ケーブルの音などというものは存在しない~スピーカーケーブルの選び方

  世の中にはいろんなスピーカーケーブルが出回っている。ケーブルで音が変わるというが、本当だろうか。

 それに、売り場に並ぶケーブルの太さが様々なのに、何の基準もないことについて、疑問を持つ人も少なくないと思う。ケーブルは「太く短く」がよし言われるが、「じゃあ、いくつならいいの?」というと誰も答えられない。

 そこで今回は、ケーブルで音が変わる本当の理屈を説明する。そして、ケーブルの長さと太さについて検討し、一つの基準を導いたのでご紹介する。

 

音はダンピングファクターで変わる

 スピーカーケーブルで音が変わる理屈を理解するためには、ダンピングファクター(DF)について知る必要がある。

 パワーアンプにはダンピングファクターというスペックがあり、次式で表される。

DF=Rsp/R0              (1)

 Rsp:スピーカの公称インピーダンス、R0:アンプの出力インピーダンス

 半導体アンプのDFは40以上あるのが普通で、300を超える機種もある。DFは大きいほどスピーカーの過渡応答がよくなり、振動板が信号通りに動く。

 アンプにスピーカーケーブルを繋ぐと、(1)式は次のように変わる。

DF=Rsp/(R0+R1+Rc)              (1′)

R1:スピーカーケーブルのインピーダンス(往復分)、Rc:端子とケーブルの間の接触抵抗

 R1やRcが追加されたことでDFの値が下がる。するとどうなるか。次の図は、それを示した例。

 

dfctorgh

図2 ダンピングファクターと周波数特性の変化
出典: 「強くなる!スピーカ&エンクロージャー百科」誠文堂(1980) P38

 DFによってインピーダンス特性の山(最低共振周波数やクロスオーバーの山)の音圧が変わる。

 DFが小さいとき音圧が上がるのは、Q(共振倍率)が上昇した結果。過渡応答も同時に悪化する。

 

 (1′)式のRcを一定とするなら、DFは繋ぐ電線の抵抗(R0)で変わる。言い換えると、電線の抵抗を変えることで、音の傾向を自由にコントロールできる。

 DFは高いほど忠実再生に近づくが、あまり高いとダンピングが効きすぎて低音が不足しがちになる。

 DFが1桁台になると低音が豊かに響く音になる。クラッシック音楽では、この性質が良い方向に働くことがある。

 一般的には、DFは20~40あたりがよいと考えられる。

 

 

電線の導体純度は意味あるか

 下の図はパワーアンプの出力回路を示したもの。市販のほとんどのアンプにこのような回路が入っている。実際はポップアップノイズ防止のためのリレーや過電流保護回路などがありもっと複雑だ。

  R1,C1は、スピーカのL負荷に対する高域のインピーダンス上昇を防ぐ回路。L1,R2 はスピーカケーブルの容量性負荷(C)に対する高域のインピーダンス低下を防ぐ回路である。

 

図1 パワーアンプの出力回路

 なぜこんなものが必要なのかというと、ユーザーがどんなスピーカ、ケーブルをつなぐか、わからないからだ。そこで、何をつながれても発振などのトラブルが起きないようにしておく必要がある。回路定数も安全サイドで設計されていると考えられる。

 これらの回路定数は、電線のそれよりずっと大きいので、電線の導体純度や構造にこだわっても意味ないことがわかる。

 

スターカッド、ツイストは効果あるか

 ケーブルのインダクタンスは高周波の減衰に関係する。市販ケーブルでは、これを低減するためスターカッドにしたり、ツイストにした商品をみかける。

 ケーブルのインダクタンスや静電容量は確かにケーブルの特性に影響を与えるが、屋内配線用にたかだか10m程度で使う場合は無視できる。

 そもそもボイスコイルやネットワークのところに大きな L があるのに、ケーブルのわずかな L を気にしても意味ないこと。スターカッドは自分自身から外に出るノイズの対策に有効な構成だ。

 

