ヘッドホンの選び方~密閉タイプでHi-Fi再生は望めない

昔はヘッドホンというと、スピーカで音楽を聞けない人が、やむを得ず使う補助道具というイメージがあった。そのため、今でもまともなオーディオ機器として取り上げない人や、ヘッドホンで音楽を聴く人を変な目で見る人もいるようだ。
近年、AV機器やポータブル音響機器が広く普及した状況もあり、ヘッドホンの愛好者が増えている。中には、国産で10万円を超えるような高級機も出現し、本格的な音楽鑑賞の道具として認知されるようになってきた。小さなスピーカを使って小音量しか出せないのなら、ヘッドホンで聞いてみようと考える人もいるだろう。
しかし、ネット上で見られるヘッドホンの比較記事は、主観的なものがほとんどである。そこで今回はヘッドホンに関する理論的考察をしてみよう。

ヘッドホンは大きく分けると密閉タイプとオープンエアタイプがあり、両者の動作原理は全く異なる。セミオープンやインナーイヤはオープンといいつつ動作原理は密閉に近いものであり、コンデンサ形はオープンエアタイプに入る。

 

密閉タイプの特徴
 密閉型は耳とパッドが密着し、中の空間が密閉されていることが前提となる。この場合、通常のスピーカと異なりf0以下の弾性制御領域(音圧が振動板の変位に比例する領域)で平坦な音圧特性を得ることができるため、理屈上はドライバユニットの口径に関係なく0Hzからの低域再生が可能だ※。
しかし高域再生は苦手である。f0以降は-12dB/octでゲインが急降下してしまうため、ゲインを稼ぐため共振や共鳴を利用しなければならない。そのため、通常はドライバユニットの前後に狭い空間や多数の穴を形成し、共鳴させる構造になっている。密閉型はパッドを外すと正面に小さな穴が規則的に並んでいるのが見える。これが高域共鳴のための穴だ。
※小さな四角形の密閉箱の一面にスピーカ、対向面にゴム膜(鼓膜に相当)を貼り、スピーカに直流をかけて飛び出したままにするとゴム膜も飛び出したままになる。これが0Hzの情報が伝わる理屈だ。
密閉形でフラットな特性を得るには、できる限り弾性制御領域を広げる、すなわちf0を高い周波数に持っていく必要がある。そのためにはドライバユニットの口径が小さいほど有利で、後述するインナーイヤタイプなど小型の物が適している。
密閉型のハウジングを外から見るとダクトようのような穴が開いていることが多い。この穴はf0付近の制動を減らす役目をしている。その結果、ローエンドを犠牲にするかわりにf0付近を若干持ち上げ、聴感上の低域を増強することができる。低音感よりもローエンドを重視する人は穴を塞いでしまうとよい。実際のf0が、どのくらい値で設計されているのか、興味のある部分だろう。これはインピーダンス特性を実測するとわかる。そこで手持のヘッドホンをいくつか測定したところ、口径50mmのタイプで80Hz前後、30mmでは100Hz前後であることが判明した。それも、平坦な帯域を可能な限り広げるため、制動材を駆使してQをかなり低く抑えたものが多いようだ。しかし、f0が80~100Hz前後にあるということは、音楽再生に重要な中高域を共鳴で鳴らしていることになる。そのため、密閉型にフラットな特性は望みえず、クセの強い音色になりやすい。
共鳴は耳障りだから、ある程度の制動をかける必要があるが、そうするとゲインも落ちて中高域が不足する。これが、密閉型の音が篭もったような音色になりやすい原因だろう。
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 密閉形ヘッドホンの代表的な特性図。本来はf0を山とした特性(緑)しかないところを、共鳴を利用して中高域のゲインを無理矢理稼ぎ(オレンジ)取り繕っている。これが、低音がこもり、高域が強調された音色になりやすい理由だ。こんな音響機器でHi-Fi再生はできない。このタイプのヘッドホンは、「音漏れが少ない」「外部の音を遮蔽できる」というメリットがあるだけだ。

