ヘッドホン イヤホンの選び方~密閉タイプでHi-Fi再生は望めない

 ヘッドホンとイヤホンにはいろんな方式がある。この中には音質的に優れた方式と、そうでないものある。これを知らずに買うと失敗することも。原理を知らず高価な商品に手を出すのは危険だ。そこでヘッドホンやイヤホンの原理を説明し、音の良いヘッドフォンを選ぶコツをご紹介したい。

 

ヘッドホン イヤホンの原理と特徴

 

 ヘッドホンの分類はまちまちなので、以後次のように称する。

 ヘッドホン=頭からかぶるタイプ。オーバーヘッド型ヘッドホンともいう。
 イヤホン=耳にはめるタイプの総称。次の2タイプに分かれる。
 カナル型イヤホン=耳栓するように耳の穴に差し込んで使う。
 インナーイヤー型イヤホン=耳に引っ掛ける形で使う。お椀型のものが多い。

 ヘッドホンとイヤホンには、密閉度に応じて「密閉型」と「オープンエア型」、両者の中間の特性を持つ「セミオープン型」がある。

 密閉とオープンエアの動作原理はかなり違う。以下順に説明する。

 

密閉型ヘッドホン

低域は0Hzから再生。高域は共鳴で出す

 密閉型とは、耳とパッドを密着させて、内部空間を密閉にした形のものをいう。この方式は、f0(最低共振周波数)以下の領域で平坦な音圧特性を得ることができ、ドライバーユニットの口径に関係なく0Hzからの低域再生が可能になっている

 しかし高域再生は苦手である。f0以降は-12dB/octで音圧レベルが急降下してしまうため、これを補うために共振や共鳴を利用している。密閉型はパッドを外すと正面に小さな穴が規則的に並んでいるのが見える。これが高域共鳴のための穴だ。

※弾性制御領域(音圧が振動板の変位に比例する領域)で平坦な特性を得る。小さな四角形の密閉箱の一面にスピーカ、対向面にゴム膜(鼓膜に相当)を貼り、スピーカに直流をかけて飛び出したままにするとゴム膜も飛び出したままになる。これが0Hzの情報が伝わる理屈。

 

ハウジングのダクトで低域を増強

 密閉型のハウジングを外から見ると、ダクトようのような穴が見えることがある。この穴はf0付近の制動を減らす役目をしている。このダクトはローエンドを犠牲にするかわりにf0付近を若干持ち上げ、聴感上の低域を増強することができる。低音感よりもローエンドを重視する人は穴を塞いでしまうとよい。

 実際のf0が、どのくらい値で設計されているのか。これはインピーダンス特性を実測するとわかる。そこで手持のヘッドホンをいくつか測定したところ、口径50mmのタイプで80Hz前後、30mmでは100Hz前後であることが判明した。それも、平坦な帯域を可能な限り広げるため、制動材を駆使してQ(共振倍率)を低く抑えたものが多い。

 

密閉型でHi-Fi再生は望めない

 f0が80~100Hz前後にあるということは、音楽再生に重要な中高域を共鳴で出していることになる。そのため、密閉型にフラットな特性は望みえず、クセの強い音色になりやすい。

 共鳴は制動をかけないとまともな音にならない。すると音量が落ちて中高域が不足する。これが、密閉型に篭もったような音色の機種が多い理由だ。

 

密閉形ヘッドホンの代表的な特性図

 密閉形ヘッドホンの代表的な特性図。本来はf0を山とした特性(緑)しかないところを、共鳴を利用して中高域のゲインを無理矢理稼ぎ(オレンジ)取り繕っている。

 これが、低音がこもり、高域が強調された音色になりやすい理由。こんな音響機器でHi-Fi再生はできない。このタイプのヘッドホンは、「音漏れが少ない」「外部の音を遮蔽できる」というメリットがあるだけ。

 

 密閉形でフラットな特性を得るには、できる限り弾性制御領域を広げる、すなわちf0を高い周波数に持っていく必要がある。そのためにはドライバーユニットの口径が小さいほど有利で、後述するインナーイヤタイプなど小型の物が適している。


 

オープンエア型ヘッドホン

原理はスピーカーと同じ

 オープンエアタイプとは、耳とパッドを密着せずに通気できる形にしたものをいう。完全なオープンタイプは、スピーカー同様f0以上の領域(抵抗制御領域~慣性制御領域)で平坦な特性が得られる。

 ハウジング側が密閉されていて一見密閉に見える機種でも、耳側が密閉されていなければオープンエアとして動作する。

 

