にスリットがある
マイナス端子の内側がなめらかに出来ている
接触部に品質の良いメッキがしてある
はめあい精度が高くなめらかに挿入できる
シールド効果の高い構造になっている

 

 数メートル以下の結線はF-09+GS-6で十分。10メートル以上伸ばす場合はノイズシールドに優れたF-09 + S4CFBを使って欲しい。どちらもXLRのバランス伝送に劣ることを承知して使って欲しい。

 F-09+GS-6の製作例

カナレ F-09とGS-6 を組み合わせた自作ピンケーブル

 

 これ以上のケーブルはおそらく無い。ケーブルを買い換えてきた人は、これを作って終わりにしたい。ケーブル周りの悩みは早く忘れて、音楽を聴くことに専念してほしい。

<関連商品>
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<関連記事>
1.オーディオ機器のクオリティを見抜く~出力インピーダンスを測定比較する
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4.アナログ信号伝送の理想~XLRケーブルの選び方
5.金メッキは錆びる

<参考文献>
6.リッツ線の表皮効果という誤解
7.非接触給電コイルにおける導体の近接効果による損失の検討-鉄道総研報告(リンク切れ)
8.撚線導体の表皮効果
9.表皮効果とリッツ線
10.何故、アナログ・オーディオの伝送ケーブルで特性インピーダンスを考慮しないのか
ケーブルの謎-パズルの世界