ハイレゾとは何だろう。CDと差が無いという意見もある。そこで、CDとハイレゾの差がわかる音源を使って違いを確かめる。そして、本当のハイレゾが聞けるシステムを提案する。
ハイレゾの市場
「ハイレゾ」という言葉を聞くようになったのは2012年頃。それ以前には、SACDとかDVD-Audioなどといったハイレゾに相当する上記フォーマットがあったが、あまり注目されなかった。
ハイレゾという言葉は「今までと何か違った音が聞けそう」といった期待を抱かせる。消費者にわかりやすいネーミングが功を奏し、ハイレゾは急速に市場に広がった。
ハイレゾの定義
何をもってハイレゾとするのか、しばらくの間はっきりした定義がなかったが、2014年にJEITA(電子情報技術産業協会)とJAS(日本オーディオ協会 )がハイレゾの定義を決めた。しかし、両者の定義は以下のように食い違っている[Wiki]。
JEITA
サンプリング周波数、量子化ビット数のいずれかがCDのスペックを超えていればハイレゾと呼んでいい。
JAS
96kHz , 24bit以上をハイレゾとし、スピーカー、ヘッドホンなどの高域再生については40kHz以上とする。
JASの主張は従来製品との差別化(商売の都合)で決めたように見える。2つ定義があるので、市場には両方の「ハイレゾ」商品が混在している。
フォーマットの比較
ハイレゾは今までのCDフォーマットと比べどう違うのか。これを示したのが次の図。
JASの定義によれば、ハイレゾには2つの軸がある。聞こえる音の高さの範囲を示す周波数と、聞こえる音の大きさの範囲を示すダイナミックレンジ(略称Dレンジ)だ。
音の高さの範囲を示す「周波数」と「Dレンジ」は、フォーマットのサンプリング周波数(約半分)と量子化ビット数(bit)で決まる。これに関する人間の能力は図のオレンジの部分で、20~20kHz、0~120dB[2]とされる。
再生フォーマットは人間の能力範囲をカバーできれば十分であって、それ以上は無駄である。CDフォーマット(16bit 44.1kHz)は人間の範囲をカバーしないが、音楽再生に必要なDレンジ(109dB[7])と暗騒音を考慮すると、CDのフォーマットでほとんどの領域をカバーすることがわかる。
ちなみに、ハイレゾのレンジは次の通り。オレンジの範囲を超えた部分は、人間に感知できない「無駄」な領域。このようなレンジの余裕は、音楽編集を前提とした素材で有効だが、エンドメディアには必要ない。
偽のハイレゾ
ハイレゾと名が付くだけで売上げが伸びる、値付けを高くできる。その恩恵にあやかろうと、CDフォーマットの音源をハイレゾに拡張(アップサンプリング&ビット拡張)しただけの偽ハイレゾが作られているという。
この結果はCDと変わらない。これは写真を引き伸ばしてみるのと同じで、元の情報が減ることはあっても、増えることはない。
アンプのダイナミックレンジ
ところで、いかに優れたフォーマットも実際に再生できなければ意味がない。アンプのDレンジは、S/N比と定格出力で決まる※。定格出力が十分なら、S/N比とほぼイコール、と考えて差し支えない。
アンプのDレンジ ≒ S/N比(dB) (3)
※:S/Nは信号とノイズの比。ダイナミックレンジは最大と最小の比。
周波数特性については80年代以前から40kHzを超える製品があり、十分である。
スピーカーのダイナミックレンジ
スピーカーのDレンジは評価点(距離)によって変わる。そこで文献2を参考に概算式を作ってみた。
スピーカーのDレンジ ≒ SPL0 ー 距離減衰 ー 暗騒音(dB) (1)
SPL0 = 能率(dB) + 10log10(実用入力W) (2)
SPL0は最大出力音圧レベル(dB)。実用入力は十分低ひずみで再生できる入力(W)。不明なことが多いので、定格入力の8Ω換算値を用いる。残響のある室内の距離減衰は簡単に求められない[9]ここでは、代表値として3dBを使う。暗騒音は最も静かな環境であるスタジオ、コンサートホールに相当する値(NC-15)のカーブが参考になる。
いくつかのスピーカーについて、Dレンジを計算し図に表したものを次に示す。
足りない低域はサブウーファーで補えるが、Dレンジはどうしようもない。能率90dBに満たない低能率SPは、Dレンジの面では少しもハイレゾといえないものだ。
まとめ
まったく足りてないダイナミックレンジを拡張しようとせず、聞こえない高域だけ伸ばして商売する。これが現在のハイレゾ商品の実態だ。私にはハイレゾロゴを付けた商品を展開するメーカーが不誠実に見える。
<参考購入先>
フルデジタルアンプ 今はDENONのPMAシリーズが候補になります
ハイレゾ対応製品
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<参考文献>
2.「強くなる!スピーカ&エンクロージャー百科」 P31 ダイナミック・レンジとは
3.JVCハイレゾ音源サンプル
4.WaveGene(リンク切れ)
5.オーディオ機器の規格と測定法(1) 日本音響学会誌 45巻5号(1989)
6.オーケストラの出力音圧レベル 「ハイファイスピーカ」中島平太郎 日本放送出版協会 p11
8.音の物理と聴覚
9.残響のある室内の音の距離減衰 出典:リスニングルームの設計と製作例 加銅鉄平 P36