ドライバーの口径が大きいほど低音が良く出るが・・

 オープンエアの低音再生限界はスピーカ同様f0とドライバーの口径で決まるため、十分な低音感を得るためには口径をできるだけ大きくすると同時に、ドライバーと耳を出来る限り接近させることが重要になる。すると必然的にイヤーパッドが薄くなるため装着感が良くない。

 低域が不足する場合は、パッドをしばらく押さえつけて潰すか、パッドの肉を削いで薄くすると効果がある。

 口径30mm以下の小型ドライバーで満足いく低音再生は難しい。最近ではオープンエアで50mm口径のドライバーを搭載した機種が登場し、オープンエアでも良好な低音再生が可能になってきた。イヤーパッドが耳全体を覆う形になり装着感もよい。

 

オープンエア形ヘッドホンの代表的な特性図

 オープンエア形ヘッドホンの代表的な特性図。特性はスピーカに近い。f0で低域限界が決まる。

 50mm口径の低音はダラ下がりに伸びるが、高域は分割振動により特性が乱れ指向性がきつくなる。

 

 

口径40mmがバランスに優れる

 ドライバーの口径が大きくなると低音が良く出る代わりに指向性がきつくなり、ドライバーの中心と耳の穴が少しでもズレると高域が聞こえなくなるなど、装着にシビアになる。

 口径が30mm以下になると低音が不足しがちになることから、オープンエアのドライバーは40mm程度がバランス的によいと考えられる。


 

イヤホン

 カナル型は密閉型の原理が当てはまる。カナル型以外(インナーイヤー)は、オープンエアかセミオープンの原理になる。

 

カナル型イヤホン

 密閉タイプは上で書いたようにf0以下で平坦な音圧特性が得られる。カナル型のf0は一般に2k~3kHzと高いので、中音域まで平坦な特性が得られる。

 ドライバーには密閉型ヘッドホンと同じ共鳴穴が開いてる。これで高域を補うが、イヤホンでは耳孔内の空洞で気柱共鳴が起きるので、耳に刺さるような不快な高音になる。これを抑えるための抵抗材(黒いフェルトのようなもの)が先端に付いているが、抑えすぎると逆に高音が出なくなる。そのさじ加減が設計的に難しい。

 低音再生は口径に関係しないが、密閉度が十分でないと落ちてしまう。これを避けるには、密閉度を確保する、つまり耳の中に隙間の無い形で保持できることが重要で、この部分の素材と形状がとても重要になる。

 f0を十分高い周波数に持っていった超小型のカナル型は、最も問題の少ない伝送特性を実現できる。

 

カナル型イヤホンの代表的な特性図 左はカナル型イヤホンの代表的な特性図。基本的には密閉型のf0を高くしただけだが、f0が高いので密閉型よりフラットな領域が広い。

 イヤホンで低音を出すためには、密閉度を高めるとともに、耳内の圧を逃がす調圧機構が必要。密閉が悪いと低音が出ず、密閉度を上げすぎると鼓膜が内圧で圧迫されて低音が聞こえない。

 

 

インナーイヤー型のイヤホンにまともな音は期待できない

 このタイプはお椀形をしている。後ろが解放になっているものは音漏れする。「シャカシャカ音」が社会問題になってから後ろが解放になった商品を見かけなくなった。

 表面のカバーが透過性の高いメッシュになったものと、カバーで塞いで穴を開けたタイプがある。後者から出る音のほとんどは、表面に開けられた穴からの共鳴音なのでまともな再生音は期待できない。

 インナーイヤーは小口径のドライバーをオープンエアーかセミオープンとして使う形のため、原理的に低音が出にくい。これを補うため、背後にダクトのような筒を設けるなど、何らかの共鳴構造を持つものが多い。共鳴周波数は100Hz~150Hz付近と高めであり、これ以下の低音はほとんど聞こえない。

 

原理と特徴のまとめ

 以上をまとめると次のようになる。

 

ヘッドホン イヤホンの動作原理と特徴のまとめ

図1 ヘッドホン イヤホンの動作原理と特徴

 オープンエアは大口径だと高域再生に問題を生じ、小口径だと低音が出ない。音質に評判のあるゼンハイザーHD650は、完全なオープンでなく密閉度を少し確保して抵抗制動に近い形ところで動作させているようだ。これによって40mm口径のドライバーを使いながら低音を確保し、高域まで優れた音質を獲得しているようである。

 密閉型の高級機ではパッドの密閉度を少し弱めて抵抗制動よりの動作をさせ、共鳴の依存度を減らして共鳴の山谷を和らげているようである。

 

