コーヒーを沢山飲む人は水筒に入れて持ち歩くことを考えるかもしれない。コーヒーの味は急速に劣化し1時間もたない。「何とか劣化を遅らせられないか」そう考え、水筒に入れたコーヒーの味を昼まで持たせる方法を見つけたのでご紹介する。
市販のコーヒーの味
コーヒーは淹れてから急速に味が落ちる。この品質劣化をステイリング(staling)と呼ばれる。ステイリングには酸素と水分が関係しているというが、詳しい原理は解明されていない[1]。
ファミリーレストランで出てくる業務用のアイスコーヒーは結構まともだ。業務用のアイスコーヒーがパックの中で長持ちできているのは、何か工夫があるようだ。缶コーヒーの工夫もおそらく同じである。
味と引き換えに劣化を遅らせる「アルカリ添加剤」
ステイリングに伴いpHが低下することがわかっている[2]。缶コーヒーの成分を見ると、pH調整剤とある。他にも添加剤があるが、調べてみるとこれが劣化防止に役立つらしい。
コーヒーのpH調整剤は、炭酸水素ナトリウムもしくは、炭酸ナトリウムなどの「アルカリ」が使われている[1]。この添加によってどのくらい味が持つのか。コーヒーの風味がどう変わるのか。これを実験してみた。
実験方法
pH調整剤は炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウムを用意。実験は簡単。コーヒーにこれらの添加剤を入れて味の変化を調べる。コーヒーメーカーはハリオV60。粉はスーパーで売っているごく普通の市販品(UCCゴールドスペシャル リッチブレンド)を用いた。
実験1 市販コーヒーのpHはどのくらいか
まずは市販のコーヒーのpHを調べる。UCCの無糖コーヒーを測ると概ねpH5.7(20℃)。味は薄く、カラメル臭がする。薄いコーヒーに添加物を加えてカラメルで色づけした。そんな感じの商品だ。
別の商品も調べた。pokkaのaromax Blackは pH5.60(18℃),5.45(50℃)だった。
次に、粉で売ってる同じUCCのゴールドスペシャル リッチブレンドを調べてみた。コーヒーメーカーで抽出して測ると、概ねpH5.2(50℃)。缶コーヒー(5.6~5.7)より低いことがわかった。
時間が経つと濁ると同時に味が落ちる。ただ、5時間経ってもpHはほぼ変化無し。味と一緒にpHが落ちるわけではないようだ。
しかしpH5.2は結構な酸性。コーヒーは体に良いと言われるが、飲みすぎはやはり良くないかもしれない。
実験2 アルカリに調整してみる
粉から抽出したゴールドスペシャル リッチブレンドに、重曹を入れてpH7.5までもっていく。そのお味は・・
うぇぇ、不味い。飲めん。これはもうコーヒーではない。別の飲み物になっている。
今度は同じコーヒーに炭酸ナトリウムを入れてpH7.5にする。味は・・これは飲める。
どこかで飲んだ味。そう、缶コーヒーにかなり近い。不味いことに違いないが、このまま5時間経っても味はあまり変わらない。アルカリにすると持ちがよくなるのは確かだ。
実験3 pH6(弱酸性)に調整してみる
粉から抽出したゴールドスペシャル リッチブレンドに、炭酸ナトリウムでpH6.0(50℃)に調整してみる。味は酸味が押さえられた感じで悪くない。2時間経っても濁らず味も問題ない。レンジで温めれば香りが立ち、淹れ立てに近いコーヒーが飲める。
昼まで(5時間)経つとさすがに味が落ちるが、缶コーヒーよりは美味しい。これなら水筒に入れて持ち歩きできる。これまでより長い時間、美味しいコーヒーが飲めそうだ。
何回も作って実験した結果、最適なpHは5.7~6.0(50℃)、上限は6.5(50℃)のようだった。pHをあげていくと酸味が減って味気なくなる。酸味もコーヒーの重要な味の要素であることを再認識した。
結論~コーヒーを長持ちできるレシピはこれだ!
コーヒーに炭酸ナトリウムを入れてpH5.8前後に調整する。
使う炭酸ナトリウムは微量のため管理しずらい。そこで希釈水を作ってそれを入れる形を考えた。
例えばコーヒー3杯分(粉24g+水360cc)の場合、炭酸ナトリウム2%水溶液を、小さじ1杯(ペットボトルキャップ1杯)入れる。
これで缶コーヒーとほぼ同じ、pH5.8(50℃) のコーヒーが出来る。さらに1/2杯追加するとpH6.4(50℃)程度にできる。このあたりの調整はお好みで。
一度に作るコーヒーの量がいつも決まっている場合、次を参考に希釈水を作り置きするといい。
コーヒー1杯分:水300ccに炭酸ナトリウムを2g溶かしたものを小さじ1杯(ペットボトルキャップ1杯)入れる。
コーヒー2杯分:〃4g 〃
コーヒー3杯分:〃6g 〃
コーヒー4杯分:〃8g 〃
コーヒー5杯分:〃10g 〃
炭酸ナトリウムは後から入れるのではなく、コーヒーを淹れる際、あらかじめサーバーに入れておく。
炭酸ナトリウムと似たような名前の薬品に注意。炭酸ナトリウムの別名はソーダ灰、炭酸ソーダ。炭酸水素ナトリウム、過炭酸ナトリウムはどちらも別物。過炭酸ナトリウムは漂白剤です。間違って飲まないようご注意ください。
豆(粉)を長持ちさせる保管方法(2018/8/24追加)
脱酸素剤が有効だが、市販品は個別包装されていないので封を開けるたびに劣化が進んでしまって使いにくい。そこで脱酸素剤を使い捨てカイロで代替する。酸素と水分に反応して熱を出す仕組みのカイロは、強力な「脱酸素剤」になる。
使い方は簡単。小さいカイロをコーヒーストッカーに放り込んでおくだけ。
熱くなるのでは?といった心配はない。密封した容器の中では、酸素を消費したらそれ以上反応は進まない。ビニールに入ったカイロが熱くならないのと同じこと。
大量にまとめ買いして長持させようとすると、いろいろ面倒になる。豆や粉を長持ちさせる工夫は、高価な品種に限定したい。コーヒーで言えば、コピ・ルアクがその例だ。
コーヒーの結論(2019/3/24)
コーヒーを長持ちさせよう、とする努力は結局のところ、水筒に入れて持ち歩くためだった。これは上記の通り、味が犠牲になる。一日に数杯しか飲まないのなら、個別包装されたドリップパックが最適な選択肢になる。
同じものを毎日、では飲み飽きるので、アソートがお勧め。
コーヒーを淹れるお湯の最適温度は85~90℃。熱湯を注ぐと苦みが強く出る。これは紅茶を入れる場合の話と同じ。コップを2個用意してお湯を注いでいる。
いろいろやってみて私が出した結論は、消費量に合わせて粉を買ってくるのがベスト。コーヒーの淹れ方は、散々やったあげく、味、経済性、後始末などから「粉を買ってきてペーパードリップにする」に行き着いた。味は大切だが、面倒でないことも大切。
<参考購入先>
炭酸ナトリウム 掃除用ではなく食品添加と書いてあるものを使ってください
デロンギのコーヒーメーカー 保温プレートがステンレスになっていて長持ちするコーヒーメーカーです
マイボトル 美味しいコーヒーを持ち歩くためのマイボトル
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<参考文献>
1.アルカリ処理による液体コーヒーの安定化 – 特開平10-215771
2.珈琲豆・粉の保存法を、やや科学的に考察する。