デメリットだらけのアルミ製PCケース~PCケースの放熱について考察する

 最近アルミのPCケースがよく売れているという。放熱が良いという噂は本当だろうか。アルミケースの放熱性能を理論的に検証してみた。

 

ケースの放熱性能

 PCケースの放熱経路には次がある。

  1. 換気:熱源→内気→外気
  2. 対流熱伝達:熱源→内気→ケース→外気
  3. 熱伝導:熱源→ケース→外気
  4. 熱放射:熱放射→ケース→外気

 

 経路1の冷却性能は換気風量に比例する。ファンで換気するPCケースではこれが主体。大半がこれに該当する。

 経路2はファンで換気しない自然空冷のPCケースで主体になる。

 経路3はビスなどで固定されている熱源(HDDなど)から熱伝導によってケースに熱が伝わって放熱される経路。

 経路4はケースの光沢によって性能が左右される。一般に光沢のあるものほど熱を反射するため放熱が悪い。

 石油ストーブの背後にあるミラーを思い出して欲しい。光沢のある鉄板が熱源の背後に配置されているのは、熱をよく反射するため。熱放射は温度の4乗に比例する。数百℃以上で問題になる話だから、PCケースではこの放熱経路は無視できる。

 

アルミの影響を考察する

 

 上記の放熱経路で、ケースの材質が関係しそうなのは経路2と経路3。

経路2について

 経路2の熱抵抗Rhは、次式になる。

 Rh= 1 / ( h1・A ) + L / ( λ・A ) + 1 / ( h2・A )    (式1)

h1,h2は、それぞれケース内側と外側の熱伝達率(W/m2・K)。自然空冷では20~30。流速が高いほど大きな値をとる。
Lは板厚(m)。PCケースの場合は、一般に0.0006~0.0012。
Aは表面積(m2)。ケース側板を例に取ると、0.12前後。
λは熱伝導率(W/m・K)で、鋼板の場合は51.5、アルミ(A5052)の場合は124である。

 式1から、密閉ケースの冷却性能は空気との熱伝達率によって決まり、ケースに触れる流速が速いほど、放熱面積が広いほど、冷却性能があがることがわかる。

 式1で材質が関係するのは緑の第2項。この項の影響は、式1の全体からすると僅かしかない。つまり、ケースの材料の違い(アルミであるとか、鉄であるとか)は性能にほとんど影響しない。

 

経路3について

 経路3はアルミ材のメリットが生かせる唯一の分野だが、熱源(HDDなどから)伝わってくる熱そのものが少ない。HDDを鉄板に直接ビス止めした場合と、アルミに直接ビス止めした場合の比較になるが、HDDの発熱軽減にほとんど寄与しない。HDDは防振ゴムを介して固定されるケースも多い。

 従い経路3は実際にはほとんど関係ない放熱経路である。

 

 

まとめ~アルミケースに放熱メリット無し

 ケースの放熱はファンの能力で決まり、材質は関係しない。

 結局アルミケースのメリットは「軽い」ことだけ。

 鉄に比べ密度の低い分、共振しやすく、音漏れが多い欠点がある。

 以上のことから、わざわざアルミを選ぶ必要性はないと考える。

 

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