難しい特性の測定

 ヘッドホンの音圧特性を正確に測定するのは難しい。開放型の場合は近接音が参考になるが、密閉型の場合は密閉しなければ正しい測定が出来ない。密閉型の場合ダミーヘッドが必要だが、アマチュアには難しい

 密閉型はCDのセンター穴にマイクロフォンを付け、パッドに押しつければ低域特性の簡易的な評価ができるが、インナーイヤーの場合は完全にお手上げ。

 私たちアマチュアができる測定はインピーダンス特性。本体を耳に装着した状態で測定可能なうえ、カーブを見れば共振点が把握できて音圧特性もある程度推定できる。

※:ダミーヘッドを使って特性や歪を評価した記事は少ない。数少ない例に週刊アスキー(2009/05/19発売号)がある。

 

ダンピングファクタ(DF)の影響

 密閉型ヘッドホンはDFの影響をほとんど受けない。それは振動系が軽く、空気抵抗だけで十分なダンピングが確保されていること、それに関連してインピーダンス特性がほとんど平坦になるため。

 オープンエアタイプではDFが多少影響するが、インピーダンス自体が高いためスピーカーほど敏感に影響しない。但しヘッドホンのケーブルは細く長いため、その抵抗がDFに影響することがある。

 いずれにせよ、出来るだけ良い音で聴くために、ヘッドホンアンプの出力抵抗は小さいに越したことはない。

 ケーブルの途中にボリウム(抵抗)が付いた機種がある。これはケーブルの抵抗が高くなったのと同じ。DFが低下して音質を損ねるので注意したい。

 


 

お手持ちのヘッドホンの不満と解決策

 原理を知れば、現状の不満に対する解決策が見えてくる。もしかしたら、買い換えなくて良くなるかもしれない。いくつかの例をご紹介する。

 

低域が強すぎる。音がこもる(密閉型の場合)

 ハウジングにポート穴がある場合は塞ぐ。分解してハウジング内部に詰め物をする(等価的な容積を減らす)

 

低音が出ない(オープンエアの場合)

 パッドの密閉度を高めて抵抗制動に近づける。パッドを潰して耳とドライバを近づける。

 

低音が出ない(インナーイヤの場合)

 調圧穴を小さくする(調圧穴にテープを貼って針先で新しい穴を開ける)。パッドの密閉度を上げる(密閉度の高いパッドに交換する)。

 

カナル型イヤホンの内圧調整穴にテープを貼って新しい穴を開けたところ 写真は低音の出ないテクニカのATH-CK5を改造したところ。粘着テープの小片で内圧調整穴を塞ぎ、新しい穴を針であける。

 耳に填めると数秒で内圧がバランスされ、低音が良く聞こえるようになる。

 

 

高音が出ない(インナーイヤの場合)

 先端の黒い抵抗材を取り外して代わりにスポンジの破片を詰める。入れすぎると高音が出なくなる。量は音を聞きながら調整する。最初に裁縫用の細い針で穴を開け、そこに爪楊枝を刺すと取りやすい。

カナル型イヤホンを改造している様子

 

 


 

ヘッドホンを選ぶ際の注意点

 

パッドの素材について

 最も傷みやすいものがパッド。これは消耗品であり、パッドを交換できないヘッドホンは使い捨て商品。いくら音が良くても候補にはできない。

 パッドは汗などによる水分や紫外線で劣化していく。「発泡ウレタン」や、密閉型に多く見られる「ビニールレザー」は劣化しやすいので、これらの素材が使われている場合は、パッドが消耗品として部品で入手できるか確認したい。

 劣化しにくいパッドの素材に、「フェルト」「合皮」「布」がある。これらの素材が使われている商品は長持ちする。

 

堅牢性について

 ヘッドホンは掛けたり外したりするものだから、構造的に堅牢であることが求められる。落としたり、外すとき引っかかったくらいで壊れてしまうものは避けたい。これを知るには、実物の可動部の作りをよく観察する必要がある。

 ここはオール金属製で、すべてのパーツが分解可能な形になっていることが望ましい。

 イヤホンのケーブルは細く、何度も曲げるうちに中の線が切れてしまうことがある。特に本体の根本が断線しやすいので、この部分の作りにも注目したい。

 

コードレスタイプについて

 本体に二次電池を内蔵したコードレスは電池の寿命と共にヘッドホンの寿命が尽きる。コードレスは電池交換ができないものが多く、このようなタイプを買ってはいけない。

 

インナーイヤーは耐入力や歪率に注目する

 ダイアフラムの小さなインナーイヤータイプは耐入力が小さく歪の多い機種が多い。耐入力に注目して選んで欲しい。

 

昔からある「定番」機種を探せ!

