CW250DはMFBを使って低音がよく出るよう工夫した製品。このような製品は過去何度か見てきたが、あまり評価されないまま市場から消えていった。そこで今回は、その理由を考えてみる。
MFBとは何か
MFBはモーショナル・フィード・バック、つまり信号通り動いていないコーンの「動き」をフィードバックして信号通りに動かす(補償する)仕組みのことである。そのためMFBではコーンの動きを検出するための検出コイルを別途持っていて、そこに発生する電流または電圧で動きを検出している。
フィードバックには「変位」「速度」「加速度」の3種類ある。加速度でフィードバックをかけると、コーンの質量を補償して応答を高めることができる。速度でフィードバックをかけると、低音の再生限界を伸ばして減衰を高めることが可能。どちらも、これまでどうしようもなかったサブウーファーの欠点を補う仕組みである。
フォステクスのそれはどんな仕組みか。同社の特許(特開平02-117297)によると、振動速度をフィードバックする速度型MFBのようだ。
MFBをかけるとコーンの振幅が増えるので、スピーカーのストロークが十分ないといけない。この製品はなんと34.6mmのストロークが可能なユニットを使ってこの問題に対処した。
MFBの欠点
CW250Dのような小口径のMFBスピーカーから想像できる低音再生の姿は「激しい空振り」。そこで問題になるのが「歪」と「風切り音」だが、実際のところどうだろうか。レビューを見ても、こちらの情報はあまりない。
低音を出すには結局のところ、口径を大きくするか、振幅を大きくするしかない。この製品は16Hzから再生できるというが[1]、16Hzの波長は21mある。21mの空気の塊を、25cmの振動板で激しくプッシュして作ろうとする姿を想像してほしい。これは指1本でお風呂の水面全体に波を作る試みに近い。
ではなぜ16Hzが再生できるのか。それは「近くで聞けば」という前提がある。25cmから出た16Hzの低音は、振動板のすぐ近くなら十分感じられる低音だ。近づけばどんな低周波もキャッチ可能である。
遅れが小さい理由
メーカーの説明によると、この製品は音の遅れが小さいという[1]。これはMFBではなく密閉式の恩恵。その具体的数字は公開されていないが、密閉式はバスレフ式よりは遅れの少ない低音が期待できるのは確かだ。
例えばヤマハNS-SW210(バスレフ式)のポート共鳴音(40Hz)の遅れは37msある[2]。これは40Hzの1周期(25ms)より長いから、ポートから出る音は明らかにワンテンポ遅れた音である。
ポートを塞いで密閉にするとこの遅れが無くなるが、振幅が減って低音が出なくなる。ここにMFBを付けると振幅が増えて低域が伸びる。結果的に、応答を犠牲にしないで低音の再生限界を伸ばしたスピーカーができるというわけだ。
実は、密閉式で低音を伸ばす方法はMFBの他にもある。イコライザーで無理やりバスブーストすればいい。ただこの方法では、MFBのもう一つの特徴である減衰のメリットは無い。
低音の減衰は空気抵抗が結構効くので、吸音材を詰めた密閉+バスブーストの結果は、MFBとあまり変わらないかもしれない。私などは、CW250Dに10万出すなら半額で買えるEUROLIVE B1500XP(38cm 3000W)をバスブーストして使った方がいいと思う[4]。
定在波で性能が台無し
いくら優秀なサブウーファーを手にしても、室内に定在波が立つとその性能を発揮できない。定在波による音の遅れは、なんと60msもある[3]。
サブウーファーで重要なのが「置き方」。これがうまくできないと、「高いお金出して買ったけど、結局大差ないね」で終わってしまう。それが、この手の製品がこれまであまり評価されてこなかった要因の一つではないか。
サブウーファーは1次定在波の節に置くのが基本[3]。これを実践すれば、サブウーファーを使った低音再生はそう難しくないはずだ。それと、CW250Dのような小口径のウーファーで十分低い音を感じたかったら、できるだけ自分の近くに設置するのが正解だ。
なお、サブウーファーを2台設置するのはお勧めしない。1次定在波の節は部屋の中央1点なので、2台重ねておくことになり無駄になる。メインスピーカーの近くに2台置けるのは、1次定在波を十分低い周波数に追いやれるくらい広い部屋(短辺で8.5m以上あれば1次が20Hzになる)に限られる。
<参考購入先>
CW250D フォステクスのMFBサブウーファー
EUROLIVE B1500XP 15インチ(38cm) 3000W バスブースト付きの高性能サブウーファーです
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<参考文献>
1.フォステクス スピーカーシステム