スピーカーケーブルのノイズ対策は意味あるか

 ケーブルの静電容量を下げるために絶縁をポリエチレンにしている例をみかける。

 静電容量の影響は、パワーアンプの出力インピーダンスによって変わる。パワーアンプの出力インピーダンスは通常、数十~数百ミリオームオーダーだから、屋内配線用にたかだか10m程度で使う場合は無視できる。

 そもそも図1にC1が存在するから、ケーブルのわずかな C を気にするのは意味ないこと。

 

ケーブルの防振対策は意味あるか

 機器の出力インピーダンスが高いと振動によって雑音電圧が発生するケースがある。出力インピーダンスの低いパワーアンプに繋ぐケースでは、これが問題になることはまずない。

 どーしても関係あると思う人は、電圧波形を観察しながらケーブルで縄跳びしてみるといい。もしなにか変化が見えたら、端子の接触を疑うのが先だ[4]

 

アンプ内蔵スピーカーのメリット

 スピーカの中にアンプを内蔵して組み合わせを特定すると、図1の補正回路に「何をつながれても発振などのトラブルが起きない」ような余裕を持たせる必要がなくなり、ケーブルも最短になる。すなわち、最適設計が可能になる。良いことだらけ。

 モニタースピーカーにアンプ内蔵型が多いのは、このようなメリットがある為。

 

結論~スピーカーケーブルは抵抗だけに注目すればよい

 結局、DFを計算してそれが20~40になるよう、太さと長さを決めればよい。

 響きの豊かな音を好む人は10前後で計画するといい。真空管アンプのような音が好きな人は、一桁台に落とせばそっくりな音が出せるはず。

 「真空管アンプはトランジスタアンプの10倍の駆動力がある」という話は、このような理屈を知らない人の勘違いだろう。

 

 

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具体例

 

1.電線の太さを求める

 結論に基づき、DFが20~40になる電線の長さを求める。これは次式で計算できる[1]

L = 29 A (Rsp – DF・Ro)/DF (m)       (2)

A:電線の断面積(mm2)、Rsp:SPの公称インピーダンス(Ω)、DF:目標DF、Ro:AMPの出力インピーダンス(Ω)、銅線の抵抗値17.241 mΩmm2/m。

 R0は(1)式で計算できるが、不明な場合はやや大きめを想定して 0.2 (DF=40)としてもよい。

 電線の断面積は(スケア)には規格があり、次の中から選ぶ。

 A = 0.75、1.25、2、3.5、5.5、8

 AWG表記の場合は次式で電線の断面積に換算できる(AWG1~30の範囲で誤差3%以下)

 A ≒ 52・10ー0.1AWG      (3)

 とりあえず(2)式に適当なAを放り込むと長さが出てくる。長すぎる場合は太さを変えて再計算する。5.5スケアを超える場合は、2本以上の並列配線を検討する。

 

2.電線を選ぶ

 同じ太さなら、できるだけ安い電線を使いたい。

 グラフ1は、2004年にオーディオテクニカから発売されていたスピーカケーブルのコストパフォーマンス(CP)を計算したもの。縦軸はCPを示し、数字が大きいほど、安くて太い商品。

 

cablegraph1 CP=1000/(単位抵抗mΩ/m×単位価格(円/m)   (4)

注:DVD専用ケーブルなど、2チャンネル分(4本)の構成になっているものは、最初からパラで使うこと前提に抵抗値を1/2とした。

 

cablegraph2 グラフ2は、グラフ1の縦軸をメータあたりの抵抗値を示した物。数値が小さい商品ほど高いDFを実現しやすい。

 端子の接触抵抗は10mΩオーダーになることがある[3]。この縦軸のオーダーと同じなので、端子の接触抵抗が無視できないことがわかる。

 

 グラフ1と合わせて左から順に見ていくと、AT6139が最も使いやすい候補になる。

※:AT6139は廃番品。2018年の同等商品は、AT6159です。

 オーディオテクニカの商品はサイズ(スケア)が不明なので表を作った。

 

表1 スピーカーケーブルの緒元(2018年 メーカーカタログより)