 10年以上前から販売されている定番モデルか、定番モデルの後継モデルを選ぶと失敗が少ない。

 これらは何らかの理由(モニターとして採用されているなど)で廃止できないか、定評があるなどの理由で作り続けているもの。長年作られている商品は、保守部品の入手性から見ても安心できる。

 

モニターヘッドホンについて

 国産モニターではソニーのMDR-CD900STが有名である。本機はあくまでモニター用であって、音質が優れているわけではない。密閉式になっているのも、その方がモニターに都合が良いから。

 本機は、ほとんどのパーツを部品単位で入手できる。そしてそのサービスが、非常に長期間提供されている。モニターとしての評価は、音質ではなくこのようなサービス体制の評価とみられる。

ソニーMDR-CD900STの外観

(2019/8/31)
 現物を入手して観察。本機は密閉型といわれるが、ハウジングに共鳴穴はなく、裏の空間はレジスターと呼ばれる抵抗材で正面側の空間と繋がっている。

 他のヘッドホンと聞き比べるとやや籠ったような音で解像度は高くない。もっといい音のするヘッドホンはいくらでもある。詳細記事を書いた。関連記事1を参照。


 

実例

 

1.ゼンハイザーHD650、オーディオテクニカAD500

 大口径ドライバーを使ったオープンエアタイプ。f0はどらも90Hz前後。AD500は5kHzあたりに共鳴があり、これが高域のアクセントになっている。

 HD650は市場で評価の高い機種。音圧特性はフラットだが、若干低域よりのバランス。これはパッドに多少の密閉度があり、オープンエアと密閉の中間の特性(セミオープン)になっている為とみられる。

 

ゼンハイザーHD650とオーディオテクニカAD500の外観 AD500は高域共鳴のせいでシャリ気味なのが惜しい。ADシリーズすべてにこの傾向がある。

 この高域共鳴は、ドライバーユニット正面の保護板が原因とみられる。

 
 

 

2.イヤホン(パナソニック RP-HJS150)(2014/11/2)

 イヤホンは当たり外れが大きく、試聴できないものを買う場合、まるでクジを引くようである。しかも、過去の経験からすると当たりよりハズレの方が圧倒的に多い。

 イヤホンは f 特などの測定が一般に困難(ダミーヘッドが必要)なため、選ぶ際に参考になりそうなデータもない。

 価格と音質との関連がなく、高ければ良い(ハズレを引かない)という保証もない。そんな中、珍しく満足いく商品が見つかったのでご紹介したい。

 

イヤホン パナソニック RP-HJS150パッケージ表側 イヤホン パナソニック RP-HJS150パッケージ裏側

 写真がその機種。パナソニック RP-HJS150 市場価格は700円前後。ケーブルの長いRP-HJE150もあるが、検証したのはケーブルの短いS150の方。

 低音は伸びていないが高音も等しく伸びてないため、音のバランスがとてもいい。この手の商品は低域が不自然に強調してあったり、高域に妙な癖があるものが多いが、これはこれで、成立している。

 私がこれを買ったのが2011年だが、幸いまだ入手できる。このクラスの廉価版はモデルチェンジのサイクルが短く、消えてしまう可能性がある。廃番になると代替機種を探すのが困難なので、数個まとめ買いした。写真はその中のひとつ(未使用のストック)。

 


 

結論

 ヘッドホンは、口径40mmドライバーを使ったオープンエアタイプがベスト。音質、装着感の両方で満足できるはず。ゼンハイザー HD650はこれに該当するお勧めの一品。

 口径30mm以下では低音が不足し、50㎜以上では高域がうまく出ない。ドライバーは大きいほど良いというものではない。

 音漏れを問題にする場合は、カナル型を選ぶ。小型のものほどクセがすくなく良質な再生が望める。消耗品と割り切って安い商品をお求めなら パナソニック RP-HJS150

 ヘッドホン、イヤホンの金額と音はあまり関係がない。高価なものほど、音が良いわけではないことに注意してほしい。

 

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ZERO AUDIO CARBI i カナル型でお勧めできる商品。高域よりのバランスで低音の出ない小型SPそっくりの音が出る。耳に押し込んだ後の調圧バランスに少し時間がかかる。
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 <参考文献>
He&Biのヘッドホンサイト 豊富なレビューが記載されています。