スピーカースタンド(スピーカー台)はセッティングに欠かせないアイテムだが、材質や構造について明確な指針がなく見た目で選ばれているのが現状だと思う。そこで、理に適った台の選び方や使いこなしのコツをご紹介する。
スピーカー台を選ぶポイント
高さ
最初に考えなければならないのは台の高さ。
よく「ツイーターを耳の高さにそろえるべし」といわれるが、耳の穴と目の位置にはズレがある。正確に耳の高さに合わせるとツイーターを下に見ることになり視覚的に違和感を覚えることがある。目の高さに合わせても離れれば僅かな角度差にしかならないので、ツイーターを目の高さに合わせることを提案したい。
高さで低音の量感が変わるが、高さを優先し低音は背後の壁との距離で調整する。
座布団に座って聴くような使い方ではウーファが低くなりすぎる場合がある。このようなケースでは、椅子やソファーなどを用意して試聴位置の方を高くすることを検討して欲しい。
(2018/6/10追記) 小型スピーカーを机やAVラックの上に乗せる場合は、設置面からスピーカーの底面までを18cm以上、設置面からウーファーのセンターまでを28cm以上離す必要がある[3]。
構造
スピーカー台の構造は、定在波、気柱共鳴、バッフル板延長効果の3つについて考えればいい。気柱共鳴は空洞で発生し、定在波はお互いに平行な二面間で発生する。スピーカー台は、このような構造がないものが適している。
ブロック形の台を積んだときに出来る平行面の問題は、ハの字にすることで解消できる。
コンクリートブロックには穴が空いており、ここの共鳴を気にしてタオルを詰める例を見かけるが、ブロック表面の凹凸が減衰に作用するため実際に問題になるケースは少ない。
ブロック形の台の平坦な面を前面に向けると、バッフル板を延長する効果がある。すなわち、後ろに回り込む低音を前面に反射させることで、低音のレベルを若干向上させることができる。
材質
スピーカー台の材質は、 ヤング率によって石系、金属系、ウッド系に大別される。ヤング率の順に並べると次のようになる。
これら材質の違いは、エンクロージュアの構造減衰に影響し、エンクロージュアからの放射音を変化させる。
例えば、硬くて密度が高い台は、響きが豊かで、音が明るくなる。逆に、ウッドなど柔らかくて減衰の大きい台では、ほとんど変わらないか、振動が押さえられて響きの少ない音になる。
この材料と響きの関係は、ワイングラスの実験結果[1]が参考になる。
スピーカー台はエンクロージュアの振動を受けて音を出すが、表面積が小さいので無視できる。
使いこなしのコツ
土台の剛性
スピーカー台を設置する土台(床)がしっかりしていなければならない。
土台で問題になりやすいのが床で、ここが弱いとその上に何を置いても大して変わり無い結果に終わる。理想的には建物の基礎に直接メカニカルアースするのが理想だが、一般家庭では叶わない。大抵はフローリングの床や畳の上に乗せて使うことになる。
この場合、ピーカー台の質量と剛性を十分大きくして、それを動かない基準とする方法がある。何百キロもある石のブロックがその例だ。
この他、ある程度の面積を持った頑丈なベース板を敷いて、みかけの剛性を高める方法がある。これは畳のような柔らかい床の場合でも有効だ。このような商品は以前から市販されており、オーディオボードがその例。
スピーカの支持
どのような支持をするにせよ、ガタがあると音が濁る。第一に、ガタの出ないセッティングをしなければならない。
スピーカーとスピーカー台が接触する面積はエンクロージュアの減衰に影響するのでエンクロージュアからの放射音を変化させる。スピーカーの底面と台との接触面積が多いほど、摩擦が働いて減衰が増えるため、響きの少ない音になる。
十分剛性の高い平らな台(石のブロックなど)の上にベタ置きした場合にこの響きが最小になる。
逆に、スペーサなどを挟んで接触面積を小さくした場合はエンクロージュアの構造減衰が減り、響きが豊かで、音が明るくなる。この場合のスペーサーの役割は接触面積を減らしているだけで、その材質や形状はあまり関係ない。
インシュレーター
スピーカーとスピーカー台の間に挟んで使うスペーサーのようなもの。オーディオ機器の下に敷いて使う場合もある。インシュレーターの目的には、ガタつき防止、外観チューン、サウンドチューンがある。
外観チューン
インシュレーターの中には、金属製の本体にゴムやフェルト、コルクが付いた商品がある。この場合の硬さは、柔らかい方で決まる。この手の商品はサウンドチューンにも防振にも役立たない、ガタを防いで外観を良く見せる「外観チューン」が主体の商品である。
サウンドチューン
インシュレーターでサウンドチューンする場合は、エンクロージュアの底面の、最もよく振動する位置に当たるようにするのがよい。ここは通常、底板の中央になる。
この場合、四隅+中央の5点支持になるから中央が浮いてしまう可能性がある。中央にきちんと荷重がかかるように、四隅は柔らかいゴムを貼ったインシュレーターを使う必要がある。ここに上記の外観チューン主体の商品が使える。
中央インシュレーターの効果は、インシュレーターの硬さ(ヤング率)で変わる。ここは上記図1を参考にステンレス、アルミ、ウッドなど、ヤング率が離れた材料を段階的に用意しておくと便利。この材料はオーディオ専用品ではなくホームセンターや東急ハンズのDIYコーナーにある金属円柱もしくは半球で十分である。
インシュレーターによるサウンドチューンについては関連記事1も参考にしてほしい。
真鍮と木のインシュレーター。ヤング率が一桁違うので調整に便利。
ポイントは底面に余計な貼物がない(素材無垢)であること。左のように両面が平らなものより、右のように半球になっているものが安定しやすい。
柔らかいゴム系のインシュレーター(防振ゴム)は防振を目的として使うアイテム[4]だが、エンクロージュアの方は浮いた状態に近くなる。これは最も減衰の少ない支持だから、箱が自由に振動して箱鳴りの効果を最大にできる。場合によって有効な方法だ。
サウンドチューンの限界
インシュレーターの効果は、ハーベスなどエンクロージュアの響きを積極的に利用したスピーカによく現れる。エンクロージュアの剛性が高く、響きを押さえる方向で設計されたスピーカでは効果が出にくい。
例えば高密度MDFを使ってガチガチに組まれたスピーカー(国産の中級以上のスピーカーに多い)では、台やインシュレータを使ったチューニングはほとんど無効。この場合外観チューンがメインであり、ガタを無くす目的がメインになる。
スピーカー台の例
音に透明なスピーカー台
スピーカー台は音に対し透明なのが理想。ルミナスのようなスチールラックで組むと、上でご紹介した定在波、気柱共鳴、バッフル板延長効果のすべてを無関係にできる。
スピーカー台による音の変化がない究極の台はスチールラック。スタジオモニターの台もスチール製が多い。
スチールシェルフや金属製の台は共振しやすい問題がある。これは発泡PVC(滑り止めシート)をはさんでガラス板や木板を乗せると改善する。音を出しているとき「鳴き」が起こらなければあまり神経質になる必要は無い。
<参考購入先>
ルミナスのスチールラック
ルミナスブラック
スピーカー台に最適なスチールシェルフ。円形アジャスタを使って床面の面圧を下げるのを忘れずに。
ルミナスは防錆処理が必須です。人気スチールラックの落とし穴~ルミナスは錆びるを参照して処理ください。
ルミナスのシート 制振処理を兼ねて棚にシートを敷きます
オーディオボード 床の改質に必須のアイテム
インシュレーター 値段は音と関係ありません。材質だけに注目してください
スピーカー台
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