 
オープンエアタイプの特徴
 オープンエアタイプとは、耳とパッドが密着せずに通気できる形にしたものをいう。完全なオープンタイプは、f0以上の帯域(抵抗制御領域~慣性制御領域)が使われるため、密閉型と違って高域まで比較的平坦な特性が得られやすい。ハウジング側が密閉されていて一見密閉に見える物でも、耳側が密閉されていなければオープンエアの動作原理が適用される。オープンエアの低音再生限界はスピーカ同様f0とドライバの口径で決まるため、十分な低音感を得るためには口径をできるだけ大きくするとともに、ドライバと耳を出来る限り接近させることが重要になる。低域が不足する場合は、パッドをしばらく押さえつけて潰すか、パッドの肉を削いで薄くすると効果がある。「最初低音が出なかったが、使っているうちに出るようになってきた」というレポートは、単にパッドが潰れてきたのである。しかし30mm前後の小型ドライバでは満足いく低音再生は難しく、薄皮一枚で耳に接触させるため装着感があまり良くない。最近では国産のオープンエアで50mm口径のドライバを搭載した機種が登場し、オープンエアでも良好な低音再生が可能になってきた。このような大口径タイプは耳全体を覆えるパッドを使えるため、装着感もよい。
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 オープンエア形ヘッドホンの代表的な特性図。特性はスピーカにかなり近く音色が自然である。f0で低域限界は決まり、50mm口径のものはダラ下がりに伸びるが、高域は分割振動で汚れ指向性がきつくなりやすい。30mm以下になると低域の放射効率が落ちて低音が不足しがちになる。40mm程度がバランス的によいと考えられる。

 
インナーイヤーの特徴
 インナーイヤーには、密閉形とオープンの2種類がある。耳側が密閉されいる場合の動作原理は基本的に密閉型ヘッドホンと同じである。すなわち、f0を境にそれ以上の音圧レベルが低下するため共鳴で高域を補う形になる。密閉型の場合、理屈上低域再生に口径は関係しないが、インナーイヤのf0は一般に2k~3kHzと高いので、わずかな隙間で低音感が大幅に落ちる。これを避けるには、密閉度を確保する、つまり耳の中に隙間の無い形で保持できることが重要で、この部分の素材と形状がとても重要である。密閉型で低域が不足する場合は、耳側の密閉度を上げる工夫が有効である。例えば、ワセリンを塗って耳に差し込むのも一手段だ。耳側に空気抜きの穴が開いている場合は、塞ぐと効果がある。
f0を十分高い周波数に持っていった超小型の密閉タイプは、耳の中にうまく設置できればまさに理想的な伝送特性を実現できる。
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左はインナーイヤー形の代表的な特性図。基本的には密閉型のf0を高くしただけだが、f0が高いだけ再生音は密閉型よりいくぶんマシである。
このタイプをうまく機能させるには、密閉度を確保しつつ、耳内に圧が残らないような調圧機構を設けることが不可欠である。密閉が悪いと低音が出ず、かといって密閉度を上げすぎると鼓膜が内圧で圧迫されて低音が聞こえない。右の写真はテクニカのATH-CK5を改造したところ。この機種は内圧の抜き穴が大きすぎ、イヤピースの密閉度も悪いという問題がある。そこで、粘着テープの角辺でこの穴を塞ぎ、新しい穴を針であける。イヤピースはいったんゴムを裏返して発泡ブチル(隙間テープ)を2mm幅に切って巻き付け、元通り被せる。耳に填めると数秒で内圧がバランスされ、低音が良く聞こえるようになる。