  導体抵抗(mΩ/m) スケア相当値 線径(mm) 適合端子サイズ
(ニチフ)
備考
AT6135 16 1 1.55 1.25  
AT6157 12.9 1.3 2.0 2  
AT6158 6.8 2.5 2.5 3.5  
AT6159  4.4 4 3.0  3.5~5.5  
           

 

 見てくれにこだわらなければ一般的なVFF平行ビニールコードキャブタイヤケーブル(JIS規格品)で十分。どこの規格にも準拠していないオーディオ専用ケーブルは避けた方が無難だ。

 

3.端末処理する

 電線の太さと長さが決まったら、線をむいて裸電線を差し込んで終わりではなく、端末処理して使う。これは接触抵抗Rcを安定させるために重要なこと[4]

 端末処理は、圧着端子(Y形)か、バナナプラグが使いやすい。それぞれ、関連記事があるので参考にしてほしい。

究極のスピーカーケーブルを作る

バナナプラグの選び方

 圧着端子は金メッキされたオーディオ用ではなく、ごく普通のすずメッキ品(JIS規格品)を使う[3]。これとコンタクトオイル(Rational003)を併用することで端子の接触抵抗を考えなくてもよくなる[3]

 
 

その他:バイワイヤリングはショートして使う

 バイワイヤリング用に複数の端子が用意されている場合は、付属のショート部品を使ってスピーカ側の端子をショートして使う。バイワイヤリング端子に電線を本繋げば抵抗一挙に半分になる。

 

 バイワイヤリングを活用法に、違う種類のケーブルを使うことがある。電線の抵抗を変えることでウーファーとツイータのDFを極端に変えたシステムが作れるが、それにどんな意味があるのか不明。

 「ウーファの逆起電力が他のユニットに干渉する」問題は、極端にDFを小さくした場合に起こる(かもしれない)問題。DFを10以上で使う場合、気にする必要はない。

 

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計算がめんどくさい人へ

 

 ケーブルの「長さ」「太さ」は、もっと単純に「このくらいにしとけば十分」と判断できる基準があると便利だ。

 DFはQの上昇に関係することを冒頭に書いた。そこでQの変化率に注目して、「このくらいの太さなら、Qはほとんど変わらない」(=聴感でわかる音の変化は出ない)といえる電線のサイズを求める。

 DFとQには次の関係があることが知られている[5]

Q=Q0c(1+1/DF)     (5)

 Q0cはスピーカーシステムのQ。

 この式を使ってケーブルの太さとQの変化率の関係を求める。DFの計算は(1′)式を使うが、アンプのDFは比較的ローコストな機種を仮定し0.2Ω(DF=40)とした。以下はその結果。

scearparm

 0.5スケア/mあたりからカーブが寝てきて、1スケア/mを超えるとそれ以上太くしてもほとんど変わらないことがわかる。

 

 

 この結果からスピーカケーブルは1mあたり1スケアより太くしても音に影響しないと結論づけられる。グラフから、実用的には0.5スケア/mで十分と判断できる。従い、

 スピーカケーブルが4mまでなら2スケア

 7mまでなら3.5スケア

 11mまでなら5.5スケア

 とするのが一つの基準。この条件を満たしていれば多くの場合DFを20以上にできる。

※:カナレのカタログに「スピーカケーブルの選び方」というトピックがあり、ここに「3mあたり1スケア」とある。当サイトの基準よりやや甘い。

 

 

<参考購入先>
スピーカーケーブル いろいろあるがテクニカのAT61シリーズで十分です

<関連記事>
1.アンプのダンピングファクタを実測比較する
2.オーディオ機器のクオリティを見抜く~出力インピーダンスを測定比較する
3.コンタクトオイル 接点復活剤の選び方~なぜファミコンの接触は改善しなかったのか
4.ケーブルで音が変わるのはなぜか~バカにできない接触抵抗の影響

<参考文献>
5.「強くなる!スピーカ&エンクロージャー百科」誠文堂(絶版)