ヘッドホンステレオに付属するお椀形のものや、ウレタンパッドが付いた物はオープンでも密閉でもない中間形であり、まともな音楽再生は最初から望めない。ほとんどが、表面に開けられた穴からの共鳴音である。これでは音にならないので、背後にダクトのような筒を設けて100Hz~150Hz付近の低域を共鳴させ、バランスを取っている。このタイプは共鳴周波数以下の低音がまったく出ない。インナーイヤのダイヤフラムは小さいため、耐入力やストローク(振幅)に十分な余裕をとれず歪が大きい傾向にある。機種選定の際、ダイアフラムの径や耐入力が大きい機種を選ぶことがポイントとなる。
ヘッドホンの特性をどうやって測定するか
 ヘッドホンの音圧特性を正確に測定するのは難しい。開放型の場合は近接音が参考になるが、密閉型の場合は密閉しなければ正しい測定が出来ない。密閉型の場合ダミーヘッドが必要だが、一般ユーザが用意できるわけがなく、人間の頭に装着したときダミーヘッドの特性と一致するとは限らない。一般ユーザの場合は要らないCDのセンター穴にマイクロフォンを付け、パッドに押しつければ低域特性の簡易的な評価ができるが、インナーイヤーの場合は完全にお手上げである。そこで推奨したいのがインピーダンス特性による評価だ。これは1オーム以下の抵抗を直列にかまして抵抗の両端に出る電圧をFFTに取り込むだけでいい。アースのコモンを注意しないとショートするから注意が必要だ。
この方法は頭に装着した状態で測定可能だし、カーブを見れば大体音圧特性の推定が出来、高域共鳴の存在とその周波数を知ることが出来る。
ヘッドホンのダンピングファクタ
 密閉型ヘッドホンの場合、DFの影響はほとんど受けない。その理由は、振動系が軽く、空気抵抗を利用するだけで十分なダンピングが確保されていること、それに関連してインピーダンス特性がとても平坦であることが挙げられる。オープンエアタイプの場合、SPと同様ダンピングファクタが関係するが、ヘッドホンのインピーダンスが高めのため、影響は少ない。
たとえDFの影響が少なくても、ケーブルの伝送特性の劣化を考えると、アンプの出力抵抗は小さいに越したことはない。手元で音量調節できると称してケーブルの途中にボリウムが付いた物があるが、これはケーブルの伝送特性を損ねるので、音楽鑑賞では使わないのが原則だ。
モニターヘッドホンの問題点
 国産のモニター機種ではソニーのMDR-CD900STが有名である。しかしモニター機種はソースのアラが目立つため音楽鑑賞には適さない。
耐久性について
 ヘッドホンは湿気を被りやすいにも関わらず、湿気に弱い素材が使われている物が多い。発泡ウレタンと、密閉型に多く見られる細かいシワのついたレザーパッドがそうだ。この2つの素材が使われているものは、出来るだけ避けたい。避けられない場合は、パッドが交換可能か確認する。パッドの交換部品が用意されていないものは、パッドがダメになった時点で終わりである。
ドライバユニット正面がフェルト製で、パッドは品質の良い合皮製か、できれば布製の物がお勧めだ。
ヘッドホンは掛けたり外したりするものだから、構造的にも堅牢なものを選ぶ。落としたり、外すとき引っかかったくらいで壊れてしまうものは避けたい。これは、実物の可動部を良く観察する。店頭の試聴機に破損が見られる物はダメである。
業務用に作られた物は堅牢だけでなく分解&部品交換可能であり、保守部品が何年過ぎても常に完備されているという点で安心できる。
装着感について
 音楽鑑賞を目的としたヘッドホンでは、装着感がとても重要である。耳が痛くなったり、ムレてしまうものは、音楽鑑賞に向かない。
密閉型ではムレが問題になりやすい。機種は少ないが、密閉形で布製パッド付きものがあり、オープンエアに近い装着感が得られる。
コードレスタイプの問題点
 コードレスは本体に二次電池を内蔵しており、ヘッドホンの寿命はこれと同時に尽きる。電池交換が容易にできないものは、お勧めできない。
音楽鑑賞に適したヘッドホンは
 音楽鑑賞には、40mm前後の大口径のドライバを使ったオープンエアタイプが適している。音質、装着感の両方で満足できるだろう。これ以下では低音が不足し、大きいと高域に問題が出るため大きいほどよいというものではない。
 音漏れが気になってこれが使えない場合、装着感が犠牲になるが、耳の中にしっかり挿入可能なインナーイヤタイプが次候補として挙げられる。
低音の迫力が重要な映画などのAV鑑賞では、布製パッドを使った密閉タイプが一解だ。
phone5 左の写真は大口径ドライバを使ったオープンエアの例。オーディオテクニカAD500とゼンハイザーHD650。どちらもf0は90Hz前後だがAD500は5kHzあたりに共鳴があり、高域のアクセントになっている。
HD650の音圧特性は余計な着色がなくフラットである。しかし装着するとパッドの密閉度がやや高く、このせいで低域よりのバランスになっているようだ。AD500は余計な高域共鳴※のためシャリ気味になっているのが惜しい。ADシリーズすべての機種でこの傾向があるようだ。

 


※高域共鳴の有無はドライバユニット正面の保護板に開いている穴を観察することで判断できる。数ミリの小さい穴がポツポツ開けられている部分があれば、そこが共鳴器である。

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